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担当編集委員:[http://researchmap.jp/tadafumikato 加藤 忠史](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/tadafumikato 加藤 忠史](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br>
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英語名:catatonia 独:Katatonie 仏:catatonie<br>
同義語:緊張病 
{{box|text= カタトニア(緊張病)とは、無目的な激しい興奮、昏迷(覚醒しているが、無言で外部からの刺激に反応しない)、拒絶症(外部からの働きかけに理由なく抵抗する)、カタレプシー(他者にとらされた姿勢のままで居続ける)、反響症状(オウム返し[反響言語]、あるいは無意味に相手の動作をまねする[反響動作])など、一見して非常に奇妙で、現実検討力を失ってしまっている状態を指す。もとは病名として提案され、場合によっては致死的な精神疾患と考えられていたが、その中には、脳炎等の脳基質疾患も含まれていた可能性がある。その後、統合失調症の亜型の一つとして位置づけられたが、現在は統合失調症、双極性障害、器質性精神障害などのさまざまな疾患で出現しうる症候群と位置づけられている。治療的には、抗精神病薬よりも、電気けいれん療法、あるいはベンゾジアゼピンが有効とされている。
}}


== はじめに ==
== はじめに ==
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 今回、カタトニア概念の歴史的変遷を、カールバウム、クレッペリン、ブロイラーと辿り、最後にフィンクとテイラーによるカタトニア症候群を示し、その位置づけ、治療アプローチについて記した。
 今回、カタトニア概念の歴史的変遷を、カールバウム、クレッペリン、ブロイラーと辿り、最後にフィンクとテイラーによるカタトニア症候群を示し、その位置づけ、治療アプローチについて記した。
(編集コメント:同様にカタトニアとは何か具体的なイメージがつかめるようなご解説から始めて下さい。)
(編集コメント:現在用いられていない診断基準はイントロに歴史的背景としてまとめて頂き、現在の診断基準を別に御記述ください)
==診断==
 DSM-5では、カタトニアは以下の12の症状項目のうち、3つ以上により特徴づけられる。
 1 昏迷
 2 カタレプシー
 3 蝋屈症 
 4 無言症
 5 拒絶症
 6 姿勢保持
 7 衒奇症
 8 常同症
 9 外的刺激に影響されない焦燥 
 10 しかめ面
 11 反響言語
 12 反響動作<BR>
 カタトニアは、統合失調症、その他の精神病性障害、双極性障害、うつ病、発達障害などの精神疾患に伴って見られる。
 これらに伴ってカタトニアが見られた場合、例えば「統合失調症に伴うカタトニア」と診断する。
==鑑別診断==
 脳腫瘍、頭部外傷、脳血管障害、脳炎等の脳疾患、高カルシウム血症、肝性脳症、ホモシステイン尿症、糖尿病性ケトアシドーシス等の内科疾患でもカタトニアを示すことがある。
 こうした場合は、例えば「脳炎によるカタトニア」と診断する。<BR>
 また、抗精神病薬による悪性症候群でもカタトニア類似の状態を示すことがあり、注意が必要である。
==疫学==
(有病率、好発年齢、性別などについて御記述下さい)
==治療==
 抗精神病薬は避けるべきとされており、電気けいれん療法が有効とされている。また、ベンゾジアゼピンも有効とされている。
==病態生理==
 (カタトニアの神経生物学的要因について、少ないながらも脳画像研究などもあるようですので、少し総説していただけないでしょうか。また、ゲッシングらの周期性緊張病の生物学的研究などを引用しては如何でしょうか。)


== カタトニア概念の歴史的変遷 ==
== カタトニア概念の歴史的変遷 ==
===カールバウムのカタトニア===
===カールバウムのカタトニア===
 カールバウムは、従来弛緩性メランコリーと呼ばれていた状態(無言、無動、一点凝視、カタレプシー、蠟屈症などを示す)に注目し、その経過を入念に観察し、1874年“Die Katatonie oder das Spannungsirresein”を記し、カタトニアの概念を、以下のように定義した<ref name=ref1>'''Kahlbaum KL'''<br>Die Katatnonie oder das Spannugsirresein. <br>Berline: Verlag August Hirshwald, 1987 <br>(渡辺哲夫訳 緊張病 星和書店 1979)</ref>。
 カールバウムは、従来弛緩性メランコリーと呼ばれていた状態(無言、無動、一点凝視、カタレプシー、蠟屈症などを示す)に注目し、その経過を入念に観察し、1874年“Die Katatonie oder das Spannungsirresein”を記し、カタトニアの概念を、以下のように定義した<ref name=ref1>'''Kahlbaum KL'''<br>Die Katatnonie oder das Spannugsirresein. <br>Berlin: Verlag August Hirshwald, 1987 <br>(渡辺哲夫訳 緊張病 星和書店 1979)</ref>。


 “カタトニアは循環性に変遷する経過をたどる大脳疾患である。精神的な症状として、メランコリー、マニー、昏迷、錯乱そして最終的な精神荒廃という一連の病像を順次呈するが、その際、精神病像全体のなかでひとつ、あるいはいくつかの病像が欠けることもある。そして、本疾患においては、精神的な諸症状と並んで、痙攣という一般的な特性を伴った運動性神経系における諸事象が本質的な症状として出現してくる”
 “カタトニアは循環性に変遷する経過をたどる大脳疾患である。精神的な症状として、メランコリー、マニー、昏迷、錯乱そして最終的な精神荒廃という一連の病像を順次呈するが、その際、精神病像全体のなかでひとつ、あるいはいくつかの病像が欠けることもある。そして、本疾患においては、精神的な諸症状と並んで、痙攣という一般的な特性を伴った運動性神経系における諸事象が本質的な症状として出現してくる”
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#治療は、通常の統合失調症の治療法に準じ[[抗精神病薬]]を中心とする。
#治療は、通常の統合失調症の治療法に準じ[[抗精神病薬]]を中心とする。


 このような事情により、カタトニア症候群に特異的で有効である治療(Benzodiazepines, Barbiturate, ECT)が施行されないか遅れることになった。また、抗精神病薬の治療を深追いしすぎて、抗精神病薬誘発性の悪性カタトニアを生じて生命切迫性の事態が生じてしまうこともみられたと考える。DSM、ICDではカタトニア症状が気分障害、身体疾患でも認めうると改訂され、カタトニアをみると単純に統合失調症と診断される傾向は弱まったがこのような従来の考え方は根強かった。
 このような事情により、カタトニア症候群に特異的で有効である治療([[ベンゾジアゼピン]]、バルビツール酸、 電気けいれん療法)が施行されないか遅れることになった。また、抗精神病薬の治療を深追いしすぎて、抗精神病薬誘発性の悪性カタトニアを生じて生命切迫性の事態が生じてしまうこともみられたと考える。DSM、ICDではカタトニア症状が気分障害、身体疾患でも認めうると改訂され、カタトニアをみると単純に統合失調症と診断される傾向は弱まったがこのような従来の考え方は根強かった。
 
=== フィンクとテイラーのカタトニア症候群 ===
 
 2003年、M.FinkとM.A.Taylorは著書“Catatonia”<ref name=ref4>'''Fink M, Taylor MA.'''<br>Catatonia: A Clinician’s Guide to Diagnosis and Treatment. <br>Cambridge, UK: Cambridge University Press, 2003<br>(鈴木一正訳 カタトニア―臨床医のための診断・治療ガイド 星和書店 2007)</ref>にて、臨床的視点から統合失調症と結び付けられやすかったカタトニアを再定義し、その症状や特徴を記載した。以下に彼らが再定義したカタトニアの特徴とその説明を記す。
 
#カタトニアは一つの症候群として括ることができる<br>せん妄を様々な病因から生じる病態として独立した一症候群にまとめ、臨床上有用であった事に着目し、同様にカタトニアも様々な病因から生じる独立した一症候群として認識していくことが臨床上有用である。カタトニアはその特徴的な症状を注意深く観察すれば誰でも診断可能であり、その方法としてはBush Francis Catatonia Rating Scale(付録1,2)を使うとよい。
#カタトニアはよく見られる症候群である<br>カタトニアは上記の診断方法によると精神科急性期入院患者では5-10%に見られ、カタトニアを呈する患者数は年間の自殺者よりも多い。カタトニアの多くは見過ごされており、カタトニアの症状を積極的に見つけ出し診断し治療することが重要である(表1)。
#カタトニアでは様々な病像が見られる<br>カタトニアは以前から、良性昏迷、せん妄躁病、夢幻状態、致死性緊張病、神経遮断薬誘発性カタトニア、混合感情状態など様々な名前で語られてきた多様な病像を呈する。それをカタトニア症候群に統合し、大きく3つの病型に分類した。昏迷状態を呈する制止型、カタトニアを伴う躁病に代表される興奮型、急性に、発熱、重篤な身体生理機能の異常で発症する悪性カタトニアがある。これらの病型は、運動症状や治療反応性では共通している。鎮静作用の抗けいれん薬(ベンゾジアゼピン、バルビツール酸)と電気けいれん療法は、カタトニアのどの病型においても有効である。
#神経遮断薬性悪性症候群(NMS)は悪性カタトニア(MC)である<br>神経遮断薬性悪性症候群はドパミン遮断薬の投与を契機に発症した悪性カタトニアの一亜型と解釈される。神経遮断薬性悪性症候群と悪性カタトニアでは症状とラボデータでは区別できず、通常の神経遮断薬性悪性症候群の治療で軽快しない場合、神経遮断薬性悪性症候群を悪性カタトニアと解釈することで、神経遮断薬性悪性症候群にもカタトニアに有効な治療法(電気けいれん療法)が考慮される点でこの解釈は重要である。
#カタトニアは通常統合失調症とは関係ない<br>カタトニア症候群を呈する病因は多様である。なかでも躁うつ病が最も多い病因であり、その次は一般の身体及び神経疾患である。一方、カタトニアを呈する患者が統合失調症の診断基準に合致するのは約10%である。したがって、カタトニアを呈する患者は統合失調症以外の病因を持つことが多い。このことは、カタトニアは統合失調症であるという従来の考えに対して、パラダイムシフトであり、それにより治療に対する考え方や治療選択肢が広がる。
#カタトニアは予後良好である<br>カタトニアには明瞭な治療法がある。まず、急性期治療の段階でカタトニアは命にかかわる状態に進展する可能性があることを認識していなければならない。次に、カタトニアの症状が十分出そろった患者(特に制止型)に対しては、表2の処置を注意深く順々に施行してゆく。カタトニアの治療反応性については、現在までの文献や自験例によるとほとんどすべてのカタトニアのエピソードが消退することが示されている。しかし、カタトニアを呈した病因の疾患から回復するかどうかは、その疾患による。


== フィンクとテイラーのカタトニア症候群 ==
 このようにフィンクのカタトニア概念は、カタトニア症候群は様々な病因から生ずると言いながらも、カールバウムのカタトニアのうちクレッペリンが躁うつ病に含めたせん妄躁病、昏迷(うつ状態)、混合状態を中核例に据え、クレッペリンが早発性痴呆に組み込んだ慢性カタトニアについては辺縁的な扱いとなっている。そのことより、予後良好性について強調しすぎているとも考えられる。治療については、カタトニア症候群への特異的な治療法としてベンゾジアゼピン、バルミツール酸、特に電気けいれん療法の有用性を強調し、抗精神病薬(特に高力価の)については禁忌に近い態度をとっている。
<ref name=ref4>'''Fink M, Taylor MA.'''<br>Catatonia: A Clinician’s Guide to Diagnosis and Treatment. <br>Cambridge, UK: Cambridge University Press, 2003<br>(鈴木一正訳 カタトニア―臨床医のための診断・治療ガイド 星和書店 2007)</ref>


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 2003年、M.FinkとM.A.Taylorは著書“Catatonia”にて、臨床的視点から統合失調症と結び付けられやすかったカタトニアを再定義し、その症状や特徴を記載した。以下に彼らが再定義したカタトニアの特徴とその説明を記す。
 筆者は、カタトニアを基底疾患やその表現型に応じて多種多様な呼称で分裂させるよりも、様々な原因からなる一症候群として統一的に認識してゆくとするフィンクらの態度は慧眼であると考える。その理由は、カタトニアは統合失調症であるという従来の考えから離れて、治療選択肢が広がることにある。以前から幻覚[[妄想]]状態を神経遮断薬で治療しているとカタトニア症状がおこってくることがあり、これを緊張型統合失調症とするか神経遮断薬の副作用とするか気分障害によるカタトニア症状とするか、治療手段として神経遮断薬を増やしても状態は悪化し時に発熱や著しい自律神経症状を生じることがあるし、神経遮断薬を中止し抗パーキンソン薬を投与しても改善はみられないことをcatatonic dilemmaといいこの場合電気けいれん療法が有効であると報告がなされている<ref name=ref5><pubmed>6747176</pubmed></ref>。このような状況で、この症状についてカタトニア症候群として認識する視点があればジレンマに陥ることなく電気けいれん療法という治療選択肢をとることができると考える。しかし、ここで今度はカタトニア症候群では抗精神病薬投与は禁忌であり電気けいれん療法を選択しなければならぬという極端な単純化が起こると臨床における治療選択の硬直化がおこる。フィンクらも抗精神病薬の投与に懐疑的で電気けいれん療法の効用を強調してはいるが、これはカタトニアは統合失調症であるという従来の考えではなく躁うつ病に関係することを多少極端に述べる必要があったからのことだろう。フィンクらの本意はむしろ、カタトニア症候群を認識し、全身状態に注意を払いながら、原因(基底疾患)を考慮し(特に身体因)、状態に即応してカタトニアへの治療アプローチをとるか原因(基底疾患)への治療アプローチをとるという柔軟な態度が要請されるところにあるのではないだろうか。その際の心得として、抗精神病薬は使用することがあっても、深追いはせず電気けいれん療法を選択するということではないかと考える。このように病因と表現形態であるカタトニア症候群との“中間に立つ態度”ともいえる複眼的な治療アプローチを駆使することがカタトニアの臨床では大切である。
 
#カタトニアは一つの症候群として括ることができる<br>せん妄を様々な病因から生じる病態として独立した一症候群にまとめ、臨床上有用であった事に着目し、同様にカタトニアも様々な病因から生じる独立した一症候群として認識していくことが臨床上有用である。カタトニアはその特徴的な症状を注意深く観察すれば誰でも診断可能であり、その方法としてはBush Francis Catatonia Rating Scale(付録1,2)を使うとよい。
#カタトニアはよく見られる症候群である<br>カタトニアは上記の診断方法によると精神科急性期入院患者では5-10%に見られ、カタトニアを呈する患者数は年間の自殺者よりも多い。カタトニアの多くは見過ごされており、カタトニアの症状を積極的に見つけ出し診断し治療することが重要である(表1)。
#カタトニアでは様々な病像が見られる<br>カタトニアは以前から、良性昏迷、せん妄躁病、夢幻状態、致死性緊張病、神経遮断薬誘発性カタトニア、混合感情状態など様々な名前で語られてきた多様な病像を呈する。それをカタトニア症候群に統合し、大きく3つの病型に分類した。昏迷状態を呈する制止型、カタトニアを伴う躁病に代表される興奮型、急性に、発熱、重篤な身体生理機能の異常で発症する悪性カタトニアがある。これらの病型は、運動症状や治療反応性では共通している。鎮静作用の抗けいれん薬(Benzodiazepines, Barbiturate)とECTは、カタトニアのどの病型においても有効である。
#神経遮断薬性悪性症候群(NMS)は悪性カタトニア(MC)である<br>NMSはドパミン遮断薬の投与を契機に発症した悪性カタトニアの一亜型と解釈される。NMSとMCでは症状とラボデータでは区別できず、通常のNMSの治療で軽快しない場合、NMSをMCと解釈することで、NMSにもカタトニアに有効な治療法(ECT)が考慮される点でこの解釈は重要である。
#カタトニアは通常統合失調症とは関係ない<br>カタトニア症候群を呈する病因は多様である。なかでも躁うつ病が最も多い病因であり、その次は一般の身体及び神経疾患である。一方、カタトニアを呈する患者が統合失調症の診断基準に合致するのは約10%である。したがって、カタトニアを呈する患者は統合失調症以外の病因を持つことが多い。このことは、カタトニアは統合失調症であるという従来の考えに対して、パラダイムシフトであり、それにより治療に対する考え方や治療選択肢が広がる。
#カタトニアは予後良好である<br>カタトニアには明瞭な治療法がある。まず、急性期治療の段階でカタトニアは命にかかわる状態に進展する可能性があることを認識していなければならない。次に、カタトニアの症状が十分出そろった患者(特に制止型)に対しては、表2の処置を注意深く順々に施行してゆく。カタトニアの治療反応性については、現在までの文献や自験例によるとほとんどすべてのカタトニアのエピソードが消退することが示されている。しかし、カタトニアを呈した病因の疾患から回復するかどうかは、その疾患による。
 
 このようにフィンクのカタトニア概念は、カタトニア症候群は様々な病因から生ずると言いながらも、カールバウムのカタトニアのうちクレッペリンが躁うつ病に含めたせん妄躁病、昏迷(うつ状態)、混合状態を中核例に据え、クレッペリンが早発性痴呆に組み込んだ慢性カタトニアについては辺縁的な扱いとなっている。そのことより、予後良好性について強調しすぎているとも考えられる。治療については、カタトニア症候群への特異的な治療法としてBenzodiazepines、Barbiturate、特にECTの有用性を強調し、抗精神病薬(特に高力価の)については禁忌に近い態度をとっている。
 
 筆者は、カタトニアを基底疾患やその表現型に応じて多種多様な呼称で分裂させるよりも、様々な原因からなる一症候群として統一的に認識してゆくとするフィンクらの態度は慧眼であると考える。その理由は、カタトニアは統合失調症であるという従来の考えから離れて、治療選択肢が広がることにある。以前から幻覚[[妄想]]状態を神経遮断薬で治療しているとカタトニア症状がおこってくることがあり、これを緊張型統合失調症とするか神経遮断薬の副作用とするか気分障害によるカタトニア症状とするか、治療手段として神経遮断薬を増やしても状態は悪化し時に発熱や著しい自律神経症状を生じることがあるし、神経遮断薬を中止し抗パーキンソン薬を投与しても改善はみられないことをcatatonic dilemmaといいこの場合ECTが有効であると報告がなされている<ref name=ref5><pubmed>6747176</pubmed></ref>。このような状況で、この症状についてカタトニア症候群として認識する視点があればジレンマに陥ることなくECTという治療選択肢をとることができると考える。しかし、ここで今度はカタトニア症候群では抗精神病薬投与は禁忌でありECTを選択しなければならぬという極端な単純化が起こると臨床における治療選択の硬直化がおこる。フィンクらも抗精神病薬の投与に懐疑的でECTの効用を強調してはいるが、これはカタトニアは統合失調症であるという従来の考えではなく躁うつ病に関係することを多少極端に述べる必要があったからのことだろう。フィンクらの本意はむしろ、カタトニア症候群を認識し、全身状態に注意を払いながら、原因(基底疾患)を考慮し(特に身体因)、状態に即応してカタトニアへの治療アプローチをとるか原因(基底疾患)への治療アプローチをとるという柔軟な態度が要請されるところにあるのではないだろうか。その際の心得として、抗精神病薬は使用することがあっても、深追いはせずECTを選択するということではないかと考える。このように病因と表現形態であるカタトニア症候群との“中間に立つ態度”ともいえる複眼的な治療アプローチを駆使することがカタトニアの臨床では大切である。


== おわりに ==
== おわりに ==
 カタトニアの歴史的概念を概説し、最近のフィンクらによるカタトニア症候群について説明した。その中で、カタトニアを病因とは別に臨床症候群としてとらえ、ECTを特異的治療として認識しつつ、状態に応じ病因からの治療アプローチも駆使し、臨床をすすめていくことの重要性を記した。
 カタトニアの歴史的概念を概説し、最近のフィンクらによるカタトニア症候群について説明した。その中で、カタトニアを病因とは別に臨床症候群としてとらえ、電気けいれん療法を特異的治療として認識しつつ、状態に応じ病因からの治療アプローチも駆使し、臨床をすすめていくことの重要性を記した。


*本文では、カールバウムが着目した広い概念での緊張病についてカタトニアと記載し、早発性痴呆(統合失調症)の緊張型と区別して用いた。
*本文では、カールバウムが着目した広い概念での緊張病についてカタトニアと記載し、早発性痴呆(統合失調症)の緊張型と区別して用いた。
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**本文では、割愛したが、ウェルニッケ-クライスト-レオンハルト学派の緊張病及び否定形精神病概念も、カタトニア理解においては重要なものであると思われる<ref name=ref7>'''Karl Leonhard, Helmut Beckmann,C.H. Cahn'''<br>Classification of Endogenous Psychoses and their Differentiated Etiology. <br>New York City, US: Springer.,1999<br>(福田哲雄, 林拓二,岩波明訳 内因性精神病の分類 医学書院 2002)</ref>。
**本文では、割愛したが、ウェルニッケ-クライスト-レオンハルト学派の緊張病及び否定形精神病概念も、カタトニア理解においては重要なものであると思われる<ref name=ref7>'''Karl Leonhard, Helmut Beckmann,C.H. Cahn'''<br>Classification of Endogenous Psychoses and their Differentiated Etiology. <br>New York City, US: Springer.,1999<br>(福田哲雄, 林拓二,岩波明訳 内因性精神病の分類 医学書院 2002)</ref>。


==関連項目==
*[[統合失調症]]
(他にございましたらご指摘下さい)
== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
(文献6と7の引用位置を御示し下さい)
<references />
<references />
  6.'''Kraepelin E.''' <br>   Psychiatrie ein Lehrbuch für Studierende und Ärzte. Achten Auflage<br>   Verlag von Johan Ambrosius Barth, Leipzig, 1913 <br>   (西丸四方, 西丸甫夫訳 精神分裂病, 第8版I みすず書房 1985, 西丸四方, 西丸甫夫訳 躁うつ病とてんかん, 第8版II みすず書房 1986)
  7.'''Caroff SN, Mann SC, Francis A, Fricchione GL,'''<br>   ed. Catatonia: From Psychopathology to Neurobiology. <br>   Washington, DC: American Psychiatric Association; 2004. <br>   (Braeunig P, Krueger S. chapter 1 History p1-14)

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