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<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0082204 兼子 直]</font><br> | <font size="+1">[http://researchmap.jp/read0082204 兼子 直]</font><br> | ||
''北東北てんかんセンター''<br> | ''北東北てんかんセンター''<br> | ||
DOI:<selfdoi /> | DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2016年2月8日 原稿完成日:2016年3月12日<br> | ||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0141446 漆谷 真] | 担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0141446 漆谷 真](滋賀医科大学 医学部 神経内科)<br> | ||
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==診断== | ==診断== | ||
[[IMAGE:てんかん脳波1.png|thumb| | [[IMAGE:てんかん脳波1.png|thumb|300px|'''脳波1.覚醒時大発作てんかん発作時の脳波'''<br>10歳女児の脳波で両側性に棘波の群発を認める。]] | ||
[[IMAGE:てんかん脳波2.png|thumb| | [[IMAGE:てんかん脳波2.png|thumb|300px|'''脳波2.前頭葉てんかん'''<br>10歳男児の脳波で、左前頭葉に棘徐派結合を認める。]] | ||
[[IMAGE:てんかん脳波3.png|thumb| | [[IMAGE:てんかん脳波3.png|thumb|300px|'''脳波3.側頭葉てんかん'''<br>21歳女性の脳波で、左側頭前部から側頭中部にかけて、棘波、鋭波の群発を認める。]] | ||
[[IMAGE:てんかん脳波4.png|thumb| | [[IMAGE:てんかん脳波4.png|thumb|300px|'''脳波4.後頭葉てんかん'''<br>10歳男児の脳波で、右後頭葉優位に、棘徐波結合を認める。]] | ||
[[IMAGE:てんかん脳波5.png|thumb| | [[IMAGE:てんかん脳波5.png|thumb|300px|'''脳波5.中心・側頭部に棘波を持つ良性小児てんかん'''<br>左半球(左中心・側頭部)にローランド棘波を認める 。]] | ||
[[IMAGE:てんかん脳波6.png|thumb| | [[IMAGE:てんかん脳波6.png|thumb|300px|'''脳波6.欠神発作時の脳波'''<br>脳全体に3Hz(1秒間に3回の頻度)の棘波結合の持続的な出現を認める。]] | ||
[[IMAGE:てんかん脳波7.png|thumb| | [[IMAGE:てんかん脳波7.png|thumb|300px|'''脳波7.ウエスト症候群の脳波'''<br>棘波、多棘波、高振幅の徐波が、同期せずばらばらに出現し、ヒプスアリスミア(hypsarrythmia)を示す。]] | ||
[[IMAGE:てんかん脳波8.png|thumb| | [[IMAGE:てんかん脳波8.png|thumb|300px|'''脳波8.レノックス・ガストー症候群の脳波'''<br>脳全体に3cpsより遅い棘徐波結合が頻会に出現する。]] | ||
===病歴=== | ===病歴=== | ||
29行目: | 29行目: | ||
補助診断として[[脳波]]・ビデオ同時記録、[[睡眠ポリグラフィーが]]用いられ、脳[[MRI]]、[[SPECT]]などが検査されるが、最近では[[遺伝子診断]]も試みられている。これらの所見を基に、てんかんか否かを判断し、てんかんと診断されれば次にてんかん発作型を分類することになる。 | 補助診断として[[脳波]]・ビデオ同時記録、[[睡眠ポリグラフィーが]]用いられ、脳[[MRI]]、[[SPECT]]などが検査されるが、最近では[[遺伝子診断]]も試みられている。これらの所見を基に、てんかんか否かを判断し、てんかんと診断されれば次にてんかん発作型を分類することになる。 | ||
==== 脳波 ==== | ==== 脳波 ==== | ||
てんかんの診断に脳波検査は欠かせない。同じパターンを示す発作の確認と発作間歇期に発作波([[棘徐波結合]]、[[鋭波-徐波結合]]、[[棘波]]、[[鋭波]]、[[徐波]] | てんかんの診断に脳波検査は欠かせない。同じパターンを示す発作の確認と発作間歇期に発作波([[棘徐波結合]]、[[鋭波-徐波結合]]、[[棘波]]、[[鋭波]]、[[徐波]]の群発などが記録されるとてんかんと考えられるが(脳波1-8<ref>'''兼子直'''<br>追補改訂版、てんかん教室<br>''新興医学出版''、2003</ref>を参照。)、てんかんであっても脳波異常が記録されないときもあるため、発作症状からてんかんが疑われる場合には時間をおいて繰り返し、脳波を記録する必要がある。24時間連続して記録するビデオ脳波同時記録は服薬をしない状態で記録するため、発作時脳波を記録できる可能性が高く、鑑別診断の有力な手段である。 | ||
==== 画像診断 ==== | ==== 画像診断 ==== | ||
60行目: | 60行目: | ||
==== 片頭痛 ==== | ==== 片頭痛 ==== | ||
偏頭痛は発作性に見られる変則性の脈拍に一致した拍動性の頭痛である。予兆として[[閃光]]、暗点、[[視野欠損]]、[[錯視]]としての視覚の変形や大小の変化を示す[[片頭痛]]「[[不思議の国のアリス現象]]」などがある。片頭痛とてんかんの両者の特徴を持つ[[てんかん性片頭痛症候群]]の存在に留意する必要がある<ref name=ref15><pubmed>7964814</pubmed></ref>。 | |||
==== 一過性健忘 ==== | ==== 一過性健忘 ==== | ||
98行目: | 98行目: | ||
#運動徴候を呈するもの | #運動徴候を呈するもの | ||
#体性感覚または特殊感覚症状を呈するもの | #体性感覚または特殊感覚症状を呈するもの | ||
# | #自律神経症状あるいは徴候を呈するもの | ||
#精神症状を呈するもの<br> | #精神症状を呈するもの<br> | ||
(多くは“複雑部分発作”として経験される) | (多くは“複雑部分発作”として経験される) | ||
154行目: | 154行目: | ||
==== 単純部分発作 ==== | ==== 単純部分発作 ==== | ||
意識障害を示さず、発作時脳波は脳皮質の局所性の放電である。これは発作症状から4種類に分けられる。 | 意識障害を示さず、発作時脳波は脳皮質の局所性の放電である。これは発作症状から4種類に分けられる。 | ||
:'''[[運動徴候を伴う発作]]'''は[[焦点性運動発作]]、[[ジャクソン型発作]]、[[回転発作]]、[[姿勢発作]]、[[音声発作]]がある。焦点性運動発作は[[前中心回]]の[[運動領野]]に焦点があり、その脳部位に関連する身体部位のけいれんが出現する。ジャクソン型発作は前中心回の一部に始まった発作発射が周囲の脳部位に波及するため手ー腕ー下肢などのように同側の身体部位を巻き込んで発作が拡大してゆく。発作後に足などの麻痺が残ることがあり、これを[[トッドの麻痺]]という。<br>'''[[回転発作]]'''は脳皮質焦点の反対側へ眼球、顔、躯幹を向ける発作である。<br>'''[[姿勢発作]]'''は[[補足運動野]]に焦点がある場合、反対側の上肢を挙上し、それを見上げるように頭部、眼球を回転させる。音声発作は前中心回の発作発射により同じ言葉を反復する、叫ぶ、あるいは言葉を話せなくなる発作である。<br>'''[[体性感覚ないし特殊感覚症状を伴う発作]]'''には[[体性感覚発作]]、[[視覚発作]]、[[聴覚発作]]、[[めまい発作]]がある。体性感覚発作は[[後中心回]]の発作発射によりその部位がつかさどる体の一部にしびれ感などの[[知覚]]異常が出現する。視覚発作は[[後頭葉]]にてんかん焦点があるとき、閃光、渦巻く雲が見えたり視野が狭くなったりする。<br>'''[[聴覚発作]]'''はてんかん焦点が側頭葉上部にあると、発作として音が聞こえあるいは逆に聞こえなくなる。鉤回に焦点があると匂いを感ずる発作が、焦点が島、弁蓋部にあると苦味、酸味などの味覚発作が出現する。側頭葉上回にあるとめまい発作が出現すると考えられている。<br>'''[[自律神経症状ないし兆候を伴う発作]]'''は、数分以内の自律神経系症状(悪心、嘔吐、頭痛、腹部不快感など)を示す発作で、血圧の上昇、[[瞳孔]]散大、くしゃみなどもみられる。成人の場合には多彩な自律神経症状は発作症状の一部として出現する。<br>'''[[精神症状を伴う発作]]''' 発作発射は[[側頭葉]]皮質から[[辺縁系]]の一部に限局するため、意識は失われない。発作症状は多彩であり、[[情動発作]]が多い。これは側頭葉下面皮質に焦点があるとき、[[不安]]、[[恐怖]]、[[怒り]]、[[多幸感]]、を感ずるものである。[[言語中枢]]付近に焦点がある場合、言葉を話せなくなる([[運動性失語]])あるいは言葉を理解できなくなる([[感覚性失語]])を起こす。<br>'''[[記憶障害発作]]'''は一過性の[[健忘]]、[[既視体験]]、[[未視体験]]などの発作症状を示し、[[認知発作]]には[[夢幻様体験]]、[[強制思考]]などがある。[[錯覚]]発作の症状として[[変形視]]、[[巨視症]]、[[小視症]]などの視覚症状と音が大きくあるいは小さく聞こえるなどの聴覚性症状がある。[[構成幻覚発作]]は人の声、動作が意味を持ち、情景が見え、音楽が聞こえるなどの複雑な幻覚を感ずる発作である。 | :1. '''[[運動徴候を伴う発作]]'''は[[焦点性運動発作]]、[[ジャクソン型発作]]、[[回転発作]]、[[姿勢発作]]、[[音声発作]]がある。焦点性運動発作は[[前中心回]]の[[運動領野]]に焦点があり、その脳部位に関連する身体部位のけいれんが出現する。ジャクソン型発作は前中心回の一部に始まった発作発射が周囲の脳部位に波及するため手ー腕ー下肢などのように同側の身体部位を巻き込んで発作が拡大してゆく。発作後に足などの麻痺が残ることがあり、これを[[トッドの麻痺]]という。<br>'''[[回転発作]]'''は脳皮質焦点の反対側へ眼球、顔、躯幹を向ける発作である。<br>'''[[姿勢発作]]'''は[[補足運動野]]に焦点がある場合、反対側の上肢を挙上し、それを見上げるように頭部、眼球を回転させる。音声発作は前中心回の発作発射により同じ言葉を反復する、叫ぶ、あるいは言葉を話せなくなる発作である。<br>2. '''[[体性感覚ないし特殊感覚症状を伴う発作]]'''には[[体性感覚発作]]、[[視覚発作]]、[[聴覚発作]]、[[めまい発作]]がある。体性感覚発作は[[後中心回]]の発作発射によりその部位がつかさどる体の一部にしびれ感などの[[知覚]]異常が出現する。視覚発作は[[後頭葉]]にてんかん焦点があるとき、閃光、渦巻く雲が見えたり視野が狭くなったりする。<br>'''[[聴覚発作]]'''はてんかん焦点が側頭葉上部にあると、発作として音が聞こえあるいは逆に聞こえなくなる。鉤回に焦点があると匂いを感ずる発作が、焦点が島、弁蓋部にあると苦味、酸味などの味覚発作が出現する。側頭葉上回にあるとめまい発作が出現すると考えられている。<br>3. '''[[自律神経症状ないし兆候を伴う発作]]'''は、数分以内の自律神経系症状(悪心、嘔吐、頭痛、腹部不快感など)を示す発作で、血圧の上昇、[[瞳孔]]散大、くしゃみなどもみられる。成人の場合には多彩な自律神経症状は発作症状の一部として出現する。<br>4. '''[[精神症状を伴う発作]]''' 発作発射は[[側頭葉]]皮質から[[辺縁系]]の一部に限局するため、意識は失われない。発作症状は多彩であり、[[情動発作]]が多い。これは側頭葉下面皮質に焦点があるとき、[[不安]]、[[恐怖]]、[[怒り]]、[[多幸感]]、を感ずるものである。[[言語中枢]]付近に焦点がある場合、言葉を話せなくなる([[運動性失語]])あるいは言葉を理解できなくなる([[感覚性失語]])を起こす。<br>'''[[記憶障害発作]]'''は一過性の[[健忘]]、[[既視体験]]、[[未視体験]]などの発作症状を示し、[[認知発作]]には[[夢幻様体験]]、[[強制思考]]などがある。[[錯覚]]発作の症状として[[変形視]]、[[巨視症]]、[[小視症]]などの視覚症状と音が大きくあるいは小さく聞こえるなどの聴覚性症状がある。[[構成幻覚発作]]は人の声、動作が意味を持ち、情景が見え、音楽が聞こえるなどの複雑な幻覚を感ずる発作である。 | ||
==== 複雑発作 ==== | ==== 複雑発作 ==== | ||
291行目: | 291行目: | ||
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|+ | |+表4.抗てんかん薬と代謝酵素<br>文献<ref name=ref21 />より一部改変し、引用 | ||
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| style="background-color:#d3d3d3" |抗てんかん薬 | | style="background-color:#d3d3d3" |抗てんかん薬 | ||
| style="background-color:#d3d3d3" | | | style="background-color:#d3d3d3" | | ||
| style="background-color:#d3d3d3" | | | style="background-color:#d3d3d3" |排泄経路 | ||
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|カルバマゼピン | |カルバマゼピン | ||
|'''[[CYP3A4]]/[[CYP3A5|5]]''' | |'''[[CYP3A4]]/[[CYP3A5|5]]''', [[CYP2D6]], [[CYP2C8]], [[EPHX1]] | ||
|[[wj:酸化|酸化]] | |[[wj:酸化|酸化]] | ||
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342行目: | 342行目: | ||
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|} | |} | ||
太字で示されている酵素は抗てんかん薬代謝に関与する主な酵素である。CYP:酸化的代謝を行うチトクロームp450、EPH:[[エポキシド水解酵素]]、UGT:[[UDP-グルクロニールトランスフェラーゼ]] | |||
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