「エンドフェノタイプ」の版間の差分

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== 統合失調症  ==
== 統合失調症  ==


[[Image:Rhashimoto fig 2.jpg|thumb|350px|'''図2.エンドフェノタイプ(中間表現型)の新しい方向性''']]
[[Image:Rhashimoto fig 2.jpg|thumb|350px|<b>図2.エンドフェノタイプ(中間表現型)の新しい方向性</b>]]  


'''表2:中間表現型の妥当性'''
'''表2:中間表現型の妥当性'''  


{| width="200" cellspacing="1" cellpadding="1" border="1" height="142"  
{| width="525" cellspacing="1" cellpadding="1" border="1" height="253"
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|-
|-
|style="background-color:#fed0e0" |  
| style="background-color:#6090ef" |  
|style="background-color:#fed0e0" |  
| style="background-color:#6090ef; text-align:center" | 認知機能
|style="background-color:#fed0e0" |  
| style="background-color:#6090ef; text-align:center" | 脳画像
|style="background-color:#fed0e0" |  
| style="background-color:#6090ef; text-align:center" | 神経生理機能
|style="background-color:#fed0e0" |  
| style="background-color:#6090ef; text-align:center" | 人格傾向
|style="background-color:#fed0e0" |  
| style="background-color:#6090ef; text-align:center" | 遺伝子発現
|-
|-
|style="background-color:#f0e68c" |  
| style="background-color:#fed0e0" | 1)遺伝性
|
| style="background-color:#fed0e0; text-align:center" | ◎
|
| style="background-color:#fed0e0; text-align:center" | ◎
|
| style="background-color:#fed0e0; text-align:center" | ◎
|
| style="background-color:#fed0e0; text-align:center" | ◎
|
| style="background-color:#fed0e0; text-align:center" | △
|-
|-
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| style="background-color:#ffa500" | 2)定量性
|
| style="background-color:#ffa500; text-align:center" | ○
|
| style="background-color:#ffa500; text-align:center" | ◎
|
| style="background-color:#ffa500; text-align:center" | ○
|
| style="background-color:#ffa500; text-align:center" | ○
|
| style="background-color:#ffa500; text-align:center" | ◎
|-
|-
|
| style="background-color:#ffff00" | 3)関連性
|
| style="background-color:#ffff00; text-align:center" | ◎
|
| style="background-color:#ffff00; text-align:center" | ○
|
| style="background-color:#ffff00; text-align:center" | ◎
|
| style="background-color:#ffff00; text-align:center" | ○
|
| style="background-color:#ffff00; text-align:center" | ○
|-
|-
|
| style="background-color:#7cfc00" | 4)安定性
|
| style="background-color:#7cfc00; text-align:center" | ○
|
| style="background-color:#7cfc00; text-align:center" | ◎
|
| style="background-color:#7cfc00; text-align:center" | ○
|
| style="background-color:#7cfc00; text-align:center" | △
|
| style="background-color:#7cfc00; text-align:center" | △
|-
|-
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| style="background-color:#b0e0e6" | 5)家系内中間性*
|
| style="background-color:#b0e0e6; text-align:center" | ◎
|
| style="background-color:#b0e0e6; text-align:center" | ○
|
| style="background-color:#b0e0e6; text-align:center" | ○
|
| style="background-color:#b0e0e6; text-align:center" | △
|
| style="background-color:#b0e0e6; text-align:center" | △
|-
|-
}
|}
 * 家系内中間性:精神障害の家系内では精神障害をもたないものでは家系外の健常者と精神障害をもつものの中間にあること<br>
    エビデンスレベル: ◎高い  ○中程度  △少ない




 代表的な統合失調症のエンドフェノタイプ(中間表現型)としては、認知機能、脳画像、神経生理機能などが今までよく用いられているが、最近はより発展して、人格傾向や遺伝子発現などもエンドフェノタイプの一つとして用いられるようになってきた(図2)<ref name="ref11">'''橋本亮太、安田由華、大井一高、福本素由己、梅田知美、岡田武也、山森英長、武田雅俊'''<br>脳の機能と統合失調症-新たな診断と治療への展望-  統合失調症の中間表現型<br>''精神科治療学'':2011; 26: 1363-1369</ref>。認知機能には、言語性記憶、視覚性記憶、作業記憶、遂行機能、語流暢性、注意・集中力、精神運動速度、視・知覚運動処理などがある。言語性記憶に関しても短期記憶と長期記憶に分かれ、さらにそれぞれについて確立した測定法が複数あるため、本来ならばその一つ一つについて中間表現型の定義を満たすかどうかを確認する必要があるが、実際にそのエビデンスがあるものは少ないのが現状である。そこでここでは、それぞれのエンドフェノタイプのドメインでよく用いられるものを中心にその妥当性をまとめた(表2)<ref name="ref8" />。妥当性の高いエンドフェノタイプは存在するが、理想的なエンドフェノタイプは存在していないことを追記しておく必要がある。  
 代表的な統合失調症のエンドフェノタイプ(中間表現型)としては、認知機能、脳画像、神経生理機能などが今までよく用いられているが、最近はより発展して、人格傾向や遺伝子発現などもエンドフェノタイプの一つとして用いられるようになってきた(図2)<ref name="ref11">'''橋本亮太、安田由華、大井一高、福本素由己、梅田知美、岡田武也、山森英長、武田雅俊'''<br>脳の機能と統合失調症-新たな診断と治療への展望-  統合失調症の中間表現型<br>''精神科治療学'':2011; 26: 1363-1369</ref>。認知機能には、言語性記憶、視覚性記憶、作業記憶、遂行機能、語流暢性、注意・集中力、精神運動速度、視・知覚運動処理などがある。言語性記憶に関しても短期記憶と長期記憶に分かれ、さらにそれぞれについて確立した測定法が複数あるため、本来ならばその一つ一つについて中間表現型の定義を満たすかどうかを確認する必要があるが、実際にそのエビデンスがあるものは少ないのが現状である。そこでここでは、それぞれのエンドフェノタイプのドメインでよく用いられるものを中心にその妥当性をまとめた(表2)<ref name="ref8" />。妥当性の高いエンドフェノタイプは存在するが、理想的なエンドフェノタイプは存在していないことを追記しておく必要がある。  


 以下によく用いられる統合失調症のエンドフェノタイプについて述べる。
 以下によく用いられる統合失調症のエンドフェノタイプについて述べる。  


=== 認知機能  ===
=== 認知機能  ===
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*WAIS-Rの単語  
*WAIS-Rの単語  
*WMS-Rの言語性記憶I  
*WMS-Rの言語性記憶I  
*WCST Perseverative error<span id="1342881056472S" style="display: none;">&nbsp;<span id="1342881073846S" style="display: none;">&nbsp;</span></span>
*WCST Perseverative error<span style="display: none;" id="1342881056472S">&nbsp;<span style="display: none;" id="1342881073846S">&nbsp;</span></span>


<span id="1342881088324S" style="display: none;">&nbsp;</span>それぞれの検査の他のスコアにおいても効果サイズの大きいものがいくつもある。  
<span style="display: none;" id="1342881088324S">&nbsp;</span>それぞれの検査の他のスコアにおいても効果サイズの大きいものがいくつもある。  


=== 脳神経画像 ===
=== 脳神経画像 ===


 脳構造画像においては、SPM(Statistical Parametric Mapping)を用いたVBM(Voxel-Based-Morphometry)法が導入され、全脳における定量的な解析を比較的簡単に行えるようになったことで、飛躍的にこの分野の研究が進んだ。その結果、全脳の体積や灰白質の体積がエンドフェノタイプとして用いられるようになった<ref><pubmed>18408230</pubmed></ref>。 白質の統合性を測定する拡散テンソル画像(DTI: Diffusion tensor imaging)についても検討が進んでいる。  
 脳構造画像においては、SPM(Statistical Parametric Mapping)を用いたVBM(Voxel-Based-Morphometry)法が導入され、全脳における定量的な解析を比較的簡単に行えるようになったことで、飛躍的にこの分野の研究が進んだ。その結果、全脳の体積や灰白質の体積がエンドフェノタイプとして用いられるようになった<ref><pubmed>18408230</pubmed></ref>。 白質の統合性を測定する拡散テンソル画像(DTI: Diffusion tensor imaging)についても検討が進んでいる。  
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 脳機能画像研究においては、課題を用いた時の脳血流の変化(賦活化)を定量する機能的MRI(fMRI)が主に用いられている<ref name="ref10" />。統合失調症においてよく研究されているのは、ワーキングメモリー課題とエピソード記憶課題である。次に、情動制御課題や報酬課題がよく用いられる。  
 脳機能画像研究においては、課題を用いた時の脳血流の変化(賦活化)を定量する機能的MRI(fMRI)が主に用いられている<ref name="ref10" />。統合失調症においてよく研究されているのは、ワーキングメモリー課題とエピソード記憶課題である。次に、情動制御課題や報酬課題がよく用いられる。  


=== 神経生理機能 ===
=== 神経生理機能 ===


 神経生理機能については、単純な非言語性の刺激を用いるため、年齢、人種、用いる言語に関係なく簡便に施行できるという利点がある。統合失調症では、プレパルス抑制テスト、眼球運動(アンチサッケード課題)、P50、ミスマッチネガティビティ、NIRSなどが用いられるが、遺伝性についても示されているものはプレパルス抑制テストと眼球運動である<ref><pubmed>17088422</pubmed></ref> <ref><pubmed>17984393</pubmed></ref>。その中でも、PPIはマウスなどの動物モデルにおいても同様な検査が可能であるため、汎用されており、関連する遺伝子についての知見も多い<ref>'''高橋秀俊、橋本亮太、岩瀬真生、石井良平、武田雅俊'''<br>統合失調症の中間表現型 精神生理学的指標<br>''精神科'':2011; 18: 14-18</ref>。  
 神経生理機能については、単純な非言語性の刺激を用いるため、年齢、人種、用いる言語に関係なく簡便に施行できるという利点がある。統合失調症では、プレパルス抑制テスト、眼球運動(アンチサッケード課題)、P50、ミスマッチネガティビティ、NIRSなどが用いられるが、遺伝性についても示されているものはプレパルス抑制テストと眼球運動である<ref><pubmed>17088422</pubmed></ref> <ref><pubmed>17984393</pubmed></ref>。その中でも、PPIはマウスなどの動物モデルにおいても同様な検査が可能であるため、汎用されており、関連する遺伝子についての知見も多い<ref>'''高橋秀俊、橋本亮太、岩瀬真生、石井良平、武田雅俊'''<br>統合失調症の中間表現型 精神生理学的指標<br>''精神科'':2011; 18: 14-18</ref>。  


=== その他 ===
=== その他 ===


 エンドフェノタイプの概念が広がり、死後脳やリンパ芽球における遺伝子発現やパーソナリティー傾向もその候補として考えられるようになってきたが、まだ十分な検討はなされておらず、今後の発展が期待される。
 エンドフェノタイプの概念が広がり、死後脳やリンパ芽球における遺伝子発現やパーソナリティー傾向もその候補として考えられるようになってきたが、まだ十分な検討はなされておらず、今後の発展が期待される。