「アドレナリン」の版間の差分

編集の要約なし
編集の要約なし
編集の要約なし
59行目: 59行目:
同義語:エピネフリン
同義語:エピネフリン


 アドレナリンは[[モノアミン]]の一種、また[[カテコールアミン]]の一種である。生体内において、[[神経伝達物質]]または[[ホルモン]]として働く。生体内では[[wikipedia:ja:チロシン|チロシン]]から合成される。[[受容体]]は[[アドレナリン受容体]]と呼ばれるファミリーであり、[[Gタンパク質共役7回膜貫通型]]である。[[中枢神経系]]では、[[後脳]][[延髄]]にアドレナリン作動性神経細胞が存在し、そこから視床下部などへ上行性投射、および脊髄へ加工性投射を形成している。
 アドレナリンは[[モノアミン]]の一種、また[[カテコールアミン]]の一種である。生体内において、[[神経伝達物質]]または[[ホルモン]]として働く。生体内では[[wikipedia:ja:チロシン|チロシン]]から合成される。[[受容体]]は[[アドレナリン受容体]]と呼ばれるファミリーであり、[[Gタンパク質共役7回膜貫通型]]である。[[中枢神経系]]では、[[後脳]][[延髄]]にアドレナリン作動性神経細胞が存在し、そこから[[視床下部]]などへ上行性投射、および[[脊髄]]へ下行性投射を形成している。


== 発見と用語 ==
== 発見と用語 ==
73行目: 73行目:
== 合成 ==
== 合成 ==


[[Image:2AD fig2.jpg|thumb|250px|'''図1 アドレナリン生合成経路''']]  
[[Image:2AD fig2.jpg|thumb|250px|'''図1. アドレナリン生合成経路''']]  


 脳の一部の神経細胞、および[[副腎髄質]]中にある[[クロム親和性細胞]]において合成される(図2)。[[wikipedia:ja:生合成|生合成]]に関わる[[wikipedia:ja:酵素|酵素]]は以下の通り。 <br>  
 脳の一部の神経細胞、および[[副腎髄質]]中にある[[クロム親和性細胞]]において合成される(図2)。[[wikipedia:ja:生合成|生合成]]に関わる[[wikipedia:ja:酵素|酵素]]は以下の通り。 <br>  
80行目: 80行目:
*'''[[芳香族アミノ酸脱炭酸酵素]] (aromatic L-amino acid decarboxylase, AADC)''':EC 4.1.1.28。L-DOPAよりドーパミンを合成する。他に、この酵素は[[5-ヒドロキシトリプトファン]] (5-hydroxytryptophan)からセロトニン(5-hydroxytryptamine, 5-HT)を合成する反応も触媒する。[[wikipedia:ja:ピリドキサールリン酸|ピリドキサールリン酸]] (pyridoxal phosphate)が必要。全てのカテコールアミン産生細胞に存在する<ref name="ref9"><pubmed> 8897471</pubmed></ref>。<br>  
*'''[[芳香族アミノ酸脱炭酸酵素]] (aromatic L-amino acid decarboxylase, AADC)''':EC 4.1.1.28。L-DOPAよりドーパミンを合成する。他に、この酵素は[[5-ヒドロキシトリプトファン]] (5-hydroxytryptophan)からセロトニン(5-hydroxytryptamine, 5-HT)を合成する反応も触媒する。[[wikipedia:ja:ピリドキサールリン酸|ピリドキサールリン酸]] (pyridoxal phosphate)が必要。全てのカテコールアミン産生細胞に存在する<ref name="ref9"><pubmed> 8897471</pubmed></ref>。<br>  
*'''[[ドーパミンβ水酸化酵素]] (dopamine β-hydroxylase, DBH)''':EC 1.14.2.1。ドーパミンよりノルアドレナリンを合成する。[[wikipedia:ja:アスコルビン酸|アスコルビン酸]]、O<sub>2</sub>、Cu<sup>2+</sup>が必要。ノルアドレナリン、アドレナリン産生細胞の[[シナプス小胞]]の中に存在し、シナプス小胞に取り込まれたドーパミンをノルアドレナリンに変換する<ref name="ref10"><pubmed> 6998654 </pubmed></ref>。
*'''[[ドーパミンβ水酸化酵素]] (dopamine β-hydroxylase, DBH)''':EC 1.14.2.1。ドーパミンよりノルアドレナリンを合成する。[[wikipedia:ja:アスコルビン酸|アスコルビン酸]]、O<sub>2</sub>、Cu<sup>2+</sup>が必要。ノルアドレナリン、アドレナリン産生細胞の[[シナプス小胞]]の中に存在し、シナプス小胞に取り込まれたドーパミンをノルアドレナリンに変換する<ref name="ref10"><pubmed> 6998654 </pubmed></ref>。
*'''[[フェニルエタノールアミン-N-メチル基転移酵素]] (phenylethanolamine N-methyltransferase, PNMT):'''EC 2.1.1.28。ノルアドレナリンのアミノ基にメチル基を付加し、アドレナリンを生合成する。メチル基のドナーとして[[wikipedia:ja:チロシン|チロシン]]S-アデノシルメチオニン (S-adenosylmethione)が必要。[[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]では一つの遺伝子があり(Gene ID 5409)、[[wikipedia:ja:転写|転写]]産物は副腎髄質に多く、[[wikipedia:ja:心臓|心臓]]、および[[脳幹]]にも存在する<ref name="ref11"><pubmed> 12438093 </pubmed></ref>。PNMTは[[wikipedia:ja:細胞質|細胞質]]に局在するが、顆粒内にもあるとの説もある<ref name="ref12"><pubmed> 4615087</pubmed></ref>。そのため、アドレナリンの生合成が、細胞質で起きるのか、ノルアドレナリンが合成された顆粒内で起きるのかについては、まだはっきりと分かっていない。
*'''[[フェニルエタノールアミン-N-メチル基転移酵素|フェニルエタノールアミン-''N''-メチル基転移酵素]] (phenylethanolamine ''N''-methyltransferase, PNMT):'''EC 2.1.1.28。ノルアドレナリンのアミノ基にメチル基を付加し、アドレナリンを生合成する。メチル基のドナーとして[[wikipedia:ja:S-アデノシルメチオニン|S-アデノシルメチオニン]] (S-adenosylmethione)が必要。[[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]では一つの遺伝子があり、[[wikipedia:ja:転写|転写]]産物は副腎髄質に多く、[[wikipedia:ja:心臓|心臓]]、および[[脳幹]]にも存在する<ref name="ref11"><pubmed> 12438093 </pubmed></ref>。PNMTは[[wikipedia:ja:細胞質|細胞質]]に局在するが、[[シナプス顆粒]]内にもあるとの説もある<ref name="ref12"><pubmed> 4615087</pubmed></ref>。そのため、アドレナリンの生合成が、細胞質で起きるのか、ノルアドレナリンが合成された顆粒内で起きるのかについては、まだはっきりと分かっていない。


== 放出、再取り込み ==
== 放出、再取り込み ==


 アドレナリンの前駆体であるドーパミンは[[小胞型モノアミントランスポーター]](vesicular monoamine transporter, vMAT)により[[シナプス小胞]]内に輸送される。vMAT1は主に副腎のクロム親和性細胞、vMAT2は神経細胞で発現している。vMATはH<sup>+</sup>との[[交換輸送]]によりモノアミンを小胞内に蓄積させる<ref name="ref13"><pubmed> 11099462 </pubmed></ref>。 アドレナリンの放出は他の神経伝達物質と同様に、神経活動依存的、[[カルシウム]]依存的なシナプス小胞の[[エキソサイトーシス]]による。 アドレナリンの再取り込みの機構はまだよく理解されていない。アドレナリン特異的なトランスポーターは、[[wikipedia:ja:ほ乳類|ほ乳類]]では報告されていない。  
 アドレナリンの前駆体であるドーパミンは[[小胞型モノアミントランスポーター]](vesicular monoamine transporter, vMAT)により[[シナプス小胞]]内に輸送される。vMAT1は主に副腎のクロム親和性細胞、vMAT2は神経細胞で発現している。vMATはH<sup>+</sup>との[[交換輸送]]によりモノアミンを小胞内に蓄積させる<ref name="ref13"><pubmed> 11099462 </pubmed></ref>。 アドレナリンの放出は他の神経伝達物質と同様に、神経活動依存的、[[カルシウム]]依存的なシナプス小胞の[[エキソサイトーシス]]による。  
 
 アドレナリンの再取り込みの機構はまだよく理解されていない。アドレナリン特異的なトランスポーターは、[[wikipedia:ja:ほ乳類|ほ乳類]]では報告されていない。  


== 代謝分解 ==
== 代謝分解 ==
90行目: 92行目:
 アドレナリンの代謝分解には次の二つの酵素が重要である。  
 アドレナリンの代謝分解には次の二つの酵素が重要である。  


*'''[[モノアミン酸化酵素]](monoamine oxidase, MAO)''':MAOはモノアミンのアミノ基を[[wikipedia:ja:アルデヒド|アルデヒド]]基に酸化する。MAOは[[ミトコンドリア]]外膜に局在しに存在し、細胞内のアドレナリン(再取込みされたものを含む)の分解に関与する。ただしMAOに比べてvMAT2の方がアドレナリンに対する親和性がずっと高いため、シナプス小胞への取り込みの方がMAOによる分解よりも優先されると考えられる<ref name="ref14"><pubmed> 16552415</pubmed></ref>。MAOには[[MAO-A]]と[[MAO-B]]があり、二つの別の遺伝子によりコードされている。MAO-AとMAO-Bはモノアミン作動性神経細胞および[[グリア細胞]]に発現しているが、発現量は細胞の種類により異なり、また動物種によっても違いが見られる<ref name="ref14" />。(編集コメント:ノルアドレナリンをアドレナリンに修正しました)
*'''[[モノアミン酸化酵素]](monoamine oxidase, MAO)''':MAOはモノアミンのアミノ基を[[wikipedia:ja:アルデヒド|アルデヒド]]基に酸化する。MAOは[[ミトコンドリア]]外膜に局在して存在し、細胞内のアドレナリン(再取込みされたものを含む)の分解に関与する。ただしMAOに比べてvMAT2の方がアドレナリンに対する親和性がずっと高いため、シナプス小胞への取り込みの方がMAOによる分解よりも優先されると考えられる<ref name="ref14"><pubmed> 16552415</pubmed></ref>。MAOには[[MAO-A]]と[[MAO-B]]があり、二つの別の遺伝子によりコードされている。MAO-AとMAO-Bはモノアミン作動性神経細胞および[[グリア細胞]]に発現しているが、発現量は細胞の種類により異なり、また動物種によっても違いが見られる<ref name="ref14" />。(編集コメント:ノルアドレナリンをアドレナリンに修正しました)


*'''[[カテコール-O-メチル基転移酵素|カテコール-''O''-メチル基転移酵素]](catechol-''O''-methyltransferase, COMT)''':これはカテコール基の[[wikipedia:ja:メタ|メタ]]位[[wikipedia:ja:水酸基|水酸基]]に[[wikipedia:ja:メチル基|メチル基]]を転移させる。[[wikipedia:ja:腎臓|腎臓]]や[[wikipedia:ja:肝臓|肝臓]]に豊富だが、カテコールアミン作動性神経細胞の投射先においても発現している。細胞外で働くと考えられている<ref name="ref21846718"><pubmed> 21846718 </pubmed></ref>。
*'''[[カテコール-O-メチル基転移酵素|カテコール-''O''-メチル基転移酵素]](catechol-''O''-methyltransferase, COMT)''':これはカテコール基の[[wikipedia:ja:メタ|メタ]]位[[wikipedia:ja:水酸基|水酸基]]に[[wikipedia:ja:メチル基|メチル基]]を転移させる。[[wikipedia:ja:腎臓|腎臓]]や[[wikipedia:ja:肝臓|肝臓]]に豊富だが、カテコールアミン作動性神経細胞の投射先においても発現している。細胞外で働くと考えられている<ref name="ref21846718"><pubmed> 21846718 </pubmed></ref>。
97行目: 99行目:


== 主たる投射系と機能 ==
== 主たる投射系と機能 ==
===中枢神経系===
中枢神経系におけるアドレナリン作動性の神経細胞は、主に次の三つの部位にある。
[[Image:2AD fig3.jpg|thumb|250px|'''図2 アドレナリン投射経路'''<br>C1-3: アドレナリン作動性神経細胞核C1-3、CTX: [[大脳皮質]]、H: 視床下部、HF: 海馬、LC: 青斑核、OB: [[嗅球]]]]


 中枢神経系 中枢神経系におけるアドレナリン作動性の神経細胞は、主に次の三つの部位にある。
*C1:延髄の腹外側にありノルアドレナリン作動性神経細胞核A1に近接する。尾側の細胞群は、視床下部に上行性投射をし、循環器系や内分泌系の調節を行う。吻側の細胞群は、脊髄に下行性投射をし、[[交感神経]]の[[節前線維]]を形成する<ref name=ref18><pubmed> 19342614 </pubmed></ref><ref name=ref19>'''E R Kandel, J H Schwartz, T M Jessell'''<br> Principles of Neural Science, Fourth Edition<br>''Mc Graw Hill (New York)'':2000</ref>。
[[Image:2AD fig3.jpg|thumb|250px|'''図2 アドレナリン投射経路''']]  
*C2:延髄の背側にありノルアドレナリン作動性神経細胞核A2と一部重なる。C1、C2共に視床下部の[[室傍核]]に上行性投射をし、[[wikipedia:ja:循環器|循環器]]系や[[wikipedia:ja:内分泌|内分泌]]系の調節を行う<ref name=ref19 />。
 
*C3:延髄の吻側正中線近傍に位置し、視床下部、[[青斑核]]などに上行性投射、脊髄に下降性投射を行う<ref name=ref18 /><ref name=ref19 /><ref name=ref20><pubmed> 22237784 </pubmed></ref>。
*C1:延髄の腹外側にありノルアドレナリン作動性神経細胞核A1に近接する。尾側の細胞群は、視床下部に上行性投射をし、循環器系や内分泌系の調節を行う。吻側の細胞群は、脊髄に下行性投射をし、交感神経の節前繊維を形成する<ref name=ref18><pubmed> 19342614 </pubmed></ref><ref name=ref19>'''E R Kandel, J H Schwartz, T M Jessell'''<br> Principles of Neural Science, Fourth Edition<br>''Mc Graw Hill (New York)'':2000</ref>。
*C2:延髄の背側にありノルアドレナリン作動性神経細胞核A2と一部重なる。C1、C2共に[[視床下部]]の室傍核に上行性投射をし、[[wikipedia:ja:循環器|循環器]]系や[[wikipedia:ja:内分泌|内分泌]]系の調節を行う<ref name=ref19 />。
*C3:延髄の吻側正中線近傍に位置し、視床下部、青斑核などに上行性投射、脊髄に下降性投射を行う<ref name=ref18 /><ref name=ref19 /><ref name=ref20><pubmed> 22237784 </pubmed></ref>。
   
   
 [[末梢神経]]系 末梢神経系の[[節後神経]]細胞は、ノルアドレナリンと共にアドレナリン作動性でもある。脊髄中の[[節前神経細胞]]より[[アセチルコリン]]性の入力を受け、ノルアドレナリン性の出力を[[wikipedia:ja:内臓|内臓]]器官に与える。その結果、[[wikipedia:ja:血管|血管]]の収縮、[[wikipedia:ja:血圧|血圧]]の上昇、[[wikipedia:ja:心拍数|心拍数]]の増加、などを引き起こす。
===末梢神経系===
 末梢神経系の[[節後神経]]細胞は、ノルアドレナリンと共にアドレナリン作動性でもある。脊髄中の[[節前神経細胞]]より[[アセチルコリン]]性の入力を受け、ノルアドレナリン性の出力を[[wikipedia:ja:内臓|内臓]]器官に与える。その結果、[[wikipedia:ja:血管|血管]]の収縮、[[wikipedia:ja:血圧|血圧]]の上昇、[[wikipedia:ja:心拍数|心拍数]]の増加、などを引き起こす。


== 受容体 ==
== 受容体 ==
236行目: 239行目:


== 関連項目  ==
== 関連項目  ==
*[[モノアミン]]  
*[[モノアミン]]  
*[[モノアミン系]]  
*[[モノアミン系]]  
243行目: 245行目:
*[[副腎髄質]]  
*[[副腎髄質]]  
*[[交感神経]]
*[[交感神経]]


== 参考文献  ==
== 参考文献  ==
<references />  
<references />  


<br> (執筆者:徳岡宏文、一瀬宏 担当編集委員:尾藤晴彦)
(執筆者:徳岡宏文、一瀬宏 担当編集委員:尾藤晴彦)