「アパシー」の版間の差分

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<div align="right"> 
<font size="+1">山下 英尚</font><br>
''広島大学''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年12月5日 原稿完成日:2014年2月21日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0141446 漆谷 真](滋賀医科大学 医学部 脳神経内科)<br>
</div>
英語名:apathy 独:Apathie 仏:apathie
英語名:apathy 独:Apathie 仏:apathie


{{box|text=
 アパシーとは普通なら感情が動かされる刺激対象に対して関心がわかない状態のことを言い、興味や[[意欲]]の障害であると考えられている。多くの疾患でよく見られる状態であり、古くからある言葉であるにもかかわらず、医学的な注目がなされ始めたのはごく最近のことであり、その定義や病態、意義についてもまだ議論の余地が残されている。  
 アパシーとは普通なら感情が動かされる刺激対象に対して関心がわかない状態のことを言い、興味や[[意欲]]の障害であると考えられている。多くの疾患でよく見られる状態であり、古くからある言葉であるにもかかわらず、医学的な注目がなされ始めたのはごく最近のことであり、その定義や病態、意義についてもまだ議論の余地が残されている。  
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== アパシーとは ==
== アパシーとは ==
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 これらの検討からは[[ドーパミン]]や[[アセチルコリン]]などの[[神経伝達物質]]の異常やモチベーションに関連する神経回路として[[前頭葉]]−皮質下回路のどこかが損傷されるとアパシーが引き起こされるとの仮説が提唱<ref name=ref38><pubmed>12169339</pubmed></ref>されているが、報告によって結果には差異が見られる。この結果の差異は使用されている診断基準や重症度評価の違いもあるが、そもそもアパシーはさまざまな疾患で認められる臨床症状あるいは症候群であり、さまざまな原因によって類似した症状が引き起こされるためと考えられる。  
 これらの検討からは[[ドーパミン]]や[[アセチルコリン]]などの[[神経伝達物質]]の異常やモチベーションに関連する神経回路として[[前頭葉]]−皮質下回路のどこかが損傷されるとアパシーが引き起こされるとの仮説が提唱<ref name=ref38><pubmed>12169339</pubmed></ref>されているが、報告によって結果には差異が見られる。この結果の差異は使用されている診断基準や重症度評価の違いもあるが、そもそもアパシーはさまざまな疾患で認められる臨床症状あるいは症候群であり、さまざまな原因によって類似した症状が引き起こされるためと考えられる。  


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| 手法  
! scope="col"| 手法  
| 所見  
! scope="col"| 所見  
| 関連領域
! scope="col"| 関連領域
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| 剖検  
! scope="col"| 剖検  
| [[神経原線維]]変化  
| [[神経原線維]]変化  
| [[前帯状回]]<ref name=ref23><pubmed>16391476</pubmed></ref>
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| [[CT]]  
! scope="col"| [[CT]]  
| 病変  
| 病変  
| [[基底核]]<ref name=ref24><pubmed>17131217</pubmed></ref>
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| [[MRI]]  
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| 体積減少  
| 体積減少  
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| 高輝度領域  
| 高輝度領域  
| 前頭—皮質下回路<ref name=ref28><pubmed>16202190</pubmed></ref><br>右半球<ref name=ref28 />
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| [[MR spectroscopy]]  
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| NAA/Cr比率低下  
| NAA/Cr比率低下  
| 前頭葉<ref name=ref29><pubmed>16084528</pubmed></ref>
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| [[PET]]  
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| 血流減少  
| 血流減少  
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| 代謝低下  
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| 前頭葉<ref name=ref31><pubmed>15668960</pubmed></ref>
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| ドーパミン/[[ノルアドレナリン]] [[トランスポーター]]結合能低下  
| ドーパミン/ノルアドレナリン [[トランスポーター]]結合能低下  
| 腹側[[線条体]]<ref name=ref32><pubmed>15716302</pubmed></ref>
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| SPECT  
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| 血流低下  
| 血流低下  
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| ドーパミン トランスポーター取込低下  
| ドーパミン トランスポーター取込低下  
| [[被殻]]<ref name=ref37><pubmed>17900799</pubmed></ref>
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'''表.アパシーにおける構造画像/機能画像研究'''
'''表.アパシーにおける構造画像/機能画像研究'''
==治療  ==
 アパシーは一定の臨床症状を示す症候群であり、その病態も上述のようにさまざまなものが考えられるので、治療も想定される病態に合わせたものが求められる。大まかには薬物療法と非薬物療法に分けられる。
===薬物療法===
 [[パーキンソン病]]などの[[ドーパミン]]神経系の異常が想定される患者では[[L-ドーパ]]<ref><pubmed> 23970460</pubmed></ref>や[[ロチゴチン]]<ref><pubmed>23557594</pubmed></ref> などの[[ドーパミン神経系]]を賦活する薬剤、[[アルツハイマー病]]や[[レビー小体型認知症]]などの[[アセチルコリン]]神経系の異常が想定される患者では[[ドネペジル]]<ref><pubmed> 20597141 </pubmed></ref>や[[ガランタミン]]<ref><pubmed> 14676468 </pubmed></ref>などのアセチルコリン神経系を賦活する薬剤や[[メチルフェニデート]]<ref><pubmed> 24021498 </pubmed></ref>の有効性が報告されている。治療効果の報告の多くはケースレポートやケースシリーズであるが、メチルフェニデイトやドネペジルなどでは少数ながらRCTの報告もある。
===非薬物療法===
 アパシーに対する非薬物療法が重要なことは論を待たないが、系統立てておこなわれた研究は少ない。多職種によるアプローチ、孤立を防ぐ、自律を促し疾患よりも個人への援助を心がける、障害があればそれを補うような器具や環境の整備などが推奨されているが、総説レベルに留まっている<ref><pubmed> 21860324 </pubmed></ref><ref><pubmed> 23921453 </pubmed></ref>。アパシーが存在するとActivities of Daily Living (ADL)や[[認知機能]]に悪影響を及ぼす事は上述の通りであるが、臨床的な実感としてはリハビリテーションなどの身体的な活動性を上げるようなアプローチはアパシーを改善させるため、[[無作為化比較対照試験]] (randomized controlled trial, RCT)をおこなう事は難しいが方法論を工夫して非薬物療法の効果については更なる検討をおこなう事が望まれる。


==関連項目==
==関連項目==
 
*[[うつ病]]
(ございましたら御指摘ください)
*[[アルツハイマー病]]
*[[パーキンソン病]]
*[[血管性認知症]]


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==


<references />
<references />
(執筆者:山下英尚 担当編集委員:高橋良輔)

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