「アミロイドーシス」の版間の差分

ナビゲーションに移動 検索に移動
編集の要約なし
編集の要約なし
編集の要約なし
 
(4人の利用者による、間の8版が非表示)
2行目: 2行目:
<font size="+1">[http://researchmap.jp/_tomitataisuke 富田 泰輔]</font><br>
<font size="+1">[http://researchmap.jp/_tomitataisuke 富田 泰輔]</font><br>
''東京大学 薬学研究科''<br>
''東京大学 薬学研究科''<br>
DOI [[XXXX]]/XXXX 原稿受付日:2013年11月27日 原稿完成日:2013年月日<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2013年11月27日 原稿完成日:2014年1月4日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0141446 漆谷 真](京都大学 大学院医学研究科)<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0141446 漆谷 真](滋賀医科大学 医学部 脳神経内科)<br>
</div>
</div>


英:amyloidosis
英:amyloidosis 独:Amyloidose 仏:amylose、amyloïdose


{{box|text= [[アミロイド]]amyloidは[[wikipedia:ja:コンゴーレッド|コンゴーレッド]]染色でオレンジ色に染まり、[[wikipedia:ja:偏光顕微鏡|偏光顕微鏡]]で緑色偏光を呈し、[[wikipedia:ja:電子顕微鏡|電子顕微鏡]]観察下では7~15nmの繊維構造を呈する物質である。アミロイドが、組織間隙に沈着して臓器の機能不全が生じる疾患をアミロイドーシス amyloidosisと呼ぶ<ref><pubmed> 22664198 </pubmed></ref>。アミロイドタンパク質の種類や臓器によって特徴が見られ、大きく[[全身性アミロイドーシス]]と[[限局性アミロイドーシス]]に分類される。代表的な全身性アミロイドーシスには、全身性AAアミロイドーシス、家族性アミロイドニューロパチーが挙げられる。限局性アミロイドーシスには脳アミロイドーシスである、[[アルツハイマー病]]、[[脳血管アミロイドアンギオパチー]]、遺伝性アミロイド性脳出血で、[[クロイツフェルト・ヤコブ病]]などが知られている。基本的には、アミロイドーシス発症の分子病態は凝集するアミロイドタンパク質の濃度上昇か、凝集能亢進によるものである。したがってアミロイドタンパク質の除去が根本治療戦略となる。}}
{{box|text= [[アミロイド]]amyloidは[[wikipedia:ja:コンゴーレッド|コンゴーレッド]]染色でオレンジ色に染まり、[[wikipedia:ja:偏光顕微鏡|偏光顕微鏡]]で緑色偏光を呈し、[[wikipedia:ja:電子顕微鏡|電子顕微鏡]]観察下では7~15nmの繊維構造を呈する物質である。アミロイドが、組織間隙に沈着して臓器の機能不全が生じる疾患をアミロイドーシス amyloidosisと呼ぶ<ref><pubmed> 22664198 </pubmed></ref>。アミロイドタンパク質の種類や臓器によって特徴が見られ、大きく[[全身性アミロイドーシス]]と[[限局性アミロイドーシス]]に分類される。代表的な全身性アミロイドーシスには、全身性AAアミロイドーシス、家族性アミロイドニューロパチーが挙げられる。限局性アミロイドーシスには脳アミロイドーシスである、[[アルツハイマー病]]、[[脳血管アミロイドアンギオパチー]]、遺伝性アミロイド性脳出血で、[[クロイツフェルト・ヤコブ病]]などが知られている。基本的には、アミロイドーシス発症の分子病態は凝集するアミロイドタンパク質の濃度上昇か、凝集能亢進によるものである。したがってアミロイドタンパク質の除去が根本治療戦略となる。}}




[[ファイル:Cardiac amyloidosis high mag.jpg|thumb|250px|right| '''図1. ヒト心臓に沈着したアミロイド'''<br>コンゴーレッド染色。Wikipediaより転載。]]
==アミロイドーシスとは==
==アミロイドーシスとは==
 アミロイドamyloidはコンゴーレッド染色でオレンジ色に染まり、偏光顕微鏡で緑色偏光を呈し、電子顕微鏡観察下では7~15nmの繊維構造を呈する物質として定義される。アミロイドが、組織間隙に沈着する疾患を総称してアミロイドーシス amyloidosisと呼ぶ<ref><pubmed> 22664198 </pubmed></ref>。多くの場合、前駆タンパクであるアミロイドタンパク質が折りたたみ障害を引き起こして重合し、[[wikipedia:ja:βシート|βシート]]構造に富む不溶性線維として蓄積・凝集している
 アミロイドamyloidはコンゴーレッド染色でオレンジ色に染まり(図1)、偏光顕微鏡で緑色偏光を呈し、電子顕微鏡観察下では7~15nmの繊維構造を呈する物質として定義される。アミロイドが、組織間隙に沈着する疾患を総称してアミロイドーシス amyloidosisと呼ぶ<ref><pubmed> 22664198 </pubmed></ref>。多くの場合、前駆タンパクであるアミロイドタンパク質が折りたたみ障害を引き起こして重合し、[[wikipedia:ja:βシート|βシート]]構造に富む不溶性線維として蓄積・凝集している
 
 沈着するアミロイドタンパク質の種類や臓器によって特徴が見られ、特に大きく全身性アミロイドーシスと限局性アミロイドーシスに分類されている。


 沈着するアミロイドタンパク質の種類や臓器によって特徴が見られ(表1、2)、特に大きく全身性アミロイドーシスと限局性アミロイドーシスに分類されている。


===全身性アミロイドーシス===
===全身性アミロイドーシス===
37行目: 37行目:
{| class="wikitable"
{| class="wikitable"
|- class="hintergrundfarbe5"
|- class="hintergrundfarbe5"
|+表1. アミロイドーシスの分類(Wikipediaより翻訳転載)
! タイプ
! タイプ
! 頻度
! 頻度
! 詳細
! 詳細
|-
|-
| '''原発性アミロイドーシス''' || 稀 || 基礎疾患を伴わないアミロイドーシス
| '''[[原発性アミロイドーシス]]''' || 稀 || 基礎疾患を伴わないアミロイドーシス
|-
|-
| '''家族性アミロイドーシス''' || 稀 || 遺伝的に変異をおこしたアミロイド原性タンパク質によって惹起されるアミロイドーシス
| '''[[家族性アミロイドーシス]]''' || 稀 || 遺伝的に変異をおこした[[アミロイド原性タンパク質]]によって惹起されるアミロイドーシス
|-
|-
| '''二次性アミロイドーシス''' || 低 || 何らかの基礎疾患に合併して生じるアミロイドーシス<br /> 多発性骨髄腫や原発性マクログロブリン血症とALアミロイドーシス<br /> 関節リウマチとAAアミロイドーシス<br /> 長期透析とAβ<sub>2</sub>Mアミロイドーシス
| '''[[二次性アミロイドーシス]]''' || 低 || 何らかの基礎疾患に合併して生じるアミロイドーシス<br /> [[wj:多発性骨髄腫|多発性骨髄腫]]や[[wj:原発性マクログロブリン血症|原発性マクログロブリン血症]]と[[wj:アミロイドーシス|ALアミロイドーシス]]<br /> [[wj:関節リウマチ|関節リウマチ]]と[[wj:アミロイドーシス|AAアミロイドーシス]]<br /> 長期[[wj:人工透析|透析]]と[[wj:アミロイドーシス|Aβ<sub>2</sub>Mアミロイドーシス]]
|-
|-
| '''老人性全身アミロイドーシス''' || 高 || 加齢とともに心臓を含めた全身においてトランスサイレチンが蓄積する<br /> 遺伝子変異を伴わず、野生型アミロイドタンパク質が蓄積する
| '''[[老人性全身アミロイドーシス]]''' || 高 || 加齢とともに心臓を含めた全身において[[トランスサイレチン]]が蓄積する<br /> 遺伝子変異を伴わず、野生型アミロイドタンパク質が蓄積する
|-
|-
|}
|}
{| class="wikitable" class="sortable wikitable"
{| class="wikitable" class="sortable wikitable"
|+表2. アミロイドーシスの原因物質と沈着部位(Wikipediaより翻訳転載)
|-
|-
! 略称
! 略称
59行目: 61行目:
| '''AL'''
| '''AL'''
| [[免疫グロブリンL鎖]]
| [[免疫グロブリンL鎖]]
| 異常形質細胞によって産出されるモノクローナル免疫グロブリンL鎖由来のアミロイドALが全身諸臓器(心臓、腎臓、消化管、肝臓、末梢神経など)に沈着する。
| 異常[[wj:形質細胞|形質細胞]]によって産出されるモノクローナル[[wj:免疫グロブリン|免疫グロブリン]]L鎖由来のアミロイドALが全身諸臓器([[wj:心臓|心臓]]、[[wj:腎臓|腎臓]]、[[wj:消化管|消化管]]、[[wj:肝臓|肝臓]]、[[末梢神経]]など)に沈着する。
| {{OMIM2|254500}}
| {{OMIM2|254500}}
|-
|-
| '''AA'''
| '''AA'''
| [[血清アミロイドA]]
| [[血清アミロイドA]]
| 慢性炎症時におもに肝臓から産出される急性期タンパク質の血清アミロイドA(SAA)の代謝産物アミロイドA(AA)が腎臓や消化管に沈着する。
| 慢性[[wj:炎症|炎症]]時におもに肝臓から産出される急性期タンパク質の血清アミロイドA(SAA)の代謝産物アミロイドA(AA)が腎臓や消化管に沈着する。
|-
|-
| '''Aβ'''
| '''Aβ'''
73行目: 75行目:
| '''ATTR'''
| '''ATTR'''
| [[トランスサイレチン]]
| [[トランスサイレチン]]
| 主として肝臓から産生されるが、トランスサイレチン遺伝子に変異のある異型TTRは肝実質にアミロイド沈着はほとんどなく、神経節を含む末梢神経、自律神経系やほかの組織に沈着する。<br />野生型トランスサイレチンが蓄積する老人性全身性アミロイドーシスでは主に心臓、他に肺、腎臓、全身の小血管にアミロイドが蓄積する。
| 主として肝臓から産生されるが、トランスサイレチン遺伝子に変異のある異型TTRは肝実質にアミロイド沈着はほとんどなく、[[神経節]]を含む末梢神経、[[自律神経系]]やほかの組織に沈着する。<br />野生型トランスサイレチンが蓄積する老人性全身性アミロイドーシスでは主に心臓、他に肺、腎臓、全身の小血管にアミロイドが蓄積する。
| {{OMIM2|105210}}
| {{OMIM2|105210}}
|-
|-
| '''Aβ<sub>2</sub>M'''
| '''Aβ<sub>2</sub>M'''
| [[β2ミクログロブリン]]
| [[β2ミクログロブリン]]
| 長期透析患者では血中で増加しているβ2ミクログロブリン由来のアミロイドが靱帯、骨領域に沈着する。
| 長期透析患者では血中で増加しているβ2ミクログロブリン由来のアミロイドが[[wj:靱帯|靱帯]]、[[wj:骨|骨]]領域に沈着する。
|-
|-
| '''AIAPP'''
| '''AIAPP'''
| [[アミリン]]
| [[アミリン]]
| Ⅱ型糖尿病に伴い膵ランゲルハンス島やインスリノーマにアミリン由来のアミロイドが蓄積する。
| [[wj:Ⅱ型糖尿病|Ⅱ型糖尿病]]に伴い膵[[ランゲルハンス島|ランゲルハンス島]]や[[wjインスリノーマ|インスリノーマ]]にアミリン由来のアミロイドが蓄積する。
|-
|-
| '''APrP'''
| '''APrP'''
126行目: 128行目:
| '''APro'''
| '''APro'''
| [[プロラクチン]]
| [[プロラクチン]]
| 下垂体のプロラクチン産生腺腫において見出されるアミロイドーシス。
| [[下垂体]]のプロラクチン産生腺腫において見出されるアミロイドーシス。
  |
  |
  |-
  |-
| '''AKer'''
| '''AKer'''
| [[ケラチン(ケラトエピセリン)]]
| [[ケラチン(ケラトエピセリン)]]
| 皮膚に限局して発症するアミロイドーシス。
| [[wj:皮膚|皮膚]]に限局して発症するアミロイドーシス。
  |
  |
  |-
  |-
| '''AANF'''
| '''AANF'''
| [[心房性ナトリウム利尿ペプチド]]
| [[心房性ナトリウム利尿ペプチド]]
| 心房に限局して沈着するアミロイドーシス。
| [[wj:心房|心房]]に限局して沈着するアミロイドーシス。
  |
  |
  |-
  |-
| '''ACal'''
| '''ACal'''
| [[カルシトニン]]
| [[カルシトニン]]
| 甲状腺髄様癌において見出されるアミロイドーシス。
| [[wj:甲状腺|甲状腺]][[wj:髄様癌|髄様癌]]において見出されるアミロイドーシス。
  |
  |
|}
|}


==病態生理==
==病態生理==
[[Image:2M5N.pdb|thumb|350px|'''図1.クロスβ構造'''<br>トランスサイレチン部分ペプチドからなるクロスβ構造。PDB ID: {{PDB2|2M5N}}]]
[[Image:2M5N.pdb|thumb|350px|'''図2.クロスβ構造'''<br>トランスサイレチン部分ペプチドからなるクロスβ構造。PDB ID: {{PDB2|2M5N}}]]
 
 
===構造===
===構造===
 各アミロイドタンパク質には一定の共通したアミノ酸配列や構造は見られないが、アミロイド線維になると共通して[[クロスβ構造]]と呼ばれる形態をとっている<ref><pubmed> 17468747 </pubmed></ref><ref><pubmed> 21456964 </pubmed></ref><ref><pubmed> 23513222 </pubmed></ref>。これはアミロイド線維を構成するポリペプチド鎖が線維軸と垂直方向に[[wikipedia:ja:βストランド|βストランド]]となり、かつ線維軸方向に[[wikipedia:ja:βシート構造|βシート構造]]をとっているものである。このような構造学的特徴はイメージング技術に応用されつつあり、[[wikipedia:ja:Aβ|Aβ]]線維に特異的に結合する低分子化合物を利用した[[アミロイドPETスキャン]]が可能となった<ref><pubmed> 14991808 </pubmed></ref><ref><pubmed> 21245183 </pubmed></ref>。
 各アミロイドタンパク質には一定の共通したアミノ酸配列や構造は見られないが、アミロイド線維になると共通して[[クロスβ構造]]と呼ばれる形態をとっている<ref><pubmed> 17468747 </pubmed></ref><ref><pubmed> 21456964 </pubmed></ref><ref><pubmed> 23513222 </pubmed></ref>。これはアミロイド線維を構成するポリペプチド鎖が線維軸と垂直方向に[[wikipedia:ja:βストランド|βストランド]]となり、かつ線維軸方向に[[wikipedia:ja:βシート構造|βシート構造]]をとっているものである(図2)。このような構造学的特徴はイメージング技術に応用されつつあり、[[wikipedia:ja:Aβ|Aβ]]線維に特異的に結合する低分子化合物を利用した[[アミロイドPETスキャン]]が可能となった<ref><pubmed> 14991808 </pubmed></ref><ref><pubmed> 21245183 </pubmed></ref>。


===線維形成過程と伝播===
===線維形成過程と伝播===
[[Image:TTfig6.png|thumb|350px|'''図2.アミロイド線維形成過程'''<br>アミロイド線維形成過程におけるシードの役割]]
[[Image:TTfig6.png|thumb|350px|'''図3.アミロイド線維形成過程'''<br>アミロイド線維形成過程におけるシードの役割]]
[[Image:2M4J.pdb|thumb|350px|'''図3.アルツハイマー病患者脳由来のAβ線維構造'''<br>患者脳由来アミロイドから伸長した[[アミロイドβタンパク質]]の分子構造。PDB ID: {{PDB2|2M4J}}]]
[[Image:2M4J.pdb|thumb|350px|'''図4.アルツハイマー病患者脳由来のAβ線維構造'''<br>患者脳由来アミロイドから伸長した[[アミロイドβタンパク質]]の分子構造。PDB ID: {{PDB2|2M4J}}]]
 
 アミロイド線維形成過程では、多くの場合正常なフォールディングをうけているアミロイドタンパク質が何らかの理由で一旦部分変性し、会合することが必要である。また線維形成過程はその鋳型となるシード(種、核)の形成を契機として急速に進んでいくことが示されている<ref><pubmed> 22885025 </pubmed></ref>(図3)。すなわち、このシードの両端の末端にアミロイドタンパク質が結合して線維が伸長していくと考えられている。
 
 アミロイド線維形成過程では、多くの場合正常なフォールディングをうけているアミロイドタンパク質が何らかの理由で一旦部分変性し、会合することが必要である。また線維形成過程はその鋳型となるシード(種、核)の形成を契機として急速に進んでいくことが示されている<ref><pubmed> 22885025 </pubmed></ref>。すなわち、このシードの両端の末端にアミロイドタンパク質が結合して線維が伸長していくと考えられている。


 このようなシード依存性伸長反応モデルは、[[プリオン]]タンパク質が示す伝播能力とも関連していると考えられている。すなわち、一旦異常構造をとったタンパク質がシードとなり、別の個体におけるアミロイドタンパク質の構造及び性質を変化させていくというモデルである<ref><pubmed> 8513491 </pubmed></ref>。またシードへの組み込みはアミロイドタンパク質が同様の構造を取りうるかどうかに依存する。プリオンの感染性にはごく僅かなアミノ酸の違いに起因する「種の壁」が存在するが、この現象も一次配列の違いに依存する各種のプリオンが形成するシード構造の違いによって説明できる。
 このようなシード依存性伸長反応モデルは、[[プリオン]]タンパク質が示す伝播能力とも関連していると考えられている。すなわち、一旦異常構造をとったタンパク質がシードとなり、別の個体におけるアミロイドタンパク質の構造及び性質を変化させていくというモデルである<ref><pubmed> 8513491 </pubmed></ref>。またシードへの組み込みはアミロイドタンパク質が同様の構造を取りうるかどうかに依存する。プリオンの感染性にはごく僅かなアミノ酸の違いに起因する「種の壁」が存在するが、この現象も一次配列の違いに依存する各種のプリオンが形成するシード構造の違いによって説明できる。
167行目: 165行目:
 このようなタンパク質凝集物の細胞間伝播という概念は必ずしもアミロイドの形成には依存しておらず、凝集して線維を形成するタンパク質に普遍的に観察される可能性があり、最近では様々な神経変性疾患において細胞内に蓄積するタンパク質([[タウ]]、[[シヌクレイン]]、[[TDP-43]]など)においても伝播能力の存在が確認されつつある<ref><pubmed> 24005412 </pubmed></ref>。また[[wikipedia:ja:酵母|酵母]]などにおいてはプリオン様タンパク性因子による形質転換が報告されており、タンパク質の構造変化に依存した形質の伝播様式として注目されている<ref><pubmed> 23379365 </pubmed></ref>。
 このようなタンパク質凝集物の細胞間伝播という概念は必ずしもアミロイドの形成には依存しておらず、凝集して線維を形成するタンパク質に普遍的に観察される可能性があり、最近では様々な神経変性疾患において細胞内に蓄積するタンパク質([[タウ]]、[[シヌクレイン]]、[[TDP-43]]など)においても伝播能力の存在が確認されつつある<ref><pubmed> 24005412 </pubmed></ref>。また[[wikipedia:ja:酵母|酵母]]などにおいてはプリオン様タンパク性因子による形質転換が報告されており、タンパク質の構造変化に依存した形質の伝播様式として注目されている<ref><pubmed> 23379365 </pubmed></ref>。


 一方、アルツハイマー病患者脳から得られたAβ線維の構造解析がなされ、<i>in vitro</i>で凝集させた構造とは異なる凝集形態を示していたことから、<i>in vivo</i>における凝集プロセスの違いが指摘されており<ref><pubmed> 24034249 </pubmed></ref>、伝播メカニズムとの関係の解明が待たれている。
 一方、アルツハイマー病患者脳から得られたAβ線維の構造解析がなされ(図4)、<i>in vitro</i>で凝集させた構造とは異なる凝集形態を示していたことから、<i>in vivo</i>における凝集プロセスの違いが指摘されており<ref><pubmed> 24034249 </pubmed></ref>、伝播メカニズムとの関係の解明が待たれている。


===細胞毒性===
===細胞毒性===
 アミロイド線維が発揮する細胞障害および毒性はアミロイドーシスにおける臓器不全の基本的病態と言える。アミロイド沈着後に生じる疾患プロセスを抑制する治療薬の開発のためにも、その理解は必須である。しかしアミロイドタンパク質のどのような構造、分子状態が毒性を発揮するのかについては未だ明確ではない。近年ではAβとFAD変異がもたらす分子病態の解析から、アミロイド線維そのものではなく、その中間体となるオリゴマー<ref><pubmed> 12702875 </pubmed></ref>に起因しているというオリゴマー仮説が提唱されている。
 アミロイド線維が発揮する細胞障害および毒性はアミロイドーシスにおける臓器不全の基本的病態と言える。アミロイド沈着後に生じる疾患プロセスを抑制する治療薬の開発のためにも、その理解は必須である。しかしアミロイドタンパク質のどのような構造、分子状態が毒性を発揮するのかについては未だ明確ではない。近年ではAβとFAD変異がもたらす分子病態の解析から、アミロイド線維そのものではなく、その中間体となるオリゴマー<ref><pubmed> 12702875 </pubmed></ref>に起因しているというオリゴマー仮説が提唱されている。


 このアミロイドタンパク質の凝集物がどのように細胞傷害を惹起しているか、という点については、[[脂質二重膜]]の障害、[[酸化的ストレス]]や[[小胞体ストレス]]の惹起、[[ミトコンドリア]]障害などが想定されている<ref><pubmed> 23820032 </pubmed></ref>。興味深いことに、全く異なるアミロイド原性タンパク質であるAβとADanが脳実質に蓄積するそれぞれの疾患モデルマウスを、神経障害と関連するtauトランスジェニックマウスと交配すると、いずれの場合もtau病理が亢進されることが示された<ref><pubmed> 20385796 </pubmed></ref>。これは少なくとも[[大脳皮質]]に沈着するアミロイドが示す神経細胞傷害プロセスの下流には共通性があることを示唆している。すなわち、アミロイド原性タンパク質の種類を問わず、どのような線維がどの細胞や臓器に沈着するかによって最終的にアミロイドーシスにおける病態が決定する可能性が考えられている。またAβが細胞外から神経細胞毒性を呈するために毒性受容体が想定さられており、[[NMDA型グルタミン酸受容体|NMDA型]]および[[AMPA型グルタミン酸受容体]]、α7[[ニコチン性アセチルコリン受容体]]、[[インスリン受容体]]、[[RAGE]]、プリオンタンパク質や[[EPHB2|EphB2]]、[[LilrB2]]などがその候補として挙げられている。
 このアミロイドタンパク質の凝集物がどのように細胞傷害を惹起しているか、という点については、[[脂質二重膜]]の障害、[[酸化的ストレス]]や[[小胞体ストレス]]の惹起、[[ミトコンドリア]]障害などが想定されている<ref><pubmed> 23820032 </pubmed></ref>。興味深いことに、全く異なるアミロイド原性タンパク質であるAβとADanが脳実質に蓄積するそれぞれの疾患モデルマウスを、神経障害と関連するtauトランスジェニックマウスと交配すると、いずれの場合もtau病理が亢進されることが示された<ref><pubmed> 20385796 </pubmed></ref>。これは少なくとも[[大脳皮質]]に沈着するアミロイドが示す神経細胞傷害プロセスの下流には共通性があることを示唆している。すなわち、アミロイド原性タンパク質の種類を問わず、どのような線維がどの細胞や臓器に沈着するかによって最終的にアミロイドーシスにおける病態が決定する可能性が考えられている。またAβが細胞外から神経細胞毒性を呈するために毒性受容体が想定されており、[[NMDA型グルタミン酸受容体|NMDA型]]および[[AMPA型グルタミン酸受容体]]、α7[[ニコチン性アセチルコリン受容体]]、[[インスリン受容体]]、[[RAGE]]、プリオンタンパク質や[[EPHB2|EphB2]]、[[LilrB2]]などがその候補として挙げられている。


==関連項目==
==関連項目==

案内メニュー