「エピジェネティクス」の版間の差分

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'''3.1.4 DNAメチル化の解析方法'''<br>大別するとバイサルファイト処理(bisulfite modification, BS)を基本とする方法と、BSを使用しない方法にわかれる<ref><pubmed> 22986265 </pubmed></ref><ref><pubmed> 22945394 </pubmed></ref>。<br> BSを基本とする方法では、重亜硫酸ナトリウム(sodium bisulfite: NaHSO3)処理により、ゲノム中のメチル化されていないCをウラシル(U)に変換する。ウラシルはPCRなど酵素反応ではチミン(T)として認識されるため、その後の分子生物学解析でC/T多型として処理することができる。古典的にはBS処理後、標的領域をPCR増幅、大腸菌を形質転換し、多数の単一コロニーのシークエンスを行うことにより定性的・定量的なメチル化状態の解析が行われてきた。多検体処理には、PCR増幅後Qiagen社のPyrosequencerやSequenome社のMass Arrayなど専用の機器を用いた解析が行われている。網羅的解析として、アレイ技術を利用した方法や、次世代シークエンサーを用いた解析が行われている。前者ではIllumina社のInfinium assayが広く用いられている。後者では制限酵素処理により解析部位を限定したRRBS(reduced representative bisulfite sequencing)法や、全ゲノム解析を行うWGBS(whole genome bisulfite sequencing)が行われている。<br> BSを用いない方法として、メチル化感受性・非感受性制限酵素を利用した方法や、抗メチル化シトシン抗体やメチル化DNA結合領域(methylated DNA binding domain: MBD)などを用いメチル化DNA断片を濃縮する方法がある。抗メチル化シトシン抗体を用いた解析は、メチル化DNA免疫沈降法(methylated DNA immunoprecipitation, MeDIP)と呼ばれる。メチル化DNA断片の濃縮後、タイリングアレイや次世代シークエンサーを用いた解析が広く行われている。  
'''3.1.4 DNAメチル化の解析方法'''<br>大別するとバイサルファイト処理(bisulfite modification, BS)を基本とする方法と、BSを使用しない方法にわかれる<ref><pubmed> 22986265 </pubmed></ref><ref><pubmed> 22945394 </pubmed></ref>。<br> BSを基本とする方法では、重亜硫酸ナトリウム(sodium bisulfite: NaHSO3)処理により、ゲノム中のメチル化されていないCをウラシル(U)に変換する。ウラシルはPCRなど酵素反応ではチミン(T)として認識されるため、その後の分子生物学解析でC/T多型として処理することができる。古典的にはBS処理後、標的領域をPCR増幅、大腸菌を形質転換し、多数の単一コロニーのシークエンスを行うことにより定性的・定量的なメチル化状態の解析が行われてきた。多検体処理には、PCR増幅後Qiagen社のPyrosequencerやSequenome社のMass Arrayなど専用の機器を用いた解析が行われている。網羅的解析として、アレイ技術を利用した方法や、次世代シークエンサーを用いた解析が行われている。前者ではIllumina社のInfinium assayが広く用いられている。後者では制限酵素処理により解析部位を限定したRRBS(reduced representative bisulfite sequencing)法や、全ゲノム解析を行うWGBS(whole genome bisulfite sequencing)が行われている。<br> BSを用いない方法として、メチル化感受性・非感受性制限酵素を利用した方法や、抗メチル化シトシン抗体やメチル化DNA結合領域(methylated DNA binding domain: MBD)などを用いメチル化DNA断片を濃縮する方法がある。抗メチル化シトシン抗体を用いた解析は、メチル化DNA免疫沈降法(methylated DNA immunoprecipitation, MeDIP)と呼ばれる。メチル化DNA断片の濃縮後、タイリングアレイや次世代シークエンサーを用いた解析が広く行われている。  


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'''3.2 ヒストン修飾'''<br>DNAにヒストン蛋白質が巻きついた状態の構造をヌクレオソーム(nucleosome)といい、クロマチンの構成単位である。ヌクレオソームの4種類のヒストンのアミノ酸側鎖はさまざまな修飾を受け、クロマチン構造が変化することによって遺伝子発現が調節される。ヒストンのアミノ酸配列全体を通して修飾が認められるが、特にヒストンテールと呼ばれるヒストンのN末端に位置するリシンやアスパラギンが高頻度にアセチル化、メチル化、ユビキチン化、リン酸化およびスモイル化など多様な修飾を受ける。<br>活発に転写されている遺伝子のプロモーター領域では、ヒストンH3のリシン9やリシン14のアセチル化(H3K9ac, H3K14ac)や、リシン4のトリメチル化(H3K4me3)などが認められる。他方で、ヒストンH3のリシン9やリシン27のトリメチル化(H3K9me3, H3K27me3)などは発現が抑制されているプロモーター領域に認められる<ref><pubmed> 17522673 </pubmed></ref>。これらの修飾は、たがいに排他的であったりさまざまな組み合わせで存在したりするため、その多様性が遺伝子の発現を決定し、細胞特異的な構造・機能を生み出していると考えられている(ヒストンコード仮説)<ref><pubmed> 10638745 </pubmed></ref>。  
'''3.2 ヒストン修飾'''<br>DNAにヒストン蛋白質が巻きついた状態の構造をヌクレオソーム(nucleosome)といい、クロマチンの構成単位である。ヌクレオソームの4種類のヒストンのアミノ酸側鎖はさまざまな修飾を受け、クロマチン構造が変化することによって遺伝子発現が調節される。ヒストンのアミノ酸配列全体を通して修飾が認められるが、特にヒストンテールと呼ばれるヒストンのN末端に位置するリシンやアスパラギンが高頻度にアセチル化、メチル化、ユビキチン化、リン酸化およびスモイル化など多様な修飾を受ける。<br>活発に転写されている遺伝子のプロモーター領域では、ヒストンH3のリシン9やリシン14のアセチル化(H3K9ac, H3K14ac)や、リシン4のトリメチル化(H3K4me3)などが認められる。他方で、ヒストンH3のリシン9やリシン27のトリメチル化(H3K9me3, H3K27me3)などは発現が抑制されているプロモーター領域に認められる<ref><pubmed> 17522673 </pubmed></ref>。これらの修飾は、たがいに排他的であったりさまざまな組み合わせで存在したりするため、その多様性が遺伝子の発現を決定し、細胞特異的な構造・機能を生み出していると考えられている(ヒストンコード仮説)<ref><pubmed> 10638745 </pubmed></ref>。  
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'''4.2 脳神経系細胞における様々なシトシン修飾状態とその機能'''<br>メチルシトシンがten-eleven translocation (TET)蛋白質によって酸化されたハイドロキシメチルシトシン(5-hydroxymethylcytosine, 5-hmc)<ref><pubmed> 19372391 </pubmed></ref>が脳神経系細胞に豊富に含まれることが近年明らかにされた<ref><pubmed> 19372393 </pubmed></ref>。その後、TET存在下でカルボキシルシトシン(5-carboxylcytosine, 5-cac)、フォルミルシトシン(5-formylcytosine, 5-fc)が生成されることが報告されている<ref><pubmed> 21778364 </pubmed></ref>。これら多様なシトシン修飾は、分裂しない神経細胞における脱メチル化過程の中間産物であると考えられている。盛んに分裂する細胞では、維持メチラーゼの活性が抑制され、メチル化されていない細胞が増加することによる脱メチル化が見られ、passive demethylationと呼ばれている<ref><pubmed> 21925312 </pubmed></ref>。これに対し、5-hmcを介したシトシンへの脱メチル化は、active demethylationであると考えられており、哺乳類では確認されていなかった。現在提唱されているモデルでは、5-fcから5-cacに変換された後、未同定のcarboxylaseによって再びシトシンに変換されるか、5-fcあるいは5-cacがactivation-induced cytidine deaminase (AID)やapolipoprotein B mRNA editing enzyme catalytic polypeptide (APOBEC)の作用によりチミンに変換され、thymine-DNA glycosylase (TDG)や他のDNA修復関連酵素群による塩基除去修復系によってシトシンに戻るモデルなどが提案されている<ref><pubmed> 19659441 </pubmed></ref>。また、多くのMBDは5-hmcに結合しないことがin vitroで示されてきたが、近年MeCP2が5-hmcに結合することが明らかにされ<ref><pubmed> 23260135 </pubmed></ref>、また、5-hmc結合蛋白質のスクリーニングも進みつつあり<ref><pubmed> 23434322 </pubmed></ref>、脱メチル化過程の中間産物以外の機能を持つことが示唆されている。  
'''4.2 脳神経系細胞における様々なシトシン修飾状態とその機能'''<br>メチルシトシンがten-eleven translocation (TET)蛋白質によって酸化されたハイドロキシメチルシトシン(5-hydroxymethylcytosine, 5-hmc)<ref><pubmed> 19372391 </pubmed></ref>が脳神経系細胞に豊富に含まれることが近年明らかにされた<ref><pubmed> 19372393 </pubmed></ref>。その後、TET存在下でカルボキシルシトシン(5-carboxylcytosine, 5-cac)、フォルミルシトシン(5-formylcytosine, 5-fc)が生成されることが報告されている<ref><pubmed> 21778364 </pubmed></ref>。これら多様なシトシン修飾は、分裂しない神経細胞における脱メチル化過程の中間産物であると考えられている。盛んに分裂する細胞では、維持メチラーゼの活性が抑制され、メチル化されていない細胞が増加することによる脱メチル化が見られ、passive demethylationと呼ばれている<ref><pubmed> 21925312 </pubmed></ref>。これに対し、5-hmcを介したシトシンへの脱メチル化は、active demethylationであると考えられており、哺乳類では確認されていなかった。現在提唱されているモデルでは、5-fcから5-cacに変換された後、未同定のcarboxylaseによって再びシトシンに変換されるか、5-fcあるいは5-cacがactivation-induced cytidine deaminase (AID)やapolipoprotein B mRNA editing enzyme catalytic polypeptide (APOBEC)の作用によりチミンに変換され、thymine-DNA glycosylase (TDG)や他のDNA修復関連酵素群による塩基除去修復系によってシトシンに戻るモデルなどが提案されている<ref><pubmed> 19659441 </pubmed></ref>。また、多くのMBDは5-hmcに結合しないことがin vitroで示されてきたが、近年MeCP2が5-hmcに結合することが明らかにされ<ref><pubmed> 23260135 </pubmed></ref>、また、5-hmc結合蛋白質のスクリーニングも進みつつあり<ref><pubmed> 23434322 </pubmed></ref>、脱メチル化過程の中間産物以外の機能を持つことが示唆されている。  


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<u>'''5. 参考文献'''</u>


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