てんかん

提供:脳科学辞典
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兼子 直
北東北てんかんセンター
DOI:10.14931/bsd.6896 原稿受付日:2016年2月8日 原稿完成日:2016年月日
担当編集委員:漆谷 真(京都大学 大学院医学研究科)

 WHOの定義では、“てんかんとは種々の原因(遺伝、外因)により起きる慢性の脳の病気であり、自発性かつ反復性の発作(てんか)発作)を主徴とし、脳波検査で発作性放電を示し、焦点部位の機能異常により多彩な発作症状を示す疾患ないし症候群である”とされている。発作にはけいれんだけでなく意識障害を示すものもあり、同じ発作パターンが反復して出現する。脳波検査で発作性放電が出現しても臨床的な発作がなければてんかんではなく、1回のみの発作も治療の対象とはならない。

 治療は抗てんかん薬(AED)による薬物療法が主流であり、発作型によりAEDを選択する。約70%の症例はAEDで発作が抑制され、抑制されない症例では食餌療法、外科治療、迷走神経刺激療法などが検討される。

 近年、てんかんの原因遺伝子が各種同定され、それに基づくてんかんの分子病態が報告されてきている。その流れからはてんかんを治癒できる薬剤の開発あるいはてんかんの発病を防止する治療が検討されるようになった。

発作症状

 発作症状は脳神経細胞が異常興奮に巻き込まれる脳部位、その範囲により規定される。発作症状は同じパターンを繰り返す。各てんかん類型の発作症状は以下の診断、分類の項目で記述する。

診断

診断基準

 てんかんは慢性の脳疾患であり、脳神経細胞の異常興奮により惹起され、1回以上の発作を起こし、発作以外の症状も伴う。てんかん発作の症状はけいれん発作だけでなく、種々の程度の意識障害、行動障害を示す場合もあるが、重要な点は「発作は同じパターンを繰り返す」ことである。診断の際には、発作時に開眼しているか、チアノーゼがあるか、意識障害の有無や行動変化とその回復過程はどうなっているか、尿失禁、嘔吐、発作後の頭痛、もうろう状態などを伴うか否か、などの発作症状の観察や発病年齢の聴取が重要である。

 補助診断として脳波・ビデオ同時記録、睡眠ポリグラフィーが用いられ、脳MRI、SPECTなどが検査されるが、最近では遺伝子診断も試みられている。目撃者がいない場合にはけいれん発作後のCPKの上昇、複雑部分発作の30分以内なら血中プロラクチン濃度などの増加も診断上参考になる。複雑部分発作などの意識障害の存在が疑われ、脳波異常がなければ、心電図検査、ホルター心電図検査も必要となる。これらの所見を基に、てんかんか否かを判断し、てんかんと診断されれば次にてんかん発作型を分類することになる。

鑑別診断

 患者の示す発作症状がてんかん性か否かが問題となる症例は少なくない。鑑別すべき重要な疾患、状態には

  1. 心因性非てんかん発作(psychogenic non-epileptic seizure: PNES)
  2. 循環器疾患に伴う失神
  3. 片頭痛
  4. 一過性全健忘
  5. レム睡眠行動障害
  6. ナルコレプシー
  7. 睡眠時随伴症(夜驚症、夢中遊行)
  8. 入眠時ミオクローヌス
  9. 周期性四肢運動障害
  10. 発作性ジスキネジア

などがある。

 これらの内、てんかんを疑われて受診した患者では1)、2)、および5)から9)の睡眠関連症状はしばしば鑑別を要する。

  1. PNES
    診断で難しいのはてんかんとPNESが合併した場合である。難治てんかんでは両者の合併は10-35%と高頻度である(14)。PNESの症状は多彩である。首の横振り、後弓反張、不規則な手足の運動、刺激に反応する場合がある。発作時には閉眼していることが多く、開眼させようとすると抵抗し、対光反射は存在する。ビデオ脳波同時記録を行い、発作症状と脳波所見が一致するか否かが診断の要点となる。発作が始まった時期の前に“心因”の存在を見出すことが重要である。
  2. 循環器疾患に伴う失神
    一過性の意識消失を失神というが、不整脈、自律神経調節性失神(NMS)がある。不整脈には徐脈性不整脈(洞不全症候群、AVブロック)、頻拍性不整脈(上室性頻拍、心室性不整脈)があり、心電図検査を要する。NMSには迷走神経緊張性失神(前駆症状は発汗、あくび、吐き気、腹痛)、頸動脈洞症候群(振り向くような動作で起こる)、状況失神(排尿、排便、咳、嚥下などが原因となる)がある。病歴の聴取が重要である。
  3. 一過性脳虚血発作(TIA)
    可逆的な経過をたどる脳卒中の病型の1つである。TIAの症状持続時間は2-15分と報告されている(12)。
  4. 片頭痛
    予兆として閃光、暗転,視野欠損、錯視としての視覚の変形や大小の変化を示す片頭痛「不思議の国のアリス現象」などがある。片頭痛とてんかんの両者の特徴を持つてんかん性片頭痛症候群の存在に留意する必要がある(15)。
  5. 一過性健忘
    60歳前後に発症ピークがあり、数時間持続する健忘を示す。診断基準としては逆行性健忘の存在、意識障害がなく自己同一性の喪失はない、認知機能障害は健忘のみで24時間以内に回復する(2)。
  6. 睡眠に関連する障害
    レム睡眠行動障害、ナルコレプシー、睡眠時随伴症(夜驚症、夢中遊行)、入眠時ミオクローヌスもてんかんとの鑑別に重要である。ナルコレプシーは睡眠発作、情動脱力発作、睡眠麻痺、入眠時幻覚、自動症などを示す。診断には終夜睡眠ポリグラフで日中の過剰な睡眠と入眠時レム睡眠が見いだされること、確定診断として髄液中のオレキシンの低下がある(1)。レム睡眠行動障害はレム睡眠期に一致して手足を動かし、叫ぶ、泣く、笑う、動き回るなどの異常行動が見られ、レム睡眠期が終わると終了する。
  7. 夜驚症、夢中遊行、錯乱性覚醒
    主に小児にみられ、ノンレム睡眠からの覚醒障害により生ずると考えられている。夜驚症は睡眠中に突然起きだし恐怖に満ちた叫び、外界からの刺激に反応せず、混乱、失見当識を示す。夢中遊行は睡眠中に起き上がり、開眼し歩き回る。その後布団に戻って眠ることが多い。錯乱性覚醒は覚醒後数十分間、失検討識や思考の緩慢さが見られる。これらの状態は前頭葉てんかんとの鑑別に重要である。
  8. 入眠時ミオクローヌ
    発生機序は不明であるが、入眠期に起こる短い不規則な筋の収縮であり、ミオクロニー発作、単純部分発作との鑑別に重要である。周期性四肢運動障害は睡眠中に起こる足関節の背屈進展を伴う運動が頻回に出現する状態であり、入眠時ミオクローヌスとは異なる。
  9. 周期性四肢運動障害は睡眠中に起こる常同的四肢の運動で、むずむず脚症候群とオーバーラップする症候群として捉えられる。下肢に多く見られ、重症になると入眠が困難になる。病態として視床下部AIIのドパミン(DA)細胞の機能低下が考えられている(9)。
  10. 発作性ジスキネジア(PD)はジストニア、アテトーゼ、バリスムス、舞踏病が単独あるいは複合して出現する。発作性運動誘発性ジスキネジア(paroxysmal kinesigenic dyskinesia: OKD)は男性に多く、家族性症例が多い。Proline-rich transmembrane protein 2が責任遺伝子の1つとして報告された(8)。意識障害はなく、発作間欠期は無症候性である。発作は数十秒で毎日のように頻回に出現する。随意運動の開始、ストレス、緊張などにより誘発され、前兆(感覚異常など)がある症例が多い。特発性発作性運動性ジスキネジアでは発作時脳波にも異常は見られない。症候性の場合には画像所見で異常が見いだされることもある。

 非運動誘発性ジスキネジア(paroxysmal non-kinesigenic dyskinesia: PNKD)は男性にやや多く、家族性の症例の多くではmyofibrillogenesis regulator 1 (MR-1)遺伝子が責任遺伝子として報告されている(3)。MR-1遺伝子変異がない症例の発病は12歳ころで、変異のある症例の発病は平均4歳である。症状はPKDとほぼ同様であるが、MR-1変異がある症例ではジストニアあるいはジストニアと舞踏病の組み合わせで、変異がない症例ではジストニア、舞踏病、両者の組み合わせ、バリスムが観察される。発作は主に体肢に起こり、発作は週単位で10分から1時間の持続時間が多い。カフェイン、アルコール、情動変化、疲労、空腹などで誘発される。MR-1変異のない症例ではてんかんと合併することもあり、変異を有する症例では片頭痛を約半数が合併する。前兆には体肢の硬直、ふらふら感、しびれ感、などがある。

分類

 てんかんの遺伝子解析の最近の進歩で、国際抗てんかん連盟(ILAE)は新たな分類を提案しているが、現実的にはてんかん発作型の分類がAED選択に用いれるため、てんかん発作の国際分類(1981年)(4)が多く使われている(表1)。

 この分類では発作は全般発作と部分発作に 分類され、それぞれ欠神発作、ミオクロニー発作、間代発作、強直発作、強直間代発作、脱力発作に分けられ、後者は単純部分発作、複雑部分発作と2次性全般化発作に分けられる。これらの分類に従って治療のための抗てんかん薬が選択される。

表1.てんかん発作型国際分類(1981年)
部分発作(焦点性、局在性発作) 全般発作
A.単純部分発作(意識減損はない)
  1. 運動徴候を呈するもの
  2. 体性感覚または特殊感覚症状を呈するもの
  3. 自立神経症状あるいは徴候を呈するもの
  4. 精神症状を呈するもの

(多くは“複雑部分発作”として経験される)

A.
  1. 欠神発作
     a.意識減損のみのもの
     b.軽度の間代要素を伴うもの
     c.脱力要素を伴うもの
     d.強直要素を伴うもの
     e.自動症を伴うもの
     f.自律神経要素を伴うもの
     (b~fは単独でも組み合わせでもあり得る)
  2. 非定型欠神発作
     a.筋緊張の変化はA.1.よりも明瞭
     b.発作の起始/終末は急激ではない
B.複雑部分発作
  1. 単純部分発作で始まり意識減損に移行するもの
     a.単純部分発作で始まるもの
     b.自動症を伴うもの
  2. 意識減損で始まるもの
B.ミオクロニー発作
C.二次的に全般化する部分発作
  1. 単純部分発作(A)が全般発作に進展するもの
  2. 複雑部分発作(B)が全般発作に進展するもの
  3. 単純部分発作から複雑部分発作を経て全般発作に進展するもの
C.間代発作
D.強直発作
E.強直間代発作
F.脱力(失立)発作
未分類てんかん発作
不適切あるいは不完全なデータのため分類できないものや上記カテゴリーに分類できないすべてのものを含む。



全般発作

 発作の起始から発作発射が脳全体に及び起こる発作で、発作直後から意識は失われる。原因として遺伝的素因が関与すると考えられている。

  1. 欠神発作はごく短時間の意識喪失を示す発作で定型と否定型の2種類に分けられる。
     定型欠神発作は数秒から十数秒の意識障害が突然始まり速やかに回復する。発作は頻発する傾向があり、思春期頃には消失することが多いが、一部は強直間代発作に移行する。発作時脳波は3Hz棘徐派結合ないし多棘徐派結合を示す。
     否定形欠神発作は意識障害以外にも各種症状が混在した臨床症状(ミオクロニー、自働症、間代運動、自律神経症状など)がより多く見られ、脱力などの筋緊張の変化がみられることも多い。発作の始まりと終わりがゆっくりで、脳波所見も不規則で左右非対称、背景活動も突発性異常波が混在することもある。欠神発作は複雑部分発作との鑑別が必要なときがあるが、複雑部分発作は発作持続時間がより長く、成人に多い。
  2. ミオクロニー発作は突然に両側同時に強い筋のれん縮が出現する。瞬間的なので意識障害を伴わず、光刺激により誘発されやすい。思春期に好発し、覚醒直後、入眠期に起こりやすい。発作時の脳波では両側同期性の棘徐波結合が出現し、棘波に一致し筋れん縮が起こる。
  3. 間代発作は意識消失とともに数秒から1分以上の左右対称性の全身の律動的な筋の痙攣を起こす。発作時脳波では10Hz以上の速波と徐派から構成され、棘徐派結合も出現する。
  4. 強直間代発作は突然の叫び(初期叫声)から始まることがあり、意識を突然消失し、左右対称性の全身の強直性けいれん(約30秒)が出現し、次いで間代性けいれん(30から90秒)に移行する。強直けいれんでは体幹・四肢近位が屈曲強直し、眼球が上転、口をかみしめ、呼吸筋も強直しているため呼吸できず顔面蒼白、チアノーゼが出現する。その他発作中には唾液分泌、尿失禁、をすることもある。間代性けいれんは次第に収束するが、睡眠(終末睡眠)に移行し、あるいは発作後もうろう状態に移行する場合もある。この間の意識は無く、朦朧状態から回復しても頭痛、筋肉痛、嘔吐などを示すこともある。発作時脳波は強直けいれん時には筋電図やアーチファクトが入るが、間代けいれんに入ると次第に筋電図の間から見える脳波が読めるようになる。脳波は9Hz以上の低電位放電から始まり次第に周波数が減り振幅が増大化するが、発作前の脳波律動になるまでには数分間を要する。
  5. 脱力発作は一瞬(数秒以内)の全身の姿勢保持筋の緊張低下あるいは消失により起こるため、起立時に起これば転倒する。発作抑制は困難な症例もある。発作時脳波では多棘徐派結合、平坦化、低電位速波から構成される。

部分発作

 脳波上の異常波が脳の一定部位から始まり、発作症状も脳の一定部位から始まる。部分発作は1)意識障害を伴わない単純部分発作、2)意識障害を伴う複雑部分発作、3)、二次性全般か発作に分類される。

  1. 単純部分発作
     意識障害を示さず、発作時脳波は脳皮質の局所性の放電である。これは発作症状から4種類に分けられる。
     運動徴候を伴う発作は焦点性運動発作、ジャクソン型発作、回転発作、姿勢発作、音声発作がある。焦点性運動発作は前中心回の運動領野に焦点があり、その脳部位に関連する身体部位のけいれんが出現する。ジャクソン型発作は前中心回の一部に始まった発作発射が周囲の脳部位に波及するため手ー腕ー下肢などのように同側の身体部位を巻き込んで発作が拡大してゆく。発作後に足などの麻痺が残ることがあり、これをトッドの麻痺という。
     回転発作は脳皮質焦点の反対側へ眼球、顔、躯幹を向ける発作である。姿勢発作は捕捉運動野に焦点がある場合、反対側の上肢を挙上し、それを見上げるように頭部、眼球を回転させる。音声発作は前中心回の発作発射により同じ言葉を反復する、叫ぶ、あるいは言葉を話せなくなる発作である。
     体性感覚ないし特殊感覚症状を伴う発作には体性感覚発作、視覚発作、聴覚発作、めまい発作がある。体性感覚発作は後中心回の発作発射によりその部位がつかさどる体の一部にしびれ感などの知覚異常が出現する。視覚発作は後頭葉にてんかん焦点があるとき、閃光、渦巻く雲が見えたり視野が狭くなったりする。
     聴覚発作はてんかn焦点が側頭葉上部にあると、発作として音が聞こえあるいは逆に聞こえなくなる。鉤回に焦点があると匂いを感ずる発作が、焦点が島、弁蓋部にあると苦味、酸味などの味覚発作が出現する。側頭葉上回にあるとめまい発作が出現すると考えられている。
     自律神経症状ないし兆候を伴う発作は、数分以内の自律維新系症状(悪心、嘔吐、頭痛、腹部不快感など)を示す発作で、血圧の上昇、瞳孔散大、くしゃみなどもみられる。成人の場合には多彩な自律神経症状は発作症状の一部として出現する。
    精神症状を伴う発作
     発作発射は側頭葉皮質から辺縁系の一部に限局するため、意識は失われない。発作症状は多彩であり、情動発作が多い。これは側頭葉下面皮質に焦点があるとき、不安、恐怖、怒り、多幸感、を感ずるものである。言語中枢付近に焦点がある場合、言葉を話せなくなる(運動性失語)あるいは言葉を理解できなくなる(感覚性失語)を起こす。記憶障害発作は一過性の健忘、既視体験、未視体験などの発作症状を示し、認知発作には夢幻様体験、強制思考などがある。錯覚発作の症状として変形視、巨視症、小視症などの視覚症状と音が大きくあるいは小さく聞こえるなどの聴覚性症状がある。構成幻覚発作は人の声、動作が意味を持ち、情景が見え、音楽が聞こえるなどの複雑な幻覚を感ずる発作である。
     これらの単純部分発作は複雑部分発作、二次性全般化発作の初期症状として出現することも少なくない。
  2. 複雑発作
     発作時に意識障害を認め、発作後に健忘を残す。発作の始めから意識障害を示す発作と単純部分発作から複雑部分発作へと移行する発作があり、それぞれ意識障害のみを示す発作と自働症を伴う発作に細分化される。意識障害は数十秒から数分間に及び、意識障害の始まりと終わりは欠神発作に比較し、よりゆっくりとしている。発作中は動作が止まるときと体を奇妙に動かす自働症を示すこともある。側頭葉起源の自働症は運動を伴わない凝視と意識の断絶で始まり、噛む、嚥下する、衣類をなでるなどの、単純かつ定型的な自働症が続発する。側頭葉以外に起始場合には凝視を欠き、歩行性自働症、両側四肢の持続的運動および強直性の反体側への頭部、眼球の運動を特徴とする場合、あるいは転倒発作で開始され、錯乱と健忘を伴い、徐々に回復するタイプがある(5)。
     前葉性の複雑部分発作の特徴は蹴ったり叩いたりする複雑な運動性自働症、奇妙な発語、軽症の発作後もうろう状態と急速な回復とがある。複雑部分発作時の脳波所見は側頭部、前頭部ないしは広範性の一側性ないしは両側性放電を示すが、脳波異常を記録できない場合もあり、心因性発作と誤診されることもある。
  3. 二次性全般化発作には単純部分発作から、複雑部分発作から、単純部分から複雑部分発作を経て二次性全般化発作にいたる3経路がある。強直・間代発作が多いが、強直あるいは間代だけの場合もある。発作時脳波は焦点性発射が全般化することが多く、発作間歇期には焦点性異常波が記録される。しかし、異常所見が記録されないこともある。

2006年の発作型の分類

 てんかん学の進歩あるいは遺伝学の進歩に伴いILAEは分類の改定を行っている。表2に2006年提案の発作型の分類を示す(7)。この分類では、てんかんは全般性起始と焦点性起始、新生児発作に分けられる。 全般性発作(全般性起始)はA.強直もしくは間代性症状を有する発作、B.欠神発作、 C.ミオクロニー発作型、D.てんかん性スパズム、E.脱力発作に分類される。

 焦点性(部分性起始)発作はA.局所発作(焦点部位により新皮質、海馬・海馬傍回は局所内伝播の有無で細分される。B.同側への伝播、C.対側への伝播、D.2次性全般化、に分類された。この分類ではてんかん性スパズ(Epileptic spasms)が独立した名称で採用されたが、これは突然発作が起こり、終了する短い発作で(1秒程度)、体軸と近位筋の両側性の強直れん縮である。

 発作時間は強直発作より短く、ミオクロニーれん縮(0.1秒)より長い。発作は覚醒直後に起こりやすく周期的に出現することが多い。この分類ではてんかん重積状態がリストされたが、この分類も改定されつつあり、当面は臨床では1981年の分類で薬剤を選択したほうが無難である。

 発症年齢によるてんかん症候群と関連病態の分類(2006)を表3に示す。表のように、発症年齢によるてんかん症候群の分類は診断する際に参考になり、発症年齢の聴取は極めて重要である。

診断

 てんかんの診断に脳波検査は欠かせない。同じパターンを示す発作の確認と発作間歇期に発作波(棘⋯徐波結合、鋭波―徐破結合、棘波、鋭波、徐波の群発など、が記録されるとてんかんと考えられるが、てんかんであっても脳波異常が記録されないときもあるため、発作症状からてんかんが疑われる場合には時間をおいて繰り返し、脳波を記録する必要がある。24時間連続して記録するビデオ脳波同時記録は服薬をしない状態で記録するため、発作時脳波を記録できる可能性が高く、鑑別診断の有力な手段である。

 てんかんの原因として脳奇形、脳腫瘍、脳出血、脳萎縮など脳の器質性疾患を見出すには MRI検査が有力であり,PETあるいはSPECTを併用し代謝、血流の変化する部位同定も焦点部位決定に役立つ。一部のてんかん類型では遺伝子検査が行われる。特に生後間もない時に発病するてんかん類型(表3)では鑑別診断に有力な検査手段となる。てんかんの発病を防止しようとする動きがあり、これには発病前の治療が必要性であり、high risk児同定に遺伝子検査が有力な手段となる(11)。

病態生理

 てんかんの原因には遺伝性、脳血管性、外傷性、腫瘍性、変性、感染症性などがあるが、これにより神経細胞の抑制の低下または興奮性の亢進により神経細胞が興奮し、てんかん発作を起こす。てんかんを起こすようになる脳内の変化をてんかん原性(epileptogenesis)といい、発作を繰り返し起こすようになる変化を発作原性(ictogenesis)というが、それぞれの過程が脳内に成立する時期と期間が存在することが分かってきた(22,23)。神経細胞自体の興奮性は細胞内外のイオン濃度の変化、グリア細胞からの影響を受ける。

 遺伝子変異などにより、種々の変化がシナプスを中心にダイナミックな変化が起こる。神経細胞膜の各種チャネルの機能異常が起こり、神経細胞(ニューロン)内外のイオン濃度が変化し、神経細胞は脱分極する。その結果、細胞外のカリウムイオン濃度上昇とカルシウムイオン濃度の減少を引き起こすが、カルシウムイオンの減少はアストロサイトのカルシウムシグナリングを活性化、グルタメートの遊離を誘発する。また、興奮したシナプスからあふれ出たグルタメートもアストロサイトのグルタミン酸受容体と結合し、カルシウムシグナリングを活性化させる。結果として突発的脱分極シフト(paroxysmal deporalization shift)が起こり、それが周囲の神経細胞群の興奮を引き起こし、発作発射にいたる。この領域の研究の進展は目覚しく、新たな知見が集積されつつある(20)。

治療

 治療は抗てんかん薬による薬物療法が主流で、薬剤で発作抑制が困難な場合、外科治療の可能性が探られる。小児では食餌療法(ケトン食療法など)なども試みられ、外科治療困難例に対しては迷走神経刺激療法も開始されている。

治療薬選択

 治療薬は発作型により選択されるが、全般発作に対してはバルプロ酸(VPS)、エトサクシミド(ETS)、ラモトリジン(LTG)、レベチラセタム(LEV)、ソニサミド(ZNS)などが選択され、部分発作に対してはカルバマゼピン(CBZ)、トピラメート(TPM)、LEV、ZNSなどが選択される。ドラヴェー症候群にスティリペントールが、レノックス・ガストー症候群にはルフイナミドが使用できるようになった。ガバペンチンは小児難治てんかんに効果を示すときがあり、クロバザムは全般、部分の両方に付加投与として処方されることが多い。薬剤選択には副作用も考慮すべき要因である。容量依存性服作用はすべての抗てんかん薬で存在するため、投与量、血中濃度に留意する必要があるが、各薬剤特有の副作用が薬剤選択に重要である。フエニトインは歯肉増殖、多毛症のゆえに女性には避けるべきで、ZNS、TPMでうつ症状が出現することがあり、LEVでは行動異常が、LTGでは重篤な発疹が出現することがある。

 抗てんかん薬には発心を起こすものがあるが、HLA領域の遺伝子多軽によることが明らかとなり、予測可能性が出てきた(21)。

個別化治療

図1.GABA 受容体の膜展開図
膜の上は細胞外、下は細胞内を示す。GABA受容体には膜貫通部位が4個ある。
NはN端をCはC端を示し、数字は変異の位置を示す。(10)。

 てんかんの遺伝情報に基づいた個別化治療の戦略はてんかんの病態(例えば、イオンチャネルの異常)、その異常に対応する抗てんかん薬、その抗てんかん薬の副作用を考慮し薬剤を選択する。一方、薬物代謝酵素、薬剤排泄トランスポーターの遺伝子多型からその個人の適量を決定する、という個別化治が示されている(21)。表4は抗てんかん薬が基質となる代謝酵素(CYPs)分子種を示しているが、CYP3A4、CYP2C9、CYP2C19が抗てんかん薬の代謝に重要であり、各CYPには遺伝的多型が存在し代謝能力が異なる(extensive、intermediate、poor metabolizer)。日本人ではCYP2C19のpoor metabolizerは約18%、CYP2C9は約7%がpoor metabolizerである。

 薬剤選択に関してその一例として図1にGABA受容体の膜展開図を示す(10)。膜の上は細胞外、下は細胞内を示す。BABRA1遺伝子上の4の位置(A322D)に変異があるとバルプロ酸が第一選択役となり、GABRG2の1の位置(R43Q)に変異があるとバルプロ酸、トピナ、バルビツール剤が選択される。GABRG2の変異位置がK289Mの場合、トピナ、バルビツール剤、ベンゾジアゼピン、ガバペンチンなどが選択され、Q351X変異を持つ症例では抗てんかん薬に抵抗性を示し、変異がR139Gの症例は熱性けいれんの可能性があり、抗てんかん薬が不要かもしれない(10)。

 このように症例が持つ遺伝子異常の種類、変異の位置などにより薬剤の選択が可能となり、薬物代謝酵素、薬剤排泄トランスポーターなどの遺伝子多型から適量を算出することが理論的には可能である。一部の抗てんかん薬では患者の体重、併用薬剤、処方予定の抗てんかん薬に関わるCYPの多型、などからクリアランスを想定できるので、その患者の抗てんかん薬の至適容量を計算することができる(19)。近い将来、このような個別化治療が臨床で実施可能となり、薬剤選択と投与量調整における時間が短縮する。

発病の防止

 現在の薬物療法の対症療法であり、根治療法ではない。抗てんかん薬により発作を抑制し、自然治癒を待つという戦略である。前者に対してiPS細胞などの新たな薬剤スクリンーニングシステムの導入、後者に対しててんかんの発病防止戦略が考えられている(11)。一例として、上染色体優生夜間前頭葉てんかんで同定されたCHRNA4の変異S284Lを導入した遺伝子改変動物(23)を用いた解析から発病前の特定の一定期間フロセミドで治療すると発病を防止できることが報告された(22)。フロセミドはNKCC1を阻害することから、細胞内クロライドイオン濃度を減少させ、GABAの抑制機能を回復するからと考えられている。同様にNKCC1を抑制するブメタナイド(bumetanide)は側頭葉てんかんに効果を示す(6,13,18)。これらの報告は部分発作に共通の分子基盤が存在し、その分子病態を補正する物質で適切な時期に治療するとてんかんの発病を防止できることを示している。

疫学

 有病率(prevalence rate)とはある時点での患者の割合であるが、調査日における対象人口1000人あたりの患者数で示される。治療継続中または最終発作から5年未満の患者を活動性てんかんとみなして調査する。有病率を考える上で問題となるのは調査方法である。つまり、てんかんの診断方法をいかにするか、単発の発作を除いているか、小児期では発熱時の発作を除いているか、どの地域で調査するか、調査がpopulation based surveyなのか、hospital based surveyなのか、あるいは登録制度を持っている国ではそこに集積されたデータを用いているか、などである。調査地域の年齢構成が異なるため、対象年齢別の調査にする必要がある。これらの要因で有病率は異なる。表6に地域調査による最近の年齢別に有病率が報告されているデータを示した。前年例で見ると4.8から15.4とばらつくが、これは調査の方法論に起因するものと考えられる。最近は先進国では高齢者が増加しているが、有病率は高齢者で比較的高くなる傾向が認められる。国内では地域調査は少ないが、小児期(0歳から12歳)の有病率は8.8、単発または発熱時の発作を除くと5.3と報告されている(16)。

参考文献