「エンドソーム」の版間の差分

ナビゲーションに移動 検索に移動
編集の要約なし
編集の要約なし
1行目: 1行目:
<div align="right"> 
<font size="+1">[http://researchmap.jp/hota-koba/?lang=japanese 小林穂高]、[http://researchmap.jp/mitsunorifukuda/?lang=japanese 福田光則]</font><br>
''東北大学生命科学研究科生命機能科学専攻''<br>
[http://researchmap.jp/hota-koba/?lang=english Hotaka Kobayashi], [http://researchmap.jp/mitsunorifukuda Mitsunori Fukuda]<br>
''Tohoku University, Graduate School of Life Sciences, Department of Developmental Biology and Neurosciences''<br>
DOI [[XXXX]]/XXXX BSD 2013-XXXX  原稿受付日:2012年4月11日 原稿完成日:2013年5月25日
</div>
英語名:endosome 独:Endosom 仏:endosome
英語名:endosome 独:Endosom 仏:endosome


 エンドソームは[[エンドサイトーシス]]によって細胞内へと取り込まれた様々な物質の選別・分解・再利用などを制御する[[wikipedia:JA:オルガネラ|オルガネラ]]の総称である。エンドソームは形態的な特徴や機能的な特徴をもとに、初期エンドソーム(early endosome)<ref name=ref1><pubmed>20110990</pubmed></ref> <ref name=ref2><pubmed>21955996</pubmed></ref>・後期エンドソーム(late endosome)<ref name=ref3><pubmed>18502633</pubmed> </ref><ref name=ref4><pubmed>21878991</pubmed></ref>・リサイクリングエンドソーム(recycling endosome)<ref name=ref5><pubmed>16636069</pubmed></ref> <ref name=ref6><pubmed>19696797</pubmed></ref>に大別される。エンドソームは膜輸送の中継地点として機能することで細胞内の物質輸送を司ることから、神経機能をはじめとする様々な生命現象において重要な役割を果たしている。
 エンドソームは[[エンドサイトーシス]]によって細胞内へと取り込まれた様々な物質の選別・分解・再利用などを制御する[[wikipedia:JA:オルガネラ|オルガネラ]]の総称である。エンドソームは形態的な特徴や機能的な特徴をもとに、初期エンドソーム(early endosome)<ref name=ref1><pubmed>20110990</pubmed></ref> <ref name=ref2><pubmed>21955996</pubmed></ref>・後期エンドソーム(late endosome)<ref name=ref3><pubmed>18502633</pubmed></ref><ref name=ref4><pubmed>21878991</pubmed></ref>・リサイクリングエンドソーム(recycling endosome)<ref name=ref5><pubmed>16636069</pubmed></ref><ref name=ref6><pubmed>19696797</pubmed></ref>に大別される。エンドソームは膜輸送の中継地点として機能することで細胞内の物質輸送を司ることから、神経機能をはじめとする様々な生命現象において重要な役割を果たしている。


== エンドソームの種類と機能 ==
== エンドソームの種類と機能 ==
17行目: 27行目:
=== 後期エンドソーム ===
=== 後期エンドソーム ===


 後期エンドソームは、[[リソソーム]]と融合することで内容物を分解へと導くオルガネラである<ref name=ref3><pubmed>18502633</pubmed> </ref><ref name=ref4><pubmed>21878991</pubmed></ref>。初期エンドソームにおいて分解経路へと選別された物質は、後期エンドソームを介して最終的にリソソームで分解される。ただし、後期エンドソームは初期エンドソームが成熟したオルガネラであるため、分解される物質は膜輸送によって初期エンドソームから後期エンドソームへと輸送されるわけではない。後期エンドソームは初期エンドソームから成熟するにともない、[[プロトンポンプ]]の働きによって内腔の[[wikipedia:JA:pH|pH]]が低下するとともに、[[wikipedia:JA:核|核]]近傍へと[[移動]]していく。さらに、後期エンドソームではシグナル伝達因子受容体のような[[wikipedia:JA:膜タンパク質|膜貫通型タンパク質]]がモノユビキチン化などによって認識され、エンドソーム膜ごと内腔へとくびり取られる。このため、後期エンドソームの内部には多数の内腔小胞が存在することになり、後期エンドソームは多胞体(MVB: multivesicular body)とも呼ばれる。後期エンドソームがリソソームと融合すると、内腔小胞ごと膜貫通型のタンパク質も分解される。
 後期エンドソームは、[[リソソーム]]と融合することで内容物を分解へと導くオルガネラである<ref name=ref3 /> </ref><ref name=ref4><pubmed>21878991</pubmed></ref>。初期エンドソームにおいて分解経路へと選別された物質は、後期エンドソームを介して最終的にリソソームで分解される。ただし、後期エンドソームは初期エンドソームが成熟したオルガネラであるため、分解される物質は膜輸送によって初期エンドソームから後期エンドソームへと輸送されるわけではない。後期エンドソームは初期エンドソームから成熟するにともない、[[プロトンポンプ]]の働きによって内腔の[[wikipedia:JA:pH|pH]]が低下するとともに、[[wikipedia:JA:核|核]]近傍へと[[移動]]していく。さらに、後期エンドソームではシグナル伝達因子受容体のような[[wikipedia:JA:膜タンパク質|膜貫通型タンパク質]]がモノユビキチン化などによって認識され、エンドソーム膜ごと内腔へとくびり取られる。このため、後期エンドソームの内部には多数の内腔小胞が存在することになり、後期エンドソームは多胞体(MVB: multivesicular body)とも呼ばれる。後期エンドソームがリソソームと融合すると、内腔小胞ごと膜貫通型のタンパク質も分解される。


 また、後期エンドソームはゴルジ体との間で膜輸送による物質のやり取りを行っているため、後期エンドソームはリソソームで働く分解酵素をゴルジ体からリソソームへと輸送するための中継オルガネラとしても機能している<ref name=ref9><pubmed>19879268</pubmed></ref>。後期エンドソームを識別するためのマーカータンパク質としては、Rab7や[[wikipedia:Mannose_6-phosphate_receptor|マンノース-6リン酸受容体]](M6PR)が有名である。また、後期エンドソームには、ホスファチジルイノシトールの一種であるPI(3,5)P2が豊富に存在しており、MVBの形成促進などに関与することが知られている<ref name=ref8><pubmed>15170460</pubmed></ref>。
 また、後期エンドソームはゴルジ体との間で膜輸送による物質のやり取りを行っているため、後期エンドソームはリソソームで働く分解酵素をゴルジ体からリソソームへと輸送するための中継オルガネラとしても機能している<ref name=ref9><pubmed>19879268</pubmed></ref>。後期エンドソームを識別するためのマーカータンパク質としては、Rab7や[[wikipedia:Mannose_6-phosphate_receptor|マンノース-6リン酸受容体]](M6PR)が有名である。また、後期エンドソームには、ホスファチジルイノシトールの一種であるPI(3,5)P2が豊富に存在しており、MVBの形成促進などに関与することが知られている<ref name=ref8><pubmed>15170460</pubmed></ref>。
35行目: 45行目:


===神経細胞の移動・形態形成===
===神経細胞の移動・形態形成===
 神経細胞の移動・形態形成を制御する[[細胞接着因子]]であるβ1-インテグリンやN-カドヘリンは、エンドサイトーシスによって初期エンドソームへと輸送されたのち、リサイクリングエンドソームを介して再び細胞膜へと輸送される<ref name=ref18><pubmed>17058193</pubmed></ref>(図1)。このβ1-インテグリンやN-カドヘリンのendocytic recyclingは、神経細胞の移動・形態形成に必要な接着部位の再編成を行う上で重要と考えられている。実際、Rab5依存的なN-カドヘリンの初期エンドソームへの輸送が損なわれると、[[大脳皮質]]の神経細胞の移動が阻害されることが報告されている<ref name=ref19><pubmed>20797536</pubmed></ref>。また、β1-インテグリンのリサイクリングエンドソームから細胞膜への輸送は、Rab11によって制御されており、Rab11 の機能が損なわれると神経細胞の形態形成に異常が生じることも知られている<ref name=ref20><pubmed>20810886</pubmed></ref>。最近では、リサイクリングエンドソームに局在し、神経細胞の形態形成に関与する因子としてRab17やRab35といった因子も報告されている<ref name=ref21><pubmed>22291024</pubmed></ref><ref name=ref22><pubmed>22344257</pubmed></ref>。さらに、神経細胞でのendocytic recyclingの方向性を決定する重要な因子の一つとして、Protrudinと呼ばれるRab11結合因子が知られている<ref name=ref23><pubmed>19540123</pubmed></ref><ref name=ref24><pubmed>17082457</pubmed></ref>。
 神経細胞の移動・形態形成を制御する[[細胞接着因子]]であるβ1-インテグリンやN-カドヘリンは、エンドサイトーシスによって初期エンドソームへと輸送されたのち、リサイクリングエンドソームを介して再び細胞膜へと輸送される<ref name=ref18><pubmed>17058193</pubmed></ref>(図1)。このβ1-インテグリンやN-カドヘリンのendocytic recyclingは、神経細胞の移動・形態形成に必要な接着部位の再編成を行う上で重要と考えられている。実際、Rab5依存的なN-カドヘリンの初期エンドソームへの輸送が損なわれると、[[大脳皮質]]の神経細胞移動が阻害されることが報告されている<ref name=ref19><pubmed>20797536</pubmed></ref>。また、β1-インテグリンのリサイクリングエンドソームから細胞膜への輸送は、Rab11によって制御されており、Rab11 の機能が損なわれると神経細胞の形態形成に異常が生じることも知られている<ref name=ref20><pubmed>20810886</pubmed></ref>。最近では、リサイクリングエンドソームに局在し、神経細胞の形態形成に関与する因子としてRab17やRab35といった因子も報告されている<ref name=ref21><pubmed>22291024</pubmed></ref><ref name=ref22><pubmed>22344257</pubmed></ref>。さらに、神経細胞でのendocytic recyclingの方向性を決定する重要な因子の一つとして、Protrudinと呼ばれるRab11結合因子が知られている<ref name=ref23><pubmed>19540123</pubmed></ref><ref name=ref24><pubmed>17082457</pubmed></ref>。


===シナプス小胞の形成・シナプス可塑性===
===シナプス小胞の形成・シナプス可塑性===
51行目: 61行目:




(執筆者:小林穂高、福田光則  担当編集委員:尾藤晴彦)
(担当編集委員:林 康紀)