小胞モノアミントランスポーター
英:Vesicular Monoamine Transporter、英略語:VMAT
小胞モノアミントランスポーター(Vesicular monoamine transporter、以下VMAT)は、4種類ある小胞神経伝達物質輸送体タンパク質(トランスポーター)のうちの1つであり、神経終末にあるシナプス小胞や、副腎のクロム親和性細胞の有芯小胞に存在する。細胞膜モノアミントランスポーターにより細胞質に取り込まれたモノアミン神経伝達物質を、電気化学的勾配を利用して小胞内に輸送、貯蔵する。
サブタイプ
哺乳類では、Slc18a1遺伝子にコードされるVMAT1と、Slc18a2遺伝子にコードされるVMAT2の、2つのサブタイプが存在する。これらVMAT1とVMAT2は、小胞アセチルコリントランスポーター(VAChT)とともにSLC(solute carrier)トランスポータースーパーファミリーの1つ、SLC18ファミリーを形成している[1]。
VMAT1は、主に副腎髄質のクロム親和性細胞や腸管の腸クロム親和性細胞など、さまざまな神経内分泌細胞の有芯小胞の膜上に存在する。一方で、VMAT2は、主に中枢神経系や交感神経系のモノアミン作動性神経終末にあるシナプス小胞の膜上に存在するが、VMAT1と同様に副腎髄質のクロム親和性細胞の有芯小胞にも存在する。
構造と機能
上述したように、VMAT1とVMAT2は別々の遺伝子によりコードされているが、両者の配列相同性および構造は極めて類似している。細胞膜モノアミントランスポーターと同じく、12個の膜貫通ドメイン(TMD1~12)をもつ膜タンパク質で、アミノ末端(N末端)とカルボキシ末端(C末端)は細胞質側に位置する(図1)。1番目と2番目の膜貫通ドメイン(TMD1~2)の間には、小胞内に面するループ構造をもつ。膜貫通領域の予測法であるハイドロパシーモデルでは、このループ構造に数個のグリコシル化部位が存在すると予測されている[2]。
モノアミン輸送の仕組み
VMATは、小胞内外のH+の電気化学的勾配を駆動力としてモノアミンを小胞内に輸送し、開口放出に備えて貯蔵している。小胞内へのモノアミン貯蔵は、神経活動に依存した開口放出に備えるだけでなく、モノアミンの合成と分解を調節する上でも必要である。VMAT1とVMAT2の場合、1分子のモノアミンを取り込むために、2分子のH+が必要となる。H+は、V型ATPアーゼのATP加水分解によって産生され、小胞内に移動される。これにより膜内外でpHの勾配が生じるため、VMATはH+とモノアミンを対向輸送することで、小胞内にモノアミンを取り込んでいる(図2)[4]。また、ClC-3やClC-7などのCl-チャネルにより流入したCl-イオンが小胞膜を脱分極し、膜内外における電荷のバランスを維持している。これは、正に帯電したモノアミンを取り込む際の反発力を抑制するため、膜電位を負ないし中性に維持する必要があるためと考えられる。
VMAT2の神経保護作用
モノアミンの合成と小胞への輸送は従来、それぞれ独立した過程と考えられていたが、輸送の効率化のため、これらは一連の過程として行われるとする説がある。例えば、シナプス小胞膜上のVMAT2は、ドーパミン合成酵素であるチロシンヒドロキシラーゼや芳香族アミノ酸脱炭酸酵素、シャペロンタンパク質であるHsc70と複合体を形成しており、合成されたドーパミンを素早く効率的に小胞内に取り込んでいる、というモデルが提示されている[5]。これは神経保護作用の点で重要であり、合成されたモノアミンの細胞質への拡散を最小限に抑え、モノアミンの酸化やそれに伴う神経毒性発現を抑制すると考えられる。細胞質にモノアミンが過剰に存在すると、それらは酸化されキノンやジヒドロキシ化合物に変化する。これら酸化物が産生する活性酸素種が原因となり、神経変性が誘導される。こうした神経毒性発現は、覚醒剤の一種であるメタンフェタミンにおいても見られ、VMAT2ヘテロ欠損マウスではメタンフェタミンによる神経毒性の増強が示されている。また、VMAT2は、MPTPなどの外因性神経毒性物質を小胞内に閉じ込めることにより、活性酸素種による神経変性に対して抑制作用をもつことも分かっている[4]。
依存性薬物とVMAT
覚醒剤であるコカイン、メチルフェニデート、メタンフェタミンやアンフェタミンは、モノアミントランスポーターを標的分子としている。
コカインやメチルフェニデートが細胞膜モノアミントランスポーターの阻害により薬理効果を生じる一方、メタンフェタミンやアンフェタミンはシナプス小胞膜上のVMAT2にも作用する(図3)[6]。ドーパミン神経終末において、メタンフェタミンはVMAT2によるシナプス小胞内への取り込みを阻害するだけでなく、貯蔵されているドーパミンを細胞質へ放出させることにより、小胞内のドーパミン量を減少させる。
VMAT2ヘテロ欠損マウスでは、コカインではなく、アンフェタミン投与による行動感作の形成が起こらず、また条件付け場所嗜好性も低下することから、特にアンフェタミンの報酬効果がVMAT2の発現に影響されることが示唆されている。コカインを投与すると、では、覚醒剤の種類によって反応が異なっている。例えば、アンフェタミン投与では条件付け場所嗜好性が低下するが、行動感作は形成されない。逆に、コカインで投与では行動感作は形成されるが、条件付け場所嗜好性は変化しない。
VMAT2ヘテロ欠損マウスでは、コカイン、メタンフェタミンやアンフェタミン投与により移所運動量が亢進される。一方で、覚醒剤の種類によって、反応が異なることが示されている。コカイン投与により行動感作が形成されるが、アンフェタミン投与では起こらない。また、アンフェタミンによる条件付け場所嗜好性の低下、コカインやアンフェタミンによる移所運動量の亢進が著しいことから、一部の依存性薬物の報酬効果はVMAT2の発現に影響されることが示唆されている[7][8]。
上述の精神刺激薬以外に、VMATに作用する薬剤としてよく知られているものに、レセルピンとテトラベナジンがある。いずれもVMAT阻害作用を有しており、レセルピンはVMATのモノアミン認識部位に結合し、モノアミンの小胞内への輸送を阻害する。一方で、テトラベナジンは、レセルピンの作用部位とは異なる部位に結合して阻害作用を発揮すると考えられている[9]。
関連項目
- モノアミン
- ドーパミントランスポーター
- セロトニントランスポーター
- ノルエピネフリントランスポーター
- 小胞アセチルコリントランスポーター
- 小胞グルタミン酸トランスポーター
- 小胞GABAトランスポーター
- 薬物依存
- 精神刺激薬
- 覚醒剤
参考文献
- ↑
Gether, U., Andersen, P.H., Larsson, O.M., & Schousboe, A. (2006).
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(執筆者:曽良一郎、担当編集委員:河西春郎)