「エクソサイトーシス」の版間の差分

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<font size="+1">[https://researchmap.jp/norikotakahashi 高橋 倫子]、[http://researchmap.jp/haruokasai 河西 春郎]</font><br>
''東京大学 大学院医学系研究科''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2013年2月4日 原稿完成日:2013年8月28日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/Bito 尾藤 晴彦](東京大学 大学院医学系研究科 神経生化学分野)<br>
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英語名:exocytosis 独: Exocytose 仏: exocytose <br> 同義語: 開口放出、分泌、開口分泌  
英語名:exocytosis 独: Exocytose 仏: exocytose <br> 同義語: 開口放出、分泌、開口分泌  


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 細胞からの[[wikipedia:ja:分泌|分泌]]現象は開口放出により起きることが、[[wikipedia:ja:電子顕微鏡|電子顕微鏡]]で[[シナプス小胞]]や[[分泌小胞]]が発見されたことから提唱された。その要素過程は[[膜融合]]という超微細構造変化にある点が難しい。しかし、現在では、様々の機能的測定や分子生物学的手法により、その解明が進んできた。  
 細胞からの[[wikipedia:ja:分泌|分泌]]現象は開口放出により起きることが、[[wikipedia:ja:電子顕微鏡|電子顕微鏡]]で[[シナプス小胞]]や[[分泌小胞]]が発見されたことから提唱された。その要素過程は[[膜融合]]という超微細構造変化にある点が難しい。しかし、現在では、様々の機能的測定や分子生物学的手法により、その解明が進んできた。  
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== 定義  ==
== 定義  ==
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== 多様性  ==
== 多様性  ==
 
[[Image:PVR fig 1.png|thumb|300px|'''図1.開口放出の速さの多様性'''<ref name="ref1"><pubmed> 23073634 </pubmed></ref> ]]  
(編集コメント:出来れば小見出しをつけて頂ければと思います) [[Image:PVR fig 1.png|thumb|300px|'''図1.開口放出の速さの多様性'''<ref name="ref1"><pubmed> 23073634 </pubmed></ref> ]]  


 調節性開口放出の場合には、刺激から開口放出が起きるまでの時間が1ミリ秒以下から100秒以上と10万倍以上に及ぶ<ref name="ref1"><pubmed> 23073634 </pubmed></ref>。この開口放出[[wikipedia:ja:時定数|時定数]]は開口放出を特徴づける大きな機能的指標であり(図1)、分子機構とも深く関連する。1-100ミリ秒で起きる速い開口放出の場合には、小胞と細胞膜が予め近接(ドック)している必要があり、更に、分泌関連タンパク質がある程度会合していることが予想される<ref name="ref1"><pubmed> 23073634 </pubmed></ref>。特に、1ミリ秒以下で開口放出の起きる超高速開口放出(ultrafast exocytosis)は[[シナプス前終末]]の[[アクティブゾーン]]でしか見られない<ref name="ref2"><pubmed>22794257 </pubmed></ref>。一方、100ミリ秒より遅い分泌については、分泌関連タンパク質は会合している必要はなく、また刺激後に小胞がドックするのでも十分間に合う。実際、大型有芯小胞の場合やシナプス小胞でも持続性の開口放出の場合は、刺激後に小胞がドックし、分泌関連タンパク質が会合するのが観察される。シナプス小胞の開口放出でも、持続的な反復刺激に対しては、細胞質に浮いている小胞のリサイクリングが開口放出を律速し、[[活動電位]]と開口放出のミリ秒の同期は消失する(図1)。この場合、持続的な細胞内Ca<sup>2+</sup>上昇が細胞質に浮いている小胞を刺激して開口放出を起こしていることになる。シナプス後部でも、[[長期増強]](LTP)刺激の際には、[[樹状突起]]細胞質にある小胞の開口放出によりグルタミン酸受容体の細胞膜への秒単位の挿入が起きる。  
 調節性開口放出の場合には、刺激から開口放出が起きるまでの時間が1ミリ秒以下から100秒以上と10万倍以上に及ぶ<ref name="ref1"><pubmed> 23073634 </pubmed></ref>。この開口放出[[wikipedia:ja:時定数|時定数]]は開口放出を特徴づける大きな機能的指標であり(図1)、分子機構とも深く関連する。1-100ミリ秒で起きる速い開口放出の場合には、小胞と細胞膜が予め近接(ドック)している必要があり、更に、分泌関連タンパク質がある程度会合していることが予想される<ref name="ref1"><pubmed> 23073634 </pubmed></ref>。特に、1ミリ秒以下で開口放出の起きる超高速開口放出(ultrafast exocytosis)は[[シナプス前終末]]の[[アクティブゾーン]]でしか見られない<ref name="ref2"><pubmed>22794257 </pubmed></ref>。一方、100ミリ秒より遅い分泌については、分泌関連タンパク質は会合している必要はなく、また刺激後に小胞がドックするのでも十分間に合う。実際、大型有芯小胞の場合やシナプス小胞でも持続性の開口放出の場合は、刺激後に小胞がドックし、分泌関連タンパク質が会合するのが観察される。シナプス小胞の開口放出でも、持続的な反復刺激に対しては、細胞質に浮いている小胞のリサイクリングが開口放出を律速し、[[活動電位]]と開口放出のミリ秒の同期は消失する(図1)。この場合、持続的な細胞内Ca<sup>2+</sup>上昇が細胞質に浮いている小胞を刺激して開口放出を起こしていることになる。シナプス後部でも、[[長期増強]](LTP)刺激の際には、[[樹状突起]]細胞質にある小胞の開口放出によりグルタミン酸受容体の細胞膜への秒単位の挿入が起きる。  
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 シナプスの超高速開口放出では、刺激後放出に至る時間が短いので、小胞はアクティブゾーン細胞膜にドックし、次に、プライミングという分子過程を経て、分泌準備完了状態となり、Ca<sup>2+</sup>刺激で膜融合が起きると考えるのが自然である。この分子的準備完了状態は正確にはどういうものか未解明である。この超高速開口放出が開口放出がモデルとして用いられ、普通の遅い開口放出も同一機転で起きることが想定されることが多い。  
 シナプスの超高速開口放出では、刺激後放出に至る時間が短いので、小胞はアクティブゾーン細胞膜にドックし、次に、プライミングという分子過程を経て、分泌準備完了状態となり、Ca<sup>2+</sup>刺激で膜融合が起きると考えるのが自然である。この分子的準備完了状態は正確にはどういうものか未解明である。この超高速開口放出が開口放出がモデルとして用いられ、普通の遅い開口放出も同一機転で起きることが想定されることが多い。  


 しかしながら、100ミリ秒より遅い普通の開口放出については、SNAREが拡散的に会合する時間があり、遅い開口放出は、刺激後にSNAREの拡散的な会合が起きれば、最も自然に説明される。遅い開口放出の刺激前の状態としては、t-SNAREだけ複合化した状態(binary-SNARE状態)やSNARE分子が全部分離した状態(unitary-SNARE状態)、更には、[[Cis-SNARE|''cis''-SNARE]]である状態が考えられている(図2)。この場合もCa<sup>2+</sup>依存性はシナプトタグミンと細胞膜の結合によりSNARE分子が会合し複合体を形成しやすくない機構が関与し得る。
 しかしながら、100ミリ秒より遅い普通の開口放出については、SNAREが拡散的に会合する時間があり、遅い開口放出は、刺激後にSNAREの拡散的な会合が起きれば、最も自然に説明される。遅い開口放出の刺激前の状態としては、t-SNAREだけ複合化した状態(binary-SNARE状態)やSNARE分子が全部分離した状態(unitary-SNARE状態)、更には、[[Cis-SNARE|''cis''-SNARE]]である状態が考えられている(図2)。この場合のCa<sup>2+</sup>依存性には、細胞質の小胞が細胞膜に移動したり、会合していないSNARE分子が会合し複合体を形成しやすくする機構が関与する。


 更に、SNAREの[[リン酸化]]により、複合化が調節されている場合や、cAMPやCa<sup>2+</sup>刺激により、細胞質の小胞の運動性が増す。シナプス小胞の持続的分泌や自発的分泌では後者の機構の関与が考えられる。  
 更に、SNAREの[[リン酸化]]により、複合化が調節されている場合や、cAMPやCa<sup>2+</sup>刺激により、細胞質の小胞の運動性が増す。シナプス小胞の持続的分泌や自発的分泌では後者の機構の関与が考えられる。  
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== 参考文献  ==
== 参考文献  ==


<references />  
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<br> (執筆者:高橋倫子、河西春郎 担当編集委員:尾藤晴彦)

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