両手間協調運動
蔵田 潔
弘前大学 大学院医学研究科 統合機能生理学講座
DOI:10.14931/bsd.967 原稿受付日:2012年12月6日 原稿完成日:2018年1月2日
担当編集委員:田中 啓治(独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)
英語名:bimanual movement 独:bimanuelle Bewegungen, beidhändige Bewegungen 仏:mouvements bimanuels
靴ひもを結ぶ運動に代表される運動は左右の手を協調して行うことで達成される。両手間協調運動は特にヒトでよく発達しており、このような運動機能が霊長類に至る進化の上で重要と考えられている。しかし、霊長類よりも下等とされる動物、例えばげっ歯類でも捕食時や摂食時などにしばしば見られる運動でもある。
両手間協調運動には、左右の手指の精緻な運動制御に加え、タイミング制御という二つの要素が必須であり、脳の多くの領域が関与しているものと思われる。まず、左右手指の精緻な運動制御は、一次運動野に存在する体部位局在にもとづく運動パターンの生成と制御指令が脊髄への下行系を経て行われていると考えられる。一次運動野には、特に錐体路を経由し脊髄へ直接投射するニューロン(錐体路ニューロン)と、さらにその中で脊髄前角のα運動細胞に直接シナプス接続する皮質運動ニューロンとが存在しており、大脳皮質で生成された運動指令を直接伝える系として知られてきた。しかし、左右の一次運動野だけがそれぞれ独立して両手間協調を行っているのではなく、左右半球間の脳梁を介する情報のやりとりが重要と思われるが、左右大脳半球の一次運動野の手指領域には脳梁を介する相互投射が少ない。サル大脳の一次運動野の近傍では、ブロードマン6野の大脳内側面に存在する補足運動野、およびブロードマン6野の大脳外側面に存在する運動前野にはそれぞれ左右半球間で相互に線維連絡があることに加え、補足運動野の破壊実験により板の穴に詰められた餌を両手間協調によって取り出すことに障害の生じることが報告されている[1]。また、ニューロン活動の解析から、右あるいは左のみの手指を動かす時、または左右の手指を動かす時のそれぞれに特異的に活動を示すニューロンが運動前野に存在することが知られており[2]、両手でどのような運動をすべきかのパターンを生成していると考えられている。
一方、両手間の協調に必要なタイミング制御には大脳運動前野とともに、小脳によるタイミング制御が重要な役割を果たしていることが知られている[3] [4]。また、このような左右手による精緻な運動には、上位中枢が運動指令を送ることによる前向き制御のみならず、体性感覚や視覚などによるフィードバック情報に基づき実時間制御が必要であろう。また、特に発達期や脳や脊髄の障害時には学習によって両手間協調が熟達するものと考えられ、運動学習の中枢である小脳のみならず、大脳に存在する両側半球の一次運動野を含む運動関連諸領野のそれぞれが、半球に対して反対側の手のみならず、両手間協調に必要な運動学習に関与していると考えられる[5]。
関連項目
参考文献
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Brinkman, C. (1981).
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Corticospinal Function and Voluntary Movement
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