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英語名:Ephrin
英語名:Ephrin


 [[受容体型チロシンキナーゼ]]ファミリーの一つである[[Eph受容体]]群(Eph receptors)の[[リガンド]]分子群の総称。1994年にEph受容体のリガンド分子であることが明らかにされたが、’Eph family receptor interacting proteins’ということから、1997年に様々な名称を統一してエフリン(ephrin)と命名された。
 [[受容体型チロシンキナーゼ]]ファミリーの一つである[[Eph受容体]]群(Eph receptors)の[[リガンド]]分子群の総称。1994年にEph受容体のリガンド分子であることが明らかにされたが、’Eph family receptor interacting proteins’ということから、1997年に様々な名称を統一してエフリン(ephrin)と命名された<ref><pubmed> 9267020 </pubmed></ref>。


== サブタイプ ==
== サブタイプ ==


 [[wikipedia:ja:哺乳類|哺乳類]]では8種類のエフリンが存在しており、これらは構造上の違いから、エフリンA1~A5より構成されるA型エフリン(class A ephrins)と、エフリンB1~B3より構成されるB型エフリン(class B ephrins)に分類される。
 [[wikipedia:ja:哺乳類|哺乳類]]では8種類のエフリンが存在しており、これらは構造上の違いから、エフリンA1~A5より構成されるA型エフリン(class A ephrins)と、エフリンB1~B3より構成されるB型エフリン(class B ephrins)に分類される<ref name=ref2> 15928710 </pubmed></ref>。


== 構造 ==
== 構造 ==


 A型エフリンは分子量が25~30 kDaであり、[[グルコシルホスファチジルイノシトール]](glycosylphosphatidyl inositol)を介して細胞膜に結合しており、主に[[脂質ラフト]]に分布する。B型エフリンは分子量が30~45 kDaであり、細胞外領域、膜貫通領域、そしてC末端に[[PDZ]]結合配列を有する細胞内領域、によって構成される一型膜タンパク質である。
 A型エフリンは分子量が25~30 kDaであり、[[グルコシルホスファチジルイノシトール]](glycosylphosphatidyl inositol)を介して細胞膜に結合しており、主に[[脂質ラフト]]に分布する。B型エフリンは分子量が30~45 kDaであり、細胞外領域、膜貫通領域、そしてC末端に[[PDZ]]結合配列を有する細胞内領域、によって構成される一型膜タンパク質である<ref name=ref2 />。


== 受容体とシグナル伝達==
== 受容体とシグナル伝達==


 エフリンの受容体であるEph受容体も、構造上A型とB型に分類され、一般にA型エフリンは広くA型のEph受容体に結合し、B型エフリンは広くB型のEph受容体に結合する。ただし、エフリンA5はB型Eph受容体であるEphB2にも結合し、エフリンB1~B3はA型Eph受容体であるEphA4にも結合するという例外が知られている。また、EphB4のリガンド分子はエフリンB2のみである。
 エフリンの受容体であるEph受容体も、構造上A型とB型に分類され、一般にA型エフリンは広くA型のEph受容体に結合し、B型エフリンは広くB型のEph受容体に結合する<ref name=ref2 /><ref><pubmed> 8755474 </pubmed></ref>。ただし、エフリンA5はB型Eph受容体であるEphB2にも結合し、エフリンB1~B3はA型Eph受容体であるEphA4にも結合するという例外が知られている。また、EphB4のリガンド分子はエフリンB2のみである<ref name=ref2 />。


 エフリンがEph受容体に結合すると、Eph受容体は二量体化し、お互いに相手の細胞内領域の特定の[[wikipedia:ja:チロシン|チロシン]]残基を[[リン酸化]]することによって活性化する。エフリンは細胞膜に結合した状態でのみリガンド分子としての活性を有しており、遊離したエフリンはEph受容体には結合するが受容体の活性化を誘導しない。Eph受容体はエフリンに対して逆にリガンド分子としても働くことが知られており、エフリンを発現する細胞とEph受容体を発現する細胞が接触すると、両細胞に双方向性の情報伝達が生じる。Eph受容体を発現する細胞内への[[シグナル]]を順行性シグナル(forward signal)と呼び、エフリンを発現する細胞内へのシグナルを逆行性シグナル(reverse signal)と呼ぶ。このエフリンを受容体とする逆行性シグナルの伝達には、[[チロシンリン酸化#.E9.9D.9E.E5.8F.97.E5.AE.B9.E4.BD.93.E5.9E.8B.E3.83.81.E3.83.AD.E3.82.B7.E3.83.B3.E3.82.AD.E3.83.8A.E3.83.BC.E3.82.BC|Srcファミリーチロシンキナーゼ]]の活性化が関与している。A型エフリンは[[インテグリン]]や[[神経栄養因子]]の受容体等と複合体を形成することにより、一方、B型エフリンは[[アダプタータンパク質]]の[[Grb4]]や、[[PDZドメイン]]タンパク質の[[シンテニン]]等と複合体を形成することにより、それぞれ特異的な逆行性シグナルを伝達すると考えられている。
 エフリンがEph受容体に結合すると、Eph受容体は二量体化し、お互いに相手の細胞内領域の特定の[[wikipedia:ja:チロシン|チロシン]]残基を[[リン酸化]]することによって活性化する<ref name=ref2 />。エフリンは細胞膜に結合した状態でのみリガンド分子としての活性を有しており、遊離したエフリンはEph受容体には結合するが受容体の活性化を誘導しない。Eph受容体はエフリンに対して逆にリガンド分子としても働くことが知られており、エフリンを発現する細胞とEph受容体を発現する細胞が接触すると、両細胞に双方向性の情報伝達が生じる<ref name=ref4> 17420126 </pubmed></ref>。Eph受容体を発現する細胞内への[[シグナル]]を順行性シグナル(forward signal)と呼び、エフリンを発現する細胞内へのシグナルを逆行性シグナル(reverse signal)と呼ぶ。このエフリンを受容体とする逆行性シグナルの伝達には、[[チロシンリン酸化#.E9.9D.9E.E5.8F.97.E5.AE.B9.E4.BD.93.E5.9E.8B.E3.83.81.E3.83.AD.E3.82.B7.E3.83.B3.E3.82.AD.E3.83.8A.E3.83.BC.E3.82.BC|Srcファミリーチロシンキナーゼ]]の活性化が関与している<ref name=ref4 />。A型エフリンは[[インテグリン]]や[[神経栄養因子]]の受容体等と複合体を形成することにより<ref name=ref4 /><ref><pubmed> 19036963 </pubmed></ref>、一方、B型エフリンは[[アダプタータンパク質]]の[[Grb4]]や<ref name=ref4 /><ref><pubmed> 11557983 </pubmed></ref>、[[PDZドメイン]]タンパク質の[[シンテニン]]等と複合体を形成することにより、それぞれ特異的な逆行性シグナルを伝達すると考えられている。


== 生理機能 ==
== 生理機能 ==


 エフリンを発現する細胞とEph受容体を発現する細胞が接触すると、一般に両細胞間に反発反応が生じ両者は乖離する。この反応は、両細胞内における[[細胞骨格]]系、特に[[アクチン]]骨格系の再編成によって生じるが、エフリンとEph受容体の複合体が、[[プロテアーゼ]]による分解や[[エンドサイトーシス]]によって接触面から除去されることが必要であると考えられている。神経系の発生過程において、エフリンとEph受容体はしばしば異なる領域の細胞群に発現しており、両細胞群の接触によるエフリンとEph受容体の相互作用は、神経細胞の移動や神経[[軸索ガイダンス]]、不必要な[[軸索の刈り込み]]、[[シナプス]]形成などにおいて重要な役割を果たしている。また、成体の神経系においても、[[シナプス可塑性]]の調節などに機能していることが明らかになっている。
 エフリンを発現する細胞とEph受容体を発現する細胞が接触すると、一般に両細胞間に反発反応が生じ両者は乖離する。この反応は、両細胞内における[[細胞骨格]]系、特に[[アクチン]]骨格系の再編成によって生じるが、エフリンとEph受容体の複合体が、[[プロテアーゼ]]による分解や[[エンドサイトーシス]]によって接触面から除去されることが必要であると考えられている<ref><pubmed> 10958785 </pubmed></ref><ref><pubmed> 21078817 </pubmed></ref>。神経系の発生過程において、エフリンとEph受容体はしばしば異なる領域の細胞群に発現しており、両細胞群の接触によるエフリンとEph受容体の相互作用は、神経細胞の移動や神経[[軸索ガイダンス]]<ref name=ref4 />、不必要な[[軸索の刈り込み]]<ref><pubmed> 10097165 </pubmed></ref>、[[シナプス]]形成<ref name=ref10> 19029886 </pubmed></ref>などにおいて重要な役割を果たしている。また、成体の神経系においても、[[シナプス可塑性]]の調節<ref name=ref10 />などに機能していることが明らかになっている。


==参考文献==
==参考文献==
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