「アクアポリン」の版間の差分

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{{box|text= アクアポリンは、水分子を特異的に通す膜タンパク質であり、生体内の水分子の移動を介して尿の再吸収や濃縮現象、脳脊髄液等の体液産生と分泌、皮膚の保湿など、あらゆる水の動きに密接に関わっている。哺乳類には13種類のサブファミリーが存在する。中枢神経系においては、<u>アクアポリン1(AQP1)が主に脈絡叢に発現して髄液産生に深く関わり</u>(編集部コメント:対応する内容が本文に無いようです)、またアクアポリン4(AQP4)は血管周囲や軟膜下のアストロサイト足突起に強く発現し、血管から脳実質、髄液腔に至る水の恒常的な輸送に関わっている。伝子欠損マウスを用いた検討により、脳梗塞、脳腫瘍、脳外傷、髄膜炎等の脳浮腫を呈する疾患において、特に早期に生じる細胞性浮腫に対してAQP4欠損が病態抑制的に働くこと、また血管性浮腫に対してはAQP4欠損が病態を促進する可能性が示唆されており、実際に脳浮腫を治療する上ではそれらの動態を理解することが欠かせない。近年、自己免疫性疾患の1つである視神経脊髄炎(NMO、別名Devic病)において、抗AQP4抗体が病原性のある自己抗体として中枢神経系のアストロサイトを標的とする疾患であることが明らかとなった。}}
{{box|text= アクアポリンは、水分子を特異的に通す膜タンパク質であり、生体内の水分子の移動を介して尿の再吸収や濃縮現象、脳脊髄液等の体液産生と分泌、皮膚の保湿など、あらゆる水の動きに密接に関わっている。哺乳類には13種類のサブファミリーが存在する。中枢神経系においては、アクアポリン1(AQP1)が主に脈絡叢に発現して髄液産生に深く関わり、またアクアポリン4(AQP4)は血管周囲や軟膜下のアストロサイト足突起に強く発現し、血管から脳実質、髄液腔に至る水の恒常的な輸送に関わっている。伝子欠損マウスを用いた検討により、脳梗塞、脳腫瘍、脳外傷、髄膜炎等の脳浮腫を呈する疾患において、特に早期に生じる細胞性浮腫に対してAQP4欠損が病態抑制的に働くこと、また血管性浮腫に対してはAQP4欠損が病態を促進する可能性が示唆されており、実際に脳浮腫を治療する上ではそれらの動態を理解することが欠かせない。近年、自己免疫性疾患の1つである視神経脊髄炎(NMO、別名Devic病)において、抗AQP4抗体が病原性のある自己抗体として中枢神経系のアストロサイトを標的とする疾患であることが明らかとなった。}}


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=== AQP1 ===
=== AQP1 ===
 AQP発見の発端となったAQP1は主に脈絡叢に発現して[[髄液]]産生に関わる事が知られている<ref name=ref14><pubmed>15533949</pubmed></ref>。AQP1は全身を巡る赤血球や血管内皮に広く発現が知られているが、中枢神経系においては血管内皮には発現せずに、脈絡叢に選択的に発現しており、髄液産生に重要な役割を担っていることが知られている<ref name=ref14 />。AQP1は、脳血管内皮の培養系や悪性脳腫瘍において発現することが報告されているが、アストロサイトとの共培養系では発現が低下することから、血管内皮とアストロサイト足突起の相互作用により低下することが示唆されている<ref name=ref15><pubmed>19610096</pubmed></ref>。一方、AQP1は定常状態ではラットでは脈絡叢や脊髄後索の一部に発現するのみであるが、ヒト脳においてはかなり大脳[[白質]]や脊髄にも広範に発現することが報告されており、種による違いがあるものと推察される<ref name=ref16><pubmed>17645239</pubmed></ref> <ref name=ref17><pubmed>23579868</pubmed></ref>。脳外傷モデルにおいては、病的状態になって発現してきて水輸送に関わる事が報告されている<ref name=ref15 />。
 AQP発見の発端となったAQP1は全身を巡る赤血球や血管内皮に広く発現が知られているが、中枢神経系においては血管内皮には発現せずに、脈絡叢に選択的に発現しており、髄液産生に重要な役割を担っていることが知られている<ref name=ref14 />。AQP1は、脳血管内皮の培養系や悪性脳腫瘍において発現することが報告されているが、アストロサイトとの共培養系では発現が低下することから、血管内皮とアストロサイト足突起の相互作用により低下することが示唆されている<ref name=ref15><pubmed>19610096</pubmed></ref>
 
 AQP1は定常状態ではラットでは脈絡叢や脊髄後索の一部に発現するのみであるが、ヒト脳においてはかなり大脳[[白質]]や脊髄にも広範に発現することが報告されており、種による違いがあるものと推察される<ref name=ref16><pubmed>17645239</pubmed></ref> <ref name=ref17><pubmed>23579868</pubmed></ref>。脳外傷モデルにおいては、病的状態になって発現してきて水輸送に関わる事が報告されている<ref name=ref15 />。


=== AQP4 ===
=== AQP4 ===
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===細胞機能===
===細胞機能===
==== AQP1 ====
 AQP1は主に脈絡叢に発現して[[髄液]]産生に関わる事が知られている<ref name=ref14><pubmed>15533949</pubmed></ref>。
==== AQP4 ====
 主にAQP4欠損マウスにおけるアストロサイト機能の検討から、アストロサイトの遊走機能に関わることや、アストロサイトの足突起先端に発現するAQP4は互いに接着能を有すること、などが報告されている<ref name=ref4 /> <ref name=ref24><pubmed>16303850</pubmed></ref> <ref name=ref25><pubmed>16325200</pubmed></ref>。神経疾患の病態においては、AQP4は活性化したアストロサイトの膜上に豊富に発現し、神経病理学的には反応性アストロサイトにおいて密集する無数の足突起を可視化することができ、神経病態における水輸送や代謝を中心としたアストロサイトの重要性は明らかである<ref name=ref26><pubmed>25174305</pubmed></ref>。
 主にAQP4欠損マウスにおけるアストロサイト機能の検討から、アストロサイトの遊走機能に関わることや、アストロサイトの足突起先端に発現するAQP4は互いに接着能を有すること、などが報告されている<ref name=ref4 /> <ref name=ref24><pubmed>16303850</pubmed></ref> <ref name=ref25><pubmed>16325200</pubmed></ref>。神経疾患の病態においては、AQP4は活性化したアストロサイトの膜上に豊富に発現し、神経病理学的には反応性アストロサイトにおいて密集する無数の足突起を可視化することができ、神経病態における水輸送や代謝を中心としたアストロサイトの重要性は明らかである<ref name=ref26><pubmed>25174305</pubmed></ref>。