Caenorhabditis elegans
学名:Caenorhabditis elegans 略名:C. elegans
wikipediaの線虫項も参照 wikipedia:ja: ''C. elegans''
概要
神経科学に限らず、モデル生物として広く使われている多細胞生物。成虫の体長は約1mmで、受精から成虫に至るまで全ての細胞系譜が分かっている。 雌雄同体(hermaphrodite)の神経細胞は302個と全て同定されており、電子顕微鏡の解析により全神経細胞の接続地図が明らかとなっている[1]。 多細胞生物として初めて全ゲノム配列が解読された種でもある。 ゲノム情報、解剖学的な情報、他様々な研究に有用な情報がデータベースに整理されインターネットから簡単に取得できる。Wormatlas(解剖学的データベース) Wormbase(主にゲノム情報データベース)
以下の性質から実験室での取り扱いが簡便である。
- 寒天上で大腸菌をえさとして簡便に培養ができる。
- ライフサイクルが比較的短く、産まれてから約4日で産卵できるようになる。
- 雌雄同体は自家受精をして産卵するが、雄と雌雄同体の交配も可能。
- 冷凍保存が可能。
- 体が透明で体内の観察がしやすい。特に微分干渉顕微鏡、蛍光顕微鏡との相性がよい。
神経科学における役割
非常に単純な神経回路を持ちながらも、化学走性、温度走性などの行動を示し、記憶・学習についての研究が行える。 全ての神経細胞が同定されており、神経細胞同士の接続関係が完全に分かっている唯一の生物である。 緑色蛍光タンパク質(GFP)を多細胞生物で初めて人工的に発現させた生物であり、そのことが示すように蛍光タンパク質を使った研究と相性がよい。近年はカルシウムセンサーを使った神経活動の測定や、チャネルロドプシンを使った光遺伝学も盛んに利用されている。
神経細胞の特徴
全ての神経細胞が同定、命名されており、インターネット上のデータベースにおいて、形態、位置、接続関係、細胞系譜などの情報が公開されている。 頭部に神経細胞が密集している部位があり、リング状に神経繊維が束になったナーブリングと呼ばれる構造を持つ。 電位依存性Naチャネルを持たないため、マウスなどの神経細胞と違い、スパイク様に数ms単位で変化する電位変化は観察されない(ただしこれについては議論もあり)。 細胞の大きさが小さく(10μm程度)、体表面を覆っているキューティクルが比較的硬いため、電気生理学的手法はマウスなどと比べると技術的に難しいが、それでもいくつかの研究室で神経細胞に対する電気生理的手法が確立されている。 神経活動の測定においては、透明な体を活かして、蛍光プローブを用いたカルシウムイメージングなどの測定方法が広く利用されている。特定の細胞に選択的に遺伝子発現するプロモーターを利用することで非侵襲に特定の細胞の活動を計測することができる。 他生物では一般的に抑制性を示すGABA依存性神経細胞で、興奮性を示すものが知られている。
行動
分子遺伝学が強力なツールとして使えるため、以下のような特定の行動を引き起こす分子機構について詳細に研究されている。
- 化学走性、温度走性などの特定の刺激に対する誘引、忌避行動、刺激に対する学習、複数刺激に対する情報の統合
- 機械的な刺激、(高温などの異常な刺激における)痛覚による応答行動
- 産卵、生殖における行動(特に雄の行動)
文献、外部リンク
- ↑
White, J.G., Southgate, E., Thomson, J.N., & Brenner, S. (1986).
The structure of the nervous system of the nematode Caenorhabditis elegans. Philosophical transactions of the Royal Society of London. Series B, Biological sciences, 314(1165), 1-340. [PubMed:22462104] [WorldCat] [DOI]