「オリゴデンドロサイト前駆細胞」の版間の差分

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<font size="+1">[http://researchmap.jp/katsuhikoono 小野 勝彦]</font><br>
''京都府立医科大学''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年3月30日 原稿完成日:2012年5月6日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/fujiomurakami 村上 富士夫](大阪大学 大学院生命機能研究科)<br>
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英語名:oligodendrocyte precursor cell 英略称:OPC、OLP 独:Vorläuferzellen der Oligodendrozyten 仏:précurseur de oligodendrocyte
英語名:oligodendrocyte precursor cell 英略称:OPC、OLP 独:Vorläuferzellen der Oligodendrozyten 仏:précurseur de oligodendrocyte


 
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 [[中枢神経系]]で[[ミエリン]]を形成する細胞が[[オリゴデンドロサイト]]である。そのオリゴデンドロサイトとなるよう運命づけられた細胞で、なんらオリゴデンドロサイトの形態的・分子的特徴を持たないものをオリゴデンドロサイト前駆細胞と呼ぶ。移動能と増殖活性は高い。
 [[中枢神経系]]で[[ミエリン]]を形成する細胞が[[オリゴデンドロサイト]]である。そのオリゴデンドロサイトとなるよう運命づけられた細胞で、なんらオリゴデンドロサイトの形態的・分子的特徴を持たないものをオリゴデンドロサイト前駆細胞と呼ぶ。移動能と増殖活性は高い。
}}


==その発見の歴史 ==
==その発見の歴史 ==
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=== O-2A前駆細胞 ===
=== O-2A前駆細胞 ===


 [[wikipedia:JA:ラット|ラット]]胎児[[視神経]]を培養すると[[wikipedia:JA:モノクローナル抗体|モノクローナル抗体]]A2B5に陽性を示す細胞がみられ、この細胞は培養液に[[wikipedia:JA:ウシ胎児血清|ウシ胎児血清]]を[[wikipedia:JA:培養液|培養液]]に加えるとGFAP+/A2B5+[[アストロサイト]]に分化し、[[wikipedia:Chemically defined medium|無血清培地]]で培養するとミエリン脂質である[[ガラクトセレブロシド]](galactocerebroside; GalC)陽性オリゴデンドロサイトに分化する。A2B5抗体は、[[wikipedia:JA:ガングリオシド|ガングリオシド]]や[[wikipedia:Sulfatide|スルファチド]]などの糖脂質を抗原とし、当初はニューロン特異的抗体として報告されたが、視神経にはニューロンやその前駆細胞は存在しないことから、A2B5陽性[[グリア前駆細胞]]が見いだされた。視神経細胞の培養中にはA2B5-/ GFAP+アストロサイトも存在することから、A2B5に陽性を示すアストログリアをtype 2アストロサイト、A2B5陰性のものをtype 1アストログリアと命名した。そして、A2B5陽性でGFAPにもGalCにも陽性を示さない段階のものを、O2A前駆細胞と呼んだ<ref name=ref1><pubmed>6304520</pubmed></ref>。培養系では、type 2アストロサイトはオリゴデンドロサイトの増殖が終了した後に増殖することが一つの特徴である。しかし、生体内ではこのような増殖パターンを示すアストロサイトはみられないことから、その存在は否定的である<ref name=ref2><pubmed>2328833</pubmed></ref>。
 [[wikipedia:JA:ラット|ラット]]胎児[[視神経]]を培養すると[[wikipedia:JA:モノクローナル抗体|モノクローナル抗体]]A2B5に陽性を示す細胞がみられ、この細胞は培養液に[[wikipedia:JA:ウシ胎児血清|ウシ胎児血清]]を[[wikipedia:JA:培養液|培養液]]に加えるとGFAP+/A2B5+[[アストロサイト]]に[[細胞分化|分化]]し、[[wikipedia:Chemically defined medium|無血清培地]]で培養するとミエリン脂質である[[ガラクトセレブロシド]](galactocerebroside; GalC)陽性オリゴデンドロサイトに分化する。A2B5抗体は、[[wikipedia:JA:ガングリオシド|ガングリオシド]]や[[wikipedia:Sulfatide|スルファチド]]などの糖脂質を抗原とし、当初はニューロン特異的抗体として報告されたが、視神経にはニューロンやその前駆細胞は存在しないことから、A2B5陽性[[グリア前駆細胞]]が見いだされた。視神経細胞の培養中にはA2B5-/ GFAP+アストロサイトも存在することから、A2B5に陽性を示すアストログリアをtype 2アストロサイト、A2B5陰性のものをtype 1アストログリアと命名した。そして、A2B5陽性でGFAPにもGalCにも陽性を示さない段階のものを、O2A前駆細胞と呼んだ<ref name=ref1><pubmed>6304520</pubmed></ref>。培養系では、type 2アストロサイトはオリゴデンドロサイトの増殖が終了した後に増殖することが一つの特徴である。しかし、生体内ではこのような増殖パターンを示すアストロサイトはみられないことから、その存在は否定的である<ref name=ref2><pubmed>2328833</pubmed></ref>。


=== O-2A前駆細胞の単離方法 ===  
=== O-2A前駆細胞の単離方法 ===  
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=== 細胞系譜マーカーと系譜解析 ===  
=== 細胞系譜マーカーと系譜解析 ===  


 上述のPDGFRαやニワトリ胚ではO4がOPCの系譜マーカーであることが明らかにされ、発現パターンの類似性や遺伝子欠損マウスの解析などからさらに細胞系譜マーカーが見いだされた。
 上述のPDGFRαやニワトリ胚ではO4がOPCの系譜マーカーであることが明らかにされ、発現パターンの類似性や遺伝子欠損マウスの解析などからさらに[[細胞系譜]]マーカーが見いだされた。


==== 転写因子 ====  
==== 転写因子 ====  
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===オリゴデンドロサイトへの分化とその調節機構 ===  
===オリゴデンドロサイトへの分化とその調節機構 ===  


 オリゴデンドロサイトの最終分化やミエリン形成は一般的に、神経回路形成が終わった後に始まる。この発生の最終段階には、神経活動が大きな影響を与えている。[[後根神経節]]のニューロンをモデルとした実験では、ニューロンの活動により軸索から[[wikipedia:JA:アデノシン三リン酸|ATP]]が分泌され、これがアストロサイトに作用する。ATPで刺激を受けたアストロサイトから[[leukemia inhibitory factor]](LIF)が分泌され、これがOPCを刺激して成熟オリゴデンドロサイトとなりミエリン形成が始まる<ref name=ref38><pubmed>16543131</pubmed></ref>。また、軸索からはその活動依存的に[[グルタミン酸]]も放出される。オリゴデンドロサイトの[[wikipedia:JA:細胞膜|細胞膜]]の局所に作用し、[[チロシンリン酸化#.E9.9D.9E.E5.8F.97.E5.AE.B9.E4.BD.93.E5.9E.8B.E3.83.81.E3.83.AD.E3.82.B7.E3.83.B3.E3.82.AD.E3.83.8A.E3.83.BC.E3.82.BC|Fyn]]依存性に[[ミエリン塩基性タンパク質]]の[[wikipedia:JA:翻訳_(生物学)|翻訳]]を上昇させ、ミエリン形成を促進する<ref name=ref39><pubmed>21817014</pubmed></ref>。
 オリゴデンドロサイトの最終分化やミエリン形成は一般的に、神経回路形成が終わった後に始まる。この発生の最終段階には、神経活動が大きな影響を与えている。[[後根神経節]]のニューロンをモデルとした実験では、ニューロンの活動により軸索から[[wikipedia:JA:アデノシン三リン酸|ATP]]が分泌され、これがアストロサイトに作用する。ATPで刺激を受けたアストロサイトから[[leukemia inhibitory factor]](LIF)が分泌され、これがOPCを刺激して成熟オリゴデンドロサイトとなりミエリン形成が始まる<ref name=ref38><pubmed>16543131</pubmed></ref>。また、軸索からはその活動依存的に[[グルタミン酸]]も放出される。オリゴデンドロサイトの[[細胞膜]]の局所に作用し、[[チロシンリン酸化#.E9.9D.9E.E5.8F.97.E5.AE.B9.E4.BD.93.E5.9E.8B.E3.83.81.E3.83.AD.E3.82.B7.E3.83.B3.E3.82.AD.E3.83.8A.E3.83.BC.E3.82.BC|Fyn]]依存性に[[ミエリン塩基性タンパク質]]の[[wikipedia:JA:翻訳_(生物学)|翻訳]]を上昇させ、ミエリン形成を促進する<ref name=ref39><pubmed>21817014</pubmed></ref>。


 細胞内因子として注目されている分子として[[MAPキナーゼ]]の一つである[[extracellular-signal regulated kinase]](ERK)がある。脊髄背側部のOPCはFGFにより分化することから<ref name=ref27><pubmed>14660548</pubmed></ref>、[[受容体型チロシンキナーゼ]]の下流分子として注目されている面もある。このうちERK2を神経幹細胞特異的に欠損させると、OPCの増殖や生存には影響がない一方でGalC陽性オリゴデンドロサイトの出現が遅れることから、オリゴデンドロサイトの最終分化のタイミングを調節していると考えられている<ref name=ref40><pubmed>21248107</pubmed></ref>。
 細胞内因子として注目されている分子として[[MAPキナーゼ]]の一つである[[extracellular-signal regulated kinase]](ERK)がある。脊髄背側部のOPCはFGFにより分化することから<ref name=ref27><pubmed>14660548</pubmed></ref>、[[受容体型チロシンキナーゼ]]の下流分子として注目されている面もある。このうちERK2を神経幹細胞特異的に欠損させると、OPCの増殖や生存には影響がない一方でGalC陽性オリゴデンドロサイトの出現が遅れることから、オリゴデンドロサイトの最終分化のタイミングを調節していると考えられている<ref name=ref40><pubmed>21248107</pubmed></ref>。
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== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
*[[オリゴデンドロサイト]]
*[[オリゴデンドロサイト]]
(他にあれば挙げて下さい)


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==


<references />
<references />
(執筆者:小野勝彦  担当編集者:村上富士夫)

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