「むずむず脚症候群」の版間の差分

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==病態生理==
==病態生理==
===特発性むずむず脚症候群===
===特発性むずむず脚症候群===
 特に45歳以前の発症例では、約30%程度で家族集積性がみられ、[[常染色体優性遺伝]]すると考えられている21) <ref name=Winkelmann2017><pubmed>28065402</pubmed></ref> 。候補遺伝子に関しては、いくつかの[[全ゲノム関連解析]](genome-wide association study:GWAS)と、これらから得られた候補遺伝子についての[[ケースコントロール研究]]がおり、その結果、[[MEIS1]](染色体2p)、[[BTBD9]](染色体6p)、[[PTPRD]](染色体9p)、[[MAP2K5]](染色体15q)、[[LBOXCOR1]](染色体15q)などがその候補となっている22),23) <ref name=Jimenez-Jimenez2018><pubmed>29033051</pubmed></ref><ref name=Rye2015><pubmed>26329432</pubmed></ref> 。これらに関する[[ノックアウトマウス]]の研究から、特にMEIS1とBTBD9が、重要視されており、前者はむずむず脚症候群ならびに周期性四肢運動との関連性が24)<ref name=Moore2014><pubmed>25142570</pubmed></ref> 、後者はむずむず脚症候群のみならず下に述べる鉄代謝にも影響することが示されている2)<ref name=Ekbom1960><pubmed>13726241</pubmed></ref> 。しかしながら、これらの遺伝子多型に関する人種差は未だ十分解明されていない。
 特に45歳以前の発症例では、約30%程度で家族集積性がみられ、[[常染色体優性遺伝]]すると考えられている21) <ref name=Winkelmann2017><pubmed>28065402</pubmed></ref> 。候補遺伝子に関しては、いくつかの[[全ゲノム関連解析]](genome-wide association study:GWAS)と、これらから得られた候補遺伝子についての[[ケースコントロール研究]]がおり、その結果、[[MEIS1]][[BTBD9]][[PTPRD]][[MAP2K5]][[LBXCOR1]]などがその候補となっている22),23) <ref name=Jimenez-Jimenez2018><pubmed>29033051</pubmed></ref><ref name=Rye2015><pubmed>26329432</pubmed></ref> 。これらに関する[[ノックアウトマウス]]の研究から、特にMEIS1とBTBD9が、重要視されており、前者はむずむず脚症候群ならびに周期性四肢運動との関連性が24)<ref name=Moore2014><pubmed>25142570</pubmed></ref> 、後者はむずむず脚症候群のみならず下に述べる鉄代謝にも影響することが示されている2)<ref name=Ekbom1960><pubmed>13726241</pubmed></ref> 。しかしながら、これらの遺伝子多型に関する人種差は未だ十分解明されていない。
 
{| class="wikitable"
|+表2. 特発性むずむず脚症候群の候補遺伝子
! Gene symbol !! Name !! 染色体位置
|-
| [https://www.genenames.org/data/gene-symbol-report/#!/hgnc_id/HGNC:7000 MEIS1] || Meis homeobox 1 || 2p
|-
| [https://www.genenames.org/data/gene-symbol-report/#!/hgnc_id/HGNC:21228 BTBD9] || BTB domain containing 9 || 6p
|-
| [https://www.genenames.org/data/gene-symbol-report/#!/hgnc_id/HGNC:9668 PTPRD] || protein tyrosine phosphatase receptor type D || 9p
|-
| [https://www.genenames.org/data/gene-symbol-report/#!/hgnc_id/HGNC:6845 MAP2K5] || mitogen-activated protein kinase kinase 5 || 15q
|-
| [https://www.genenames.org/data/gene-symbol-report/#!/hgnc_id/HGNC:21326 LBXCOR1] || corepressor for LBX1 (=SKOR1, SKI family transcriptional corepressor 1) || 15q
|}


 低用量のドパミン受容体作動薬の有用性はむずむず脚症候群のドパミン仮説を支持するものだが26) <ref name=Becker1993><pubmed>7909374</pubmed></ref> 、鉄はドパミン合成に関わる[[チロシン水酸化酵素]]の[[補因子]]であるとともにドパミン[[D2受容体]]の構成要素でもある。一般に血清鉄は日中に濃度が上昇し夜間に低下するとされており、これが症状の日内変動と関連する可能性がある。また、患者の脳脊髄液中の鉄が低下しているという報告があるし、後述するように鉄剤の投与が[[血清鉄]]の欠乏の有無によらず有効であることもわかっている。これらは、むずむず脚症候群病態を鉄代謝障害で説明する上で魅力的な所見であり、現時点では、遺伝学的特性とともに、中枢ドパミン神経機能ならびに鉄代謝異常の側面を中心にむずむず脚症候群の病態生理研究が進められている。
 低用量のドパミン受容体作動薬の有用性はむずむず脚症候群のドパミン仮説を支持するものだが26) <ref name=Becker1993><pubmed>7909374</pubmed></ref> 、鉄はドパミン合成に関わる[[チロシン水酸化酵素]]の[[補因子]]であるとともにドパミン[[D2受容体]]の構成要素でもある。一般に血清鉄は日中に濃度が上昇し夜間に低下するとされており、これが症状の日内変動と関連する可能性がある。また、患者の脳脊髄液中の鉄が低下しているという報告があるし、後述するように鉄剤の投与が[[血清鉄]]の欠乏の有無によらず有効であることもわかっている。これらは、むずむず脚症候群病態を鉄代謝障害で説明する上で魅力的な所見であり、現時点では、遺伝学的特性とともに、中枢ドパミン神経機能ならびに鉄代謝異常の側面を中心にむずむず脚症候群の病態生理研究が進められている。
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 また、[[アデノシン受容体]]は[[GABA]]神経やドパミン神経上に存在するが、[[ラット]]を用いた研究により、鉄欠乏状態により[[線状体]]の[[シナプス前部|シナプス前]]・[[シナプス後部|後]][[アデノシン受容体|アデノシン(A2)受容体]]がアップレギュレーションされると報告されており27) <ref name=Quiroz2010><pubmed>20385128</pubmed></ref> 、むずむず脚症候群とアデノシン受容体異常の関連の詳細も明らかにすべき課題である。
 また、[[アデノシン受容体]]は[[GABA]]神経やドパミン神経上に存在するが、[[ラット]]を用いた研究により、鉄欠乏状態により[[線状体]]の[[シナプス前部|シナプス前]]・[[シナプス後部|後]][[アデノシン受容体|アデノシン(A2)受容体]]がアップレギュレーションされると報告されており27) <ref name=Quiroz2010><pubmed>20385128</pubmed></ref> 、むずむず脚症候群とアデノシン受容体異常の関連の詳細も明らかにすべき課題である。


 Clemensらは、図1に示すように、[[背後側視床下部]]ドパミン[[A11細胞群]]からの抑制性投射線維連絡の機能不全を病態の中心的存在と捉えている28) <ref name=Clemens2006><pubmed>16832090</pubmed></ref> 。すなわち、ドパミンA11細胞群からの信号は、[[体性感覚]]入力に関わる[[前頭前野]]と、直接あるいは[[橋]]の[[背側縫線核]]を介して脊髄の自律神経回路を構成する脊髄中間外側細胞(IML)、ならびに体性神経回路の[[脊髄]][[後角]]細胞へ抑制性の投射線維連絡を形成しているが、このA11細胞群におけるドパミン活動低下がこれらの抑制性投射系の機能不全をもたらし、その結果、脚の筋肉からの筋求心路を介した不特定の体性感覚入力が増大し、むずむず脚症候群の異常感覚発現をもたらすと考えられている。
 Clemensらは、'''図2'''に示すように、[[背後側視床下部]]ドパミン[[A11細胞群]]からの抑制性投射線維連絡の機能不全を病態の中心的存在と捉えている28) <ref name=Clemens2006><pubmed>16832090</pubmed></ref> 。すなわち、ドパミンA11細胞群からの信号は、[[体性感覚]]入力に関わる[[前頭前野]]と、直接あるいは[[橋]]の[[背側縫線核]]を介して脊髄の自律神経回路を構成する脊髄中間外側細胞(IML)、ならびに体性神経回路の[[脊髄]][[後角]]細胞へ抑制性の投射線維連絡を形成しているが、このA11細胞群におけるドパミン活動低下がこれらの抑制性投射系の機能不全をもたらし、その結果、脚の筋肉からの筋求心路を介した不特定の体性感覚入力が増大し、むずむず脚症候群の異常感覚発現をもたらすと考えられている。


 また、この抑制性投射系の異常は[[ノルアドレナリン]]系を介した[[交感神経]]の活性化をもたらし、この結果、高閾値の[[筋]]の[[求心性神経]]の活動異常をもたらし、筋の異常活動、すなわち周期性四肢運動を誘発するとされる。また、[[セロトニン]]作動性の背側縫線核も病態に関与しているので、これが[[SSRI]]などの抗うつ薬がむずむず脚症候群の症状を誘発・悪化させる原因29) <ref name=Rottach2008><pubmed>18468624</pubmed></ref> になっていると理解できる。
 また、この抑制性投射系の異常は[[ノルアドレナリン]]系を介した[[交感神経]]の活性化をもたらし、この結果、高閾値の[[筋]]の[[求心性神経]]の活動異常をもたらし、筋の異常活動、すなわち周期性四肢運動を誘発するとされる。また、[[セロトニン]]作動性の背側縫線核も病態に関与しているので、これが[[SSRI]]などの抗うつ薬がむずむず脚症候群の症状を誘発・悪化させる原因29) <ref name=Rottach2008><pubmed>18468624</pubmed></ref> になっていると理解できる。