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<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0082204 兼子 直]</font><br> | <font size="+1">[http://researchmap.jp/read0082204 兼子 直]</font><br> | ||
''北東北てんかんセンター''<br> | ''北東北てんかんセンター''<br> | ||
DOI:<selfdoi /> | DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2016年2月8日 原稿完成日:2016年3月12日<br> | ||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0141446 漆谷 真] | 担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0141446 漆谷 真](滋賀医科大学 医学部 神経内科)<br> | ||
</div> | </div> | ||
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==診断== | ==診断== | ||
[[IMAGE:てんかん脳波1.png|thumb|300px|'''脳波1.覚醒時大発作てんかん発作時の脳波'''<br>10歳女児の脳波で両側性に棘波の群発を認める。]] | |||
[[IMAGE:てんかん脳波2.png|thumb|300px|'''脳波2.前頭葉てんかん'''<br>10歳男児の脳波で、左前頭葉に棘徐派結合を認める。]] | |||
[[IMAGE:てんかん脳波3.png|thumb|300px|'''脳波3.側頭葉てんかん'''<br>21歳女性の脳波で、左側頭前部から側頭中部にかけて、棘波、鋭波の群発を認める。]] | |||
[[IMAGE:てんかん脳波4.png|thumb|300px|'''脳波4.後頭葉てんかん'''<br>10歳男児の脳波で、右後頭葉優位に、棘徐波結合を認める。]] | |||
[[IMAGE:てんかん脳波5.png|thumb|300px|'''脳波5.中心・側頭部に棘波を持つ良性小児てんかん'''<br>左半球(左中心・側頭部)にローランド棘波を認める 。]] | |||
[[IMAGE:てんかん脳波6.png|thumb|300px|'''脳波6.欠神発作時の脳波'''<br>脳全体に3Hz(1秒間に3回の頻度)の棘波結合の持続的な出現を認める。]] | |||
[[IMAGE:てんかん脳波7.png|thumb|300px|'''脳波7.ウエスト症候群の脳波'''<br>棘波、多棘波、高振幅の徐波が、同期せずばらばらに出現し、ヒプスアリスミア(hypsarrythmia)を示す。]] | |||
[[IMAGE:てんかん脳波8.png|thumb|300px|'''脳波8.レノックス・ガストー症候群の脳波'''<br>脳全体に3cpsより遅い棘徐波結合が頻会に出現する。]] | |||
補助診断として[[脳波]]・ビデオ同時記録、[[睡眠ポリグラフィーが]]用いられ、脳[[MRI]]、[[SPECT]]などが検査されるが、最近では[[遺伝子診断]] | ===病歴=== | ||
てんかんは慢性の脳疾患であり、脳神経細胞の異常興奮により惹起され、1回以上の発作を起こし、発作以外の症状も伴う。てんかん発作の症状はけいれん発作だけでなく、種々の程度の[[意識障害]]、[[行動障害]]を示す場合もあるが、重要な点は「発作は同じパターンを繰り返す」ことである。診断の際には、発作時に開眼しているか、[[wj:チアノーゼ|チアノーゼ]]があるか、意識障害の有無や行動変化とその回復過程はどうなっているか、尿[[失禁]]、[[嘔吐]]、発作後の[[頭痛]]、[[もうろう状態]]などを伴うか否か、などの発作症状の観察や発病年齢の聴取が重要である。 | |||
===検査所見=== | |||
補助診断として[[脳波]]・ビデオ同時記録、[[睡眠ポリグラフィーが]]用いられ、脳[[MRI]]、[[SPECT]]などが検査されるが、最近では[[遺伝子診断]]も試みられている。これらの所見を基に、てんかんか否かを判断し、てんかんと診断されれば次にてんかん発作型を分類することになる。 | |||
==== 脳波 ==== | |||
てんかんの診断に脳波検査は欠かせない。同じパターンを示す発作の確認と発作間歇期に発作波([[棘徐波結合]]、[[鋭波-徐波結合]]、[[棘波]]、[[鋭波]]、[[徐波]]の群発などが記録されるとてんかんと考えられるが(脳波1-8<ref>'''兼子直'''<br>追補改訂版、てんかん教室<br>''新興医学出版''、2003</ref>を参照。)、てんかんであっても脳波異常が記録されないときもあるため、発作症状からてんかんが疑われる場合には時間をおいて繰り返し、脳波を記録する必要がある。24時間連続して記録するビデオ脳波同時記録は服薬をしない状態で記録するため、発作時脳波を記録できる可能性が高く、鑑別診断の有力な手段である。 | |||
==== 画像診断 ==== | |||
てんかんの原因として[[脳奇形]]、[[脳腫瘍]]、[[脳出血]]、[[脳萎縮]]など脳の器質性疾患を見出すには MRI検査が有力であり,[[PET]]あるいはSPECTを併用し代謝、血流の変化する部位同定も焦点部位決定に役立つ。 | |||
==== 遺伝子診断 ==== | |||
一部のてんかん類型では遺伝子検査が行われる。特に生後間もない時に発病するてんかん類型('''表3''')では鑑別診断に有力な検査手段となる。てんかんの発病を防止しようとする動きがあり、これには発病前の治療が必要性であり、ハイリスク児同定に遺伝子検査が有力な手段となる<ref name=ref11>'''兼子直、他'''<br>新しい抗てんかん薬の開発とてんかんの発病防止戦略<br>''最新医学'' 70;1044-1050, 2015.</ref>。 | |||
====血液生化学==== | |||
目撃者がいない場合にはけいれん発作後の[[wj:クレアチンホスホキナーゼ|クレアチンホスホキナーゼ]] (CPK)の上昇、複雑部分発作の30分以内なら血中[[プロラクチン]]濃度などの増加も診断上参考になる。 | |||
====心電図==== | |||
[[複雑部分発作]]などの意識障害の存在が疑われ、脳波異常がなければ、[[wj:心電図|心電図]]検査、[[wj:ホルター心電図|ホルター心電図]]検査も必要となる。 | |||
===鑑別診断=== | ===鑑別診断=== | ||
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==== 心因性非てんかん発作 ==== | ==== 心因性非てんかん発作 ==== | ||
心因性非てんかん発作(PNES)は精神医学でいう解離性障害あるいは転換性障害のひとつといえるが、まったく同一とはいえない。診断で難しいのはてんかんと 心因性非てんかん発作が合併した場合である。難治てんかんでは両者の合併は10-35%と高頻度である<ref name=ref14>'''Krumholz A et al'''<br>Coexisting epilepsy and nonepileptic seizures.<br>In: Kaplan PW, et al, eds: Imitator of epilepsy.<br>Pp 261-276, Demos Medical Publishingm INC, New York, 2005. </ref>。 症状は多彩である。首の横振り、[[後弓反張]]、不規則な手足の運動、刺激に反応する場合がある。発作時には閉眼していることが多く、開眼させようとすると抵抗し、[[対光反射]]は存在する。ビデオ脳波同時記録を行い、発作症状と[[脳波]]所見が一致するか否かが診断の要点となる。発作が始まった時期の前に“心因”の存在を見出すことが重要である。 | |||
====循環器疾患に伴う失神==== | ====循環器疾患に伴う失神==== | ||
一過性の意識消失を失神というが、[[不整脈]]、[[自律神経調節性失神]] | 一過性の意識消失を失神というが、[[不整脈]]、[[自律神経調節性失神]](NMS)がある。 | ||
不整脈には[[wj:徐脈性不整脈|徐脈性不整脈]]([[wj:洞不全症候群|洞不全症候群]]、[[wj:AVブロック|AVブロック]])、[[wj:頻拍性不整脈|頻拍性不整脈]]([[wj:上室性頻拍|上室性頻拍]]、[[wj:心室性不整脈|心室性不整脈]])があり、[[wj:心電図|心電図]]検査を要する。 | |||
自律神経調節性失神には[[迷走神経緊張性失神]](前駆症状は発汗、あくび、吐き気、腹痛)、[[頸動脈洞症候群]](振り向くような動作で起こる)、[[状況失神]](排尿、排便、咳、嚥下などが原因となる)がある。病歴の聴取が重要である。 | |||
==== 一過性脳虚血発作 ==== | ==== 一過性脳虚血発作 ==== | ||
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==== 片頭痛 ==== | ==== 片頭痛 ==== | ||
偏頭痛は発作性に見られる変則性の脈拍に一致した拍動性の頭痛である。予兆として[[閃光]]、暗点、[[視野欠損]]、[[錯視]]としての視覚の変形や大小の変化を示す[[片頭痛]]「[[不思議の国のアリス現象]]」などがある。片頭痛とてんかんの両者の特徴を持つ[[てんかん性片頭痛症候群]]の存在に留意する必要がある<ref name=ref15><pubmed>7964814</pubmed></ref>。 | |||
==== 一過性健忘 ==== | ==== 一過性健忘 ==== | ||
42行目: | 69行目: | ||
==== レム睡眠行動障害 ==== | ==== レム睡眠行動障害 ==== | ||
レム睡眠期に一致して手足を動かし、叫ぶ、泣く、笑う、動き回るなどの異常行動が見られ、レム睡眠期が終わると終了する。 | |||
==== 夜驚症、夢中遊行、錯乱性覚醒 ==== | ==== 夜驚症、夢中遊行、錯乱性覚醒 ==== | ||
いずれも主に小児にみられ、[[ノンレム睡眠]]からの覚醒障害により生ずると考えられている。[[夜驚症]]は睡眠中に突然起きだし[[恐怖]]に満ちた叫び、外界からの刺激に反応せず、混乱、[[失見当識]]を示す。[[夢中遊行]]は睡眠中に起き上がり、開眼し歩き回る。その後布団に戻って眠ることが多い。[[錯乱性覚醒]]は覚醒後数十分間、[[ | いずれも主に小児にみられ、[[ノンレム睡眠]]からの覚醒障害により生ずると考えられている。[[夜驚症]]は睡眠中に突然起きだし[[恐怖]]に満ちた叫び、外界からの刺激に反応せず、混乱、[[失見当識]]を示す。[[夢中遊行]]は睡眠中に起き上がり、開眼し歩き回る。その後布団に戻って眠ることが多い。[[錯乱性覚醒]]は覚醒後数十分間、[[失見当識]]や思考の緩慢さが見られる。これらの状態は[[前頭葉てんかん]]との鑑別に重要である。 | ||
==== 入眠時ミオクローヌス ==== | ==== 入眠時ミオクローヌス ==== | ||
[[入眠時ミオクローヌス]]とは、入眠期に起こる短い不規則な筋の収縮であり、発生機序は不明である。[[ミオクロニー発作]]、[[単純部分発作]]との鑑別に重要である。[[周期性四肢運動障害]]は睡眠中に起こる足関節の背屈進展を伴う運動が頻回に出現する状態であり、入眠時ミオクローヌスとは異なる。 | [[入眠時ミオクローヌス]]とは、入眠期に起こる短い不規則な筋の収縮であり、発生機序は不明である。[[ミオクロニー発作]]、[[単純部分発作]]との鑑別に重要である。[[周期性四肢運動障害]]は睡眠中に起こる足関節の背屈進展を伴う運動が頻回に出現する状態であり、入眠時ミオクローヌスとは異なる。 | ||
==== 周期性四肢運動障害 ==== | ==== 周期性四肢運動障害 ==== | ||
[[周期性四肢運動障害]]とは睡眠中に起こる常同的四肢の運動で、[[むずむず脚症候群]]とオーバーラップする症候群として捉えられる。下肢に多く見られ、重症になると入眠が困難になる。病態として[[視床下部]] | [[周期性四肢運動障害]]とは睡眠中に起こる常同的四肢の運動で、[[むずむず脚症候群]]とオーバーラップする症候群として捉えられる。下肢に多く見られ、重症になると入眠が困難になる。病態として[[視床下部]]A11の[[ドーパミン]](DA)細胞の機能低下が考えられている<ref name=ref9>'''稲見康司、他'''<br>むずむず脚症候群、周期性四肢運動障害<br>''日本臨床'' 71(増刊号5);485-490, 2013.</ref>。 | ||
==== 発作性ジスキネジア ==== | ==== 発作性ジスキネジア ==== | ||
[[発作性ジスキネジア]](PD)は[[ジストニア]]、[[アテトーゼ]]、[[バリスムス]]、[[舞踏病]]が単独あるいは複合して出現する。[[発作性運動誘発性ジスキネジア]](paroxysmal kinesigenic dyskinesia: | [[発作性ジスキネジア]](PD)は[[ジストニア]]、[[アテトーゼ]]、[[バリスムス]]、[[舞踏病]]が単独あるいは複合して出現する。[[発作性運動誘発性ジスキネジア]](paroxysmal kinesigenic dyskinesia: PKD)は男性に多く、家族性症例が多い。[[Proline-rich transmembrane protein 2]]が責任遺伝子の1つとして報告された<ref name=ref8><pubmed>22752065</pubmed></ref>。意識障害はなく、発作間欠期は無症候性である。発作は数十秒で毎日のように頻回に出現する。[[随意運動]]の開始、[[ストレス]]、緊張などにより誘発され、[[前兆]](感覚異常など)がある症例が多い。特発性発作性運動性ジスキネジアでは発作時脳波にも異常は見られない。症候性の場合には画像所見で異常が見いだされることもある。 | ||
==== 非運動誘発性ジスキネジア ==== | ==== 非運動誘発性ジスキネジア ==== | ||
[[非運動誘発性ジスキネジア]](paroxysmal non-kinesigenic dyskinesia: PNKD)は男性にやや多く、家族性の症例の多くでは[[myofibrillogenesis regulator 1]] (MR-1)遺伝子が責任遺伝子として報告されている<ref name=ref3><pubmed>17515540</pubmed></ref>。MR- | [[非運動誘発性ジスキネジア]](paroxysmal non-kinesigenic dyskinesia: PNKD)は男性にやや多く、家族性の症例の多くでは[[myofibrillogenesis regulator 1]] (MR-1)遺伝子が責任遺伝子として報告されている<ref name=ref3><pubmed>17515540</pubmed></ref>。MR-1遺伝子変異がない症例の発病は12歳ころで、変異のある症例の発病は平均4歳である。症状は発作性運動誘発性ジスキネジアとほぼ同様であるが、MR-1変異がある症例ではジストニアあるいはジストニアと舞踏病の組み合わせで、変異がない症例ではジストニア、舞踏病、両者の組み合わせ、[[バリスム]]が観察される。発作は主に体肢に起こり、発作は週単位で10分から1時間の持続時間が多い。[[カフェイン]]、[[アルコール]]、情動変化、疲労、空腹などで誘発される。MR-1変異のない症例ではてんかんと合併することもあり、変異を有する症例では片頭痛を約半数が合併する。前兆には体肢の硬直、ふらふら感、しびれ感、などがある。 | ||
==分類== | ==分類== | ||
てんかんの遺伝子解析の最近の進歩で、国際抗てんかん連盟(ILAE)は新たな分類を提案しているが、現実的にはてんかん発作型の分類が抗てんかん薬選択に用いれるため、てんかん発作の国際分類(1981年)<ref name=ref4><pubmed>6790275</pubmed></ref>が多く使われている(表1)。 | |||
この分類では発作は[[全般発作]]と[[部分発作]]に | この分類では発作は[[全般発作]]と[[部分発作]]に 分類され、それぞれ、前者は[[欠神発作]]、[[ミオクロニー発作]]、[[間代発作]]、[[強直発作]]、[[強直間代発作]]、[[脱力発作]]に分けられ、後者は[[単純部分発作]]、[[複雑部分発作]]と[[2次性全般化発作]]に分けられる。これらの分類に従って治療のための抗てんかん薬が選択される。 | ||
{| class="wikitable" | {| class="wikitable" | ||
|+表1.てんかん発作型国際分類(1981年) | |+表1.てんかん発作型国際分類(1981年) | ||
|- | |- | ||
| rowspan="3" style="background-color:#d3d3d3" |部分発作(焦点性、局在性発作) | | rowspan="3" style="background-color:#d3d3d3" |'''部分発作(焦点性、局在性発作)''' | ||
|A.[[単純部分発作]](意識減損はない) | |'''A.[[単純部分発作]](意識減損はない)''' | ||
#運動徴候を呈するもの | #運動徴候を呈するもの | ||
#体性感覚または特殊感覚症状を呈するもの | #体性感覚または特殊感覚症状を呈するもの | ||
# | #自律神経症状あるいは徴候を呈するもの | ||
#精神症状を呈するもの<br> | #精神症状を呈するもの<br> | ||
(多くは“複雑部分発作”として経験される) | (多くは“複雑部分発作”として経験される) | ||
|- | |- | ||
|B.[[複雑部分発作]] | |'''B.[[複雑部分発作]]''' | ||
#単純部分発作で始まり意識減損に移行するもの<br> a.単純部分発作で始まるもの<br> b.自動症を伴うもの | #単純部分発作で始まり意識減損に移行するもの<br> a.単純部分発作で始まるもの<br> b.自動症を伴うもの | ||
#意識減損で始まるもの | #意識減損で始まるもの | ||
|- | |- | ||
|C.二次的に全般化する部分発作 | |'''C.二次的に全般化する部分発作''' | ||
#単純部分発作(A.)が全般発作に進展するもの | #単純部分発作(A.)が全般発作に進展するもの | ||
#複雑部分発作(B.)が全般発作に進展するもの | #複雑部分発作(B.)が全般発作に進展するもの | ||
83行目: | 112行目: | ||
|- | |- | ||
| rowspan="6" style="background-color:#d3d3d3" |全般発作 | | rowspan="6" style="background-color:#d3d3d3" |全般発作 | ||
|A.[[欠神発作]]<br> a.意識減損のみのもの<br> b.軽度の[[間代要素]]を伴うもの<br> c.[[脱力要素]]を伴うもの<br> d.[[強直要素]]を伴うもの<br> e.[[自動症]]を伴うもの<br> f.[[自律神経要素]]を伴うもの<br> (b~fは単独でも組み合わせでもあり得る) | |A. | ||
#[[非定型欠神発作]]<br> a.筋緊張の変化はA.1.よりも明瞭<br> b.発作の起始/終末は急激ではない | #'''[[欠神発作]]'''<br> a.意識減損のみのもの<br> b.軽度の[[間代要素]]を伴うもの<br> c.[[脱力要素]]を伴うもの<br> d.[[強直要素]]を伴うもの<br> e.[[自動症]]を伴うもの<br> f.[[自律神経要素]]を伴うもの<br> (b~fは単独でも組み合わせでもあり得る) | ||
#'''[[非定型欠神発作]]'''<br> a.筋緊張の変化はA.1.よりも明瞭<br> b.発作の起始/終末は急激ではない | |||
|- | |- | ||
|B.[[ミオクロニー発作]] | |'''B.[[ミオクロニー発作]]''' | ||
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|C.[[間代発作]] | |'''C.[[間代発作]]''' | ||
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|D.[[強直発作]] | |'''D.[[強直発作]]''' | ||
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|E.[[強直間代発作]] | |'''E.[[強直間代発作]]''' | ||
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|F.脱力(失立)発作 | |'''F.脱力(失立)発作''' | ||
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| style="background-color:#d3d3d3" |未分類てんかん発作 | | style="background-color:#d3d3d3" |'''未分類てんかん発作''' | ||
| 不適切あるいは不完全なデータのため分類できないものや上記カテゴリーに分類できないすべてのものを含む。 | | 不適切あるいは不完全なデータのため分類できないものや上記カテゴリーに分類できないすべてのものを含む。 | ||
|- | |- | ||
104行目: | 134行目: | ||
発作の起始から発作発射が脳全体に及び起こる発作で、発作直後から意識は失われる。原因として遺伝的素因が関与すると考えられている。 | 発作の起始から発作発射が脳全体に及び起こる発作で、発作直後から意識は失われる。原因として遺伝的素因が関与すると考えられている。 | ||
==== 欠神発作 ==== | |||
ごく短時間の意識喪失を示す発作で定型と非定型の2種類に分けられる。 | |||
定型欠神発作は数秒から十数秒の意識障害が突然始まり速やかに回復する。発作は頻発する傾向があり、思春期頃には消失することが多いが、一部は強直間代発作に移行する。発作時脳波は[[3Hz棘徐派結合]]ないし[[多棘徐派結合]]を示す。<BR> 否定形欠神発作は意識障害以外にも各種症状が混在した臨床症状(ミオクロニー、自働症、間代運動、自律神経症状など)がより多く見られ、脱力などの筋緊張の変化がみられることも多い。発作の始まりと終わりがゆっくりで、脳波所見も不規則で左右非対称、背景活動も突発性異常波が混在することもある。欠神発作は複雑部分発作との鑑別が必要なときがあるが、複雑部分発作は発作持続時間がより長く、成人に多い。 | |||
==== ミオクロニー発作 ==== | |||
突然に両側同時に強い筋の[[れん縮]]が出現する。瞬間的なので意識障害を伴わず、光刺激により誘発されやすい。思春期に好発し、覚醒直後、入眠期に起こりやすい。発作時の脳波では両側同期性の棘徐波結合が出現し、棘波に一致し筋れん縮が起こる。 | |||
==== 間代発作 ==== | |||
意識消失とともに数秒から1分以上の左右対称性の全身の律動的な筋の痙攣を起こす。発作時脳波では10Hz以上の速波と徐派から構成され、棘徐派結合も出現する。 | |||
==== 強直間代発作 ==== | |||
突然の叫び(初期叫声)から始まることがあり、意識を突然消失し、左右対称性の全身の強直性けいれん(約30秒)が出現し、次いで間代性けいれん(30から90秒)に移行する。強直けいれんでは体幹・四肢近位が屈曲強直し、[[眼球]]が上転、口をかみしめ、呼吸筋も強直しているため呼吸できず顔面蒼白、[[チアノーゼ]]が出現する。その他発作中には[[唾液]][[分泌]]、[[尿失禁]]をすることもある。間代性けいれんは次第に収束するが、睡眠([[終末睡眠]])に移行し、あるいは発作後朦朧状態に移行する場合もある。この間の意識は無く、朦朧状態から回復しても頭痛、[[筋肉]]痛、[[嘔吐]]などを示すこともある。発作時脳波は強直けいれん時には筋電図やアーチファクトが入るが、間代けいれんに入ると次第に筋電図の間から見える脳波が読めるようになる。脳波は9Hz以上の低電位放電から始まり次第に周波数が減り振幅が増大化するが、発作前の脳波律動になるまでには数分間を要する。 | |||
==== 脱力発作 ==== | |||
一瞬(数秒以内)の全身の姿勢保持筋の緊張低下あるいは消失により起こるため、起立時に起これば[[転倒]]する。発作抑制は困難な症例もある。発作時脳波では多棘徐派結合、平坦化、[[低電位速波]]から構成される。 | |||
===部分発作=== | ===部分発作=== | ||
脳波上の異常波が脳の一定部位から始まり、発作症状も脳の一定部位から始まる。部分発作は1)意識障害を伴わない単純部分発作、2)意識障害を伴う複雑部分発作、3)、二次性全般か発作に分類される。これらの単純部分発作は複雑部分発作、二次性全般化発作の初期症状として出現することも少なくない。 | 脳波上の異常波が脳の一定部位から始まり、発作症状も脳の一定部位から始まる。部分発作は1)意識障害を伴わない単純部分発作、2)意識障害を伴う複雑部分発作、3)、二次性全般か発作に分類される。これらの単純部分発作は複雑部分発作、二次性全般化発作の初期症状として出現することも少なくない。 | ||
==== 単純部分発作 ==== | |||
意識障害を示さず、発作時脳波は脳皮質の局所性の放電である。これは発作症状から4種類に分けられる。 | |||
:1. '''[[運動徴候を伴う発作]]'''は[[焦点性運動発作]]、[[ジャクソン型発作]]、[[回転発作]]、[[姿勢発作]]、[[音声発作]]がある。焦点性運動発作は[[前中心回]]の[[運動領野]]に焦点があり、その脳部位に関連する身体部位のけいれんが出現する。ジャクソン型発作は前中心回の一部に始まった発作発射が周囲の脳部位に波及するため手ー腕ー下肢などのように同側の身体部位を巻き込んで発作が拡大してゆく。発作後に足などの麻痺が残ることがあり、これを[[トッドの麻痺]]という。<br>'''[[回転発作]]'''は脳皮質焦点の反対側へ眼球、顔、躯幹を向ける発作である。<br>'''[[姿勢発作]]'''は[[補足運動野]]に焦点がある場合、反対側の上肢を挙上し、それを見上げるように頭部、眼球を回転させる。音声発作は前中心回の発作発射により同じ言葉を反復する、叫ぶ、あるいは言葉を話せなくなる発作である。<br>2. '''[[体性感覚ないし特殊感覚症状を伴う発作]]'''には[[体性感覚発作]]、[[視覚発作]]、[[聴覚発作]]、[[めまい発作]]がある。体性感覚発作は[[後中心回]]の発作発射によりその部位がつかさどる体の一部にしびれ感などの[[知覚]]異常が出現する。視覚発作は[[後頭葉]]にてんかん焦点があるとき、閃光、渦巻く雲が見えたり視野が狭くなったりする。<br>'''[[聴覚発作]]'''はてんかん焦点が側頭葉上部にあると、発作として音が聞こえあるいは逆に聞こえなくなる。鉤回に焦点があると匂いを感ずる発作が、焦点が島、弁蓋部にあると苦味、酸味などの味覚発作が出現する。側頭葉上回にあるとめまい発作が出現すると考えられている。<br>3. '''[[自律神経症状ないし兆候を伴う発作]]'''は、数分以内の自律神経系症状(悪心、嘔吐、頭痛、腹部不快感など)を示す発作で、血圧の上昇、[[瞳孔]]散大、くしゃみなどもみられる。成人の場合には多彩な自律神経症状は発作症状の一部として出現する。<br>4. '''[[精神症状を伴う発作]]''' 発作発射は[[側頭葉]]皮質から[[辺縁系]]の一部に限局するため、意識は失われない。発作症状は多彩であり、[[情動発作]]が多い。これは側頭葉下面皮質に焦点があるとき、[[不安]]、[[恐怖]]、[[怒り]]、[[多幸感]]、を感ずるものである。[[言語中枢]]付近に焦点がある場合、言葉を話せなくなる([[運動性失語]])あるいは言葉を理解できなくなる([[感覚性失語]])を起こす。<br>'''[[記憶障害発作]]'''は一過性の[[健忘]]、[[既視体験]]、[[未視体験]]などの発作症状を示し、[[認知発作]]には[[夢幻様体験]]、[[強制思考]]などがある。[[錯覚]]発作の症状として[[変形視]]、[[巨視症]]、[[小視症]]などの視覚症状と音が大きくあるいは小さく聞こえるなどの聴覚性症状がある。[[構成幻覚発作]]は人の声、動作が意味を持ち、情景が見え、音楽が聞こえるなどの複雑な幻覚を感ずる発作である。 | |||
==== 複雑発作 ==== | |||
発作時に意識障害を認め、発作後に健忘を残す。発作の始めから意識障害を示す発作と単純部分発作から複雑部分発作へと移行する発作があり、それぞれ意識障害のみを示す発作と自働症を伴う発作に細分化される。意識障害は数十秒から数分間に及び、意識障害の始まりと終わりは欠神発作に比較し、よりゆっくりとしている。発作中は動作が止まるときと体を奇妙に動かす自働症を示すこともある。側頭葉起源の自働症は運動を伴わない凝視と意識の断絶で始まり、噛む、嚥下する、衣類をなでるなどの、単純かつ定型的な[[自働症]]が続発する。側頭葉以外に起始場合には[[凝視]]を欠き、[[歩行性自働症]]、両側四肢の持続的運動および強直性の反体側への頭部、眼球の運動を特徴とする場合、あるいは転倒発作で開始され、[[錯乱]]と健忘を伴い、徐々に回復するタイプがある<ref name=ref5><pubmed>7092181</pubmed></ref>。<br> 前葉性の複雑部分発作の特徴は蹴ったり叩いたりする複雑な運動性自働症、奇妙な発語、軽症の発作後もうろう状態と急速な回復とがある。複雑部分発作時の脳波所見は側頭部、前頭部ないしは広範性の一側性ないしは両側性放電を示すが、脳波異常を記録できない場合もあり、心因性発作と誤診されることもある。 | |||
==== 二次性全般化発作 ==== | |||
単純部分発作から、複雑部分発作から、単純部分から複雑部分発作を経て二次性全般化発作にいたる3経路がある。強直・間代発作が多いが、強直あるいは間代だけの場合もある。発作時脳波は焦点性発射が全般化することが多く、発作間歇期には焦点性異常波が記録される。しかし、異常所見が記録されないこともある。 | |||
===2006年の発作型の分類=== | ===2006年の発作型の分類=== | ||
てんかん学の進歩あるいは遺伝学の進歩に伴い国際抗てんかん連盟は分類の改定を行っている。表2に2006年提案の発作型の分類を示す<ref name=ref7><pubmed>16981873</pubmed></ref>。この分類では、てんかんは[[全般性起始]]と[[焦点性起始]]、[[新生児発作]]に分けられる。 全般性発作(全般性起始)はA.[[強直もしくは間代性症状を有する発作]]、B.欠神発作、 C.[[ミオクロニー発作型]]、D.[[てんかん性スパズム]]、E. 脱力発作に分類される。 | てんかん学の進歩あるいは遺伝学の進歩に伴い国際抗てんかん連盟は分類の改定を行っている。表2に2006年提案の発作型の分類を示す<ref name=ref7><pubmed>16981873</pubmed></ref>。この分類では、てんかんは[[全般性起始]]と[[焦点性起始]]、[[新生児発作]]に分けられる。 全般性発作(全般性起始)はA.[[強直もしくは間代性症状を有する発作]]、B.欠神発作、 C.[[ミオクロニー発作型]]、D.[[てんかん性スパズム]]、E. 脱力発作に分類される。 | ||
焦点性(部分性起始)発作はA.局所発作(焦点部位により[[新皮質]]、[[海馬]]・[[海馬傍回]] | 焦点性(部分性起始)発作はA.局所発作(焦点部位により[[新皮質]]、[[海馬]]・[[海馬傍回]]は局所内伝播の有無で細分される。B.同側への伝播、C.対側への伝播、D.2次性全般化、に分類された。この分類では[[てんかん性スパスムズ]](Epileptic spasms)が独立した名称で採用されたが、これは突然発作が起こり、終了する短い発作で(1秒程度)、[[体軸]]と[[近位筋]]の両側性の強直れん縮である。 | ||
発作時間は強直発作より短く、ミオクロニーれん縮(0.1秒)より長い。発作は覚醒直後に起こりやすく周期的に出現することが多い。この分類では[[てんかん重積状態]]がリストされたが、この分類も改定されつつあり、当面は臨床では1981年の分類で薬剤を選択したほうが無難である。 | 発作時間は強直発作より短く、ミオクロニーれん縮(0.1秒)より長い。発作は覚醒直後に起こりやすく周期的に出現することが多い。この分類では[[てんかん重積状態]]がリストされたが、この分類も改定されつつあり、当面は臨床では1981年の分類で薬剤を選択したほうが無難である。 | ||
132行目: | 176行目: | ||
| rowspan="5" |Ⅰ.全般性起始<br> | | rowspan="5" |Ⅰ.全般性起始<br> | ||
|A.強直もしくは間代性症状を有する発作 | |A.強直もしくは間代性症状を有する発作 | ||
#[[ | #[[強直間代発作]] | ||
#[[ | #[[間代発作]] | ||
#[[ | #[[強直発作]] | ||
|- | |- | ||
|B.欠神発作 | |B.欠神発作 | ||
198行目: | 242行目: | ||
| style="background-color:#d3d3d3" |青年期 | | style="background-color:#d3d3d3" |青年期 | ||
|- | |- | ||
|良性家族性新生児発作<br>早期ミオクロニー脳症<br>大田原症候群 | |[[良性家族性新生児発作]]<br>[[早期ミオクロニー脳症]]<br>[[大田原症候群]] | ||
|若年欠神てんかん<br>若年ミオクロニーてんかん<br>進行性ミオクローヌスてんかん | |[[若年欠神てんかん]]<br>[[若年ミオクロニーてんかん]]<br>[[進行性ミオクローヌスてんかん]] | ||
|- | |- | ||
| style="background-color:#d3d3d3" |乳児期 | | style="background-color:#d3d3d3" |乳児期 | ||
| style="background-color:#d3d3d3" |年齢と相関が低いもの | | style="background-color:#d3d3d3" |年齢と相関が低いもの | ||
|- | |- | ||
|早期乳児遊走性部分発作<br>West症候群<br>乳児ミオクロニーてんかん<br>良性乳児発作<br>Dravet症候群<br>非進行性ミオクロニー脳症 | |[[早期乳児遊走性部分発作]]<br>[[West症候群]]<br>[[乳児ミオクロニーてんかん]]<br>[[良性乳児発作]]<br>[[Dravet症候群]]<br>[[非進行性ミオクロニー脳症]] | ||
|常染色体優性夜間前頭葉てんかん<br>家族性側頭葉てんかん<br> | |[[常染色体優性夜間前頭葉てんかん]]<br>[[家族性側頭葉てんかん]]<br>海馬硬化による[[内側側頭葉てんかん]]<br>[[Rasmussen症候群]]<br>視床下部[[過誤腫]]による笑い発作 | ||
|- | |- | ||
| style="background-color:#d3d3d3" |小児期 | | style="background-color:#d3d3d3" |小児期 | ||
| style="background-color:#d3d3d3" |特殊なてんかん状態 | | style="background-color:#d3d3d3" |特殊なてんかん状態 | ||
|- | |- | ||
|rowspan="3" |早発良性小児後頭部てんかん<br> | |rowspan="3" |[[早発良性小児後頭部てんかん]]<br>中心・側頭部棘波を示す[[良性小児てんかん]]<br>ミオクロニー失立発作を持つてんかん<br>[[遅発小児後頭部てんかん]]<br>[[ミオクロニー欠神てんかん]]<br>[[Lennox-Gastaut症候群]]<br>[[Landau-Kleffner症候群]]を含む徐波睡眠期棘徐波を示すてんかん<br>[[小児欠神てんかん]] | ||
|特定化されない症候性焦点性てんかん<br>全般性強直間代発作のみを持つてんかん<br>反射てんかん<br>熱性けいれんプラス<br> | |特定化されない症候性焦点性てんかん<br>全般性強直間代発作のみを持つてんかん<br>反射てんかん<br>[[熱性けいれんプラス]]<br>多様な焦点を示す[[家族性焦点性てんかん]] | ||
|- | |- | ||
| style="background-color:#d3d3d3" |てんかん診断を必要としないてんかん発作状態 | | style="background-color:#d3d3d3" |てんかん診断を必要としないてんかん発作状態 | ||
|- | |- | ||
|良性新生児発作<br>熱性発作 | |[[良性新生児発作]]<br>[[熱性発作]] | ||
|- | |- | ||
|} | |} | ||
==病態生理== | ==病態生理== | ||
237行目: | 276行目: | ||
薬剤選択には副作用も考慮すべき要因である。容量依存性服作用はすべての抗てんかん薬で存在するため、投与量、血中濃度に留意する必要があるが、各薬剤特有の副作用が薬剤選択に重要である。[[フェニトイン]]は歯肉増殖、[[wikipedia:ja:多毛症|多毛症]]のゆえに女性には避けるべきで、ソニサミド、トピラメートでうつ症状が出現することがあり、レベチラセタムでは行動異常が、ラモトリジンでは重篤な発疹が出現することがある。 | 薬剤選択には副作用も考慮すべき要因である。容量依存性服作用はすべての抗てんかん薬で存在するため、投与量、血中濃度に留意する必要があるが、各薬剤特有の副作用が薬剤選択に重要である。[[フェニトイン]]は歯肉増殖、[[wikipedia:ja:多毛症|多毛症]]のゆえに女性には避けるべきで、ソニサミド、トピラメートでうつ症状が出現することがあり、レベチラセタムでは行動異常が、ラモトリジンでは重篤な発疹が出現することがある。 | ||
抗てんかん薬には発疹を起こすものがあるが、[[HLA]]領域の[[遺伝子多型]]によることが明らかとなり、予測可能性が出てきた<ref name=ref21>'''吉田秀一ら'''<br>遺伝情報に基づいた個別化治療<br>''医学のあゆみ'' 232;951-955, 2010.</ref>。 | |||
===個別化治療=== | ===個別化治療=== | ||
247行目: | 286行目: | ||
表4は抗てんかん薬が基質となる代謝酵素([[シトクロムP450]];CYPs)分子種を示しているが、[[CYP3A4]]、[[CYP2C9]]、[[CYP2C19]]が抗てんかん薬の代謝に重要であり、各CYPには遺伝的多型が存在し代謝能力が異なる(extensive、intermediate、poor metabolizer)。日本人ではCYP2C19のpoor metabolizerは約18%、CYP2C9は約7%がpoor metabolizerである。 | 表4は抗てんかん薬が基質となる代謝酵素([[シトクロムP450]];CYPs)分子種を示しているが、[[CYP3A4]]、[[CYP2C9]]、[[CYP2C19]]が抗てんかん薬の代謝に重要であり、各CYPには遺伝的多型が存在し代謝能力が異なる(extensive、intermediate、poor metabolizer)。日本人ではCYP2C19のpoor metabolizerは約18%、CYP2C9は約7%がpoor metabolizerである。 | ||
薬剤選択に関してその一例として図1に[[GABA受容体]]の膜展開図を示す<ref name=ref10 /> | 薬剤選択に関してその一例として図1に[[GABA受容体]]の膜展開図を示す<ref name=ref10 />。膜の上は細胞外、下は細胞内を示す。GABRA1遺伝子上の4の位置(A322D)に変異があるとバルプロ酸が第一選択役となり、GABRG2の1の位置(R43Q)に変異があるとバルプロ酸、トピナ、バルビツール剤が選択される。GABRG2の変異位置がK289Mの場合、[[トピナ]]、[[バルビツール剤]]、[[ベンゾジアゼピン]]、ガバペンチンなどが選択され、Q351X変異を持つ症例では抗てんかん薬に抵抗性を示し、変異がR139Gの症例は熱性けいれんの可能性があり、抗てんかん薬が不要かもしれない<ref name=ref10 />。 | ||
このように症例が持つ遺伝子異常の種類、変異の位置などにより薬剤の選択が可能となり、薬物代謝酵素、薬剤排泄トランスポーターなどの遺伝子多型から適量を算出することが理論的には可能である。一部の抗てんかん薬では患者の体重、併用薬剤、処方予定の抗てんかん薬に関わるCYPの多型、などからクリアランスを想定できるので、その患者の抗てんかん薬の至適容量を計算することができる<ref name=ref19><pubmed>24345815</pubmed></ref>。近い将来、このような個別化治療が臨床で実施可能となり、薬剤選択と投与量調整における時間が短縮する。 | このように症例が持つ遺伝子異常の種類、変異の位置などにより薬剤の選択が可能となり、薬物代謝酵素、薬剤排泄トランスポーターなどの遺伝子多型から適量を算出することが理論的には可能である。一部の抗てんかん薬では患者の体重、併用薬剤、処方予定の抗てんかん薬に関わるCYPの多型、などからクリアランスを想定できるので、その患者の抗てんかん薬の至適容量を計算することができる<ref name=ref19><pubmed>24345815</pubmed></ref>。近い将来、このような個別化治療が臨床で実施可能となり、薬剤選択と投与量調整における時間が短縮する。 | ||
{| class="wikitable" | {| class="wikitable" | ||
|+ | |+表4.抗てんかん薬と代謝酵素<br>文献<ref name=ref21 />より一部改変し、引用 | ||
|- | |- | ||
| style="background-color:#d3d3d3" |抗てんかん薬 | | style="background-color:#d3d3d3" |抗てんかん薬 | ||
| style="background-color:#d3d3d3" | | | style="background-color:#d3d3d3" | | ||
| style="background-color:#d3d3d3" | | | style="background-color:#d3d3d3" |排泄経路 | ||
|- | |- | ||
|カルバマゼピン | |カルバマゼピン | ||
|'''CYP3A4/5''', CYP2D6, CYP2C8, EPHX1 | |'''[[CYP3A4]]/[[CYP3A5|5]]''', [[CYP2D6]], [[CYP2C8]], [[EPHX1]] | ||
|[[ | |[[wj:酸化|酸化]] | ||
|- | |- | ||
|エトサクシミド | |エトサクシミド | ||
267行目: | 306行目: | ||
|- | |- | ||
|バルプロ酸 | |バルプロ酸 | ||
|CYP2D6, '''CYP2C9''', '''CYP2C19''', CYP1A2, CYP2B1, CYP2B2, CYP2B4, CYP2E1, CYP4B1, UGT2B1 | |CYP2D6, '''[[CYP2C9]]''', '''[[CYP2C19]]''', [[CYP1A2]], [[CYP2B1]], [[CYP2B2]], [[CYP2B4]], [[CYP2E1]], [[CYP4B1]], [[UGT2B1]] | ||
|酸化(>50%)と[[wikipedia:ja:グルクロン酸|グルクロン酸]]抱合(30-40%) | |酸化(>50%)と[[wikipedia:ja:グルクロン酸|グルクロン酸]]抱合(30-40%) | ||
|- | |- | ||
275行目: | 314行目: | ||
|- | |- | ||
|フェノバルビタール | |フェノバルビタール | ||
|'''CYP3A4''', CYP2D6, '''CYP2C9''', '''CYP2C19''', CYP2B1, CYP4A1 | |'''CYP3A4''', CYP2D6, '''CYP2C9''', '''CYP2C19''', CYP2B1, [[CYP4A1]] | ||
|酸化 [[ | |酸化+[[N-グルコシル化]](70%)と腎排泄(25%) | ||
|-| | |-| | ||
|フェニトイン | |フェニトイン | ||
|'''CYP3A4''', CYP2C8, '''CYP2C9''', CYP2C10, '''CYP2C19''' | |'''CYP3A4''', CYP2C8, '''CYP2C9''', [[CYP2C10]], '''CYP2C19''' | ||
|酸化 | |酸化 | ||
|- | |- | ||
287行目: | 326行目: | ||
|- | |- | ||
|レベチラセタム | |レベチラセタム | ||
| | |水酸化酵素(アセトアミド基の酵素的加水分解) | ||
|腎排泄(65%)と[[wikipedia:ja:加水分解|加水分解]](35%) | |腎排泄(65%)と[[wikipedia:ja:加水分解|加水分解]](35%) | ||
|- | |- | ||
|ラモトリジン | |ラモトリジン | ||
|UGT1A4, UGT2B7 | |[[UGT1A4]], [[UGT2B7]] | ||
|グルクロン酸抱合 | |グルクロン酸抱合 | ||
|- | |- | ||
303行目: | 342行目: | ||
|- | |- | ||
|} | |} | ||
太字で示されている酵素は抗てんかん薬代謝に関与する主な酵素である。CYP:酸化的代謝を行うチトクロームp450、EPH:[[エポキシド水解酵素]]、UGT:[[UDP-グルクロニールトランスフェラーゼ]] | |||
{| class="wikitable" | {| class="wikitable" | ||
314行目: | 354行目: | ||
| style="background-color:#d3d3d3" |P値 | | style="background-color:#d3d3d3" |P値 | ||
|- | |- | ||
| | |カルバマゼピン | ||
|SJS/TEN | |SJS/TEN | ||
|''HLA-B*1502'' | |''HLA-B*1502'' | ||
342行目: | 382行目: | ||
|0.0021 | |0.0021 | ||
|- | |- | ||
| | |フェニトイン | ||
|SJS/TEN | |SJS/TEN | ||
|''HLA-B*1502'' | |''HLA-B*1502'' | ||
349行目: | 389行目: | ||
|0.005 | |0.005 | ||
|- | |- | ||
| | |カルバマゼピン/フェニトイン/ラモトリジン | ||
|SJS/TEN/HSS | |SJS/TEN/HSS | ||
|''HLA-B*1502'' | |''HLA-B*1502'' | ||
377行目: | 417行目: | ||
|有病率(/1,000) | |有病率(/1,000) | ||
|- | |- | ||
|USA<br>Hauserら<br>1991 | |USA<br>Hauserら<br>1991<ref><pubmed> 1868801 </pubmed></ref> | ||
|383 | |383 | ||
|全年齢<br>0~14歳<br>15~64歳<br>65歳以上 | |全年齢<br>0~14歳<br>15~64歳<br>65歳以上 | ||
|6.79<br>3.92<br>7.12<br>10.61 | |6.79<br>3.92<br>7.12<br>10.61 | ||
|- | |- | ||
|Italy<br>Maremmaniら<br>1991 | |Italy<br>Maremmaniら<br>1991<ref><pubmed> 2044492 </pubmed></ref> | ||
|51 | |51 | ||
|全年齢層<br>0~19歳<br>20~59歳<br>60歳以上 | |全年齢層<br>0~19歳<br>20~59歳<br>60歳以上 | ||
|5.1<br>6.3<br>4.9<br>4.5 | |5.1<br>6.3<br>4.9<br>4.5 | ||
|- | |- | ||
|Tanzania<br>Rwizaら<br>1992 | |Tanzania<br>Rwizaら<br>1992<ref><pubmed> 1464263 </pubmed></ref> | ||
|185 | |185 | ||
|全年齢<br>0~19歳<br>20~59歳<br>60歳以上 | |全年齢<br>0~19歳<br>20~59歳<br>60歳以上 | ||
|10.2<br>6.6<br>16.2<br>12.1 | |10.2<br>6.6<br>16.2<br>12.1 | ||
|- | |- | ||
|Iceland<br>Olafssonら<br>1999 | |Iceland<br>Olafssonら<br>1999<ref><pubmed> 10565579 </pubmed></ref> | ||
|428 | |428 | ||
|全年齢<br>0~14歳<br>15~64歳<br>65歳以上 | |全年齢<br>0~14歳<br>15~64歳<br>65歳以上 | ||
|4.8<br>3.4<br>5.0<br>6.5 | |4.8<br>3.4<br>5.0<br>6.5 | ||
|- | |- | ||
|Honduras<br>Medinaら<br>2005 | |Honduras<br>Medinaら<br>2005<ref><pubmed> 15660778 </pubmed></ref> | ||
|100 | |100 | ||
|全年齢<br>0~19歳<br>20~59歳<br>60歳以上 | |全年齢<br>0~19歳<br>20~59歳<br>60歳以上 | ||
|15.4<br>13.7<br>19.0<br>9.5 | |15.4<br>13.7<br>19.0<br>9.5 | ||
|- | |- | ||
|Croatia<br>Bielenら<br>2007 | |Croatia<br>Bielenら<br>2007<ref><pubmed> 17986093 </pubmed></ref> | ||
|1,022 | |1,022 | ||
|全年齢<br>0~18歳<br>19~65歳<br>66歳以上 | |全年齢<br>0~18歳<br>19~65歳<br>66歳以上 |