「イオンチャネル」の版間の差分

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==イオンチャネルとは==
==イオンチャネルとは==
[[Image:Kv1.2.png|200px|thumb|right|図1 電位依存性カリウムチャネルの構造(pdb:2R9R)。紫の球はカリウムイオン。]]イオンチャネルは、形質膜や細胞内膜系に存在する膜タンパク質である。イオンは脂質二重膜をほとんど透過しないため、細胞内外にイオンを輸送するためにイオンチャネルが必要になる。イオン透過路を有し、濃度と電位の勾配に従ってイオンを流出入させる機能を持つ。イオン透過路は通常ゲート機構を有し、膜電位やリガンドなどの刺激により開閉する。透過させるイオンの種類や、ゲート機構の種類、トポロジー(何回膜を貫通しているか)などによって分類される。神経細胞における活動電位の発生、筋収縮、神経伝達物質の放出、ホルモン等の分泌、感覚など、イオンが関わるありとあらゆる生理現象を担う重要な膜タンパク質である。
[[Image:Kv1.2.png|200px|thumb|right|図1 電位依存性カリウムチャネルの構造(pdb:2R9R)。紫の球はカリウムイオン。]]イオンチャネルは、形質膜や細胞内膜系に存在する膜タンパク質である。イオンは脂質二重膜をほとんど透過しないため、細胞内外にイオンを輸送するためにイオンチャネルが必要になる。イオン透過路を有し、濃度と電位の勾配に従ってイオンを流出入させる機能を持つ。イオン透過路は通常ゲート機構を有し、膜電位やリガンドなどの刺激により開閉する。透過させるイオンの種類や、ゲート機構の種類、トポロジー(何回膜を貫通しているか)などによって分類される。神経細胞における活動電位の発生、筋収縮、神経伝達物質の放出、ホルモン等の分泌、感覚など、イオンが関わるありとあらゆる生理現象を担う重要な膜タンパク質である。
==イオンチャネル研究の歴史==
1950年代に発表されたHodgkinとHuxley(1963年ノーベル医学生理学賞)による一連のイカの巨大軸索を使った実験により、活動電位が起こる際に細胞膜のナトリウムイオン透過性が高まり、活動電位が静まる際にはカリウムイオン透過性が高まることが明らかにされた。これによりゲート、イオン選択性を有するイオンチャネルの存在が示唆された。1970年代になり、NeherとSakmann(1991年ノーベル医学生理学賞)によって開発されたパッチクランプ法により、単一イオンチャネルの電流が初めて計測され、ガラス電極内に単離できる実体としてのイオンチャネルの存在が証明された。1980年代に入り遺伝子クローニングの時代に入ると、沼、野田らによるニコチン性アセチルコリン受容体や電位依存性ナトリウムチャネルのcDNAクローニング、Janらによる電位依存性カリウムチャネルのcDNAクローニングを皮切りにつぎつぎとイオンチャネルのcDNAがクローニングされていった。1988年、豊島とUnwinが電子線結晶構造解析でシビレエイのニコチン性アセチルコリン受容体の構造を明らかにしたのが、イオンチャネルの立体構造研究のはしりである<ref><pubmed>2461515</pubmed></ref>。1998年にはMacKinnon(2003年ノーベル化学賞)らにより、はじめてのイオンチャネルのX線結晶構造解析として、原核生物由来のカリウムチャネルであるKcsAチャネルの構造が明らかにされた<ref><pubmed>9525859</pubmed></ref>。現在までに明らかにされたイオンチャネルの結晶構造の多くは比較的分子量の小さいカリウムチャネルが中心であるが、ゲーティングやイオン透過機構など各種イオンチャネルに普遍的な機構が次々に明らかになりつつある。
==イオンチャネルの構造とファミリー==
 イオンチャネルは、通すイオンの種類やリガンドの種類などによって命名・分類されている。また分子構造(トポロジー)などからも分類される。
===電位依存性イオンチャネルファミリー===
====電位依存性カリウムチャネル====
[[Image:Kchannel.jpg|300px|thumb|right|図2 電位依存性カリウムチャネルαサブユニットの構造。これが4つ集まって図1のような立体構造をとる。]]電位依存性カリウムチャネルは6回膜貫通型の膜タンパク質である(図2)。四つのαサブユニットが集まって一つのイオンチャネルが構成される。六つの膜貫通セグメント(S1~S6)のうち最初の四つ(S1~S4)は電位センサードメインと呼ばれ、細胞膜内外の電位差を感じるセンサーとして機能する。特にS4セグメントには正電荷を持つアミノ酸(主にアルギニン)が3アミノ酸おきに配置されており、この正電荷のクラスターが膜電位センサーとしての中心的な役割を果たしている。残りの二つのセグメント(S5~S6)はポアドメインと呼ばれ、四つのサブユニットが集まってイオン透過路を構成する。S5-S6の間のループは特にPループと呼ばれ、イオン選択性フィルターとしてカリウムイオンを選択的に透過させる機能を持っている。またS6セグメントは開閉のゲートとして働いていると考えられている。膜電位が脱分極すると、それを感知したS4セグメントが細胞外側に向かってスライドするような構造変化を起こす。その変化がS4-S5リンカーを通じてポアドメインに伝わり、S6セグメントのゲートが開くと考えられている。
分子としては40種類程度の遺伝子が存在し、イオンチャネルの中でも最も大きなファミリーの一つである。Hodgkin-Huxleyの時代からもっともよく研究されているイオンチャネルファミリーの一つであり、結晶構造もすでに明らかにされている。機能を調節するための修飾サブユニット(βサブユニット)がいくつか知られている。
<references />

2012年6月4日 (月) 14:37時点における版

英:ion channel、独: Ionenkanal、仏: canal ionique

イオンチャネルとは、形質膜あるいは内膜系に存在する、イオンを透過させる役割を持つ膜タンパク質である。生体膜を構成する脂質二重膜はイオンをほとんど透過しないため、イオンを膜の内外に透過させるために生体機能に必須のタンパク質であり、バクテリアから高等動物まで、あらゆる細胞に発現している。イオン透過路に存在するイオン選択性フィルターにより、通ることのできるイオンの種類、あるいは大きさが決まっている。したがってカリウムチャネルなど、透過するイオンの種類によって分類することが可能である。またゲート機構によっても分類が可能で、膜電位に依存して開閉する電位依存性イオンチャネルや、リガンドが結合することによって開くリガンド依存性イオンチャネル(イオンチャネル型受容体)、機械刺激受容チャネルなどが存在する。神経回路の活動、筋収縮、感覚受容など、イオンが関わるあらゆる生理機能に深く関与している。

イオンチャネルとは

図1 電位依存性カリウムチャネルの構造(pdb:2R9R)。紫の球はカリウムイオン。

イオンチャネルは、形質膜や細胞内膜系に存在する膜タンパク質である。イオンは脂質二重膜をほとんど透過しないため、細胞内外にイオンを輸送するためにイオンチャネルが必要になる。イオン透過路を有し、濃度と電位の勾配に従ってイオンを流出入させる機能を持つ。イオン透過路は通常ゲート機構を有し、膜電位やリガンドなどの刺激により開閉する。透過させるイオンの種類や、ゲート機構の種類、トポロジー(何回膜を貫通しているか)などによって分類される。神経細胞における活動電位の発生、筋収縮、神経伝達物質の放出、ホルモン等の分泌、感覚など、イオンが関わるありとあらゆる生理現象を担う重要な膜タンパク質である。

イオンチャネル研究の歴史

1950年代に発表されたHodgkinとHuxley(1963年ノーベル医学生理学賞)による一連のイカの巨大軸索を使った実験により、活動電位が起こる際に細胞膜のナトリウムイオン透過性が高まり、活動電位が静まる際にはカリウムイオン透過性が高まることが明らかにされた。これによりゲート、イオン選択性を有するイオンチャネルの存在が示唆された。1970年代になり、NeherとSakmann(1991年ノーベル医学生理学賞)によって開発されたパッチクランプ法により、単一イオンチャネルの電流が初めて計測され、ガラス電極内に単離できる実体としてのイオンチャネルの存在が証明された。1980年代に入り遺伝子クローニングの時代に入ると、沼、野田らによるニコチン性アセチルコリン受容体や電位依存性ナトリウムチャネルのcDNAクローニング、Janらによる電位依存性カリウムチャネルのcDNAクローニングを皮切りにつぎつぎとイオンチャネルのcDNAがクローニングされていった。1988年、豊島とUnwinが電子線結晶構造解析でシビレエイのニコチン性アセチルコリン受容体の構造を明らかにしたのが、イオンチャネルの立体構造研究のはしりである[1]。1998年にはMacKinnon(2003年ノーベル化学賞)らにより、はじめてのイオンチャネルのX線結晶構造解析として、原核生物由来のカリウムチャネルであるKcsAチャネルの構造が明らかにされた[2]。現在までに明らかにされたイオンチャネルの結晶構造の多くは比較的分子量の小さいカリウムチャネルが中心であるが、ゲーティングやイオン透過機構など各種イオンチャネルに普遍的な機構が次々に明らかになりつつある。

イオンチャネルの構造とファミリー

 イオンチャネルは、通すイオンの種類やリガンドの種類などによって命名・分類されている。また分子構造(トポロジー)などからも分類される。

電位依存性イオンチャネルファミリー

電位依存性カリウムチャネル

図2 電位依存性カリウムチャネルαサブユニットの構造。これが4つ集まって図1のような立体構造をとる。

電位依存性カリウムチャネルは6回膜貫通型の膜タンパク質である(図2)。四つのαサブユニットが集まって一つのイオンチャネルが構成される。六つの膜貫通セグメント(S1~S6)のうち最初の四つ(S1~S4)は電位センサードメインと呼ばれ、細胞膜内外の電位差を感じるセンサーとして機能する。特にS4セグメントには正電荷を持つアミノ酸(主にアルギニン)が3アミノ酸おきに配置されており、この正電荷のクラスターが膜電位センサーとしての中心的な役割を果たしている。残りの二つのセグメント(S5~S6)はポアドメインと呼ばれ、四つのサブユニットが集まってイオン透過路を構成する。S5-S6の間のループは特にPループと呼ばれ、イオン選択性フィルターとしてカリウムイオンを選択的に透過させる機能を持っている。またS6セグメントは開閉のゲートとして働いていると考えられている。膜電位が脱分極すると、それを感知したS4セグメントが細胞外側に向かってスライドするような構造変化を起こす。その変化がS4-S5リンカーを通じてポアドメインに伝わり、S6セグメントのゲートが開くと考えられている。

分子としては40種類程度の遺伝子が存在し、イオンチャネルの中でも最も大きなファミリーの一つである。Hodgkin-Huxleyの時代からもっともよく研究されているイオンチャネルファミリーの一つであり、結晶構造もすでに明らかにされている。機能を調節するための修飾サブユニット(βサブユニット)がいくつか知られている。


  1. Toyoshima, C., & Unwin, N. (1988).
    Ion channel of acetylcholine receptor reconstructed from images of postsynaptic membranes. Nature, 336(6196), 247-50. [PubMed:2461515] [WorldCat] [DOI]
  2. Doyle, D.A., Morais Cabral, J., Pfuetzner, R.A., Kuo, A., Gulbis, J.M., Cohen, S.L., ..., & MacKinnon, R. (1998).
    The structure of the potassium channel: molecular basis of K+ conduction and selectivity. Science (New York, N.Y.), 280(5360), 69-77. [PubMed:9525859] [WorldCat] [DOI]