「アクアポリン」の版間の差分

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 アクアポリンは、Peter Agreらによって赤血球から単離された水分子を特異的に通す膜タンパク質であり、生体内の水分子の移動を介して尿の再吸収や濃縮現象、脳脊髄液等の体液産生と分泌、皮膚の保湿など、あらゆる水の動きに密接に関わっている。現在、哺乳類には13種類のサブファミリーが存在し、中枢神経系においては、Agreらによって最初に発見されたアクアポリン1(AQP1)が主に脈絡叢に発現して髄液産生に深く関わることが報告されており、またアクアポリン4(AQP4)は血管周囲や軟膜下のアストロサイト足突起に強く発現し、血管から脳実質、髄液腔に至る水の恒常的な輸送に関わっている。特に、AQP4は近年様々な中枢神経病態に関わることが報告されているが、実際のヒト脳疾患における動態は未だに解っていないことが多い。AQP4欠損マウスを用いた検討により、脳梗塞、脳腫瘍、脳外傷、髄膜炎等の脳浮腫を呈する疾患において、特に早期に生じる細胞性浮腫に対してAQP4欠損が病態抑制的に働くこと、また血管性浮腫に対してはAQP4欠損が病態を促進する可能性が示唆されており、実際に脳浮腫を治療する上ではそれらの動態を理解することが欠かせない。近年、自己免疫性疾患の1つである視神経脊髄炎(NMO, 別名Devic病)において、抗AQP4抗体が病原性のある自己抗体として中枢神経系のアストロサイトを標的とする疾患であることが明らかとなった。
 アクアポリンは、Peter Agreらによって赤血球から単離された水分子を特異的に通す膜タンパク質であり、生体内の水分子の移動を介して尿の再吸収や濃縮現象、脳脊髄液等の体液産生と分泌、皮膚の保湿など、あらゆる水の動きに密接に関わっている。現在、哺乳類には13種類のサブファミリーが存在し、中枢神経系においては、Agreらによって最初に発見されたアクアポリン1(AQP1)が主に脈絡叢に発現して髄液産生に深く関わることが報告されており、またアクアポリン4(AQP4)は血管周囲や軟膜下のアストロサイト足突起に強く発現し、血管から脳実質、髄液腔に至る水の恒常的な輸送に関わっている。特に、AQP4は近年様々な中枢神経病態に関わることが報告されているが、実際のヒト脳疾患における動態は未だに解っていないことが多い。AQP4欠損マウスを用いた検討により、脳梗塞、脳腫瘍、脳外傷、髄膜炎等の脳浮腫を呈する疾患において、特に早期に生じる細胞性浮腫に対してAQP4欠損が病態抑制的に働くこと、また血管性浮腫に対してはAQP4欠損が病態を促進する可能性が示唆されており、実際に脳浮腫を治療する上ではそれらの動態を理解することが欠かせない。近年、自己免疫性疾患の1つである視神経脊髄炎(NMO、別名Devic病)において、抗AQP4抗体が病原性のある自己抗体として中枢神経系のアストロサイトを標的とする疾患であることが明らかとなった。


 中枢神経系においては、頭蓋骨や脊柱管という限られた空間で保護されている反面、そこに起こる浮腫によって神経予後に重大な影響を与えることとなるため、水を制御することは最も大きな課題に1つと言える。本稿においてはアクアポリンの最近の神経疾患の病態における知見を中心に概説する。
 中枢神経系においては、頭蓋骨や脊柱管という限られた空間で保護されている反面、そこに起こる浮腫によって神経予後に重大な影響を与えることとなるため、水を制御することは最も大きな課題に1つと言える。本稿においてはアクアポリンの最近の神経疾患の病態における知見を中心に概説する。
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==アクアポリン の基本的構造==
==アクアポリン の基本的構造==
 AQPは主要内在性タンパク質スーパーファミリーに属し、AQPには現在12種のサブファミリーが存在し、それぞれ共通の構造と機能を有している。AQPは、250~350個程度のアミノ酸残基から構成され分子量は約28k~30kDa前後である。AQPの分子構造はN末端とC末端は細胞内に位置し、6回膜貫通型であるため5つのループを形成し、3つの細胞外ドメイン(ループA,C,E)と2つの細胞内ドメイン(ループB, D)を有する(図1A)。ループBとループEには、アスパラギン-[[プロリン]]-アラニンが配列するNPAモチーフと呼ばれる脂質二重膜に入りこむ特殊構造が存在し、細胞膜上で立体構造を呈するとそれぞれのNPAモチーフが顔を合わせるように近接し小さな水の通路を形成する(図1B)。ちょうど砂時計のように水分子(2.8Å)を一つ一つ通すことのできる小孔(直径2.8Å)を形成しており、それより大きな[[イオン]]分子等が透過できない構造になっている。また、小孔には[[アルギニン]]制限領域を有する狭い疎水性溶質に対する壁が存在し、プロトン分子や他の陽イオンを阻害する領域も存在している。また、NPAモチーフの近傍にはAQP1等では水銀が結合するCys(AQP1ではCys 189、AQP4ではCys 178)領域が存在し、水銀が結合することにより水分子が通過できなくなる事が知られている(図1C)<ref name=ref5><pubmed></pubmed></ref>。これらのタンパク質は、基本的には四量体を形成して細胞膜に発現しており(図1D)、更に集合することにより格子状配列を採ることが知られている<ref name=ref6><pubmed></pubmed></ref>。電子顕微鏡を用いた凍結割断法により、1970年代からアストロサイトの細胞膜上に格子状配列を呈するアレイ構造があること<ref name=ref7><pubmed></pubmed></ref>、[[脳室]]周囲器官やてんかんモデル等の神経病態においてアレイ構造が増減することは古くから知られていたが<ref name=ref8><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref9><pubmed></pubmed></ref>、Peter Agreらによって1993年にアクアポリンが発見され、この特異な細胞膜タンパク質の正体がアクアポリンであることが判明した<ref name=ref2 />。1970年代に電顕像で見られたアレイ構造は、正に脳室周囲器官に豊富に発現するAQPや神経病態で反応性に増加したアストロサイトに発現するAQP4を見ていたとものと考えられる。
[[image:アクアポリン1.png|thumb|300px|'''図1.アクアポリンの基本的構造'''<br>図1A、1B. アクアポリンは基本構造として膜6回型タンパク質であり、そのループA,C,Eは細胞外に、リープB, Dを細胞内に局在している。そのうち、ループBとループE内にはNPAモチーフと呼ばれる構造を有しており、立体構造をなした際には細胞膜内にて互いに向き合うように小孔(2.8Å)を呈し、主に水分子を特異的に通すことができる。<br>図C.図はAQP1の構造をサイドから見た像であり、Cys領域と言われる局在を示している。この領域には水銀などが結合することで水分子の移動が制限される事が知られている。<br>図D. アクアポリンは基本的に四量体を形成しており、図のように上から見ると四色に色塗りされた構造が結合し、それぞれの水チャネルが形成されている。(図C,Dは慶応大学薬理学 安井正人先生よりご供与頂く)]]
 
 AQPは主要内在性タンパク質スーパーファミリーに属し、AQPには現在12種のサブファミリーが存在し、それぞれ共通の構造と機能を有している。AQPは、250~350個程度のアミノ酸残基から構成され分子量は約28k~30kDa前後である。AQPの分子構造はN末端とC末端は細胞内に位置し、6回膜貫通型であるため5つのループを形成し、3つの細胞外ドメイン(ループA、C、E)と2つの細胞内ドメイン(ループB、D)を有する(図1A)。ループBとループEには、アスパラギン-[[プロリン]]-アラニンが配列するNPAモチーフと呼ばれる脂質二重膜に入りこむ特殊構造が存在し、細胞膜上で立体構造を呈するとそれぞれのNPAモチーフが顔を合わせるように近接し小さな水の通路を形成する(図1B)。ちょうど砂時計のように水分子(2.8Å)を一つ一つ通すことのできる小孔(直径2.8Å)を形成しており、それより大きな[[イオン]]分子等が透過できない構造になっている。また、小孔には[[アルギニン]]制限領域を有する狭い疎水性溶質に対する壁が存在し、プロトン分子や他の陽イオンを阻害する領域も存在している。また、NPAモチーフの近傍にはAQP1等では水銀が結合するCys(AQP1ではCys 189、AQP4ではCys 178)領域が存在し、水銀が結合することにより水分子が通過できなくなる事が知られている(図1C)<ref name=ref5><pubmed></pubmed></ref>。これらのタンパク質は、基本的には四量体を形成して細胞膜に発現しており(図1D)、更に集合することにより格子状配列を採ることが知られている<ref name=ref6><pubmed></pubmed></ref>。電子顕微鏡を用いた凍結割断法により、1970年代からアストロサイトの細胞膜上に格子状配列を呈するアレイ構造があること<ref name=ref7><pubmed></pubmed></ref>、[[脳室]]周囲器官やてんかんモデル等の神経病態においてアレイ構造が増減することは古くから知られていたが<ref name=ref8><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref9><pubmed></pubmed></ref>、Peter Agreらによって1993年にアクアポリンが発見され、この特異な細胞膜タンパク質の正体がアクアポリンであることが判明した<ref name=ref2 />。1970年代に電顕像で見られたアレイ構造は、正に脳室周囲器官に豊富に発現するAQPや神経病態で反応性に増加したアストロサイトに発現するAQP4を見ていたとものと考えられる。


==アクアポリンのサブファミリー==
==アクアポリンのサブファミリー==
 [[哺乳動物]]においては、現在AQP0からAQP12までの13種類のAQPが知られており、水分子を選択的に通すものと、グリセロール等かなり選択性が緩いアクアグリセロポリンに大別される。ヒト疾患とAQPの関連としては、AQP2の遺伝子異常によって尿濃縮力が低下し、遺伝性の尿崩症を発症することが初めて報告された<ref name=ref10><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref11><pubmed></pubmed></ref>。また、AQP0のE134GやT138R点変異が先天性白内障の原因であることが報告されている<ref name=ref12><pubmed></pubmed></ref>。さらにシェーグレン症候群の患者では唾液腺でのAQP5の発現が低下していると報告されている<ref name=ref13><pubmed></pubmed></ref>。その他、数々のAQP欠損[[マウス]]の検討により様々な病態にAQPが関与することが示唆されている(表1)。
 [[哺乳動物]]においては、現在AQP0からAQP12までの13種類のAQPが知られており、水分子を選択的に通すものと、グリセロール等かなり選択性が緩いアクアグリセロポリンに大別される。ヒト疾患とAQPの関連としては、AQP2の遺伝子異常によって尿濃縮力が低下し、遺伝性の尿崩症を発症することが初めて報告された<ref name=ref10><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref11><pubmed></pubmed></ref>。また、AQP0のE134GやT138R点変異が先天性白内障の原因であることが報告されている<ref name=ref12><pubmed></pubmed></ref>。さらにシェーグレン症候群の患者では唾液腺でのAQP5の発現が低下していると報告されている<ref name=ref13><pubmed></pubmed></ref>。その他、数々のAQP欠損[[マウス]]の検討により様々な病態にAQPが関与することが示唆されている(表1)。


 中枢神経系においては、当初より主にAQP1、AQP4、AQP9等が発現することが知られ、中でもAQP発見の発端となったAQP1は主に脈絡叢に発現して[[髄液]]産生に関わる事が知られている<ref name=ref14><pubmed></pubmed></ref>。しかし、中枢神経系においては圧倒的にAQP4の発現が優位であることが知られており、その研究はAQP4を中心に進んできたといっても過言ではない。AQP1は全身を巡る赤血球や血管内皮に広く発現が知られているが、中枢神経系においては血管内皮には発現せずに、脈絡叢に選択的に発現しており、髄液産生に重要な役割を担っていることが知られている<ref name=ref14 />。AQP1は、脳血管内皮の培養系や悪性脳腫瘍において発現することが報告されているが、アストロサイトとの共培養系では発現が低下することから、血管内皮とアストロサイト足突起の相互作用により低下することが示唆されている<ref name=ref15><pubmed></pubmed></ref>。一方、AQP1は定常状態ではラットでは脈絡叢や脊髄後索の一部に発現するのみであるが、ヒト脳においてはかなり大脳[[白質]]や脊髄にも広範に発現することが報告されており、種による違いがあるものと推察される<ref name=ref16><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref17><pubmed></pubmed></ref>。脳外傷モデルにおいては、病的状態になって発現してきて水輸送に関わる事が報告されている<ref name=ref15 />。AQP9は、脳や[[肝臓]]、白血球にも発現することが知られ、水だけではなく尿素やグリセロール等広く透過することが知られ、アクアグリセロポリンの1つである。近年、[[視神経]]に発現しており病態に関与することが報告されている<ref name=ref18><pubmed></pubmed></ref>。その他、ラットのアストロサイト培養系の検討では、AQP1, AQP2,AQP3, AQP4, AQP5, AQP8, AQP9, AQP11, AQP12と、従来考えられているより多くのAQPが中枢神経系に発現することが報告されている<ref name=ref19><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref20><pubmed></pubmed></ref>。これらのAQPの中枢神経系における機能は少しずつ解ってくると期待されるが、前述したAQP1に見るように培養系では[[mRNA]]レベルで確認されても細胞膜上に確認されない事もあり、また血管内皮とアストロサイト足突起の共存下で発現量が増減するものなど、その特性の違いが個々のAQPで異なることが想定される。
 中枢神経系においては、当初より主にAQP1、AQP4、AQP9等が発現することが知られ、中でもAQP発見の発端となったAQP1は主に脈絡叢に発現して[[髄液]]産生に関わる事が知られている<ref name=ref14><pubmed></pubmed></ref>。しかし、中枢神経系においては圧倒的にAQP4の発現が優位であることが知られており、その研究はAQP4を中心に進んできたといっても過言ではない。AQP1は全身を巡る赤血球や血管内皮に広く発現が知られているが、中枢神経系においては血管内皮には発現せずに、脈絡叢に選択的に発現しており、髄液産生に重要な役割を担っていることが知られている<ref name=ref14 />。AQP1は、脳血管内皮の培養系や悪性脳腫瘍において発現することが報告されているが、アストロサイトとの共培養系では発現が低下することから、血管内皮とアストロサイト足突起の相互作用により低下することが示唆されている<ref name=ref15><pubmed></pubmed></ref>。一方、AQP1は定常状態ではラットでは脈絡叢や脊髄後索の一部に発現するのみであるが、ヒト脳においてはかなり大脳[[白質]]や脊髄にも広範に発現することが報告されており、種による違いがあるものと推察される<ref name=ref16><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref17><pubmed></pubmed></ref>。脳外傷モデルにおいては、病的状態になって発現してきて水輸送に関わる事が報告されている<ref name=ref15 />。AQP9は、脳や[[肝臓]]、白血球にも発現することが知られ、水だけではなく尿素やグリセロール等広く透過することが知られ、アクアグリセロポリンの1つである。近年、[[視神経]]に発現しており病態に関与することが報告されている<ref name=ref18><pubmed></pubmed></ref>。その他、ラットのアストロサイト培養系の検討では、AQP1、AQP2、AQP3、AQP4、AQP5、AQP8、 AQP9、AQP11、AQP12と、従来考えられているより多くのAQPが中枢神経系に発現することが報告されている<ref name=ref19><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref20><pubmed></pubmed></ref>。これらのAQPの中枢神経系における機能は少しずつ解ってくると期待されるが、前述したAQP1に見るように培養系では[[mRNA]]レベルで確認されても細胞膜上に確認されない事もあり、また血管内皮とアストロサイト足突起の共存下で発現量が増減するものなど、その特性の違いが個々のAQPで異なることが想定される。
==AQP4の発現と機能==
==AQP4の発現と機能==
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==脳腫瘍==
==脳腫瘍==
 ヒトの悪性脳腫瘍周囲においては、AQP4は著明に発現亢進することが報告されているが、腫瘍周囲の細胞外浮腫は軽減することから、腫瘍から脳実  質への水輸送は制限されていると考えられている<ref name=ref37 />。血管周囲グリア境界膜に発現するAQP4や血液脳関門を構成するOccludin等の[[密着結合]]の制御によって脳腫瘍による脳浮腫が増悪すると推察されている<ref name=ref38><pubmed></pubmed></ref>。一方、数種類の脳腫瘍に対する免疫組織染色による検討において、中枢神経系に発現するAQP1, AQP4, AQP9の発現を検討した報告では、異常なAQP1の発現亢進がグリオーマや上衣腫に認められ、特に高[[分化]]癌では傍腫瘍性の発現であるが、低分化癌では細胞内染色パターンを示した<ref name=ref39><pubmed></pubmed></ref>。AQP1の発現は、高分化癌とよく相関し、傍腫瘍性に生じる血管性浮腫に応じてAQP1が発現していることを示唆している<ref name=ref39 />。このように脈絡叢に局在すると言われるAQP1が脳実質内で発現し、脳浮腫に関連することが示唆されている。
 ヒトの悪性脳腫瘍周囲においては、AQP4は著明に発現亢進することが報告されているが、腫瘍周囲の細胞外浮腫は軽減することから、腫瘍から脳実  質への水輸送は制限されていると考えられている<ref name=ref37 />。血管周囲グリア境界膜に発現するAQP4や血液脳関門を構成するOccludin等の[[密着結合]]の制御によって脳腫瘍による脳浮腫が増悪すると推察されている<ref name=ref38><pubmed></pubmed></ref>。一方、数種類の脳腫瘍に対する免疫組織染色による検討において、中枢神経系に発現するAQP1、AQP4、AQP9の発現を検討した報告では、異常なAQP1の発現亢進がグリオーマや上衣腫に認められ、特に高[[分化]]癌では傍腫瘍性の発現であるが、低分化癌では細胞内染色パターンを示した<ref name=ref39><pubmed></pubmed></ref>。AQP1の発現は、高分化癌とよく相関し、傍腫瘍性に生じる血管性浮腫に応じてAQP1が発現していることを示唆している<ref name=ref39 />。このように脈絡叢に局在すると言われるAQP1が脳実質内で発現し、脳浮腫に関連することが示唆されている。
 
 
==脊髄外傷==  
==脊髄外傷==  
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 また、神経変性疾患の多くが脳に貯留する蓄積タンパク質が原因であることから様々な疾患で水が注目されている。[[アルツハイマー型認知症]]においては、ヒトAD患者の検討からAQP1が高発現していること、[[アミロイドタンパク質]]と共発現しており、AQP1とアミロイドβと分子的相互作用により、NPAモチーフに影響を起こしうると報告している<ref name=ref41><pubmed></pubmed></ref>。動物実験の検討においても、アミロイドβはAQP4欠損マウスにおいて、その代謝が抑制される事が報告され、水が毒性タンパク質の代謝に重要であることが示唆されている<ref name=ref31 />。
 また、神経変性疾患の多くが脳に貯留する蓄積タンパク質が原因であることから様々な疾患で水が注目されている。[[アルツハイマー型認知症]]においては、ヒトAD患者の検討からAQP1が高発現していること、[[アミロイドタンパク質]]と共発現しており、AQP1とアミロイドβと分子的相互作用により、NPAモチーフに影響を起こしうると報告している<ref name=ref41><pubmed></pubmed></ref>。動物実験の検討においても、アミロイドβはAQP4欠損マウスにおいて、その代謝が抑制される事が報告され、水が毒性タンパク質の代謝に重要であることが示唆されている<ref name=ref31 />。


==視神経脊髄炎とアクアポリン4抗体==
==視神経脊髄炎とアクアポリン4抗体==
[[image:アクアポリン2.png|thumb|300px|'''図2.NMO患者脊髄の血管中心性のアクアポリン4の脱落病変'''<br>脊髄では、血管中心性に補体(赤)の沈着を認めており、周囲のアクアポリン4(緑)の染色性が血管中心性に低下ないし消失している。血管周囲性に炎症とアストロサイト傷害があり、同部位では脱髄が比較的軽いことから、アストロサイト一次性の病態であることが示唆されている。]]
 
 視神経脊髄炎Neuromyelitis optica (NMO)は、視神経と脊髄を病変の主座とする炎症性疾患であり、多発性硬化症(MS)の亜型と考えられてきた<ref name=ref42><pubmed></pubmed></ref>。2004年にNMOに極めて特異性の高い抗体(NMO-IgG)が発見され、2005年にその対応抗原がAQP4であることが報告された<ref name=ref43><pubmed></pubmed></ref>。NMOの早期炎症性病変においては、補体であるC9neoの沈着する血管周囲でAQP4は欠落し、同部位ではアストロサイトの脱落も確認され脱髄に先行してアストロサイトが障害される病態である事を明らかとなっている<ref name=ref44><pubmed></pubmed></ref>(図2)。また、NMO患者血清から抽出したヒトIgGをラットに投与すると、特にヒトIgGや補体が沈着する血管周囲でAQP4やアストロサイトの脱落が見られ、実際に生体内で補体介在性(CDC)ないし抗体介在性(ADCC)に病原性を有する抗体であることが明らかとなっている<ref name=ref17 />、一方で発症と同時に始まると思われる修復機転(グリオーシス)においてもAQP4は細胞移動や接着といった多様な機能でその病態の強く関わっていると考えられる<ref name=ref26 />。
 視神経脊髄炎Neuromyelitis optica (NMO)は、視神経と脊髄を病変の主座とする炎症性疾患であり、多発性硬化症(MS)の亜型と考えられてきた<ref name=ref42><pubmed></pubmed></ref>。2004年にNMOに極めて特異性の高い抗体(NMO-IgG)が発見され、2005年にその対応抗原がAQP4であることが報告された<ref name=ref43><pubmed></pubmed></ref>。NMOの早期炎症性病変においては、補体であるC9neoの沈着する血管周囲でAQP4は欠落し、同部位ではアストロサイトの脱落も確認され脱髄に先行してアストロサイトが障害される病態である事を明らかとなっている<ref name=ref44><pubmed></pubmed></ref>(図2)。また、NMO患者血清から抽出したヒトIgGをラットに投与すると、特にヒトIgGや補体が沈着する血管周囲でAQP4やアストロサイトの脱落が見られ、実際に生体内で補体介在性(CDC)ないし抗体介在性(ADCC)に病原性を有する抗体であることが明らかとなっている<ref name=ref17 />、一方で発症と同時に始まると思われる修復機転(グリオーシス)においてもAQP4は細胞移動や接着といった多様な機能でその病態の強く関わっていると考えられる<ref name=ref26 />。