「カイニン酸型グルタミン酸受容体」の版間の差分

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== 薬理学的特性==
== 薬理学的特性<ref name=ref2><pubmed> 18793656 </pubmed></ref>==
==== アゴニスト ====
==== アゴニスト ====
 [[カイニン酸]]は、海藻の[[wikipedia:ja:マクリ|マクリ]](Digenea simplex、別名:[[wikipedia:ja:カイニン草|カイニン草]])から分離された天然化合物であり、AMPA型グルタミン酸受容体およびカイニン酸受容体の[[アゴニスト]]として作用する。カイニン酸と類似した構造を持つ天然化合物である[[ドウモイ酸]]は、カイニン酸よりも強くカイニン酸受容体を活性化する。また、カイニン酸受容体のサブユニット特異的アゴニストとしていくつかの薬剤が合成された。このうち、[[GluK1]]選択的アゴニストとして[[ATPA]]が広く用いられている。
 [[カイニン酸]]は、海藻の[[wikipedia:ja:マクリ|マクリ]](Digenea simplex、別名:[[wikipedia:ja:カイニン草|カイニン草]])から分離された天然化合物であり、AMPA型グルタミン酸受容体およびカイニン酸受容体の[[アゴニスト]]として作用する。カイニン酸と類似した構造を持つ天然化合物である[[ドウモイ酸]]は、カイニン酸よりも強くカイニン酸受容体を活性化する。また、カイニン酸受容体のサブユニット特異的アゴニストとしていくつかの薬剤が合成された。このうち、[[GluK1]]選択的アゴニストとして[[ATPA]]が広く用いられている。
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 当初はAMPA型グルタミン酸受容体とカイニン酸受容体を区別するための選択的な薬剤が存在せず、中枢神経系におけるカイニン酸受容体の機能を研究することは難しかったが、[[wikipedia:GYKI53655|GYKI53655]]などのAMPA型グルタミン酸受容体選択的なアンタゴニストの登場により、AMPA型グルタミン酸受容体を介した成分と分離することが可能となった<ref><pubmed> 7826635 </pubmed></ref>。
 当初はAMPA型グルタミン酸受容体とカイニン酸受容体を区別するための選択的な薬剤が存在せず、中枢神経系におけるカイニン酸受容体の機能を研究することは難しかったが、[[wikipedia:GYKI53655|GYKI53655]]などのAMPA型グルタミン酸受容体選択的なアンタゴニストの登場により、AMPA型グルタミン酸受容体を介した成分と分離することが可能となった<ref><pubmed> 7826635 </pubmed></ref>。


 最初にカイニン酸受容体を介した興奮性シナプス後電流(EPSC)が薬理学的に分離されたのは、海馬CA3野の苔状線維シナプスであった(<ref><pubmed> 9217159 </pubmed></ref>、<ref><pubmed> 9217158 </pubmed></ref>)。カイニン酸受容体が介するシナプス応答は、海馬CA3野の同じ錐体細胞から得られるAMPA型グルタミン酸受容体を介するシナプス応答に比べてゆっくりとした時間経過を示す(図2)。カイニン酸受容体を介するシナプス応答のピーク振幅は、AMPA型グルタミン酸受容体を介するシナプス応答の~10 %程度と小さな割合だが、持続時間が長いため興奮性シナプス後電位(EPSP)の加重によるスパイク発生に寄与すると考えられている。また、[[GTP結合タンパク質]]を仲介する[[代謝型受容体]]の作用様式で、海馬CA1野の抑制性ニューロン終末からの[[GABA]]放出を抑制するという報告や、[[遅い後過分極]](Slow after hyperpolarization: slow AHP)を抑制するという報告もある。
 最初にカイニン酸受容体を介した興奮性シナプス後電流(EPSC)が薬理学的に分離されたのは、海馬CA3野の苔状線維シナプスであった<ref><pubmed> 9217159 </pubmed></ref>、<ref><pubmed> 9217158 </pubmed></ref>。カイニン酸受容体が介するシナプス応答は、海馬CA3野の同じ錐体細胞から得られるAMPA型グルタミン酸受容体を介するシナプス応答に比べてゆっくりとした時間経過を示す(図2)。カイニン酸受容体を介するシナプス応答のピーク振幅は、AMPA型グルタミン酸受容体を介するシナプス応答の~10 %程度と小さな割合だが、持続時間が長いため興奮性シナプス後電位(EPSP)の加重によるスパイク発生に寄与すると考えられている。また、[[GTP結合タンパク質]]を仲介する[[代謝型受容体]]の作用様式で、海馬CA1野の抑制性ニューロン終末からの[[GABA]]放出を抑制するという報告や、[[遅い後過分極]](Slow after hyperpolarization: slow AHP)を抑制するという報告もある。


 カイニン酸受容体が[[シナプス前部]]に発現しており、[[神経伝達物質]]の放出を調節する作用を持つことが報告されている。[[シナプス前]]部でのカイニン酸受容体の機能的意義は、古くは海馬CA3野の遊離神経終末を用いた研究により示されてきた。シナプス前部のカイニン酸受容体の作用の特徴として、投与するカイニン酸の濃度により双方向性に変化することが知られている。すなわち、低濃度のカイニン酸投与は神経伝達物質の放出を増大させるが、高濃度のカイニン酸投与は抑制することが海馬CA3野苔状線維シナプスなどで示されており、イオンチャンネル型のカイニン酸受容体がシナプス前部を[[脱分極]]させることで神経伝達物質放出を調節するというメカニズムが提唱されている。(<ref><pubmed> 10718745 </pubmed></ref>、<ref><pubmed> 11747895 </pubmed></ref>、<ref><pubmed> 11239159 </pubmed></ref>)。
 カイニン酸受容体が[[シナプス前部]]に発現しており、[[神経伝達物質]]の放出を調節する作用を持つことが報告されている。[[シナプス前]]部でのカイニン酸受容体の機能的意義は、古くは海馬CA3野の遊離神経終末を用いた研究により示されてきた。シナプス前部のカイニン酸受容体の作用の特徴として、投与するカイニン酸の濃度により双方向性に変化することが知られている。すなわち、低濃度のカイニン酸投与は神経伝達物質の放出を増大させるが、高濃度のカイニン酸投与は抑制することが海馬CA3野苔状線維シナプスなどで示されており、イオンチャンネル型のカイニン酸受容体がシナプス前部を[[脱分極]]させることで神経伝達物質放出を調節するというメカニズムが提唱されている。(<ref><pubmed> 10718745 </pubmed></ref>、<ref><pubmed> 11747895 </pubmed></ref>、<ref><pubmed> 11239159 </pubmed></ref>)。
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== 病態との関連 ==
== 病態との関連 ==
==== てんかん ====
==== てんかん ====
 [[wikipedia:ja:マウス|マウス]]ないし[[wikipedia:ja:ラット|ラット]]でのカイニン酸[[wikipedia:ja:腹腔|腹腔]]内投与は、発作性神経活動や[[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]の[[側頭葉てんかん]]で見られるような[[神経損傷]]パターンを引き起こすことから、実験的てんかんモデルとして広く用いられてきた。GluK2を欠損させたマウスでは、海馬CA3野錐体細胞のカイニン酸への感受性が低下しており、またカイニン酸投与を行ってもてんかん発作を生じない<ref><pubmed> 15509753 </pubmed></ref>。GluK1選択的アンタゴニストは、[[ムスカリン性アセチルコリン受容体]]アゴニストの[[wikipedia:ja:ピロカロピン|ピロカロピン]]投与や電気刺激によって引き起こされる海馬スライスでのてんかん様活動やin vivoでの発作性神経活動を抑える<ref><pubmed> 12080343 </pubmed></ref>。てんかん原生を獲得した海馬[[歯状回]]には異所性に苔状線維投射が生じるが、この異所性シナプスではカイニン酸受容体応答を生じるようになる<ref><pubmed> 12080343 </pubmed></ref>。
 [[wikipedia:ja:マウス|マウス]]ないし[[wikipedia:ja:ラット|ラット]]でのカイニン酸[[wikipedia:ja:腹腔|腹腔]]内投与は、発作性神経活動や[[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]の[[側頭葉てんかん]]で見られるような[[神経損傷]]パターンを引き起こすことから、実験的てんかんモデルとして広く用いられてきた。GluK2を欠損させたマウスでは、海馬CA3野錐体細胞のカイニン酸への感受性が低下しており、またカイニン酸投与を行ってもてんかん発作を生じない<ref><pubmed> 15509753 </pubmed></ref>。GluK1選択的アンタゴニストは、[[ムスカリン性アセチルコリン受容体]]アゴニストの[[wikipedia:ja:ピロカロピン|ピロカロピン]]投与や電気刺激によって引き起こされる海馬スライスでのてんかん様活動やin vivoでの発作性神経活動を抑える<ref><pubmed> 12080343 </pubmed></ref>。てんかん原生を獲得した海馬[[歯状回]]には異所性に苔状線維投射が生じるが、この異所性シナプスではカイニン酸受容体応答を生じるようになる<ref><pubmed> 16148230 </pubmed></ref>。


==== 慢性疼痛 ====
==== 慢性疼痛 ====
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==== 片頭痛 ====
==== 片頭痛 ====
 疼痛の研究は[[片頭痛]]の動物モデルに適応されてきている<ref><pubmed> 18793656 </pubmed></ref>。[[脳幹]][[三叉神経核]]尾側の神経細胞は、[[カプサイシン]]による[[髄膜]]への侵害刺激に反応して[[c-Fos]]が発現するが、[[スマトリプタン]]や[[ジヒドロエルゴタミン]]などの片頭痛に効果的な薬物の前処置によりc-Fosの発現は低下し、GluK1アンタゴニストも同様の効果を示すことが報告されている。
 疼痛の研究は[[片頭痛]]の動物モデルに適応されてきている<ref name=ref2 />。[[脳幹]][[三叉神経核]]尾側の神経細胞は、[[カプサイシン]]による[[髄膜]]への侵害刺激に反応して[[c-Fos]]が発現するが、[[スマトリプタン]]や[[ジヒドロエルゴタミン]]などの片頭痛に効果的な薬物の前処置によりc-Fosの発現は低下し、GluK1アンタゴニストも同様の効果を示すことが報告されている。


==関連項目==
==関連項目==