「めまい」の版間の差分

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<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0184450 武田 篤]</font><br>
''国立病院機構 仙台西多賀病院 ''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2013年5月13日 原稿完成日:2013年7月7日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/ryosuketakahashi 高橋 良輔](京都大学 大学院医学研究科)<br>
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英語名:dizziness, vertigo, disequilibrium 独:Schwindel, Vertigo 仏:étourdissement, vertige, déséquilibre
英語名:dizziness, vertigo, disequilibrium 独:Schwindel, Vertigo 仏:étourdissement, vertige, déséquilibre


 めまいは身体の安定感が失われたと言う自覚的な症状を総称する言葉である。[[回転性めまい]]、[[浮動性めまい]]、[[循環不全にともなうめまい感]]に分類される。原因としては中枢性、末梢性のものがある。治療薬には全般に[[ベンゾジアゼピン]]系の[[抗不安薬]]、抗[[ヒスタミン]]剤、[[wikipedia:ja:炭酸水素ナトリウム|炭酸水素ナトリウム]]も有効である。循環器の異常など、原因が他にある時にはそちらの治療を優先する。
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 めまいは身体の安定感が失われたと言う自覚的な症状を総称する言葉である。[[回転性めまい]]、[[浮動性めまい]]、[[循環不全にともなうめまい感]]に分類される。原因としては中枢性、末梢性のものがある。治療薬には全般に[[ベンゾジアゼピン]]系の[[抗不安薬]]、抗[[ヒスタミン]]剤、[[wikipedia:ja:炭酸水素ナトリウム|炭酸水素ナトリウム]]も有効である。循環器の異常など、原因が他にある時にはその治療を優先する。
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== 定義と種類 ==
== 定義と種類 ==


 めまいは身体の安定感が失われたと言う自覚的な症状を総称する言葉である<ref>'''宇川義一編'''<br>特集:めまい - vertigo, dizziness or else?<br>''Clinical Neuroscience 30(1)'':2012</ref>。医療機関を訪れる主要な症状の中でもめまいは特に頻度の高いものの一つであるが、めまいと言う言葉で表現されているものは医学的には一様ではない。その多くは大きく以下の3種類に分けられるが、混在して見られる場合も多い。
 めまいは身体の安定感が失われたという自覚的な症状を総称する言葉である<ref>'''宇川義一編'''<br>特集:めまい - vertigo, dizziness or else?<br>''Clinical Neuroscience 30(1)'':2012</ref>。医療機関を訪れる主要な症状の中でもめまいは特に頻度の高いものの一つであるが、めまいという言葉で表現されているものは医学的には一様ではない。その多くは大きく以下の3種類に分けられるが、混在して見られる場合も多い。


=== 回転性めまい ===
=== 回転性めまい ===
[[Vertigo]]  
[[Vertigo]]  


 身体が回転している様に感じるもので、しばしば船酔いの様な状態になり[[wikipedia:ja:悪心|悪心]][[wikipedia:ja:嘔吐|嘔吐]]をともなう。多くは[[前庭]]機能の障害に依って生じる[[末梢性めまい]]に起因すると考えられ、[[耳鳴]]や[[難聴]]をともなうこともある。症状は一過性、あるいは変動性である。
 身体が回転しているように感じるもので、しばしば船酔いのような状態になり[[wikipedia:ja:悪心|悪心]][[wikipedia:ja:嘔吐|嘔吐]]をともなう。多くは[[前庭]]機能の障害に依って生じる[[末梢性めまい]]に起因すると考えられ、[[耳鳴]]や[[難聴]]をともなうこともある。症状は一過性、あるいは変動性である。


=== 浮動性めまい ===
=== 浮動性めまい ===
[[Dizziness]]
[[Dizziness]]


 身体が揺れる、あるいはふらつく様に感じられるもので、慢性的に経過することが多い。[[中枢性めまい]]の多くは[[浮動性めまい]]症状を呈する。また末梢性めまいの間欠期や慢性期にもみられる。回転性めまいと異なり、難聴や悪心嘔吐などを通常はともなわない。  
 身体が揺れる、あるいはふらつくように感じられるもので、慢性的に経過することが多い。[[中枢性めまい]]の多くは[[浮動性めまい]]症状を呈する。また末梢性めまいの間欠期や慢性期にもみられる。回転性めまいと異なり、難聴や悪心嘔吐などを通常はともなわない。  


=== 循環不全にともなうめまい感 ===
=== 循環不全にともなうめまい感 ===
[[Faintness]]
[[Faintness]]


 ふらふらする、気が遠くなると言った症状が典型的であるが、浮動性めまいとしばしば区別が困難である。多くは起立位で増悪し臥位で改善する。[[wikipedia:ja:起立性低血圧|起立性低血圧]]などによる一過性の[[脳循環不全]]に起因する。重度の場合は[[失神]]に至る。  
 ふらふらする、気が遠くなるといった症状が典型的であるが、浮動性めまいとしばしば区別が困難である。多くは起立位で増悪し臥位で改善する。[[wikipedia:ja:起立性低血圧|起立性低血圧]]などによる一過性の[[脳循環不全]]に起因する。重度の場合は[[失神]]に至る。


== 原因  ==
== 原因  ==
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=== 末梢性めまい  ===
=== 末梢性めまい  ===


 末梢性めまいで問題になるのは回転加速度を検知する[[半規管]]や直線加速度を検知する[[耳石器]]、そしてこれらの知覚情報を中枢に伝える[[前庭神経]]である。これらは同じ内耳に存在し[[聴覚]]を担う[[蝸牛]]や[[蝸牛神経]]に近接して存在するため、しばしば聴覚系の異常と合併してめまい症状を呈する。多くの場合急性期には回転性めまいを呈するが、慢性化するに従ってしばしば浮動性めまいに移行する。脳[[MRI]]などによる内耳系の画像検査の他、[[wikipedia:ja:フレンツェル眼鏡|フレンツェル眼鏡]]による眼振の観察や[[wikipedia:ja:カロリックテスト|カロリックテスト]]による前庭神経系の機能評価がしばしば診断上重要である。
 末梢性めまいで問題になるのは回転加速度を検知する[[半規管]]や直線加速度を検知する[[耳石器]]、そしてこれらの知覚情報を中枢に伝える[[前庭神経]]である。これらは同じ内耳に存在し[[聴覚]]を担う[[蝸牛]]や[[蝸牛神経]]に近接して存在するため、しばしば聴覚系の異常と合併してめまい症状を呈する。多くの場合急性期には回転性めまいを呈するが、慢性化するに従ってしばしば浮動性めまいに移行する。脳[[MRI]]などによる内耳系の画像検査の他、[[wikipedia:ja:フレンツェル眼鏡|フレンツェル眼鏡]]による眼振の観察や[[wikipedia:ja:カロリックテスト|カロリックテスト]]による前庭神経系の機能評価がしばしば診断上有用である。


=== 中枢性めまい  ===
=== 中枢性めまい  ===
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Vestibular neuritis
Vestibular neuritis


 [[前庭神経炎]]は良性発作性頭位性眩暈、メニエール病に次いで多い末梢性めまいである。前庭神経の炎症により生じる回転性めまいを特徴とするが、耳鳴難聴は伴わない。
 [[前庭神経炎]]は良性発作性頭位性眩暈、メニエール病に次いで多い末梢性めまいである。前庭神経の炎症により生じる回転性めまいを特徴とするが、耳鳴・難聴は伴わない。


=== 椎骨脳底動脈不全 ===
=== 椎骨脳底動脈不全 ===
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Psychogenic vertigo
Psychogenic vertigo


 正確な頻度は不明であるが、患者数は多いと考えられる。めまいは[[不安障害]]や[[パニック障害]]などでも多く見られる症状の一つであり、身体の動揺感と不安感は深く関連している。例えば[[wikipedia:ja:東日本大震|東日本大震災]]の後、余震の続く被災地では余震の無いときでも身体動揺感が持続する様な浮動性めまいの患者が急増した。これは[[メンタルストレス]]がめまいと言う症状と直結していることを強く示唆している。前庭皮質の一部は[[大脳辺縁系]]と密接に関連しており、[[平衡機能]]を司る神経系は[[情動]]の調節系とも密接に関わっていることが示唆される。  
 正確な頻度は不明であるが、患者数は多いと考えられる。めまいは[[不安障害]]や[[パニック障害]]などでも多く見られる症状の一つであり、身体の動揺感と不安感は深く関連している。例えば[[wikipedia:ja:東日本大震|東日本大震災]]の後、余震の続く被災地では余震の無いときでも身体動揺感が持続する様な浮動性めまいの患者が急増した。これは[[メンタルストレス]]がめまいの症状と直結していることを強く示唆している。前庭皮質の一部は[[大脳辺縁系]]と密接に関連しており、[[平衡機能]]を司る神経系は[[情動]]の調節系とも密接に関わっていることが示唆される。


== 治療  ==
== 治療  ==
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== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
<references />  
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(執筆者:武田篤 担当編集委員:高橋良輔)