オーガナイザー

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仲村 春和
東北大学
DOI XXXX/XXXX 原稿受付日:2014年1月9日 原稿完成日:2014年月日
担当編集委員:村上 富士夫(大阪大学 大学院生命機能研究科)

周りの組織に作用してその発生運命を制御するのがオーガナイザーである。これには一次誘導に働くシュペーマンオーガナイザーとその後の発生過程で働く二次オーガナイザーがある。

シュペーマンオーガナイザー

 20世紀初頭にSpemannとMangoldが、原腸胚形成期のイモリの原口背唇部を別の胚の腹側部に移植すると、2次胚が形成されることから、原口背唇部をオーガナイザーと名付けた(図1)。このオーガナイザーの働きは中胚葉と神経系を誘導するもので、これを一次誘導と呼ぶ。オーガナイザーは神経を誘導するが、それ自身は脊索に分化する。そこで、オーガナイザー自身も誘導されたもので、その上流に中胚葉を誘導する部域があることがアフリカツメガエル胚を使ってNieuwkoopにより示された(Nieuwkoop center, ニユーコープセンター)。Nieuwkoopセンターは構造的にこれといってわかるものではないが、オーガナイザーはすべての脊椎動物で形態的に識別できる。両生類では原口背唇、サカナでは胚楯(はいじゅん、embryonic shield)、ニワトリではヘンゼン結節(Hensen’s node)、マウスでは結節(node)、ヒトでは原始結節(primitive node)である。

 一次誘導に働くオーガナイザーの本態は何かということは20世紀の末まで未解決であった。幅広い動物の組織のみならず、熱処理等により死んだ組織、またメチレンブルーのような化学物質までが二次胚を誘導することができた。しかし、このオーガナイザーの発見とその後の研究により、生物の発生を支配するのは生気論的なものではなく、体を作る化学シグナルが存在するということが明らかとなり、エピジェネティックという概念が生まれた。発生学でのエピジェネティックとは発生の過程で細胞の運命は最初から決まっているのではなく、何らかの物質が働いて、胚の細胞の運命が決まるというものである。

 オーガナイザーに関しては、その後中胚葉誘導と神経誘導に分けられることが明らかになった。中胚葉誘導に関しては、淺島によりTGFβファミリーに属するアクチビンが働くことが示された。まだ中胚葉誘導の全貌が明らかになったわけではないが、要約すると、両生類では受精に伴ってTGFβファミリーに属するVg1が植物極に集積し、植物極の細胞に内胚葉としての性質を付与する。内胚葉の細胞はやはりTGFβファミリーに属するnodalをつくる。nodalは背側から腹側に向けて勾配をもって発現し、その発現の多いところにニューコープセンターが作られ、順次中間中胚葉、腹側構造が作られると考えられている。

 神経誘導に関しては外胚葉のデフォルトが神経組織への分化で、BMPシグナルが働いたときに外胚葉は表皮外胚葉として分化することが明らかとなった。オーガナイザーの近辺ではBMPと結合するNogginやChordinが発現しており、これらがBMPと結合するために、その近辺ではBMPシグナルが遮断され、神経として分化する。すなわち、神経誘導に関しては当初の発生学者たちが考えたように、ある特別な誘導物質が外胚葉に働いてそれを神経外胚葉として分化させるのではなく、むしろシグナルが入らないデフォルトの状態が神経外胚葉であるということである。これは、アニマルキャップアッセイという動物半球の極近くを切り離し、いろいろな組織や化学物質を加えてその誘導能をテストする方法でまず示された。アニマルキャップをペトリ皿で何も加えずに培養すると神経組織に分化する。この、神経細胞への分化が外胚葉のデフォルトであるということは、ドミナントネガティブ型のBMP受容体によるBMPシグナル遮断実験により確立された。MeltonらはTGFβII受容体の細胞内ドメインを欠くタンパク質(ドミナントネガティブ受容体)を受精卵に注入した後、アニマルキャップを切り離して培養した。彼らは、このアニマルキャップは未分化な状態にとどまるだろうと予測していたが、実際には神経が分化した。そこで、神経ではなく表皮外胚葉に分化させる物質が存在すること、しかもそれはTGFβファミリーに属するらしいことがドミナントネガティブ受容体を発現させる実験から示唆されたが、その物質がBMP4 (Bone Morphogenetic Protein, 骨形成タンパク質)であることが、胚でのBMP4の分布、ドミナントネガティブBMP受容体を胚に注入する実験から明らかになった。それではオーガナイザー分子は何かということで探索が行われ、オーガナイザー領域で発現しその後脊索で発現するnogginがHarlandにより、ついでchordinが笹井により発見された。これらは腹側に発現させると二次胚を誘導する。その後、これらの分子はBMPと結合するために、その近辺ではBMPシグナルが遮断され、神経として分化するということが明らかとなった。オーガナイザーによる神経誘導の研究は外胚葉のデフォルトが神経組織への分化で、BMPシグナルが働いたときに外胚葉は表皮外胚葉として分化するという皮肉的な結末となった(図2)。

2次オーガナイザー

 一次誘導により神経板が誘導され、神経管となるが、その吻尾軸に沿った領域化、背腹軸に沿った領域化には局所的なシグナルセンターからのシグナルによる。背腹軸に関しては腹側極(底板)と背側極(蓋板)がシグナルセンターすなわち二次オーガナイザーとして働くが、吻尾軸は長いので、いくつかのシグナルセンターができる。

 誘導された神経板の吻側にはOtx2、尾側にはGbx2の発現がある。その発現境界が中脳後脳境界であるが、その境界部にGbx2の発現と一致してFgf8の発現が誘導され、視蓋、小脳の分化を誘導する。この中脳後脳境界部(峡部、isthmus)、前脳胞前端(anterior neural ridge, ANR)からはFgf8が分泌され、2次オーガナイザーとして働く。Fgf8が前脳では大脳皮質を中脳では視蓋を、後脳では小脳を誘導するが、これはプレパターンとしてすでに発現している転写因子に依存している。前脳ではSix3が発現しており、そこにFgf8が作用すると大脳が分化する(Fig. 3A, B)。中脳ではOtx2が後脳ではGbx2がプレパターンとして発現しており、Fgf8が作用することによってそれぞれ視蓋、小脳へと分化する。結果的にOtx2,En1, Pax2の発現している領域が中脳として分化し、そこにPax3/7の発現が加わると視蓋として分化する(Fig. 3A)。Shhシグナルを受ける中脳複側部は中脳被蓋となり、ドパミンニューロンなどが分化する。二次オーガナイザーのFgf8はさらにEn2の発現勾配を作って、視蓋の前後軸形成にも関わる(Fig. 3A)。

 二次オーガナイザーの発見は、Nakamuraらが脳胞の異所的移植実験で、間脳胞を中脳後ろ側に移植したところ、移植された間脳胞はその発生運命を変え、中脳視蓋として分化するということを見つけたことに始まり、Martinezらが中脳後脳境界部を間脳に移植すると周りの間脳組織が視蓋として分化したことにより、峡部が二次オーガナイザーとして働くことが確立された。その後、Gail Martinの研究室でFgf8が峡部で発現しており、Fgf8を染みこませたビーズを間脳部に移植すると峡部移植と同様の結果をもたらすことから峡部オーガナイザーの本態はFgf8だということになった。分泌因子であるWnt1も中脳胞後ろ境界にリング状に発現しており、そのKOマウスでは小脳、視蓋の低形成が起きることからオーガナイザーの候補であったが、その後の実験によりWnt1は細胞の増殖を促す成長因子として働くことが示された。

 間脳胞は後ろの方からprosomere 1 (p1), p2, p3と分節構造をとっている。p2とp3の境界まではその腹側に脊索がある。p2とp3の境界はzli (zona limitance intrathalamica、視床内境界域)と呼ばれるが、底板からsonic hedgehog (shh)発現が伸びてきて、シグナルセンターとして働き、p2を視床として、p3を腹側視床として分化させる(Fig. 3C)。

 間脳胞にFgf8を発現させると、p1, p2は視蓋として分化するが、zliより前方のp3は視蓋には分化しない。これはプレパターンとして、p2より尾側にはIrx3が、p3より前にはSix3が発現していることによる。

 神経管の背腹軸の形成には底板と蓋板がシグナルセンターとして働く。脊索にはShhが発現しているが、そのShhにより脊索に接している神経管の領域が底板となる。底板もShhを発現するようになる。蓋板ではBMP4が発現しており、やはりシグナルセンターとして働く。この底板からのShhの勾配、蓋板からのBMP4の勾配により、神経管の背腹軸が決まる(F。

参考文献