プレキシン
プレキシン(plexin)分子は、アフリカツメガエルの視覚系組織に対するモノクローナル抗体B2の抗原として同定された、1回膜貫通型のタイプI型膜分子であり、主に軸索誘導(ガイド)分子セマフォリン(semaphorin)の受容体としての機能を有する。脊椎動物では9種類の分子からなる分子ファミリーを構成し、そのアミノ酸配列の類似性からA, B, C, Dの4つのサブファミリーに分類される。培養系やノックアウトマウスを用いた生体内での解析により、神経回路形成の様々な局面(神経細胞移動、軸索誘導、軸索剪定、樹状突起形成、スパイン形成の制御)に関わることが示されている。また、神経系以外では、免疫系、骨形成、血管形成など生体内の多様な局面で機能することが近年明らかになっている。
構造 プレキシン分子は1回膜貫通型のタイプI型膜分子であり、アミノ末端よりシグナル配列、sema-domain、3つのMRS(またはPSI-domain)、4つないし3つのIPT-domain、膜貫通部位、細胞内領域を有する。sema-domainは相互作用分子であるセマフォリン(semaphorin)と類似した構造であり、プレキシン分子以外ではHGF受容体のc-Metの細胞外領域に存在する。MRS (met-related sequence)は、プレキシンとc-Metファミリー分子と類似した配列であり、基本的に8つのcystein残基を含む配列である。この配列はplexin, semaphorin, integrin(β-integrin)にて認められることから、それぞれの分子の頭文字をとってPSI-domainとも呼ばれている。また、IPT-domainは、immunoglobulin様構造をとると予測されている部位で、nuclear factor of transcription factors (NFAT) ファミリーにも認められることから、IPT (immunoblobulin-like fold shared by plexins and transcription factors)と名付けられた。細胞外領域には糖鎖の結合が予測されるN-linked glycosylation部位も複数存在し、糖鎖修飾による活性制御が推定されている。細胞内領域は高度に保存されており、plexinファにリー分子間で共通する部位としてGAP-related domain, hindge-domainが存在する。また、A-type plexin分子には膜貫通部位付近にFERM-domain結合配列が、B-type plexin分子にはC末端にPDZ-domain結合配列が、それぞれ存在する。 主たる相互作用分子であるセマフォリンとは、sema-domainを介して結合し、結晶構造解析よりXXXなどのアミノ酸残基が結合を、XXXなどのアミノ酸残基が細胞内へのシグナル伝達のための構造変化に必要である。
Plexin subfamily 脊椎動物においてplexin familyはアミノ酸配列の類似性を元に4つのサブファミリーに分類される。これらの構成は、A-type plexin (4分子: plexin-A1 , plexin-A2 , plexin-A3, plexin-A4)、B-type plexin (3分子: plexin-B1, plexin-B2, plexin-B3), C-type plexin (1分子: plexin-C1)、D-type plexin (1分子: plexin-D1)である。
相互作用分子 細胞外領域にて、主にセマフォリンとその共受容体と相互作用する。 A-type plexin: 2つのニューロピリン分子(neuropilin-1,neuropilin-2)を介して、Sema3Eを除く分泌型 class 3 semaphorin (Sema3A, Sema3B, Sema3C, Sema3D, Sema3F)と結合する。また、class 5とclass 6の膜貫通型セマフォリンとは直接結合するとともに、その結合には特異性がある。これまでにplexin-A1は、Sema5A, Sema6C, Sema6Dと結合し、Sema5Bとは遺伝学的に相互作用する。plexin-A2は、Sema5A、Sema6A, Sema6Bと、plexin-A4はSema6A, Sema6Bとそれぞれ結合する。plexin-A3は、Sema5A、Sema5Bと遺伝学的な相互作用をする。さらに近年、A-type plexinは、軸索ガイド分子Slit分子のC末端側領域と結合することが示された。
B-type plexin: 主に膜貫通型セマフォリンのうち、class 4とclass 5セマフォリンと結合する。plexin-B1はSema4A, Sema4Dと、plexin-B2はSema4A, Sema4C, Sema4Gと、plexin-B3はSema4A, Sema5Aとの相互作用が示されている。
C-type plexin: class 7 semaphorinである Sema7Aとviral semaphorin (A39R)と結合する。
D-type plexin: class 3 semaphorinのうちSema3Eと直接結合する。
細胞内領域には細胞骨格系を制御する分子との相互作用が知られている。これまでに、small GTP結合分子(Rnd分子ファミリー、R-Ras, M-Rasなど)やFynチロシンキナーゼが結合することが報告されている。また、A-type plexinは、juxtamembrane 付近でFERM-domain を含むFARM1, FARM2と、また、B-type plexinはC末端にてPDZ-domaiを含むLARG, PDZ-RhoGEFと結合する。 p190 RhoGAP,
役割: 培養系やノックアウトマウスなどを用いた生体内での解析により、plexin分子は神経回路形成の多様な局面を制御していることが示されている。以下に代表的な現象とそれに関わるplexinとその相互作用について述べる。
軸索誘導(ガイド):発生期において、細胞体から伸長する軸索は規則的な伸長を示す(軸索走行)。class 3 semaphorin/neuropilin/type-A plexin、ならびにsemaphorin/plexin シグナリングは、これらの規則性を制御する。末梢神経系では、例えばSema3A/neuropilin-1/plexin-A3/plexin-A4により、三叉神経線維の軸索走行制御、