「アダプタータンパク質複合体」の版間の差分

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== AP-1 ==
== AP-1 ==
=== 機能 ===
=== 機能 ===
 AP-1はエンドソームとトランスゴルジネットワークとの間で膜タンパク質の輸送を行うアダプタータンパク質複合体である<ref name=Robinson2004><pubmed>15066634</pubmed></ref> 。神経細胞や上皮細胞といった極性をもつ細胞においては、ある種の膜タンパク質を樹状突起や側基底膜へと輸送することも知られている<ref name=Dwyer2001><pubmed>11502258</pubmed></ref><ref name=Folsch1999><pubmed>10535737</pubmed></ref><ref name=Folsch2001><pubmed>11157985</pubmed></ref><ref name=Jain2015><pubmed>25378584</pubmed></ref> 。AP-1はクラスリンを細胞内膜上に集積させると共に積荷タンパク質を認識することで積荷タンパク質を含んだクラスリン被覆小胞を形成し、積荷タンパク質を輸送する。AP-1の細胞内膜への集積は低分子量Gタンパク質であるARFに依存している。ARFによってホスファチジルイノシトール4リン酸が細胞内膜上に合成されることによりAP-1がリクルートされると考えられている<ref name=Robinson1992><pubmed>1555237</pubmed></ref><ref name=Wang2003><pubmed>12914695</pubmed></ref> 。また、AP-1がホスファチジルイノシトール4リン酸と結合することも報告されている<ref name=Wang2003><pubmed>12914695</pubmed></ref> 。こうして細胞内膜上にリクルートされたAP-1は積荷タンパク質のYXX&Phi;配列や[DE]XXXL[LI]配列、あるいはこれら以外の非典型的な配列を認識して結合する<ref name=Bonifacino2003><pubmed>12651740</pubmed></ref><ref name=Ohno1995><pubmed>7569928</pubmed></ref> 。同時にAP-1はクラスリンに対する結合能も有することから細胞内膜系に存在する積荷タンパク質をクラスリン被覆小胞へと運びこむことができる<ref name=Keen1987><pubmed>2890644</pubmed></ref> 。
 AP-1はエンドソームとトランスゴルジネットワークとの間で膜タンパク質の輸送を行うアダプタータンパク質複合体である<ref name=Robinson2004><[[pubmed]]>15066634</pubmed></ref> 。神経細胞や上皮細胞といった極性をもつ細胞においては、ある種の膜タンパク質を樹状突起や側基底膜へと輸送することも知られている<ref name=Dwyer2001><pubmed>11502258</pubmed></ref><ref name=Folsch1999><pubmed>10535737</pubmed></ref><ref name=Folsch2001><pubmed>11157985</pubmed></ref><ref name=Jain2015><pubmed>25378584</pubmed></ref> 。AP-1はクラスリンを細胞内膜上に集積させると共に積荷タンパク質を認識することで積荷タンパク質を含んだクラスリン被覆小胞を形成し、積荷タンパク質を輸送する。AP-1の細胞内膜への集積は低分子量Gタンパク質であるARFに依存している。ARFによってホスファチジルイノシトール4リン酸が細胞内膜上に合成されることによりAP-1がリクルートされると考えられている<ref name=Robinson1992><pubmed>1555237</pubmed></ref><ref name=Wang2003><pubmed>12914695</pubmed></ref> 。また、AP-1がホスファチジルイノシトール4リン酸と結合することも報告されている<ref name=Wang2003><pubmed>12914695</pubmed></ref> 。こうして細胞内膜上にリクルートされたAP-1は積荷タンパク質のYXX&Phi;配列や[DE]XXXL[LI]配列、あるいはこれら以外の非典型的な配列を認識して結合する<ref name=Bonifacino2003><pubmed>12651740</pubmed></ref><ref name=Ohno1995><pubmed>7569928</pubmed></ref> 。同時にAP-1はクラスリンに対する結合能も有することから細胞内膜系に存在する積荷タンパク質をクラスリン被覆小胞へと運びこむことができる<ref name=Keen1987><pubmed>2890644</pubmed></ref> 。


=== サブユニット構造 ===
=== サブユニット構造 ===
AP-1は2つのlarge subunit (&beta;1と&gamma;)、1つのmedium subunit (&mu;1)、1つのsmall subunit (&sigma;1)からなる<ref name=Robinson2001><pubmed>11454451</pubmed></ref> 。主なクラスリン結合部位は&beta;1サブユニットに存在する<ref name=Gallusser1993><pubmed>8262066</pubmed></ref> が、&gamma;サブユニットもクラスリン結合に関与していることが報告されている<ref name=Doray2001><pubmed>11451993</pubmed></ref> 。積荷タンパク質との結合は主に&mu;サブユニットによって行われている。&gamma;サブユニットには&gamma;1と&gamma;2の2つのisoformが、&mu;1サブユニットには&mu;1Aと&mu;1Bの2つ、&sigma;1サブユニットには&sigma;1A~&sigma;1Cの3つのisoformが存在する<ref name=Folsch1999><pubmed>10535737</pubmed></ref><ref name=Setta-Kaffetzi2014><pubmed>24791904</pubmed></ref><ref name=Takatsu1998><pubmed>9733768</pubmed></ref> 。
AP-1は2つのlarge subunit (&beta;1と&gamma;)、1つのmedium subunit (&mu;1)、1つのsmall subunit (&sigma;1)からなる<ref name=Robinson2001><pubmed>11454451</pubmed></ref> 。主なクラスリン結合部位は&beta;1サブユニットに存在する<ref name=Gallusser1993><pubmed>8262066</pubmed></ref> が、&gamma;サブユニットもクラスリン結合に関与していることが報告されている<ref name=Doray2001><pubmed>11451993</pubmed></ref> 。積荷タンパク質との結合は主に&mu;サブユニットによって行われている。&gamma;サブユニットには&gamma;1と&gamma;2の2つのisoformが、&mu;1サブユニットには&mu;1Aと&mu;1Bの2つ、&sigma;1サブユニットには&sigma;1A~&sigma;1Cの3つのisoformが存在する<ref name=Folsch1999><pubmed>10535737</pubmed></ref><ref name=Setta-Kaffetzi2014><pubmed>24791904</pubmed></ref><ref name=Takatsu1998><pubmed>9733768</pubmed></ref> 。
=== 疾患との関連 ===
=== 疾患との関連 ===
 &sigma;1Aの欠損によりMEDNIK (mental retardation, enteropathy, deafness, neuropathy, ichthyosis, and keratodermia) 症候群が引き起こされることが報告されている<ref name=Montpetit2008><pubmed>19057675</pubmed></ref> 。この疾患は銅ポンプであるATP7AとATP7Bの細胞内輸送の異常のために引き起こされると考えられている。また&sigma;1Bの欠損によりX連鎖精神遅滞であるPettigrew syndrome<ref name=Tarpey2006><pubmed>17186471</pubmed></ref> が、&sigma;1Cの欠損は汎発性膿疱性乾癬<ref name=Setta-Kaffetzi2014><pubmed>24791904</pubmed></ref> に関連しているといわれている。
 &sigma;1Aの欠損によりMEDNIK (mental retardation, enteropathy, deafness, neuropathy, ichthyosis, and keratodermia) 症候群が引き起こされることが報告されている<ref name=Montpetit2008><pubmed>19057675</pubmed></ref> 。この疾患は銅ポンプである[[ATP]]7AとATP7Bの細胞内輸送の異常のために引き起こされると考えられている。また&sigma;1Bの欠損によりX連鎖精神遅滞であるPettigrew syndrome<ref name=Tarpey2006><pubmed>17186471</pubmed></ref> が、&sigma;1Cの欠損は汎発性膿疱性乾癬<ref name=Setta-Kaffetzi2014><pubmed>24791904</pubmed></ref> に関連しているといわれている。
== AP-2 ==
== AP-2 ==
=== 機能 ===
=== 機能 ===
 AP-2はクラスリン依存性エンドサイトーシスを司るアダプタータンパク質である<ref name=Robinson2004><pubmed>15066634</pubmed></ref> 。AP-2はAP-1と同様にクラスリン結合部位を有しており、クラスリンを細胞膜上に集積させる。同時に、積荷タンパク質を認識することによって、AP-2は積荷タンパク質をクラスリン被覆小胞によってエンドサイトーシスさせる。AP-2はホスファチジルイノシトール-4,5-2リン酸(PIP2)により細胞膜上にリクルートされる<ref name=Rohde2002><pubmed>12119359</pubmed></ref> 。細胞膜上にリクルートされたAP-2は、AP-1と同様に積荷タンパク質の輸送シグナルに結合する。AP-2と積荷タンパク質の結合はリン酸化によって調節されることが知られている。例えばCTLA-4やL1といった膜タンパク質に含まれるYXX&Phi;配列のチロシン残基がリン酸化されるとAP-2と結合できなくなる<ref name=Schaefer2002><pubmed>12082080</pubmed></ref><ref name=Shiratori1997><pubmed>9175836</pubmed></ref> 。さらにAMPA型グルタミン酸受容体(AMPA受容体)の副サブユニットであるTARP (Transmembane AMPA receptor Regulatory Protein)とAP-2との結合がリン酸化によって制御されていることも報告されている<ref name=Matsuda2013><pubmed>24217640</pubmed></ref> 。TARPとAP-2とのリン酸化に依存した結合によりシナプス後部におけるAMPA受容体のエンドサイトーシスが調整されており、シナプス可塑性の1つである長期抑圧(LTD)の分子基盤となっていると考えられている。
 AP-2はクラスリン依存性エンドサイトーシスを司るアダプタータンパク質である<ref name=Robinson2004><pubmed>15066634</pubmed></ref> 。AP-2はAP-1と同様にクラスリン結合部位を有しており、クラスリンを細胞膜上に集積させる。同時に、積荷タンパク質を認識することによって、AP-2は積荷タンパク質をクラスリン被覆小胞によってエンドサイトーシスさせる。AP-2は[[ホスファチジルイノシトール]]-4,5-2リン酸(PIP2)により細胞膜上にリクルートされる<ref name=Rohde2002><pubmed>12119359</pubmed></ref> 。細胞膜上にリクルートされたAP-2は、AP-1と同様に積荷タンパク質の輸送シグナルに結合する。AP-2と積荷タンパク質の結合はリン酸化によって調節されることが知られている。例えばCTLA-4やL1といった膜タンパク質に含まれるYXX&Phi;配列のチロシン残基がリン酸化されるとAP-2と結合できなくなる<ref name=Schaefer2002><pubmed>12082080</pubmed></ref><ref name=Shiratori1997><pubmed>9175836</pubmed></ref> 。さらにAMPA型グルタミン酸受容体(AMPA受容体)の副サブユニットである[[TARP]] (Transmembane [[AMPA]] receptor Regulatory Protein)とAP-2との結合がリン酸化によって制御されていることも報告されている<ref name=Matsuda2013><pubmed>24217640</pubmed></ref> 。TARPとAP-2とのリン酸化に依存した結合によりシナプス後部におけるAMPA受容体のエンドサイトーシスが調整されており、シナプス可塑性の1つである長期抑圧(LTD)の分子基盤となっていると考えられている。


 シナプス前部におけるシナプス小胞のエンドサイトーシスにもAP-2は重要な役割を果たしている。シナプス小胞がシナプス前部の細胞膜と融合するエキソサイトーシスにより神経伝達物質は放出されるが、その後シナプス小胞上に存在するタンパク質はクラスリン依存性エンドサイトーシスによって再び細胞膜から回収される<ref name=Jockusch2005><pubmed>15953416</pubmed></ref><ref name=Jung2007><pubmed>18166656</pubmed></ref> 。
 シナプス前部におけるシナプス小胞のエンドサイトーシスにもAP-2は重要な役割を果たしている。シナプス小胞がシナプス前部の細胞膜と融合するエキソサイトーシスにより神経伝達物質は放出されるが、その後シナプス小胞上に存在するタンパク質はクラスリン依存性エンドサイトーシスによって再び細胞膜から回収される<ref name=Jockusch2005><pubmed>15953416</pubmed></ref><ref name=Jung2007><pubmed>18166656</pubmed></ref> 。