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''京都大学大学院文学研究科''<br>
''京都大学大学院文学研究科''<br>
DOI [[XXXX]]/XXXX 原稿受付日:2013年11月25日 原稿完成日:2013年月日<br>
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担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0141446 漆谷 真](京都大学 大学院医学研究科)<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0141446 漆谷 真](滋賀医科大学 医学部 脳神経内科)<br>
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英語名:Williams syndrome, Williams-Beuren syndrome
英語名:Williams syndrome, Williams-Beuren syndrome


類義語:ウイリアムス症候群、ウイリアムズ症候群、ウィリアムズ-バウレン症候群
類義語:[[ウィリアムス-ボイレン症候群]]


関連語:乳児高[[カルシウム]]血症
関連語:[[乳児高カルシウム血症]]


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{{box|text= ウィリアムス症候群は、7番[[wikipedia:ja:染色体|染色体]]長腕の微細欠失症候群(7q11.23)で、発生頻度の稀な[[神経発達障害]]である。[[wikipedia:ja:心臓|心臓]]疾患、特徴のある顔貌、[[聴覚過敏]]、[[知的障害]]、[[視空間認知]]の障害、高い社交性などが伴う。言語能力の優位性と視空間認知能力の障害という能力の不均衡があると言われてきたが、近年この考えは言語能力と認知能力の乖離を誇張しがちであるとも批判されている。視空間認知の障害として、脳の[[背側経路]]の障害が指摘されている。また、社交性の高さについては、[[扁桃体]]の機能との関連が指摘されている。}}
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==ウィリアムズ症候群とは==
==ウィリアムス症候群とは==
 ウィリアムズ症候群は、7番染色体長腕の微細欠失症候群(7q11.23)で、発生頻度の稀な神経[[発達障害]]である<ref><pubmed>7693128</pubmed></ref>。[[wikipedia:ja:エラスチン|エラスチン]]遺伝子(elastin; ELN)を含む約1.6Mbの領域の約20の遺伝子が欠失していると言われ<ref>'''山本俊至'''<br> ウイリアムズ症候群であることを確認するには<br>大澤真木子・中西俊雄(監修)松岡瑠美子・砂原眞理子・古谷道子(編)ウイリアムズ症候群ガイドブック<br>''東京: 中山書店'':2010, pp.10–13</ref>、診断は臨床症状の診察を行い、この領域の欠失を判定する[[wikipedia:ja:FISH法|FISH]]法により確定される。発生頻度は、従来は2万人に1人と言われていたが、最近では7500人に1人の割合という報告がある<ref><pubmed>12088082</pubmed></ref>。
 ウィリアムス症候群は、7番染色体長腕の微細欠失症候群(7q11.23)で、発生頻度の稀な神経[[発達障害]]である<ref><pubmed>7693128</pubmed></ref>。


==症状と特徴==
==臨床症状==
 [[wikipedia:ja:大動脈弁上狭窄|大動脈弁上狭窄]]という[[wikipedia:ja:心臓疾患|心臓疾患]]、短い[[wikipedia:ja:眼瞼裂|眼瞼裂]]や低い[[wikipedia:ja:鼻根|鼻根]]などの特徴的な顔貌、聴覚過敏、[[wikipedia:ja:低身長|低身長]]などの身体的特徴を伴い、乳児期に[[wikipedia:ja:高カルシウム血症|高カルシウム血症]]を示す子もいる<ref>'''山本俊至'''<br> ウイリアムズ症候群とは<br>大澤真木子・中西俊雄(監修)松岡瑠美子・砂原眞理子・古谷道子(編)ウイリアムズ症候群ガイドブック<br>''東京: 中山書店'':2010, pp.6–9</ref>。
===身体所見===
[[image:Williams_syndrome.jpg|thumb|200px|'''図1.ウィリアムス症候群の症例(10歳男性)'''<br>Wikipediaより]]


 平均[[知能指数]]が55程度で、軽度から中度の[[知的障害]]を持つ人が多い<ref><pubmed>10953231</pubmed></ref>。ウィリアムズ症候群を持つ人の特性の中で特筆すべきものとして、言語能力の優位性と視空間認知能力の障害という能力の不均衡があると言われてきた<ref>'''CB Mervis, J Morris, J Bertrand, BF Robinson'''<br>Williams syndrome: Findings from an integrated program of research.<br>In H Tager-Flusberg (Ed.), Neurodevelopmental disorders.<br>''Cambridge, MA: MIT Press'':1999, pp.65–110</ref><ref><pubmed>3584299</pubmed></ref>。そのことにより、言語能力のモジュール説(言語が他の脳領域から独立して機能していることを主張する立場)を支持する症例として研究者らに取り上げられてきたことがあった<ref>'''S Pinker'''<br>Words and rules: The ingredients of language.<br>''New York: Basic Books.'':1999</ref>。しかし、近年この考えはウィリアムズ症候群における言語能力と認知能力の乖離を誇張しがちであるとし批判され<ref><pubmed>17326109</pubmed></ref>、その批判を支持する研究が多い<ref>'''A Karmiloff-Smith'''<br>Research into Williams syndrome: The state of the art.<br>In CA Nelson, M Luciana (Eds.), Handbook of Developmental Cognitive
 [[w:supravalvar aortic stenosis|大動脈弁上狭窄]]、短い[[wikipedia:ja:眼瞼裂|眼瞼裂]]や低い[[wikipedia:ja:鼻根|鼻根]]などの特徴的な顔貌(図1)、聴覚過敏、[[wikipedia:ja:低身長|低身長]]などの身体的特徴を伴い、乳児期に[[wikipedia:ja:高カルシウム血症|高カルシウム血症]]を示す患者もいる<ref>'''山本俊至'''<br> [[ウイリアムズ症候群]]とは<br>大澤真木子・中西俊雄(監修)松岡瑠美子・砂原眞理子・古谷道子(編)ウイリアムズ症候群ガイドブック<br>''東京: 中山書店'':2010, pp.6–9</ref>。
Neuroscience (2nd ed.).<br>''Cambridge, MA: MIT Press.'':2008, pp.691–699</ref><ref><pubmed>9180000</pubmed></ref>。


 [[image:Williams_syndrome_fig1.png|thumb|350px|'''図1.ウィリアムズ症候群を持つ子どもが描いた自転車の絵'''<br>左は9歳7か月時、右は12歳11か月時に描いたもの 左は、ハンドル(handles)・ペダル(pedals)・シート(seat)・輪止め(spokes)・車輪(wheel)を描写している<ref name=ref1><pubmed>10899809</pubmed></ref> John Wiley & Sonsより許可を得て掲載]] 
===神経発達===
[[image:Williams_syndrome_fig1.png|thumb|350px|'''図2.ウィリアムス症候群を持つ子どもが描いた自転車の絵'''<br>左は9歳7か月時、右は12歳11か月時に描いたもの 左は、ハンドル(handles)・ペダル(pedals)・シート(seat)・輪止め(spokes)・車輪(wheel)を描写している<ref name=ref1><pubmed>10899809</pubmed></ref> John Wiley & Sonsより許可を得て掲載]]


 視空間認知では、積み木の模様構成や描画でかなりの困難を示す。ウィリアムズ症候群を持つ子どもの描画能力の例として、図1がある<ref name=ref1></ref>。その一方で、顔の認識能力は他の能力と比べて高く、複数の顔写真の中からターゲットとなる顔と(角度や照明の状況が異なっている)同じ顔を選択させる[[ベントン顔認識テスト]](Benton Test of Facial Recognition)で、生活年齢と同等かそれに近いレベルの成績を示すことが報告されている<ref>'''U Bellugi, PP Wang, TL Jernigan'''<br>Williams syndrome: An unusual neuropsychological profile.<br>In S Broman, J Grafman (Eds.), Atypical cognitive deficits in developmental disorders: Implications for brain function.<br>'' Hillsdale, NJ: Lawrence Erlbaum Associates.'':1994, pp.23–56</ref><ref><pubmed>12893122</pubmed></ref>。
 平均[[知能指数]]が55程度で、軽度から中度の[[知的障害]]を持つ人が多い<ref><pubmed>10953231</pubmed></ref>。ウィリアムス症候群を持つ人の特性の中で特筆すべきものとして、言語能力の優位性と視空間認知能力の障害という能力の不均衡があると言われてきた<ref>'''CB Mervis, J Morris, J Bertrand, BF Robinson'''<br>Williams syndrome: Findings from an integrated program of research.<br>In H Tager-Flusberg (Ed.), Neurodevelopmental disorders.<br>''Cambridge, MA: MIT Press'':1999, pp.65–110</ref><ref><pubmed>3584299</pubmed></ref>。そのことにより、言語能力のモジュール説(言語が他の脳領域から独立して機能していることを主張する立場)を支持する症例として研究者らに取り上げられてきたことがあった<ref>'''S Pinker'''<br>Words and rules: The ingredients of language.<br>''New York: Basic Books.'':1999</ref>。しかし、近年この考えはウィリアムス症候群における言語能力と認知能力の乖離を誇張しがちであるとし批判され<ref><pubmed>17326109</pubmed></ref>、その批判を支持する研究が多い<ref>'''A Karmiloff-Smith'''<br>Research into Williams syndrome: The state of the art.<br>In CA Nelson, M Luciana (Eds.), Handbook of Developmental Cognitive Neuroscience (2nd ed.).<br>''Cambridge, MA: MIT Press.'':2008, pp.691–699</ref><ref><pubmed>9180000</pubmed></ref>。
 
 視空間認知では、積み木の模様構成や描画でかなりの困難を示す。ウィリアムス症候群を持つ子どもの描画能力の例として、図2がある<ref name=ref1></ref>。その一方で、顔の認識能力は他の能力と比べて高く、複数の顔写真の中からターゲットとなる顔と角度や照明の状況が異なっている同じ顔を選択させる[[ベントン顔認識テスト]](Benton [[Test]] of Facial Recognition)で、生活年齢と同等かそれに近いレベルの成績を示すことが報告されている<ref>'''U Bellugi, PP Wang, TL Jernigan'''<br>Williams syndrome: An unusual neuropsychological profile.<br>In S Broman, J Grafman (Eds.), Atypical cognitive deficits in developmental disorders: Implications for brain function.<br>'' Hillsdale, NJ: Lawrence Erlbaum Associates.'':1994, pp.23–56</ref><ref><pubmed>12893122</pubmed></ref>。


 言語・社会能力では、他の能力に比べて高い語い能力を有する。しかし、文法能力は精神年齢と同程度で、語用能力(文脈に応じて適切に言葉を理解・使用する能力)にも困難を抱えるという報告がある<ref><pubmed>22866045</pubmed></ref><ref><pubmed>17241486</pubmed></ref>。また、初対面の人にも躊躇なく接することや人とたくさん話すという高い社交性を持つ<ref><pubmed>20070473</pubmed></ref><ref><pubmed>10953232</pubmed></ref>が、その高すぎる社交性によりトラブルになるまたは巻き込まれるということもある<ref>'''E Semel, SR Rosner'''<br>Understanding Williams syndrome: Behavioral patterns and interventions<br>''Mahwah, NJ: Lawrence Erlbaum Associates'':2003</ref>。
 言語・社会能力では、他の能力に比べて高い語い能力を有する。しかし、文法能力は精神年齢と同程度で、語用能力(文脈に応じて適切に言葉を理解・使用する能力)にも困難を抱えるという報告がある<ref><pubmed>22866045</pubmed></ref><ref><pubmed>17241486</pubmed></ref>。また、初対面の人にも躊躇なく接することや人とたくさん話すという高い社交性を持つ<ref><pubmed>20070473</pubmed></ref><ref><pubmed>10953232</pubmed></ref>が、その高すぎる社交性によりトラブルになるまたは巻き込まれるということもある<ref>'''E Semel, SR Rosner'''<br>Understanding Williams syndrome: Behavioral patterns and interventions<br>''Mahwah, NJ: Lawrence Erlbaum Associates'':2003</ref>。


 神経基盤としては、視空間認知の障害として、脳の[[背側経路]]の障害が指摘されている<ref><pubmed>9223077</pubmed></ref><ref><pubmed>15339645</pubmed></ref>。Meyer-Lindenbergら<ref><pubmed>16760918</pubmed></ref>は、[[fMRI]]の知見などから、[[腹側経路]]ではそれほど問題がないものの、背側経路で低活性が見られ、さらに[[頭頂間溝]]の構造異常が見られることからこの部分から背側経路への情報入力に問題がある可能性を指摘している。ウィリアムズ症候群における頭頂間溝の構造異常が視空間認知障害と関わるという指摘は、他の研究でもなされている<ref><pubmed>16120786</pubmed></ref>。
==診断==
 7番染色体長腕の微細欠失症候群(7q11.23)で、[[wikipedia:ja:エラスチン|エラスチン]]遺伝子(elastin; ELN)を含む約1.6Mbの領域の約20の遺伝子が欠失していると言われ<ref>'''山本俊至'''<br> ウイリアムズ症候群であることを確認するには<br>大澤真木子・中西俊雄(監修)松岡瑠美子・砂原眞理子・古谷道子(編)ウイリアムズ症候群ガイドブック<br>''東京: 中山書店'':2010, pp.10–13</ref>、診断は臨床症状の診察を行い、この領域の欠失を判定する[[FISH]]法により確定される。
 
==疫学==
 頻度は、従来は2万人に1人と言われていたが、最近では7500人に1人の割合という報告がある<ref><pubmed>12088082</pubmed></ref>。
 
==神経基盤==
 神経基盤としては、視空間認知の障害として、脳の[[背側経路]]の障害が指摘されている<ref><pubmed>9223077</pubmed></ref><ref><pubmed>15339645</pubmed></ref>。Meyer-Lindenbergら<ref><pubmed>16760918</pubmed></ref>は、[[fMRI]]の知見などから、[[腹側経路]]ではそれほど問題がないものの、背側経路で低活性が見られ、さらに[[頭頂間溝]]の構造異常が見られることからこの部分から背側経路への情報入力に問題がある可能性を指摘している。ウィリアムス症候群における頭頂間溝の構造異常が視空間認知障害と関わるという指摘は、他の研究でもなされている<ref><pubmed>16120786</pubmed></ref>。
 
 また、社交性や不安については、[[扁桃体]]の関与が指摘されている。ある研究では、人画像に対して扁桃体の活性が低く、物体画像に対しては扁桃体の活性が強いという結果が見られた<ref><pubmed>16007084</pubmed></ref>。このことは、人に対する親密性と特定の物体(例:注射)に対する過度の不安を示すというウィリアムス症候群を持つ人の行動パターンをよく表している。さらに、扁桃体の大きさがウィリアムス症候群を持つ人では定型発達者よりも大きく、その大きさと人に対する親密性が関連するという報告がある<ref><pubmed>19406143</pubmed></ref>。
 
==治療==
 現時点で病態に基づく根治療法は存在しない。


 また、社交性や不安については、[[扁桃体]]の関与が指摘されている。ある研究では、人画像に対して扁桃体の活性が低く、物体画像に対しては扁桃体の活性が強いという結果が見られた<ref><pubmed>16007084</pubmed></ref>。このことは、人に対する親密性と特定の物体(例:注射)に対する過度の不安を示すというウィリアムズ症候群を持つ人の行動パターンをよく表している。さらに、扁桃体の大きさがウィリアムズ症候群を持つ人では定型発達者よりも大きく、その大きさと人に対する親密性が関連するという報告がある<ref><pubmed>19406143</pubmed></ref>。
 [[聴覚]]過敏などに伴う不安のコントロール、高い社交性(例:人に近づきすぎる)がトラブルを生まないような配慮が必要である。また、一見して分かる、多弁や高い社交性という特徴だけにとらわれず、ウィリアムス症候群を持つ人の得手・不得手を見極めた対応が重要である。


==臨床==
 易怒性や[[摂食]]不良などの症状を呈する高[[カルシウム]]血症乳児の場合はカルシウムや[[ビタミンD]]の摂取制限を行うことがある。[[wj:高血圧|高血圧]]、[[wj:甲状腺|甲状腺]]機能異常や[[wj:耐糖能|耐糖能]]異常を定期的に観察し、異常を認めた場合は内科的加療が必要である。<ref>'''A Khan'''<br>Williams Syndrome <br>''Medscape reference''[http://emedicine.medscape.com/article/893149-treatment Treatment & Management] </ref>。
 聴覚過敏などに伴う不安のコントロール、高い社交性(例:人に近づきすぎる)がトラブルを生まないような配慮が必要である。また、一見して分かる、多弁や高い社交性という特徴だけにとらわれず、ウィリアムズ症候群を持つ人の得手・不得手を見極めた対応が重要である。


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
<references/>
<references/>

2020年8月27日 (木) 21:32時点における最新版

浅田 晃佑
東京大学先端科学技術研究センター
板倉 昭二
京都大学大学院文学研究科
DOI:10.14931/bsd.4471 原稿受付日:2013年11月25日 原稿完成日:2013年11月30日
担当編集委員:漆谷 真(滋賀医科大学 医学部 脳神経内科)

英語名:Williams syndrome, Williams-Beuren syndrome

類義語:ウィリアムス-ボイレン症候群

関連語:乳児高カルシウム血症

 ウィリアムス症候群は、7番染色体長腕の微細欠失症候群(7q11.23)で、発生頻度の稀な神経発達障害である。心臓疾患、特徴のある顔貌、聴覚過敏知的障害視空間認知の障害、高い社交性などが伴う。言語能力の優位性と視空間認知能力の障害という能力の不均衡があると言われてきたが、近年この考えは言語能力と認知能力の乖離を誇張しがちであるとも批判されている。視空間認知の障害として、脳の背側経路の障害が指摘されている。また、社交性の高さについては、扁桃体の機能との関連が指摘されている。

ウィリアムス症候群とは

 ウィリアムス症候群は、7番染色体長腕の微細欠失症候群(7q11.23)で、発生頻度の稀な神経発達障害である[1]

臨床症状

身体所見

図1.ウィリアムス症候群の症例(10歳男性)
Wikipediaより

 大動脈弁上狭窄、短い眼瞼裂や低い鼻根などの特徴的な顔貌(図1)、聴覚過敏、低身長などの身体的特徴を伴い、乳児期に高カルシウム血症を示す患者もいる[2]

神経発達

図2.ウィリアムス症候群を持つ子どもが描いた自転車の絵
左は9歳7か月時、右は12歳11か月時に描いたもの 左は、ハンドル(handles)・ペダル(pedals)・シート(seat)・輪止め(spokes)・車輪(wheel)を描写している[3] John Wiley & Sonsより許可を得て掲載

 平均知能指数が55程度で、軽度から中度の知的障害を持つ人が多い[4]。ウィリアムス症候群を持つ人の特性の中で特筆すべきものとして、言語能力の優位性と視空間認知能力の障害という能力の不均衡があると言われてきた[5][6]。そのことにより、言語能力のモジュール説(言語が他の脳領域から独立して機能していることを主張する立場)を支持する症例として研究者らに取り上げられてきたことがあった[7]。しかし、近年この考えはウィリアムス症候群における言語能力と認知能力の乖離を誇張しがちであるとし批判され[8]、その批判を支持する研究が多い[9][10]

 視空間認知では、積み木の模様構成や描画でかなりの困難を示す。ウィリアムス症候群を持つ子どもの描画能力の例として、図2がある[3]。その一方で、顔の認識能力は他の能力と比べて高く、複数の顔写真の中からターゲットとなる顔と角度や照明の状況が異なっている同じ顔を選択させるベントン顔認識テスト(Benton Test of Facial Recognition)で、生活年齢と同等かそれに近いレベルの成績を示すことが報告されている[11][12]

 言語・社会能力では、他の能力に比べて高い語い能力を有する。しかし、文法能力は精神年齢と同程度で、語用能力(文脈に応じて適切に言葉を理解・使用する能力)にも困難を抱えるという報告がある[13][14]。また、初対面の人にも躊躇なく接することや人とたくさん話すという高い社交性を持つ[15][16]が、その高すぎる社交性によりトラブルになるまたは巻き込まれるということもある[17]

診断

 7番染色体長腕の微細欠失症候群(7q11.23)で、エラスチン遺伝子(elastin; ELN)を含む約1.6Mbの領域の約20の遺伝子が欠失していると言われ[18]、診断は臨床症状の診察を行い、この領域の欠失を判定するFISH法により確定される。

疫学

 頻度は、従来は2万人に1人と言われていたが、最近では7500人に1人の割合という報告がある[19]

神経基盤

 神経基盤としては、視空間認知の障害として、脳の背側経路の障害が指摘されている[20][21]。Meyer-Lindenbergら[22]は、fMRIの知見などから、腹側経路ではそれほど問題がないものの、背側経路で低活性が見られ、さらに頭頂間溝の構造異常が見られることからこの部分から背側経路への情報入力に問題がある可能性を指摘している。ウィリアムス症候群における頭頂間溝の構造異常が視空間認知障害と関わるという指摘は、他の研究でもなされている[23]

 また、社交性や不安については、扁桃体の関与が指摘されている。ある研究では、人画像に対して扁桃体の活性が低く、物体画像に対しては扁桃体の活性が強いという結果が見られた[24]。このことは、人に対する親密性と特定の物体(例:注射)に対する過度の不安を示すというウィリアムス症候群を持つ人の行動パターンをよく表している。さらに、扁桃体の大きさがウィリアムス症候群を持つ人では定型発達者よりも大きく、その大きさと人に対する親密性が関連するという報告がある[25]

治療

 現時点で病態に基づく根治療法は存在しない。

 聴覚過敏などに伴う不安のコントロール、高い社交性(例:人に近づきすぎる)がトラブルを生まないような配慮が必要である。また、一見して分かる、多弁や高い社交性という特徴だけにとらわれず、ウィリアムス症候群を持つ人の得手・不得手を見極めた対応が重要である。

 易怒性や摂食不良などの症状を呈する高カルシウム血症乳児の場合はカルシウムやビタミンDの摂取制限を行うことがある。高血圧甲状腺機能異常や耐糖能異常を定期的に観察し、異常を認めた場合は内科的加療が必要である。[26]

参考文献

  1. Ewart, A.K., Morris, C.A., Atkinson, D., Jin, W., Sternes, K., Spallone, P., ..., & Keating, M.T. (1993).
    Hemizygosity at the elastin locus in a developmental disorder, Williams syndrome. Nature genetics, 5(1), 11-6. [PubMed:7693128] [WorldCat] [DOI]
  2. 山本俊至
    ウイリアムズ症候群とは
    大澤真木子・中西俊雄(監修)松岡瑠美子・砂原眞理子・古谷道子(編)ウイリアムズ症候群ガイドブック
    東京: 中山書店:2010, pp.6–9
  3. 3.0 3.1 Mervis, C.B., & Klein-Tasman, B.P. (2000).
    Williams syndrome: cognition, personality, and adaptive behavior. Mental retardation and developmental disabilities research reviews, 6(2), 148-58. [PubMed:10899809] [WorldCat] [DOI]
  4. Bellugi, U., Lichtenberger, L., Jones, W., Lai, Z., & St George, M. (2000).
    I. The neurocognitive profile of Williams Syndrome: a complex pattern of strengths and weaknesses. Journal of cognitive neuroscience, 12 Suppl 1, 7-29. [PubMed:10953231] [WorldCat]
  5. CB Mervis, J Morris, J Bertrand, BF Robinson
    Williams syndrome: Findings from an integrated program of research.
    In H Tager-Flusberg (Ed.), Neurodevelopmental disorders.
    Cambridge, MA: MIT Press:1999, pp.65–110
  6. Udwin, O., Yule, W., & Martin, N. (1987).
    Cognitive abilities and behavioural characteristics of children with idiopathic infantile hypercalcaemia. Journal of child psychology and psychiatry, and allied disciplines, 28(2), 297-309. [PubMed:3584299] [WorldCat] [DOI]
  7. S Pinker
    Words and rules: The ingredients of language.
    New York: Basic Books.:1999
  8. Mervis, C.B., & Becerra, A.M. (2007).
    Language and communicative development in Williams syndrome. Mental retardation and developmental disabilities research reviews, 13(1), 3-15. [PubMed:17326109] [WorldCat] [DOI]
  9. A Karmiloff-Smith
    Research into Williams syndrome: The state of the art.
    In CA Nelson, M Luciana (Eds.), Handbook of Developmental Cognitive Neuroscience (2nd ed.).
    Cambridge, MA: MIT Press.:2008, pp.691–699
  10. Karmiloff-Smith, A., Grant, J., Berthoud, I., Davies, M., Howlin, P., & Udwin, O. (1997).
    Language and Williams syndrome: how intact is "intact"? Child development, 68(2), 246-62. [PubMed:9180000] [WorldCat]
  11. U Bellugi, PP Wang, TL Jernigan
    Williams syndrome: An unusual neuropsychological profile.
    In S Broman, J Grafman (Eds.), Atypical cognitive deficits in developmental disorders: Implications for brain function.
    Hillsdale, NJ: Lawrence Erlbaum Associates.:1994, pp.23–56
  12. Tager-Flusberg, H., Plesa-Skwerer, D., Faja, S., & Joseph, R.M. (2003).
    People with Williams syndrome process faces holistically. Cognition, 89(1), 11-24. [PubMed:12893122] [WorldCat]
  13. Asada, K., & Itakura, S. (2012).
    Social phenotypes of autism spectrum disorders and williams syndrome: similarities and differences. Frontiers in psychology, 3, 247. [PubMed:22866045] [PMC] [WorldCat] [DOI]
  14. Brock, J. (2007).
    Language abilities in Williams syndrome: a critical review. Development and psychopathology, 19(1), 97-127. [PubMed:17241486] [WorldCat] [DOI]
  15. Dodd, H.F., Porter, M.A., Peters, G.L., & Rapee, R.M. (2010).
    Social approach in pre-school children with Williams syndrome: the role of the face. Journal of intellectual disability research : JIDR, 54(3), 194-203. [PubMed:20070473] [WorldCat] [DOI]
  16. Jones, W., Bellugi, U., Lai, Z., Chiles, M., Reilly, J., Lincoln, A., & Adolphs, R. (2000).
    II. Hypersociability in Williams Syndrome. Journal of cognitive neuroscience, 12 Suppl 1, 30-46. [PubMed:10953232] [WorldCat]
  17. E Semel, SR Rosner
    Understanding Williams syndrome: Behavioral patterns and interventions
    Mahwah, NJ: Lawrence Erlbaum Associates:2003
  18. 山本俊至
    ウイリアムズ症候群であることを確認するには
    大澤真木子・中西俊雄(監修)松岡瑠美子・砂原眞理子・古谷道子(編)ウイリアムズ症候群ガイドブック
    東京: 中山書店:2010, pp.10–13
  19. Strømme, P., Bjørnstad, P.G., & Ramstad, K. (2002).
    Prevalence estimation of Williams syndrome. Journal of child neurology, 17(4), 269-71. [PubMed:12088082] [WorldCat] [DOI]
  20. Atkinson, J., King, J., Braddick, O., Nokes, L., Anker, S., & Braddick, F. (1997).
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