「カリウムチャネル」の版間の差分

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英:potassium channel、英略語:K<sup>+</sup> channel
英:potassium channel、英略語:K<sup>+</sup> channel


 カリウムチャネルはカリウムイオンを選択的に透過させるイオンチャネルである。静止膜電位の形成や電気的な細胞応答、シナプス伝達やカリウム濃度の恒常性維持に関わっている。ほとんどのカリウムチャネルはαサブユニットが四量体を形成し、中央部分にカリウムを通す小孔(ポア)が開くようになっている。電気生理学的特性やαサブユニットの膜貫通領域の構造の違いにより、六回膜貫通型の「電位依存性カリウムチャネル」と「カルシウム活性化カリウムチャネル」、二回膜貫通型の「内向き整流性カリウムチャネル」、四回膜貫通型の「Two-pore domainカリウムチャネル」に大別される。イオン透過経路を構成するαサブユニットと電流特性や膜発現量を制御するβサブユニットあわせると100種類以上の遺伝子群から構成されており、これら豊富なサブユニット分子種、αサブユニットのヘテロ四量体形成、さらにβサブユニットとの複合体形成がカリウムチャネルの多様性の実体的理由である。イオンチャネルの中で、電気生理学的な解析、生化学・構造生物学的な解析が最も行われているのがカリウムチャネルであり、イオンチャネルの分子機構に関する極めて重要な研究成果がカリウムチャネルを用いた研究から得られている。
 カリウムチャネルは[[wikipedia:ja:|カリウムイオン]]を選択的に透過させる[[イオンチャネル]]である。[[静止膜電位]]の形成や電気的な細胞応答、[[シナプス伝達]]やカリウム濃度の[[wikipedia:ja:|恒常性]]維持に関わっている。ほとんどのカリウムチャネルはαサブユニットが四量体を形成し、中央部分にカリウムを通す小孔(ポア)が開くようになっている。[[電気生理学]]的特性やαサブユニットの[[wikipedia:ja:|膜貫通領域]]の構造の違いにより、六回膜貫通型の「[[電位依存性カリウムチャネル]]」と「[[カルシウム活性化カリウムチャネル]]」、二回膜貫通型の「[[内向き整流性カリウムチャネル]]」、四回膜貫通型の「[[Two-pore domainカリウムチャネル]]」に大別される。イオン透過経路を構成するαサブユニットと電流特性や膜発現量を制御するβサブユニットあわせると100種類以上の遺伝子群から構成されており、これら豊富なサブユニット分子種、αサブユニットのヘテロ四量体形成、さらにβサブユニットとの複合体形成がカリウムチャネルの多様性の実体的理由である。イオンチャネルの中で、電気生理学的な解析、生化学・構造生物学的な解析が最も行われているのがカリウムチャネルであり、イオンチャネルの分子機構に関する極めて重要な研究成果がカリウムチャネルを用いた研究から得られている。


== カリウムチャネルの基本的分子機能と構造 ==
== カリウムチャネルの基本的分子機能と構造 ==


 細胞は脂質二重膜に囲まれているため、荷電したイオンは自由に細胞に出入りすることは出来ない。そこで細胞はイオンを通すための小孔(ポア)を膜に持っている。電気化学ポテンシャルを駆動力として、カリウムイオン(K<sup>+</sup>)の選択的な膜透過をつかさどる蛋白質がカリウムチャネルである<ref>'''Y Kurachi, LY Jan, M Lazdunski'''<br>"Potassium Ion Channels: Molecular Structure, Function, and Diseases". Current Topics in Membranes, vol 46<br>''Academic Press, London'':1999 ISBN 0-12-153346-8.</ref><ref>'''B Hille'''<br>"Chapter 5: Potassium Channels and Chloride Channels". Ion channels of excitable membranes<br>''Sinauer Associate Inc, Sunderland, MA'':pp. 131–168:2002 ISBN 0-87893-321-2.</ref>。従来の電気生理学的解析により各組織、各細胞で異なる性質を持つカリウムチャネルの存在が明らかにされてきた。しかしそれらに共通する機能として、生体膜のエネルギー障壁(ボルンエネルギー)を克服しカリウムイオンを選択的に透過させる機能を持っている。また、多くは小孔の開閉を制御する特徴的なゲート機能を備えている。
 細胞は[[細胞膜|脂質二重膜]]に囲まれているため、荷電したイオンは自由に細胞に出入りすることは出来ない。そこで細胞はイオンを通すための小孔(ポア)を膜に持っている。[[電気化学ポテンシャル]]を駆動力として、カリウムイオン(K<sup>+</sup>)の選択的な膜透過をつかさどるタンパク質がカリウムチャネルである<ref>'''Y Kurachi, LY Jan, M Lazdunski'''<br>"Potassium Ion Channels: Molecular Structure, Function, and Diseases". Current Topics in Membranes, vol 46<br>''Academic Press, London'':1999 ISBN 0-12-153346-8.</ref><ref>'''B Hille'''<br>"Chapter 5: Potassium Channels and Chloride Channels". Ion channels of excitable membranes<br>''Sinauer Associate Inc, Sunderland, MA'':pp. 131–168:2002 ISBN 0-87893-321-2.</ref>。従来の電気生理学的解析により各組織、各細胞で異なる性質を持つカリウムチャネルの存在が明らかにされてきた。しかしそれらに共通する機能として、生体膜のエネルギー障壁(ボルンエネルギー)を克服しカリウムイオンを選択的に透過させる機能を持っている。また、多くは小孔の開閉を制御する特徴的なゲート機能を備えている。


=== 二次構造  ===
=== 二次構造  ===
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[[Image:KCh fig1.png|thumb|right|300px|<b>図1.カリウムチャネルの二次構造、結晶構造、ドメイン配置</b><br />2TM型の内向き整流性カリウムチャネル、4TM型のtwo-pore domainカリウムチャネル、6TM型の電位依存性カリウムチャネル・カルシウム活性化カリウムチャネルαサブユニットの二次構造(上段)、結晶構造のTop view(中段)そしてドメイン配置(下段)。結晶構造は、PBD Data Bankに登録されたPDBID 3SPI (Kir2.2)、3UKM (TWIK-1)、2R9R (Kv1.2-Kv2.1 paddle chimera channel)をもとにPyMolで作成。]]
[[Image:KCh fig1.png|thumb|right|300px|<b>図1.カリウムチャネルの二次構造、結晶構造、ドメイン配置</b><br />2TM型の内向き整流性カリウムチャネル、4TM型のtwo-pore domainカリウムチャネル、6TM型の電位依存性カリウムチャネル・カルシウム活性化カリウムチャネルαサブユニットの二次構造(上段)、結晶構造のTop view(中段)そしてドメイン配置(下段)。結晶構造は、PBD Data Bankに登録されたPDBID 3SPI (Kir2.2)、3UKM (TWIK-1)、2R9R (Kv1.2-Kv2.1 paddle chimera channel)をもとにPyMolで作成。]]


 ほとんどのカリウムチャネルはポアドメイン形成に関わる蛋白質(αサブユニット)が4つ一組になって働く。カリウムチャネルのαサブユニットの二次構造を図1に示す。代表的な構造として、電位依存性カリウムチャネルが含まれる六回膜貫通(6TM)型の構造と、内向き整流性カリウムチャネルが含まれる二回膜貫通(2TM)型の構造がある。膜貫通領域(セグメント)のS5とS6(2TM型ではTM1とTM2)はカリウムイオンを透過させるためのポアドメインを構成する。またこの二つの膜貫通領域間の細胞外リンカー部分にはカリウムチャネルで広く保持されたシグネチャ配列(signature sequence, 選択的特異配列とも; TXTTVGYG, 特にGYGまたはGFGはよく保存されている)を含むP領域が存在し、ここはイオン選択フィルター機能に関わる。一方、S1-S4で構成される領域は電位センサーとして機能し、S4には正に帯電したアミノ酸が周期的に並んでいる。6TM型だが、膜電位ではなく細胞内Ca<sup>2+</sup>によって活性化されるカリウムチャネルも存在する。2TMの内向き整流性カリウムチャネルは6TM型の電位依存性カリウムチャネルの電位センサードメイン(S1-S4)に対応する構造をもっておらず、代わりに大きな細胞内領域をもつ。また、2TM及びP領域がサブユニット分子内で2回タンデムにつながった構造の4TM型のカリウムチャネルも存在する。このαサブユニットは二量体を形成しイオンチャネルとして機能する。ポアドメインを構成する領域を分子内に2つ有するためtwo-pore domainカリウム(K2P)チャネル、あるいはタンデム(直列)ポアドメイン(tandem pore domain)チャネルと呼ばれる。  
 ほとんどのカリウムチャネルはポアドメイン形成に関わるタンパク質(αサブユニット)が4つ一組になって働く。カリウムチャネルのαサブユニットの二次構造を図1に示す。代表的な構造として、電位依存性カリウムチャネルが含まれる六回膜貫通(6TM)型の構造と、内向き整流性カリウムチャネルが含まれる二回膜貫通(2TM)型の構造がある。膜貫通領域(セグメント)のS5とS6(2TM型ではTM1とTM2)はカリウムイオンを透過させるためのポアドメインを構成する。またこの二つの膜貫通領域間の細胞外リンカー部分にはカリウムチャネルで広く保持されたシグネチャ配列(signature sequence, 選択的特異配列とも; TXTTVGYG, 特にGYGまたはGFGはよく保存されている)を含むP領域が存在し、ここはイオン選択フィルター機能に関わる。一方、S1-S4で構成される領域は電位センサーとして機能し、S4には正に帯電したアミノ酸が周期的に並んでいる。6TM型だが、膜電位ではなく細胞内Ca<sup>2+</sup>によって活性化されるカリウムチャネルも存在する。2TMの内向き整流性カリウムチャネルは6TM型の電位依存性カリウムチャネルの電位センサードメイン(S1-S4)に対応する構造をもっておらず、代わりに大きな細胞内領域をもつ。また、2TM及びP領域がサブユニット分子内で2回タンデムにつながった構造の4TM型のカリウムチャネルも存在する。このαサブユニットは二量体を形成しイオンチャネルとして機能する。ポアドメインを構成する領域を分子内に2つ有するためtwo-pore domainカリウム(K2P)チャネル、あるいはタンデム(直列)ポアドメイン(tandem pore domain)チャネルと呼ばれる。  


=== 結晶構造  ===
=== 結晶構造  ===
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[[Image:KCh fig2.png|thumb|right|300px|<b>図2.カリウムチャネルのポアドメインの構造</b><br />老木成稔 蛋白核酸酵素 1999 <ref name="ref4">'''老木成稔'''<br>Kチャネルの結晶構造に至る道ーK選択性透過を担うポア構造ー<br>''蛋白拡散酵素'':43, 1990-1997, 1998</ref>で用いられている図をもとに執筆者が改変]]
[[Image:KCh fig2.png|thumb|right|300px|<b>図2.カリウムチャネルのポアドメインの構造</b><br />老木成稔 蛋白核酸酵素 1999 <ref name="ref4">'''老木成稔'''<br>Kチャネルの結晶構造に至る道ーK選択性透過を担うポア構造ー<br>''蛋白拡散酵素'':43, 1990-1997, 1998</ref>で用いられている図をもとに執筆者が改変]]
[[Image:KCh fig3.png|thumb|right|300px|<b>図3.カリウムチャネルの選択的イオン透過機構の構造基盤</b><br />a, イオンは水分子と相互作用(水和)した状態で水に溶けている(上段)。イオンチャネルの細いフィルター内に入る際に、イオンは水分子との相互作用をフィルターを形成するアミノ酸の酸素原子を含むカルボニル基との相互作用に置き換える(下段)。b, カリウムチャネルのシグネチャ配列がイオン選択フィルターを形成する。カリウムは中心軸に沿ってフィルター内では4箇所の結合部位に存在する。c,4本のペプチド主鎖から提供された酸素原子が5つの回転対称な平面を構成する。カリウム(緑丸)と水(赤丸)は交互に一列配置しているイオン透過過程のモデル。カリウムの[1,3][2,4]配置では上下の平面由来の8つの酸素原子と配位しており、中間遷移状態では同一平面の4つの酸素原子および上下の2つの水分子と配位している。いづれの配位結合もエネルギー的にはほぼ等価であり、これがカリウムのスムーズな移動を保証する。<br />b, Morais-Cabralら Nature 2001<ref name="ref5"><pubmed>11689935</pubmed></ref>、c, Zhouら Nature 2001<ref name="ref6"><pubmed>11689936</pubmed></ref>より許可を得て転載]]
[[Image:KCh fig3.png|thumb|right|300px|<b>図3.カリウムチャネルの選択的イオン透過機構の構造基盤</b><br />a.イオンは水分子と相互作用(水和)した状態で水に溶けている(上段)。イオンチャネルの細いフィルター内に入る際に、イオンは水分子との相互作用をフィルターを形成するアミノ酸の酸素原子を含むカルボニル基との相互作用に置き換える(下段)。b.カリウムチャネルのシグネチャ配列がイオン選択フィルターを形成する。カリウムは中心軸に沿ってフィルター内では4箇所の結合部位に存在する。c.4本のペプチド主鎖から提供された酸素原子が5つの回転対称な平面を構成する。カリウム(緑丸)と水(赤丸)は交互に一列配置しているイオン透過過程のモデル。カリウムの[1,3][2,4]配置では上下の平面由来の8つの酸素原子と配位しており、中間遷移状態では同一平面の4つの酸素原子および上下の2つの水分子と配位している。いづれの配位結合もエネルギー的にはほぼ等価であり、これがカリウムのスムーズな移動を保証する。<br />b.Morais-Cabralら Nature 2001<ref name="ref5"><pubmed>11689935</pubmed></ref>、c.Zhouら Nature 2001<ref name="ref6"><pubmed>11689936</pubmed></ref>より許可を得て転載]]


 イオンチャネルの電気生理学的な解析によって、単一チャネル電流を定量的に記録することが可能である。この方法によって単一のイオンチャネルを透過するイオンの速度を見積もることが出来る。この実験から、カリウムチャネルではK<sup>+</sup>イオンがNa<sup>+</sup>イオンよりも1000倍ほど透過性が高いことが知られている(一価陽イオンの選択性序列は K<sup>+</sup>&gt;Rb<sup>+</sup>&gt;Cs<sup>+</sup>&gt;Na<sup>+</sup>&gt;Li<sup>+</sup>。これはEisenman IV型であり、イオン選択フィルターがやや弱い静電場をもつことを示唆する)。しかも、開いた小孔を電気化学的な差に従って、イオンの水溶液中の拡散速度に匹敵する程の、1秒間に数百万個ものイオンが通過することが分かっている(単一イオンチャネルコンダクタンスが数百pSに達すものもある)。つまりカリウムチャネルは極めて高いイオン選択性と非常に早いイオン透過速度という一見相容れない特性を両立する。特定のイオンを透過させる機構としては大きさによる分子フィルター機構がまず考えられる。しかしながら、イオン半径では、Na<sup>+</sup>(イオン半径r=0.95 Å)はK<sup>+</sup>(r=1.33 Å)はよりも小さく、なぜK<sup>+</sup>を透過してNa<sup>+</sup>を透過させないのか説明がつかない。カリウムチャネルのこのカリウム選択的透過機構はこのチャネルがもつ小孔の最も狭い領域、イオン選択フィルターの構造に関係がある<ref name="ref3" /><ref name="ref4" />。イオンは水分子と相互作用(水和)した状態で水に溶けている(図3a)。イオンチャネルの細いフィルター内に入る際に、イオンは水分子との相互作用をフィルターを形成するアミノ酸の酸素原子を含むカルボニル基との相互作用に置き換える(図3a, b)。小孔の大きさがK<sup>+</sup>イオンに適切であり、K<sup>+</sup>イオンは4つサブユニットのカルボニル基から均等に作用を受け、安定な8水和様構造をとり安定する(図3a, c)<ref name="ref5" /><ref name="ref6" />。一方、Na<sup>+</sup>イオンはイオン半径が小さくK<sup>+</sup>イオンのようには相互作用が出来ず(図3a)、K<sup>+</sup>イオンに比べ不安定に存在する。このような違いがK<sup>+</sup>イオンの選択的な透過に寄与していると考えられている。この機構は最適合close-fit説とよばれる。
 イオンチャネルの電気生理学的な解析によって、[[単一チャネル電流]]を定量的に記録することが可能である。この方法によって単一のイオンチャネルを透過するイオンの速度を見積もることが出来る。この実験から、カリウムチャネルではK<sup>+</sup>イオンがNa<sup>+</sup>イオンよりも1000倍ほど透過性が高いことが知られている(一価陽イオンの選択性序列は K<sup>+</sup>&gt;Rb<sup>+</sup>&gt;Cs<sup>+</sup>&gt;Na<sup>+</sup>&gt;Li<sup>+</sup>。これはEisenman IV型であり、イオン選択フィルターがやや弱い静電場をもつことを示唆する)。しかも、開いた小孔を電気化学的な差に従って、イオンの水溶液中の拡散速度に匹敵する程の、1秒間に数百万個ものイオンが通過することが分かっている(単一イオンチャネルコンダクタンスが数百pSに達すものもある)。つまりカリウムチャネルは極めて高いイオン選択性と非常に早いイオン透過速度という一見相容れない特性を両立する。
 
 特定のイオンを透過させる機構としては大きさによる分子フィルター機構がまず考えられる。しかしながら、イオン半径では、Na<sup>+</sup>(イオン半径r=0.95 Å)はK<sup>+</sup>(r=1.33 Å)はよりも小さく、なぜK<sup>+</sup>を透過してNa<sup>+</sup>を透過させないのか説明がつかない。カリウムチャネルのこのカリウム選択的透過機構はこのチャネルがもつ小孔の最も狭い領域、[[イオン選択フィルター]]の構造に関係がある<ref name="ref3" /><ref name="ref4" />。イオンは水分子と相互作用(水和)した状態で水に溶けている(図3a)。イオンチャネルの細いフィルター内に入る際に、イオンは水分子との相互作用をフィルターを形成するアミノ酸の酸素原子を含む[[wikipedia:ja:|カルボニル基]]との相互作用に置き換える(図3a, b)。小孔の大きさがK<sup>+</sup>イオンに適切であり、K<sup>+</sup>イオンは4つサブユニットのカルボニル基から均等に作用を受け、安定な8[[wikipedia:ja:|水和]]様構造をとり安定する(図3a, c)<ref name="ref5" /><ref name="ref6" />。一方、Na<sup>+</sup>イオンはイオン半径が小さくK<sup>+</sup>イオンのようには相互作用が出来ず(図3a)、K<sup>+</sup>イオンに比べ不安定に存在する。このような違いがK<sup>+</sup>イオンの選択的な透過に寄与していると考えられている。この機構は[[最適合close-fit説]]とよばれる。


 カリウムチャネルの選択フィルターは12 Åほどの長さがあり結晶構造では4つのK<sup>+</sup>イオン結合部位が認められる(図3b)。しかし近接した結合部位にK<sup>+</sup>イオンが同時に結合するとイオン間で電気的な反発がおこり不安定であると考えられる。そのため4つの部位を細胞外側から1-4サイトとすると、K<sup>+</sup>イオンとチャネルの結合には[1,3]サイトに結合した状態と[2,4]サイトに結合した状態があると考えられる(図3c)。また、フィルター内に複数のイオンが同時に入ることによってイオン間に静電気的反発力が発生し、玉突き状態になることが早いイオン透過に寄与していると考えられている<ref><pubmed>11689935</pubmed></ref>。
 カリウムチャネルの選択フィルターは12 Åほどの長さがあり結晶構造では4つのK<sup>+</sup>イオン結合部位が認められる(図3b)。しかし近接した結合部位にK<sup>+</sup>イオンが同時に結合するとイオン間で電気的な反発がおこり不安定であると考えられる。そのため4つの部位を細胞外側から1-4サイトとすると、K<sup>+</sup>イオンとチャネルの結合には[1,3]サイトに結合した状態と[2,4]サイトに結合した状態があると考えられる(図3c)。また、フィルター内に複数のイオンが同時に入ることによってイオン間に静電気的反発力が発生し、玉突き状態になることが早いイオン透過に寄与していると考えられている<ref><pubmed>11689935</pubmed></ref>。


 イオンは膜を透過しようとするとボルンエネルギーというエネルギー障壁を超える必要がある。小孔はそのボルンエネルギーを低くする役目がある。もし小孔が均一な内径の形状であるとすると、ボルンエネルギーは均一に低下し、ボルンエネルギーの極大値は膜の中央部分にくる。結晶構造で存在が知られたイオンチャネルの内腔は大量の水分子で満たされている(図2)。またポアヘリックスがそのC末端側を中心腔の内部に向けていることで、αヘリックスの双極子モーメントが空洞内に陽イオンが留まりやすい環境を作り出す。こういった中心腔の存在により、本来ボルンエネルギーの高いはずの膜中央部でイオンは水和して安定に存在できる。一方で、イオン透過経路を形成するチャネル壁は疎水性の残基で裏打ちされている。これにより水和したイオンはイオン壁と強い相互作用をすることなく、言い換えればポテンシャルの谷間に落ち込んで出られなくなることなく、細胞質からイオン選択フィルターまでの早いイオン流を確保している。生理的な実験とこれまでに述べたようなイオン透過経路の構造から、膜にかけられた外部電位によるポア内電場のおよそ80%は選択フィルターで生じていると推測される(図2)。
 イオンは膜を透過しようとすると[[wikipedia:ja:|ボルンエネルギー]]というエネルギー障壁を超える必要がある。小孔はそのボルンエネルギーを低くする役目がある。もし小孔が均一な内径の形状であるとすると、ボルンエネルギーは均一に低下し、ボルンエネルギーの極大値は膜の中央部分にくる。結晶構造で存在が知られたイオンチャネルの内腔は大量の水分子で満たされている(図2)。またポアヘリックスがそのC末端側を中心腔の内部に向けていることで、[[wikipedia:ja:|αヘリックス]]の[[wikipedia:ja:|双極子モーメント]]が空洞内に[[wikipedia:ja:|陽イオン]]が留まりやすい環境を作り出す。こういった中心腔の存在により、本来ボルンエネルギーの高いはずの膜中央部でイオンは水和して安定に存在できる。一方で、イオン透過経路を形成するチャネル壁は[[wikipedia:ja:|疎水性]]の残基で裏打ちされている。これにより水和したイオンはイオン壁と強い相互作用をすることなく、言い換えればポテンシャルの谷間に落ち込んで出られなくなることなく、細胞質からイオン選択フィルターまでの早いイオン流を確保している。生理的な実験とこれまでに述べたようなイオン透過経路の構造から、膜にかけられた外部電位によるポア内電場のおよそ80%は選択フィルターで生じていると推測される(図2)。


 カリウムチャネルの結晶構造解析に成功し、イオンチャネルの本質的特徴の一つである選択的イオン透過機構の謎を解明したロデリックマッキノンは2003年ノーベル化学賞を受賞している。
 カリウムチャネルの結晶構造解析に成功し、イオンチャネルの本質的特徴の一つである選択的イオン透過機構の謎を解明した[[wikipedia:ja:|ロデリックマッキノン]]は2003年[[wikipedia:ja:|ノーベル化学賞]]を受賞している。


== 分子機構と構造による分類 ==
== 分子機構と構造による分類 ==
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=== 電位依存性カリウムチャネル  ===
=== 電位依存性カリウムチャネル  ===


 電位依存性カリウム(Kv)チャネルは静止膜電位付近ではポアが閉じているが、脱分極によって活性化(開口確率が上昇)し小孔が開口するカリウムチャネルである(図4)。Kvチャネルファミリーのαサブユニットの遺伝子はKv1-12の12クラス、さらにサブファミリーも存在し40種類ほど単離されている<ref><pubmed>14657415</pubmed></ref><ref><pubmed>16382104</pubmed></ref>。先に述べたように、6TM型の二次構造をとり、N末端から5番目、6番目の膜貫通領域(S5, S6)がポアドメインの形成に関与し、1番目から4番目の膜貫通領域(S1-S4)が電位センサーとして機能する構造を形成する。結晶構造が報告され、電位センサードメインが隣接するサブユニット由来のポアドメインと近接しているという特徴的なドメイン配置が明らかにされている(図1)。
 電位依存性カリウム(Kv)チャネルは静止膜電位付近ではポアが閉じているが、[[脱分極]]によって活性化([[開口確率]]が上昇)し小孔が開口するカリウムチャネルである(図4)。Kvチャネルファミリーのαサブユニットの遺伝子はKv1-12の12クラス、さらにサブファミリーも存在し40種類ほど単離されている<ref><pubmed>14657415</pubmed></ref><ref><pubmed>16382104</pubmed></ref>。先に述べたように、6TM型の二次構造をとり、N末端から5番目、6番目の膜貫通領域(S5, S6)がポアドメインの形成に関与し、1番目から4番目の膜貫通領域(S1-S4)が電位センサーとして機能する構造を形成する。結晶構造が報告され、電位センサードメインが隣接するサブユニット由来のポアドメインと近接しているという特徴的なドメイン配置が明らかにされている(図1)。


 Kvチャネルは、活性化の電位依存性や不活性化の有無、薬物感受性などから様々なタイプに細分類される。脱分極刺激による活性化後直ぐに不活性化され、一過的な電流を流す早期不活性化カリウムチャネル(A型Kチャネル)と不活性化が殆どおこらず活性化が持続する遅延整流性カリウムチャネルに分けることができる。また活性化のスピードから「早い成分」と「遅い成分」とに、あるいは活性化の閾値から「低閾値(low-voltage-activated, LVA)型」と「高閾値(high-voltage-activated, HVA)型」とに分類されることもある。
 Kvチャネルは、活性化の電位依存性や[[不活性化]]の有無、薬物感受性などから様々なタイプに細分類される。脱分極刺激による活性化後直ぐに不活性化され、一過的な電流を流す[[早期不活性化カリウムチャネル]](A型Kチャネル)と不活性化が殆どおこらず活性化が持続する[[遅延整流性カリウムチャネル]]に分けることができる。また活性化のスピードから「早い成分」と「遅い成分」とに、あるいは活性化の閾値から「低閾値(low-voltage-activated, LVA)型」と「高閾値(high-voltage-activated, HVA)型」とに分類されることもある。


 Kvチャネルの活性化の機構としては、膜電位変化に応じて電位センサードメインの構造変化が起こることが想定されている。この電位センサードメインの構造変化が、チャネルの開閉時に測定されるゲート電流と呼ばれる小さな電流を担っていると考えられている。電位センサードメインが脂質二重膜を横切る膜電位の変化をどのように感知し、そして小孔の開閉を制御する仕組みが精力的に研究されているが、その分子機構は明らかではない。近年は電位センサードメインの結晶構造が報告され、その構造変化とその結果起こる小孔の開口のメカニズムに関して議論が続いている。
 Kvチャネルの活性化の機構としては、膜電位変化に応じて電位センサードメインの構造変化が起こることが想定されている。この電位センサードメインの構造変化が、チャネルの開閉時に測定されるゲート電流と呼ばれる小さな電流を担っていると考えられている。電位センサードメインが脂質二重膜を横切る膜電位の変化をどのように感知し、そして小孔の開閉を制御する仕組みが精力的に研究されているが、その分子機構は明らかではない。近年は電位センサードメインの結晶構造が報告され、その構造変化とその結果起こる小孔の開口のメカニズムに関して議論が続いている。


 Kvチャネルの不活性化の機構としては、活性化された後急速におこる不活性化機構としては、活性化後早い不活性化を担うN型の不活性化と、N型と比べて遅い不活性化機構であるC型の不活性化機構という異なる機構が報告されている。N型の不活性化機構にはKvチャネルのN末端のアミノ酸が関与している。また、βサブユニットがN型の不活性化機構に大きく影響を与えることも知られている<ref><pubmed>8799886</pubmed></ref>。チャネルのN型不活性化に関わる領域は、以前はボール状の構造をとりS4-S5のリンカー部分に結合し細胞のポア領域を塞ぐような機構(ball-and-chain機構)が提唱されていたが、最近の解析からはもう少し細い線状の構造がポア内に侵入してポアを塞ぐと考えられるようになってきた。一方、C型の不活性化機構にはP領域とS6(あるいはM2)の一部が関与していると見られる。この領域はポアの細胞外の入り口付近にあたり、この部分の構造変化が基盤であると考えられている。
 Kvチャネルの不活性化の機構としては、活性化された後急速におこる不活性化機構としては、活性化後早い不活性化を担うN型の不活性化と、N型と比べて遅い不活性化機構であるC型の不活性化機構という異なる機構が報告されている。N型の不活性化機構にはKvチャネルのN末端のアミノ酸が関与している。また、βサブユニットがN型の不活性化機構に大きく影響を与えることも知られている<ref><pubmed>8799886</pubmed></ref>
 
 チャネルのN型不活性化に関わる領域は、以前はボール状の構造をとりS4-S5のリンカー部分に結合し細胞のポア領域を塞ぐような機構(ball-and-chain機構)が提唱されていたが、最近の解析からはもう少し細い線状の構造がポア内に侵入してポアを塞ぐと考えられるようになってきた。
 
 一方、C型の不活性化機構にはP領域とS6(あるいはM2)の一部が関与していると見られる。この領域はポアの細胞外の入り口付近にあたり、この部分の構造変化が基盤であると考えられている。


=== Ca活性化カリウムチャネル  ===
=== Ca活性化カリウムチャネル  ===


 Ca活性化カリウム(KCa)チャネルは細胞質のCa<sup>2+</sup>濃度上昇によって活性が増加するカリウムチャネルである<ref><pubmed>12678784</pubmed></ref><ref><pubmed>15378036</pubmed></ref><ref name="ref13"><pubmed>21942705</pubmed></ref>。シングルチャネルコンダクタンスの違いから大(Big)コンダクタンスカルシウム活性化カリウム(BK)チャネルと小(Small)コンダクタンスカルシウム活性化カリウム(SK)チャネル、そしてBKチャネルとIKチャネルの中間のコンダクタンスを持つ中間(Intermediate)コンダクタンスカルシウム活性化カリウム(IK)チャネルに分類されている。BKチャネルは電位依存的な活性化がおこり、アミノ酸の相同性の面からも電位依存性カリウムチャネルに分類されることも多いが、本項ではKCaチャネルの項目で扱う。BKチャネルにCa<sup>2+</sup>が結合することで電位依存的な活性化の特性が影響をうける。一方、IK、SKチャネルは電位非依存的であるが、細胞内Ca<sup>2+</sup>濃度上昇(100-600 nM)によって開口する。この機構には細胞内カルモデュリン(CaM)が必要である。
 [[Ca活性化カリウム(KCa)チャネル]]は[[wikipedia:ja:|細胞質]]のCa<sup>2+</sup>濃度上昇によって活性が増加するカリウムチャネルである<ref><pubmed>12678784</pubmed></ref><ref><pubmed>15378036</pubmed></ref><ref name="ref13"><pubmed>21942705</pubmed></ref>。シングルチャネルコンダクタンスの違いから[[大(Big)コンダクタンスカルシウム活性化カリウム(BK)チャネル]]と[[小(Small)コンダクタンスカルシウム活性化カリウム(SK)チャネル]]、そしてBKチャネルとIKチャネルの中間のコンダクタンスを持つ[[中間(Intermediate)コンダクタンスカルシウム活性化カリウム(IK)チャネル]]に分類されている。BKチャネルは電位依存的な活性化がおこり、アミノ酸の相同性の面からも電位依存性カリウムチャネルに分類されることも多いが、本項ではKCaチャネルの項目で扱う。BKチャネルにCa<sup>2+</sup>が結合することで電位依存的な活性化の特性が影響をうける。一方、IK、SKチャネルは電位非依存的であるが、細胞内Ca<sup>2+</sup>濃度上昇(100-600 nM)によって開口する。この機構には細胞内[[カルモデュリン]](CaM)が必要である。


 サブユニットの構造としてはKvチャネルと同様に六回膜貫通領域と一つのP領域を持つ6TM型である。SK、IKチャネルサブユニット(KCNN1-3, or SK1-4)はS4に正電荷を帯びたアミノ酸が揃っておらず、機能的に電位非依存的であることに関連する。またS6のC末端側にCaMに結合する領域をもつ。一方、哺乳類のBKチャネル[KCNMA1, MaxiK or Slo1(ショウジョウバエのslowpoke murtantから見つかったことに由来)]はS1-S6に加えN末端側にさらにS0膜貫通領域をもつ。S4が電位センサーの中心として機能し、C末端の二つのRCK(Regulators of the K conductance)領域はCa<sup>2+</sup>依存的な活性化機構に重要な役割を果す。これらはすべて四量体を形成しチャネルを構成する。BKチャネルのβサブユニットSlob(slowpoke channel binding protein)も同定されている。
 サブユニットの構造としてはKvチャネルと同様に六回膜貫通領域と一つのP領域を持つ6TM型である。SK、IKチャネルサブユニット(KCNN1-3, or SK1-4)はS4に正電荷を帯びたアミノ酸が揃っておらず、機能的に電位非依存的であることに関連する。またS6のC末端側にCaMに結合する領域をもつ。一方、[[wikipedia:ja:|哺乳類]]のBKチャネル[KCNMA1, MaxiK or Slo1([[ショウジョウバエ]]のslowpoke mutantから見つかったことに由来)]はS1-S6に加えN末端側にさらにS0膜貫通領域をもつ。S4が電位センサーの中心として機能し、C末端の二つのRCK(Regulators of the K conductance)領域はCa<sup>2+</sup>依存的な活性化機構に重要な役割を果す。これらはすべて四量体を形成しチャネルを構成する。BKチャネルのβサブユニットSlob(slowpoke channel binding protein)も同定されている。


 BKチャネルと同じsloサブファミリーに属するSlo2(Slo2.1, 2.2)チャネルはCa<sup>2+</sup>によってではなく、Na<sup>+</sup>によって活性化される。このチャネルは神経細胞などで観察されるNa活性化カリウムチャネルの分子実体であると考えられている。  
 BKチャネルと同じsloサブファミリーに属するSlo2(Slo2.1, 2.2)チャネルはCa<sup>2+</sup>によってではなく、Na<sup>+</sup>によって活性化される。このチャネルは神経細胞などで観察されるNa活性化カリウムチャネルの分子実体であると考えられている。  
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=== 内向き整流性カリウムチャネル  ===
=== 内向き整流性カリウムチャネル  ===


 内向き整流性カリウム(Kir)チャネルは、遅延整流性カリウムチャネルの外向き整流性と明らかに異なる電位依存性を示し、カリウムの平衡電位EKよりも過分極した膜電位でコンダクタンスが増加し内向きカリウム電流を流すカリウムチャネルである(図4)<ref><pubmed>20086079</pubmed></ref>。遅延整流性カリウムチャネルの外向き整流特性はチャネルの電位依存的な活性化によるものだが、Kirチャネルの外向き整流特性は細胞内のポリアミンやマグネシウムイオンによる外向き電流のブロックによっておこる。Kirチャネルファミリーのサブユニットの遺伝子がKir1-7サブファミリー、15種類ほど単離されている。Kirチャネルサブユニットによって内向き整流特性の強さは大きく異なる。整流性が強く古典的な内向き整流性カリウム電流を担うKir2サブファミリーの他に、整流性が中程度、もしくは殆どなくカリウム輸送などに関わるKir1、Kir4、Kir5、Kir7サブファミリー、細胞の心臓の迷走神経依存的な徐脈や抑制性のシナプス伝達などに関わるG蛋白質制御K(K<sub>G</sub>)チャネルの分子実体であるKir3サブファミリーや、グルコース依存的な膵臓β細胞からのインスリン分泌に関わるATP感受性カリウム(K<sub>ATP</sub>)チャネルのポア領域もKir6サブファミリーのKirチャネルに属する。
 内向き整流性カリウム(Kir)チャネルは、遅延整流性カリウムチャネルの外向き整流性と明らかに異なる電位依存性を示し、カリウムの平衡電位EKよりも過分極した膜電位でコンダクタンスが増加し内向きカリウム電流を流すカリウムチャネルである(図4)<ref><pubmed>20086079</pubmed></ref>。遅延整流性カリウムチャネルの外向き整流特性はチャネルの電位依存的な活性化によるものだが、Kirチャネルの外向き整流特性は細胞内のポリアミンやマグネシウムイオンによる外向き電流のブロックによっておこる。Kirチャネルファミリーのサブユニットの遺伝子がKir1-7サブファミリー、15種類ほど単離されている。Kirチャネルサブユニットによって内向き整流特性の強さは大きく異なる。整流性が強く古典的な内向き整流性カリウム電流を担うKir2サブファミリーの他に、整流性が中程度、もしくは殆どなくカリウム輸送などに関わるKir1、Kir4、Kir5、Kir7サブファミリー、細胞の心臓の迷走神経依存的な徐脈や抑制性のシナプス伝達などに関わるGタンパク質制御K(K<sub>G</sub>)チャネルの分子実体であるKir3サブファミリーや、グルコース依存的な膵臓β細胞からのインスリン分泌に関わるATP感受性カリウム(K<sub>ATP</sub>)チャネルのポア領域もKir6サブファミリーのKirチャネルに属する。


 Kirチャネルのサブユニットは二回膜貫通領域と一つのP領域を有し、Kvカリウムチャネルの電位センサードメイン(S1-S4)に相当する部位はもっていない。代わりにN末端、C末端で形成される大きな細胞内領域が特徴である。Kirチャネルサブユニットはホモあるいはヘテロテトラマーを形成し機能する。  
 Kirチャネルのサブユニットは二回膜貫通領域と一つのP領域を有し、Kvカリウムチャネルの電位センサードメイン(S1-S4)に相当する部位はもっていない。代わりにN末端、C末端で形成される大きな細胞内領域が特徴である。Kirチャネルサブユニットはホモあるいはヘテロテトラマーを形成し機能する。  
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 Kv1.4, Kv3.4, およびKv4サブユニットファミリー(Kv4.1-4.3)を細胞に発現させるとカリウムチャネルはA電流を流す(図5、Kv4電流)。その為、これらのサブユニットが生理的に計測されるA電流を担っていると考えられている。
 Kv1.4, Kv3.4, およびKv4サブユニットファミリー(Kv4.1-4.3)を細胞に発現させるとカリウムチャネルはA電流を流す(図5、Kv4電流)。その為、これらのサブユニットが生理的に計測されるA電流を担っていると考えられている。


 神経細胞においては、細胞体や樹状突起からA電流が計測され、特に遠位樹状突起で大きなA電流が認められる。樹状突起におけるA電流はシナプス入力に対するシナプス後細胞の応答を制御しており、また細胞体から樹状突起への活動電位の逆伝搬現象(backpropagating action potential, bAP)も制御している。Kv4サブファミリーは神経系におけるA電流のαサブユニットの主要な構成要素であり、例えば、CA1錯体神経細胞では、Kv4.2サブユニットが細胞体樹状突起に豊富に発現している(図5)。しかし培養細胞にKv4ファミリーのαサブユニットのみを発現させただけでは、神経細胞で計測されるA電流の電気生理学的な特性を十分再現できない。 神経特異的カルシウムセンサー蛋白質(Neuronal Calcium sensor protein, NCS)のファミリーに属するK channel-interacting proteins (KChiPs)や dipeptidyl peptidase-like proteins(DPPX、とくにDPP6やDPP10)というβサブユニットがKv4チャネルと複合体を形成し、その電流が神経細胞のA電流に類似していることから、その複合体が生理的に機能していると考えられる。
 神経細胞においては、細胞体や樹状突起からA電流が計測され、特に遠位樹状突起で大きなA電流が認められる。樹状突起におけるA電流はシナプス入力に対するシナプス後細胞の応答を制御しており、また細胞体から樹状突起への活動電位の逆伝搬現象(backpropagating action potential, bAP)も制御している。Kv4サブファミリーは神経系におけるA電流のαサブユニットの主要な構成要素であり、例えば、CA1錯体神経細胞では、Kv4.2サブユニットが細胞体樹状突起に豊富に発現している(図5)。しかし培養細胞にKv4ファミリーのαサブユニットのみを発現させただけでは、神経細胞で計測されるA電流の電気生理学的な特性を十分再現できない。 神経特異的カルシウムセンサータンパク質(Neuronal Calcium sensor protein, NCS)のファミリーに属するK channel-interacting proteins (KChiPs)や dipeptidyl peptidase-like proteins(DPPX、とくにDPP6やDPP10)というβサブユニットがKv4チャネルと複合体を形成し、その電流が神経細胞のA電流に類似していることから、その複合体が生理的に機能していると考えられる。


 A電流の様に、非常に早く活性化され、その後速やかに不活性化される、一過性のカリウム電流であるが不活性化の膜電位がA電流と異なり、さらにカリウムチャネルに作用する薬物に対する感受性も明らかに異なる成分が認められることから、A電流とは分子実体の異なるD電流の存在が報告されている。Dendrotoxin感受性のD電流は、Kv4ではなく、Kv1サブファミリーが分子実体であると考えられる。  
 A電流の様に、非常に早く活性化され、その後速やかに不活性化される、一過性のカリウム電流であるが不活性化の膜電位がA電流と異なり、さらにカリウムチャネルに作用する薬物に対する感受性も明らかに異なる成分が認められることから、A電流とは分子実体の異なるD電流の存在が報告されている。Dendrotoxin感受性のD電流は、Kv4ではなく、Kv1サブファミリーが分子実体であると考えられる。  
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 Kir2が形成するKirチャネルは内向き整流性がとても強く古典的内向き整流カリウム(IRK)電流を担う。細胞の静止膜電位、興奮性の制御に関わる。ROMK(Kir1)、Kir4.1、Kir5.1チャネルは整流性が弱くもしくは殆ど無く、常時活性化型であり、イオンの輸送に関わっている。Kir4.1はアストログリア細胞に発現が多く、なかでも血管周囲やシナプス周囲に局在している<ref><pubmed>11502569</pubmed></ref>。
 Kir2が形成するKirチャネルは内向き整流性がとても強く古典的内向き整流カリウム(IRK)電流を担う。細胞の静止膜電位、興奮性の制御に関わる。ROMK(Kir1)、Kir4.1、Kir5.1チャネルは整流性が弱くもしくは殆ど無く、常時活性化型であり、イオンの輸送に関わっている。Kir4.1はアストログリア細胞に発現が多く、なかでも血管周囲やシナプス周囲に局在している<ref><pubmed>11502569</pubmed></ref>。


 G蛋白質活性化カリウム(GIRK)チャネルは三量体G蛋白質のGβγサブユニットとの結合によって活性化されるカリウムチャネルである。このチャネルは心臓の徐脈に関与するイオンチャネルとしてよく知られている。中枢神経系においてはGABABRなどと機能的に共役し、抑制性シナプスにおいて観察される遅延性の抑制性シナプス後電流(slow inhibitory postsynaptic current, sIPSC)を担う。GIRKチャネルはKir3サブファミリーで構成されるKirチャネルであり、神経細胞においてはKir3.1とKir3.2とで構成されるGIRKチャネルが主要な構成要素であると考えられている。しかし生化学的にはKir3.3や心臓型のKir3.4サブユニットの発現も認められる。
 Gタンパク質活性化カリウム(GIRK)チャネルは三量体Gタンパク質のGβγサブユニットとの結合によって活性化されるカリウムチャネルである。このチャネルは心臓の徐脈に関与するイオンチャネルとしてよく知られている。中枢神経系においてはGABABRなどと機能的に共役し、抑制性シナプスにおいて観察される遅延性の抑制性シナプス後電流(slow inhibitory postsynaptic current, sIPSC)を担う。GIRKチャネルはKir3サブファミリーで構成されるKirチャネルであり、神経細胞においてはKir3.1とKir3.2とで構成されるGIRKチャネルが主要な構成要素であると考えられている。しかし生化学的にはKir3.3や心臓型のKir3.4サブユニットの発現も認められる。


 ATP感受性K(K<sub>ATP</sub>)はチャネルのポアを形成するイオンチャネルもKirチャネルファミリーに属する(Kir6サブファミリー)。Kir6.2にATPが結合することでチャネルが閉口する。ABC蛋白ファミリーに属し、スルホニルウレア剤の標的として知られるスルホニルウレア受容体(sulfonylurea receptor, SUR)はK<sub>ATP</sub>チャネルに必須のβサブユニットであり、Kir6とSURは4:4のヘテロオクタマーを形成し機能する。
 ATP感受性K(K<sub>ATP</sub>)はチャネルのポアを形成するイオンチャネルもKirチャネルファミリーに属する(Kir6サブファミリー)。Kir6.2にATPが結合することでチャネルが閉口する。ABCタンパク質ファミリーに属し、スルホニルウレア剤の標的として知られるスルホニルウレア受容体(sulfonylurea receptor, SUR)はK<sub>ATP</sub>チャネルに必須のβサブユニットであり、Kir6とSURは4:4のヘテロオクタマーを形成し機能する。


 K<sub>ATP</sub>チャネルの細胞内ATPによる閉口は、グルコース依存的な膵臓β細胞からのインスリン分泌の分子機構として役割が最もよく知られている。加えて、視床下部などで認められるいくつかの神経細胞で観察される、膜の電気的な興奮性のグルコース感受性の機構の一つとして知られている。グルコース濃度上昇によって、細胞へのグルコース取り込み増し、細胞内ATP産生増によるK<sub>ATP</sub>チャネル阻害がおこり、結果として膜の脱分極、細胞興奮性の亢進がおこる。他にも心筋細胞、平滑筋細胞などにも発現しており、やはり細胞の代謝レベルと膜の興奮性の共役を担っている。  
 K<sub>ATP</sub>チャネルの細胞内ATPによる閉口は、グルコース依存的な膵臓β細胞からのインスリン分泌の分子機構として役割が最もよく知られている。加えて、視床下部などで認められるいくつかの神経細胞で観察される、膜の電気的な興奮性のグルコース感受性の機構の一つとして知られている。グルコース濃度上昇によって、細胞へのグルコース取り込み増し、細胞内ATP産生増によるK<sub>ATP</sub>チャネル阻害がおこり、結果として膜の脱分極、細胞興奮性の亢進がおこる。他にも心筋細胞、平滑筋細胞などにも発現しており、やはり細胞の代謝レベルと膜の興奮性の共役を担っている。