「三項関係」の版間の差分

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<font size="+1">浅田 晃佑</font><br>
<font size="+1">浅田 晃佑 1)、板倉 昭二 2)</font><br>
''東京大学先端科学技術研究センター''<br>
''1)東京大学先端科学技術研究センター 2)京都大学大学院文学研究科''<br>
<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0095222 板倉 昭二]</font><br>
DOI [[XXXX]]/XXXX 原稿受付日:2013年xx月XX日 原稿完成日:2013年xx月XX日<br>担当編集委員:[入來 篤史](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br>
''京都大学大学院文学研究科''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2013年8月6日 原稿完成日:2013年9月2日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/atsushiiriki 入來 篤史](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br>
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英語名:triadic interaction, triadic interactive system, triadic relations, triadic engagement 独:triadische Interaktion, triadische Beziehung 仏:interaction triadique, relation triadique
英語名:triadic interaction, triadic interactive system, triadic relations, triadic engagement


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|text= 三項関係とは、「自己」と「他者」と(対面の二者間の空間以外にある)「もの」の3者間の関係を指す。自己と他者または自己とものとの2者間の閉じられた関係を指す二項関係と対比される。}}
|text= 三項関係とは、「主体」と「他者」と(対面の二者間の空間以外にある)「もの」の3者間の関係を指す。主体と他者または主体とものとの2者間の閉じられた関係を指す二項関係と対比される。}}


 [[image:Shojiitakura_fig1a.png|thumb|250px|'''図1. 二項関係と三項関係(Tomasello, 1995<ref name=ref1>'''M Tomasello'''<br>Understanding the Self as Social Agent.<br>In P. Rochat (ed), In The Self in Infancy: Theory and Research.<br> ''Amsterdam: Elsevier'': 1995, pp.449–460</ref>) Elsevierより許可を得て複製''']] [[image:Shojiitakura_fig1b.png|thumb|250px|'''図2]][[image:Shojiitakura_fig1c.png|thumb|250px|'''図3]]


 一般的には、生後約9か月以後の[[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]の発達過程における特徴を指す。9か月より前では、自己と他者または自己とものという2者間の関係で[[wikipedia:ja:乳児|乳児]]の認識世界が成り立っているとするのに対して、9か月以後では、自己と他者とものという3者を含んだ認識世界に至るとする<ref><pubmed>6488956</pubmed></ref> <ref name=ref3>'''M Tomasello'''<br>The cultural origins of human cognition.<br>''Cambridge, MA: Harvard University Press'':1999</ref>。
 一般的には、生後約9か月以後のヒトの発達過程における特徴を指す。9か月より前では、自分と他者または自分とものという2者間の関係で乳児の認識世界が成り立っているとするのに対して、9か月以後では、自分と他者とものという3者を含んだ認識世界に至るとする<ref><pubmed>6488956</pubmed></ref><ref name=ref2>'''M Tomasello'''<br>The cultural origins of human cognition<br>''Cambridge, MA: Harvard University Press'':1999</ref>。


 これは、主にヒトのコミュニケーションの発達において重要視されており、[[二項関係]]では、乳児は自己と他者との対面の関係でコミュニケーションを取るが(例:「いないいないばー」)、三項関係では、自己と他者以外のものも含めたコミュニケーション(例:遠くのものを指さして大人と一緒に見る)が可能になる。他の三項関係における行動例としては、[[視線追従]](大人が見たある対象物を乳児も見る)、[[社会的参照]](乳児がある対象に対する評価を大人の表情などを見ることで参考にする)などがある。類似の概念として[[第二次間主観性]]<ref>'''C Trevarthen, P Hubley'''<br>Secondary intersubjectivity: Confidence, confiding and acts of meaning in the first year.<br>In A. Lock (Ed.), Action, gesture and symbol.<br>''London: Academic Press'': 1978, pp.183–229</ref>があり、他者とある対象に対する注意を共有する[[共同注意]]は三項関係の行動の代表例である。Tomasello<ref name=ref1 />はこれを図1のように図示している。二項関係では、乳児は物体を操作している時に近くに人がいてもそちらに注意は向かず('''図1''')、人と関わりあっている時は近くに物体があってもそちらに注意が向かない('''図2''')。一方、三項関係では、乳児は物体を意識するだけでなく、同時に大人がその物体に注意を向けていることを意識するようになる('''図3''')。
 これは、主にヒトのコミュニケーションの発達において重要視されており、二項関係では、乳児は本人と他者との対面の関係でコミュニケーションを取るが(例:「いないいないばー」)、三項関係では、本人と他者以外のものも含めたコミュニケーション(例:遠くのものを指さして大人と一緒に見る)が可能になる。他の三項関係における行動例としては、視線追従(大人がある対象物を見たものを乳児も見る)、社会的参照(乳児がある対象に対する評価を大人の表情などを見ることで参考にする)などがある。類似の概念として、第二次間主観性<ref>'''C Trevarthen, PM Hubley'''<br>Secondary intersubjectivity: confidence, confiding, and acts of meaning in the first year. In A. Lock (Ed.), Action, gesture, and symbol (pp. 183–229).<br>''London: Academic Press'':1978</ref>があり、他者とある対象に対する注意を共有する共同注意は三項関係の行動の代表例である。Tomasello<ref>'''M Tomasello'''<br>Understanding the self as a social agent. In P. Rochat (Ed.), The self in infancy: Theory and research (pp.449-460).<br>''Amsterdam, North Holland/Elsevier Science'':1995</ref>はこれを図1のように図示している。二項関係では、乳児は物体を操作している時に近くに人がいてもそちらに注意は向かず(図1a)、人と関わりあっている時は近くに物体があっても注意がいかない(図1b)。一方、三項関係では、乳児は物体を意識するだけでなく、同時に大人がその物体に注意を向けていることを意識するようになる(図1c)。


 Tomasello<ref name=ref3 /><ref>'''M Tomasello, AC Kruger, HH Ratner'''<br> Cultural learning.<br>'' Behavioral and Brain Sciences'': 1993, 16;495-552</ref>は、この三項関係の発生を「[[9か月革命]]」と呼び、この時期に乳児は、他者を意図を持った行為者と見做し、[[模倣]]や他者理解の発達を示すとしている。そして、これ以後、それまでのように他者から学ぶというだけでなく、他者を通して学ぶようになるとしている。例えば、大人のある物体への反応を見て、その物体に対しての評価を学習するようになる。また、三項関係は[[言語]]の獲得においても重要である。
 Tomasello<ref name=ref2 />は、この三項関係の発生を「9か月革命」と呼び、この時期に乳児は他者を、 意図を持った行為者と見做し、[[模倣]]や他者理解の発達が見られるとされる。また、それまでのように、他者から学ぶというだけでなく、他者を通して学ぶようになるとされる。例えば、大人のある物体への反応を見て、その物体に対しての評価を学習するようになる。また、このような三項関係は、言語の獲得においても重要である。Seibert & Hogan<ref>'''JM Seibert, AE Hogan'''<br>Procedures Manual for Early Social Communication Scales (ESCS)<br>''Coral Gables: Mailman Center for Child Development, University of Miami'':1982</ref>は、二項関係や三項関係の子どもの行動を評価する尺度として、Early Social Communication Scalesを開発している。
 
 三項関係は社会性・コミュニケーションの発達において重要な指標の一つであるとされ、[[自閉症スペクトラム障害]]を持つ子どもでは、共同注意に代表される三項関係への参加に困難があると報告されている<ref>'''P Mundy, M Sigman, C Kasari'''<br> The theory of mind and joint-attention deficits in autism.<br>In S Baron-Cohen, H Tager-Flusberg, DJ Cohen (Eds.), Understanding other minds: Perspectives from Autism.<br>''Oxford: Oxford University Press'':1993, pp.181–203</ref>。Seibert & Hogan<ref>'''JM Seibert, AE Hogan'''<br>Procedures Manual for Early Social Communication Scales (ESCS).<br>''Coral Gables: Mailman Center for Child Development, University of Miami'':1982</ref>は、二項関係や三項関係の子どもの行動を評価する尺度として、[[Early Social Communication Scales]]を開発している。
 
== 参考文献 ==


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2013年8月5日 (月) 19:32時点における版

浅田 晃佑 1)、板倉 昭二 2)
1)東京大学先端科学技術研究センター 2)京都大学大学院文学研究科
DOI XXXX/XXXX 原稿受付日:2013年xx月XX日 原稿完成日:2013年xx月XX日
担当編集委員:[入來 篤史](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)

英語名:triadic interaction, triadic interactive system, triadic relations, triadic engagement

 三項関係とは、「主体」と「他者」と(対面の二者間の空間以外にある)「もの」の3者間の関係を指す。主体と他者または主体とものとの2者間の閉じられた関係を指す二項関係と対比される。


 一般的には、生後約9か月以後のヒトの発達過程における特徴を指す。9か月より前では、自分と他者または自分とものという2者間の関係で乳児の認識世界が成り立っているとするのに対して、9か月以後では、自分と他者とものという3者を含んだ認識世界に至るとする[1][2]

 これは、主にヒトのコミュニケーションの発達において重要視されており、二項関係では、乳児は本人と他者との対面の関係でコミュニケーションを取るが(例:「いないいないばー」)、三項関係では、本人と他者以外のものも含めたコミュニケーション(例:遠くのものを指さして大人と一緒に見る)が可能になる。他の三項関係における行動例としては、視線追従(大人がある対象物を見たものを乳児も見る)、社会的参照(乳児がある対象に対する評価を大人の表情などを見ることで参考にする)などがある。類似の概念として、第二次間主観性[3]があり、他者とある対象に対する注意を共有する共同注意は三項関係の行動の代表例である。Tomasello[4]はこれを図1のように図示している。二項関係では、乳児は物体を操作している時に近くに人がいてもそちらに注意は向かず(図1a)、人と関わりあっている時は近くに物体があっても注意がいかない(図1b)。一方、三項関係では、乳児は物体を意識するだけでなく、同時に大人がその物体に注意を向けていることを意識するようになる(図1c)。

 Tomasello[2]は、この三項関係の発生を「9か月革命」と呼び、この時期に乳児は他者を、 意図を持った行為者と見做し、模倣や他者理解の発達が見られるとされる。また、それまでのように、他者から学ぶというだけでなく、他者を通して学ぶようになるとされる。例えば、大人のある物体への反応を見て、その物体に対しての評価を学習するようになる。また、このような三項関係は、言語の獲得においても重要である。Seibert & Hogan[5]は、二項関係や三項関係の子どもの行動を評価する尺度として、Early Social Communication Scalesを開発している。

  1. Bakeman, R., & Adamson, L.B. (1984).
    Coordinating attention to people and objects in mother-infant and peer-infant interaction. Child development, 55(4), 1278-89. [PubMed:6488956] [WorldCat]
  2. 2.0 2.1 M Tomasello
    The cultural origins of human cognition
    Cambridge, MA: Harvard University Press:1999
  3. C Trevarthen, PM Hubley
    Secondary intersubjectivity: confidence, confiding, and acts of meaning in the first year. In A. Lock (Ed.), Action, gesture, and symbol (pp. 183–229).
    London: Academic Press:1978
  4. M Tomasello
    Understanding the self as a social agent. In P. Rochat (Ed.), The self in infancy: Theory and research (pp.449-460).
    Amsterdam, North Holland/Elsevier Science:1995
  5. JM Seibert, AE Hogan
    Procedures Manual for Early Social Communication Scales (ESCS)
    Coral Gables: Mailman Center for Child Development, University of Miami:1982