アンチセンス法
千原 崇裕、三浦 正幸
東京大学大学院薬学系研究科 遺伝学教室
DOI:10.14931/bsd.5864 原稿受付日:2015年5月7日 原稿完成日:2015年X月XX日
担当編集委員:上口 裕之(国立研究法人理化学研究所脳科学総合研究センター)
英語名:antisense method
アンチセンス法とは、標的遺伝子RNAに対して相補鎖の一本鎖RNA(アンチセンスRNA)を用いて遺伝子発現を抑制する方法である[1]。
概要
原理
アンチセンス法とは、標的遺伝子RNAにハイブリダイズすることのできるアンチセンスRNA(相補鎖RNA)を用いて遺伝子機能発現を抑制する方法である[1]。アンチセンス阻害(antisense inhibition)ともいう。標的とする遺伝子RNAの全長もしくは一部に対する一本鎖アンチセンスRNAを細胞内に導入することで効果を発揮する。標的遺伝子RNAにハイブリダイズしたアンチセンスRNAは、標的遺伝子RNAのスプライシング阻害、および翻訳阻害を引き起こす。生物研究においては化学的に安定なモルフォリノアンチセンスオリゴを用いることが多い。近年、siRNAやshRNAなどのRNA干渉 (RNA interference)技術[2] [3]が開発された後は使用頻度が落ちてきている。
アンチセンス治療
アンチセンス治療(Antisense therapy)とは、アンチセンス法を用いて遺伝性疾患や感染性疾患に関わる遺伝子機能発現を抑制する治療形態の一種である[4] [5] [6] [7]。これまでに癌、糖尿病、筋萎縮性側索硬化症の治療などへの使用が検討されている。2014年にはアンチセンス法を用いた薬としてfomivirsenやmipomersenなどがアメリカ食品薬品局によって認可されている。
モルフォリノオリゴヌクレオチド
モルフォリノオリゴヌクレオチド(単にモルフォリノともいう Morpholino oligonucleotide)は、RNA, DNAのリボース、デオキシリボースの代わりにモルフォリン環を持つオリゴヌクレオチドであり、一般的なアンチセンスの問題点(安定性、特異性、細胞毒性など)を克服した第3世代のアンチセンスである[8]。遺伝子の機能解析に利用されており、特に、アフリカツメガエル、ゼブラフィッシュ、ウニなどを用いた発生学分野の研究において頻繁に利用されている。一方、2015年、モルフォリノオリゴヌクレオチドは標的遺伝子以外の遺伝子機能も抑制する可能性が高いことが報告された(オフターゲット効果)[9]。ゼブラフィッシュにおいてモルフォリノオリゴヌクレオチドによる表現型と突然変異体の表現型を体系的に調べた結果、70%以上の遺伝子に関して表現型が一致しなかった。このことから、モルフォリノオリゴヌクレオチドの使用には、突然変異体の表現型観察なども用いた慎重な解析が必要とされている[9] [10]。
参考文献
- ↑ 1.0 1.1
Mizuno, T., Chou, M.Y., & Inouye, M. (1984).
A unique mechanism regulating gene expression: translational inhibition by a complementary RNA transcript (micRNA). Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 81(7), 1966-70. [PubMed:6201848] [PMC] [WorldCat] [DOI] - ↑ Resource not found in PubMed.
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- ↑ 9.0 9.1 Resource not found in PubMed.
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