カリウムチャネル

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2012年5月22日 (火) 13:06時点におけるKazuharufurutani (トーク | 投稿記録)による版

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英:potassium channel、英略語:K+ channel


要約
カリウムチャネルはカリウム(K+)イオンを選択的に透過させるイオンチャネルである。静止膜電位の形成や電気的な細胞応答、シナプス伝達やカリウム濃度恒常性維持に関わっている。ほとんどのカリウムチャネルはαサブユニットが四量体を形成し、中央部分にカリウムを通す小孔(ポア)が開くようになっている。カリウムチャネルは多様性の高いイオンチャネルであり、電気生理学的特性やαサブユニットの膜貫通領域の構造の違いにより、六回膜貫通型の「電位依存性カリウムチャネル」と「カルシウム活性化カリウムチャネル」、二回膜貫通型の「内向き整流性カリウムチャネル」、四回膜貫通型の「Two-pore domainカリウムチャネル」に大別される。それらは、イオン透過経路を構成するαサブユニットと電流特性や膜発現量を制御するβサブユニットを含めて100種類以上の遺伝子群から構成されている。これら豊富なサブユニット分子種、αサブユニットのヘテロ四量体形成、さらにβサブユニットとの複合体形成がカリウムチャネルの多様性の実体的理由である。イオンチャネルの中で、電気生理学的な解析、生化学・構造生物学的な解析が最も行われているのがカリウムチャネルであり、イオンチャネルの分子機構に関する極めて重要な研究成果がカリウムチャネルを用いた研究から得られている。


1.カリウムチャネルの基本的分子機能と構造

細胞は脂質二重膜に囲まれているため、荷電したイオンは自由に細胞に出入りすることは出来ない。そこで細胞はイオンを通すための小孔を持っている。電気化学ポテンシャルを駆動力として、カリウムイオンの選択的な膜透過をつかさどる蛋白質がカリウムチャネルである。従来の電気生理学的解析により各組織、各細胞で異なる性質を持つカリウムチャネルの存在が明らかにされてきた。しかしそれらに共通する機能として、生体膜のエネルギー障壁を克服しカリウムイオンを選択的に透過させる機能を持っている。また、多くは特徴的なゲート機能を備えている。

二次構造

カリウムチャネルの二次構造と結晶構造

ほとんどのカリウムチャネルはポア形成に関わる蛋白質(αサブユニット)が4つ一組になって働く。カリウムチャネルのαサブユニットの二次構造を図1に示す。代表的な構造として、電位依存性カリウムチャネルの六回膜貫通(6TM)型の構造と、内向き整流性カリウムチャネルの二回膜貫通(2TM)型の構造がある。膜間通領域(セグメント)のS5とS6はカリウムイオンを透過させるための小孔(ポア)を構成する。またこの二つのセグメントの間の細胞外リンカー部分にはカリウムチャネルで広く保持されたシグネチャ配列(signature sequence, 選択的特異配列とも; TXTTVGYG, 特にGYGまたはGFGはよく保存されている)を含むP領域が存在し、ここはイオン選択フィルター機能に関わる。一方、S1-S4は電位センサードメインと呼ばれ、S2とS3の膜貫通部分には負電荷を持ったアミノ酸が存在し、S4には正に帯電したアミノ酸が周期的に並んでいる。6TM型だが、膜電位ではなく細胞内Ca2+によって活性化されるカリウムチャネルも存在する。2TMの内向き整流性カリウムチャネルは6TM型の電位依存性カリウムチャネルの電位センサードメイン(S1-S4)に対応する構造をもっておらず、代わりに大きな細胞内領域をもつ。また、2TM及びP領域がサブユニット分子内で2回タンデムにつながった構造の4TM型のカリウムチャネルも存在する。P領域を分子内に2つ有するためtwo-pore domainカリウム(K2P)チャネル、あるいはタンデム(直列)ポアドメイン(tandem pore domain)チャネルとも呼ばれる。

結晶構造

カリウムチャネルのポアドメインの構造

カリウムチャネルの結晶化とその構造解析が進んでいる。1998年の原核生物由来の2TM型カリウムチャネルKcsAのX線構造解析に始まり(図1,2)[1]、Ca依存的/活性化カリウムチャネル(MthK, hBK)、電位依存性カリウムチャネル(KvAP)、Kirチャネル(KirBac、Kir2、Kir3)、K2Pチャネル(TRAAK、TWIK-1)と原核生物に留まらず近年では真核生物のカリウムチャネルの構造も相次いで報告されている。共通の性質として(図2)、①TM1とTM2(あるいはS5とS6)とよばれる2つの膜貫通領域から水性のポアが形成される、②P領域がポアヘリックスとイオン選択フィルターを形成し、シグネチャ配列がイオン選択性フィルターの一部を形成し、それは細胞膜の中心から外側にかけて存在する、③イオン選択フィルターの細胞内側に中心腔(central cavity)とよばれる水性の空間が存在する、④ポアヘリックスが4対称軸の中心に向いており、C末側が中心腔に到達していること、などがあげられる[2]。これらの水性ポアドメインの構造に関わる共通点から、カリウムチャネルの選択イオン透過機能に関わる立体構造はほぼ等価であるといえる。


選択的イオン透過機能を支える構造基盤

カリウムチャネルの選択的イオン透過機構の構造基盤

イオンチャネルの電気生理学的な解析によって、単一チャネル電流を定量的に記録することが可能である。この方法によって単一のイオンチャネルを透過するイオンの速度を見積もることが出来る。この実験から、カリウムチャネルではK+イオンがNa+イオンよりも1000倍ほど透過性が高いことが知られている(一価陽イオンの選択性序列は K+>Rb+>Cs+>Na+>Li+。これはEisenman IV型であり、イオン選択フィルターがやや弱い静電場をもつことを示唆する)。しかも、開いた小孔を電気化学的な差に従って、イオンの水溶液中の拡散速度に匹敵する程の、1秒間に数百万個のイオンが通過することが分かっている(単一イオンチャネルコンダクタンスが数百pSに達すものもある)。つまりカリウムチャネルは極めて高いイオン選択性と非常に早いイオン透過速度という一見相容れない特性を両立する。特定のイオンを透過させる機構としては大きさによる分子フィルター機構がまず考えられる。しかしながら、イオン半径では、Na+(イオン半径r=0.95 Å)はK+(r=1.33 Å)はよりも小さく、なぜK+を透過してNa+を透過させないのか説明がつかない。カリウムチャネルのこのカリウム選択的透過機構はこのチャネルがもつ小孔の最も狭い領域、イオン選択フィルターの構造に関係がある。イオンは水分子と相互作用(水和)することで水に溶けている。イオンチャネルの細いフィルター内に入る際に、イオンは水分子との相互作用をフィルターを形成するアミノ酸の酸素原子を含むカルボニル基との相互作用に置き換える(図3)。小孔の大きさがK+イオンに適切であり、K+イオンは4つサブユニットのカルボニル基から均等に作用を受け、安定な8水和様構造をとり安定する(図3)[3][4]。一方、Na+イオンはイオン半径が小さくK+イオンのようには相互作用が出来ず、K+イオンに比べ不安定に存在する。このような違いがK+イオンの選択的な透過に寄与していると考えられている。この機構の説は最適合close-fit説とよばれる。
カリウムチャネルの選択フィルターは12 Åほどの長さがあり結晶構造では4つのK+イオン結合部位が認められる(図3)。しかし近接した結合部位にK+イオンが同時に結合するとイオン間で電気的な反発がおこり不安定であると考えられる。そのため4つの部位を細胞外側から1-4サイトとすると、K+イオンとチャネルの結合には[1,3]サイトに結合した状態と[2,4]サイトに結合した状態があると考えられる(図3c)。また、フィルター内に複数のイオンが同時に入ることによってイオン間に静電気的反発力が発生し、玉突き状態になることが早いイオン透過に寄与していると考えられている[5]
イオンは膜を透過しようとするとボルンエネルギーというエネルギー障壁を超える必要がある。小孔はそのボルンエネルギーを低くする役目がある。もし小孔が均一な内径の形状であるとすると、ボルンエネルギーは均一に低下し、ボルンエネルギーの極大値は膜の中央部分にくる。結晶構造で存在が知られたイオンチャネルの内腔は大量の水分子で満たされている(図2)。またポアヘリックスがそのC末端側を中心腔の内部に向けていることで、αヘリックスの双極子モーメントが空洞内に陽イオンが留まりやすい環境を作り出す。こういった中心腔の存在により、本来ボルンエネルギーの高いはずの膜中央部でイオンは水和して安定に存在できる。一方で、イオン透過経路を形成するチャネル壁は疎水性の残基で裏打ちされている。これにより水和したイオンはイオン壁と強い相互作用をすることなく、言い換えればポテンシャルの谷間に落ち込んで出られなくなることなく、細胞質からイオン選択フィルターまでの早いイオン流を確保している。生理的な実験とこれまでに述べたようなイオン透過経路の構造から、膜にかけられた外部電位によるポア内電場のおよそ80%は選択フィルターで生じていると推測される(図2)。
カリウムチャネルの結晶構造解析に成功し、イオンチャネルの本質的特徴の一つである選択的イオン透過機構の謎を解明したロデリックマッキノンは2003年ノーベル化学賞を受賞している。



2.分子機能と構造による分類

カリウムチャネル電流の膜電位依存性

各カリウムチャネルのゲート機構は、カリウムチャネルの構造的、機能的多様性の根源である。以下では各カリウムチャネルの生理的ゲート機構を概説する。


電位依存性カリウムチャネル

電位依存性カリウム(Kv)チャネルは静止膜電位付近ではポアが閉じているが、脱分極によって活性化(開口確率が上昇)し小孔が開口するカリウムチャネルである(図4)。Kvチャネルファミリーのαサブユニットの遺伝子はKv1-12の12クラス、さらにサブファミリーも存在し40種類ほど単離されている[6][7]。先に述べたように、6TM型の1次構造をとり、N末端から5番目、6番目の膜貫通領域(S5, S6)がポアドメインの形成に関与し、1番目から4番目の膜貫通領域(S1-S4)が電位センサーとして機能する構造を形成する。結晶構造が報告され、電位センサードメインが隣接するサブユニット由来のポアドメインと近接しているという特徴的なドメイン配置が明らかにされている(図1)。
Kvチャネルは、活性化の電位依存性や不活性化の有無、薬物感受性などから様々なタイプに細分類される。脱分極刺激による活性化後直ぐに不活性化され、一過的な電流を流す早期不活性化カリウムチャネル(A型Kチャネル)と不活性化が殆どおこらず活性化が持続する遅延整流性カリウムチャネルに分けることができる。また活性化のスピードから「早い成分」、「遅い成分」と、あるいは活性化の閾値から「低閾値(low-voltage-activated, LVA)型」、「高閾値(high-voltage-activated, HVA)型」と分類されることもある。
Kvチャネルの活性化の機構としては、膜電位変化に応じて電位センサードメインの構造変化が起こることが想定されている。この電位センサードメインの構造変化が、チャネルの開閉時に測定されるゲート電流と呼ばれる小さな電流を担っていると考えられている。電位センサードメインが脂質二重膜を横切る膜電位の変化をどのように感知し、そして小孔の開閉を制御する仕組みが精力的に研究されているが、その分子機構は明らかではない。近年は電位センサードメインの結晶構造が報告され、その構造変化とその結果起こる小孔の開口のメカニズムに関して議論が続いている。
Kvチャネルの不活性化の機構としては、活性化された後急速におこる不活性化機構としては、活性化後早い不活性化を担うN型の不活性化と、N型と比べて遅い不活性化機構であるC型の不活性化機構という異なる機構が報告されている。N型の不活性化機構にはKvチャネルのN末端のアミノ酸が関与している。また、βサブユニットがN型の不活性化機構に大きく影響を与えることも知られている[8]。チャネルのN型不活性化に関わる領域は、以前はボール状の構造をとりS4-S5のリンカー部分に結合し細胞のポア領域を塞ぐような機構(ball-and-chain機構)が提唱されていたが、最近の解析からはもう少し細い線状の構造がポア内に侵入してポアを塞ぐと考えられるようになってきた。一方、C型の不活性化機構にはP領域とS6(あるいはM2)の一部が関与していると見られる。この領域はポアの細胞外の入り口付近にあたり、この部分の構造変化が基盤であると考えられている。

Ca活性化カリウムチャネル

Ca活性化カリウム(KCa)チャネルは細胞質のCa2+濃度上昇によって活性が増加するカリウムチャネルである[9][10][11]。シングルチャネルコンダクタンスの違いから大(Big)コンダクタンスカルシウム活性化カリウム(BK)チャネルと小(Small)コンダクタンスカルシウム活性化カリウム(SK)チャネル、そしてBKチャネルとIKチャネルの中間のコンダクタンスを持つ中間(Intermediate)コンダクタンスカルシウム活性化カリウム(IK)チャネルに分類されている。BKチャネルは電位依存的な活性化がおこり、アミノ酸の相同性の面からも電位依存性カリウムチャネルに分類されることも多いが、本項ではKCaチャネルの項目として扱う。BKチャネルにCa2+が結合することで電位依存的な活性化の特性が影響をうける。一方、IK、SKチャネルは電位非依存的であるが、細胞内Ca2+濃度上昇(100-600 nM)によって開口する。この機構には細胞内カルモデュリン(CaM)が必要である。
サブユニットの構造としてはKvチャネルと同様に六回膜貫通領域と一つのP領域を持つ6TM型である。SK、IKチャネルサブユニット(KCNN1-3, or SK1-4)はS4に正電荷を帯びたアミノ酸が揃っておらず、機能的に電位非依存的であることに関連する。またS6のC末端側にCaMに結合する領域をもつ。一方、哺乳類のBKチャネル[KCNMA1, MaxiK or Slo1(ショウジョウバエのslowpoke murtantから見つかったことに由来)]はS1-S6に加えN末端側にさらにS0膜貫通領域をもつ。S4が電位センサーの中心として機能し、C末端に二つのRCK(Regulators of the K conductance)領域はCa2+依存的な活性化機構に重要な役割を果す。これらはすべて四量体を形成しチャネルを構成する。BKチャネルのβサブユニットSlob(slowpoke channel binding protein)も同定されている。
BKチャネルと同じsloサブファミリーに属するSlo2(Slo2.1, 2.2)チャネルはCa2+によってではなく、Na+によって活性化される。このチャネルは神経細胞などで観察されるNa活性化カリウムチャネルの分子実体であると考えられている。

内向き整流性カリウムチャネル

内向き整流性カリウム(Kir)チャネルは、遅延整流性カリウムチャネルの外向き整流性と明らかに異なる電位依存性を示し、カリウムの平衡電位EKよりも過分極した膜電位でコンダクタンスが増加し内向きカリウム電流を流すカリウムチャネルである(図4)[12]。遅延整流性カリウムチャネルの外向き整流特性はチャネルの電位依存的な活性化によるものだが、Kirチャネルの外向き整流特性は細胞内のポリアミンやマグネシウムイオンによる外向き電流のブロックによっておこる。Kirチャネルファミリーのサブユニットの遺伝子がKir1-7サブファミリー、15種類ほど単離されている。Kirチャネルサブユニットによって内向き整流特性の強さは大きく異なる。整流性が強く古典的な内向き整流性カリウム電流を担うKir2サブファミリーの他に、整流性が中程度、もしくは殆どなくカリウム輸送などに関わるKir1、Kir4、Kir5、Kir7サブファミリー、細胞の心臓の迷走神経依存的な徐脈や抑制性のシナプス伝達などに関わるG蛋白質制御K(KG)チャネルの分子実体であるKir3サブファミリーや、グルコース依存的な膵臓β細胞からのインスリン分泌に関わるATP感受性カリウム(KATP)チャネルのポア領域もKir6サブファミリーのKirチャネルに属する。
Kirチャネルのサブユニットは二回膜貫通領域と一つのP領域を有し、Kvカリウムチャネルの電位センサードメイン(S1-S4)に相当する部位はもっていない。代わりにN末端、C末端で形成される大きな細胞内領域が特徴である。Kirチャネルサブユニットはホモあるいはヘテロテトラマーを形成し機能する。

Two-pore domainカリウムチャネル

2TM型(二回膜貫通領域と一つのP領域)が二個直列につながったサブユニット構造をしているのがtwo-pore domainカリウム(K2P)チャネルである[13][14]。タンデム(直列)ポアドメインtandem pore domain K チャネルとも呼ばれる。すなわち、ポアの形成に関わるドメインが一つのサブユニット上に二つ存在し、二量体を形成することで一つのイオン透過経路をもったイオンチャネルとなる。これまでに15種のK2Pチャネルサブユニットが同定されており、電気生理学的特性や薬理学的な特性から6つのサブファミリー(TWIK、TREK、TASK、TALK、THINK、TRAAK)に分類されている。
比較的最近遺伝子が単離されたカリウムチャネルであり、他のカリウムチャネルに比べると生理的な機能や構造活性相関の解析は進んでいない。電気生理学的特性から背景(漏洩)カリウム電流を担っていると考えられ静止膜電位の形成や膜抵抗の決定に関与していると考えられている。TREK1で形成されるイオンチャネルは最もよく研究されているK2Pチャネルであり、膜電位や細胞膜のPIP2との相互作用、リン酸化、pH、膜の伸展、熱などによる制御が示され、多様式polymodalな制御を受けるイオンチャネルであると知られてきている[15]


3.神経細胞におけるカリウムチャネルの役割

電位依存性カリウムチャネルの神経細胞における分布と機能

神経細胞や心筋細胞の静止膜電位や興奮性の多様性は、多くの場合、それぞれの細胞に発現するカリウムチャネルの種類と量によって説明することが出来る。また細胞内においても均一に発現しているわけではなく、樹状突起や軸索に局在して発現していることも多い(図5)。


電位依存性カリウムチャネル

神経系において、Kvチャネルは電位依存性ナトリウムチャネルと膜電位を介して機能的に共役し、活動電位の再分極、シナプス後細胞の興奮性の制御、振動性の興奮の制御、スパイク間隔の制御など重要な役割を果たしている。Kvチャネルの多様性が様々な生理機能のそれぞれに対応できるように、多種類の遅延整流性カリウムチャネルを形成している[16][17]
神経細胞にはKv1, Kv2, Kv3, Kv4, Kv7, Kv11といったカリウムチャネルサブユニットの発現が認められている。各Kvチャネルクラスはサブファミリーをもち、それらのヘテロテトラマーとしてカリウムチャネルが構成されるので、その可能な組み合わせはサブユニットの数以上に膨大な数となる。

A電流

幅広い周波数で発火することが出来る神経細胞の電気的特性は、脳内の情報処理・情報伝達に極めて役割を果たしている。高周波発火神経細胞は100 Hz程度で発火することができ、成熟した聴神経細胞に至っては1000 Hzで発火することができる。そういった高周波数で神経細胞が発火するためには活動電位持続時間が十分短く、且つイオンチャネルの不応期からの素早い回復が必要である。A電流やI<subto</sub>とよばれるカリウムチャネル電流は活動電位中に素早く活性化されその後不活性化され、一過性の外向き電流を流し、活動電位を短く保つ役割をもつ。活動電位後 A電流は一過的に不活性化されているが、他のカリウムチャネルの活性による過分極によって不活性化から回復し、次の活動電位中に再び活性化する。
また、A電流が不活性化を受ける膜電位の範囲に静止膜電位が入っており、この電流は静止膜電位において一部不活性化を受けている。このことにより、静止膜電位付近の僅かな膜電位変化でもこの不活性化が制御され、A電流量に影響を及ぼす。例えば、過分極により不活性化が軽減され細胞膜の興奮性が下がる。さらに、PKA、PKC、MAPK、ERKなどによるリン酸化などシグナル伝達による制御もよく知られている。このようなことから、神経細胞において小さな、局所的な膜電位変化であるシナプス入力やGRCRを介した代謝性シグナル伝達がこのA電流を介して、膜の興奮性を制御することが可能である。
Kv1.4, Kv3.4, およびKv4サブユニットファミリー(Kv4.1-4.3)を細胞に発現させるとカリウムチャネルはA電流を流す(Kv4電流、図5)。その為、これらのサブユニットが生理的に計測されるA電流を担っていると考えられている。
神経細胞においては、細胞体や樹状突起からA電流が計測され、特に遠位樹状突起で大きなA電流が認められる。樹状突起におけるA電流はシナプス入力に対するシナプス後細胞の応答を制御しており、また細胞体から樹状突起への活動電位の逆伝搬現象(backpropagating action potential, bAP)も制御している。Kv4サブファミリーは神経系におけるA電流のαサブユニットの主要な構成要素であり、例えば、CA1錯体神経細胞では、Kv4.2サブユニットが細胞体樹状突起に豊富に発現している(図5)。しかし培養細胞にKv4ファミリーのαサブユニットのみを発現させただけでは、神経細胞で計測されるA電流の電気生理学的な特性を十分再現できない。 神経特異的カルシウムセンサー蛋白質(Neuronal Calcium sensor protein, NCS)のファミリーに属するK channel-interacting proteins (KChiPs)や dipeptidyl peptidase-like proteins(DPPX、とくにDPP6やDPP10)というβサブユニットがKv4チャネルと複合体を形成し、その電流が神経細胞のA電流に類似していることから、その複合体が生理的に機能していると考えられる。
A電流の様に、非常に早く活性化され、その後速やかに不活性化される、一過性のカリウム電流であるが不活性化の膜電位がA電流と異なり、さらにカリウムチャネルに作用する薬物に対する感受性も明らかに異なる成分が認められることから、A電流とは分子実体の異なるD電流の存在が報告されている。Dendrotoxin感受性のD電流は、Kv4ではなく、Kv1サブファミリーが分子実体であると考えられる。

遅延整流性カリウム電流

不活性化をあまり受けない電位依存性カリウム電流は、一過性のA 電流に対して持続性のカリウム電流と呼ばれることがある。活性化の速度が早いものと遅いものがあり、また活性化の電位依存性も様々異なるものが記録される。
Kv1、Kv3サブファミリーは脱分極による活性化のカイネティクスが比較的早いタイプの遅延性整流性カリウムチャネルである(図5)。
Kv1.1-1.3は低閾値型(LVA型)で脱分極により持続した外向き電流を流す。脱分極が続くと遅い不活性化を受ける。神経細胞においては、有髄神経のランビエ絞輪(node of Ranvier)周辺にKv1.1やKv1.2が集積しており、一方ミエリン化されていない軸索にはKv1.4が均一に分布している。活動電位発生の閾値となる膜電位(閾膜電位)以下で活性化されるこのチャネルの活性は活動電位の閾値を上げる役割を果す。特に神経細胞の発火帯、軸索といった部位におけるこれらのチャネルの活性は(図5)、神経細胞の自発的な発火を抑え、神経活動依存的に発火するようになり、神経伝達の忠実性fidelityを上げるという意義がある。
また、Kv3サブファミリーは高閾値型(HVA型)で早く活性化されるカリウムチャネルであり、活動電位の発生後に活性化され、活動電位の振幅や活動電位活動電位持続時間 の制御を行なっている(図5)。神経細胞に広く発現するが、シナプス前終末に到達する活動電位の波形はシナプス小胞の放出に大きな影響を与えることから、Kv3は神経伝達機構を制御していると言える。Kv3は他よりもTEA感受性が高く、実際TEAによって神経細胞のKv3チャネルを阻害すると活動電位の振幅を大きくし、活動電位活動電位持続時間 を延長し、Ca2+電流を増強してシナプス伝達が亢進する。
Kv7(KCNQ)、Kv11(KCNH、eag/ergとも)、Kv2サブファミリーは脱分極による活性化のカイネティクスが遅いタイプのKvチャネルである。 活動電位持続時間の長い心筋細胞においては、Kv7.1(KCNQ1)はMinK(KCNE1)と、Kv11.1(KCNH、hERGとも)はMinK related protein1(MiRP)(KCNE2)と複合体を形成し、それぞれIKsIKrという遅延整流性カリウム電流の早い成分と遅い成分を担い、活動電位第三相で細胞を再分極させるために働いている。しかしながら心筋細胞に比べて活動電位持続時間が短い神経細胞においては、個々の活動電位中に活性化されるわけではない。LVA型のKv7(KCNQ)は深い膜電位でも活性化される一方で不活性化はあまり受けず、閾膜電位以下の膜電位でも持続的な外向き電流を流しており、細胞の興奮性の制御に関わっている(図5)。
アセチルコリンAChなどの神経活動制御因子は遅延整流性カリウム電流を抑制することで、閾膜電位付近の興奮性を高め、発火頻度やシナプス入力に対する応答性を制御する。ムスカリン性ACh受容体の活性化に共役したカリウム電流がよく研究されており、この電流はムスカリン muscarinから M電流と呼ばれている。神経系においては、主にKv7.2(KCNQ2)/Kv7.3(KCNQ3)から構成されているイオンチャネルがこの電流を担っていると考えられている。
このイオンチャネルの活性には細胞膜の内側に存在しているリン脂質PIP2との結合が必要であり、Gq共役型のGPCR、例えばM3 ACh受容体の刺激はPLCを活性化し、膜のPIP2を減少させることでチャネルの活性を抑制すると考えられている。
CA1錯体細胞の樹状突起から計測される持続性のカリウム電流は電気生理学的な特性や薬理学的な特性(4-APよりもTEA感受性が高い)からHVA型のKv2サブファミリーであると考えられている(図5)。この電流は活動電位の中の膜電位で活性化される。神経細胞の高頻度発火の際にはこの電流が活性化し活動電位間の膜電位を過分極させる。

カルシウム活性化カリウムチャネル

神経細胞において活動電位後過分極(after hyperpolarization, AHP)が観察される。活動電位中に細胞内に流入したCa2+イオンによってKCaチャネルが活性化しAHPの形成に一部関与する[18]。また、ある種類の神経細胞では電流を注入した時、始めは高頻度で発火するが次第に頻度が下がる順応反応spike frequency adaptationを呈する。KCaチャネルはこの順応反応にも関与する。KCaチャネルの活性化に必要なカルシウムシグナルは電位依存性Caチャネルとリアノジン受容体の働きにより形成されるが、結合膜構造が必要であるとの結果も出ている。また、培養海馬細胞においてSKチャネルがスパインに局在していることが報告され、シナプスにおけるカルシウムシグナルによって活性化されてシナプス後電位の形成にも関与することが示されている[19]

内向き整流性カリウムチャネル

Kir2が形成するKirチャネルは内向き整流性がとても強く古典的内向き整流カリウム(IRK)電流を担う。細胞の静止膜電位、興奮性の制御に関わる。ROMK(Kir1)、Kir4.1、Kir5.1チャネルは整流性が弱くもしくは殆ど無く、常時活性化型であり、イオンの輸送に関わっている。Kir4.1はアストログリア細胞に発現が多く、なかでも血管周囲やシナプス周囲に局在している[20]
G蛋白質活性化カリウム(GIRK)チャネルは三量体G蛋白質のGβγサブユニットとの結合によって活性化されるカリウムチャネルである。このチャネルは心臓の徐脈に関与するイオンチャネルとしてよく知られている。中枢神経系においてはGABABRなどと機能的に共役し、抑制性シナプスにおいて観察される遅延性の抑制性シナプス後電流(slow inhibitory postsynaptic current, sIPSC)を担う。GIRKチャネルはKir3サブファミリーで構成されるKirチャネルであり、神経細胞においてはKir3.1とKir3.2とで構成されるGIRKチャネルが主要な構成要素であると考えられている。しかし生化学的にはKir3.3や心臓型のKir3.4サブユニットの発現も認められる。
ATP感受性K(KATP)はチャネルのポアを形成するイオンチャネルもKirチャネルファミリーに属する(Kir6サブファミリー)。Kir6.2にATPが結合することでチャネルが閉口する。ABC蛋白ファミリーに属し、スルホニルウレア剤の標的として知られるスルホニルウレア受容体(sulfonylurea receptor, SUR)はKATPチャネルに必須のβサブユニットであり、Kir6とSURは4:4のヘテロオクタマーを形成し機能する。
KATPチャネルの細胞内ATPによる閉口は、グルコース依存的な膵臓β細胞からのインスリン分泌の分子機構として役割が最もよく知られている。加えて、視床下部などで認められるいくつかの神経細胞で観察される、膜の電気的な興奮性のグルコース感受性の機構の一つとして知られている。グルコース濃度上昇によって、細胞へのグルコース取り込み増し、細胞内ATP産生増によるKATPチャネル阻害がおこり、結果として膜の脱分極、細胞興奮性の亢進がおこる。他にも心筋細胞、平滑筋細胞などにも発現しており、やはり細胞の代謝レベルと膜の興奮性の共役を担っている。

Two-pore domainカリウムチャネル

K2Pチャネルは背景漏洩(リーク)カリウム電流を担い、静止膜電位の形成や膜抵抗の制御に関わると見られる。


4.病気との関連 -カリウムチャネルのチャネル病-

心臓病、筋肉病、脳疾患、腎疾患、代謝性疾患など様々な疾患で、イオンチャネルをコードする遺伝子の異常を原因とするものが知られるようになってきた。いわゆる、チャネル病(Channelopathy)という概念が定着してきている[21][22]。代表的なものとして、先天性QT延長症候群(Long QT syndrome, LQTs)を引き起こす電位依存的カリウムチャネルのαサブユニットKv7.1(KCNQ1)の遺伝子異常が多数見つかっている(タイプ1, LQT1)。また、このチャネルのβサブユニットであるminK(KCNE1)の異常がLQT5の患者から見つかっている。LQT2の場合は、Kv11.1(HERG)遺伝子から異常が見つかっている。これらの遺伝子異常により、心筋の遅延整流性カリウム電流の遅い成分(IKs)や早い成分(IKr)を担うカリウムチャネルは機能欠損(loss-of-function)になり、心筋細胞を再分極させる外向き電流が減少することが、活動電位の延長やQT時間の延長の原因である。また、不整脈(QT 延長)に両側性感音性難聴を伴うJervell & Lange-Nielson症候群 (JLN) の機能欠損変異もKv7.1(KCNQ1) 、minK(KCNE1)で見つかっている。不整脈、突発性の筋脱力、形態異常など全身性の症状を呈するAndersen-Tawil症候群(LQT7)の患者からはKir2.1の機能欠損変異が見つかっている。逆に、KCNQ1、hERG、Kir2.1の遺伝子の機能獲得(gain-of-function)変異がQT短縮症候群(Short QT syndrome, SQTs) 患者から見つかっている。
脳疾患では、神経性のM電流を欠損するKCNQ2/KCNQ3の機能欠損変異が家族性良性新生児痙攣(Benign familial neonatal epilepsy, BFNE)の原因となることが報告されている [23][24][25][26]。また、Kv1.1の機能欠損変異が発作性運動失調症(episodic ataxia, EA)を引き起こすこと知られている[27]。さらに、KCNQ4やKir4.1の変異が難聴に繋がることも分かっている。(KCNQ4遺伝子は常染色体優性遺伝形式を取るDFNA2の原因遺伝子として報告された)
腎疾患、代謝性疾患で代表的なものは、腎尿細管上皮細胞頂上膜に局在するKir1.1(ROMK1)の異常が代謝性アルカローシスや低K+血症を伴うBartter症候群(II型)を引き起こすことが分かっている。さらにKir6.2、SUR1の変異による膵臓β細胞KATPチャネルの機能獲得変異によって新生児糖尿病(permenent neonatal diabetes)で、逆に機能欠損変異で新生児持続性高インスリン性低血糖症(Persistent hyperinsulinemic hypoglycemia of infancy, PHHI)などで見つかっている。
チャネル病の遺伝性を解析してみると、表現型が常染色体優性遺伝で遺伝されることが多い。カリウムチャネルはα、βサブユニットの複合体であるため、異常なサブユニットが一つでも入ることで複合体の機能が欠失するドミナントネガティブ効果でイオンチャネル機能が阻害されることがあります。一方、ハプロ不全(haplo-insufficiency)で発病する場合も多く報告されている。しかもその場合、機能欠損変異のみならず機能獲得変異によるチャネル病も報告されている。このことはイオンチャネルの機能が欠損していても過剰になっていても生体にとっては不適で、言い換えると適切な発現レベルや活性の範囲が存在することを示している。
遺伝子異常を原因としないものとしては、様々なストレス下でおこるイオンチャネルのリモデリングが心臓不整脈などの疾患の原因となることが知られている。


5.薬理学

カリウムチャネルは様々な生理的役割を果たしており、カリウムチャネルに作用する毒物や薬物は生体にとって深刻な作用を与えうる。これら毒素や薬物はチャネル研究を行なう上で重要なツールとなっている。また、カリウムチャネルは薬物治療の標的となり、いくつかの阻害薬および活性化薬が臨床の現場で使用されている。
実験室レベルで用いられるKvチャネルの阻害薬としてtetraethylammonium(TEA)、4-aminopyridine(4-AP)ヘビ毒のdendrotoxin、サソリ毒のagitoxin、蜘蛛毒のhanatoxinなどがある。イオンチャネルごとに異なる薬物選択性が知られており、イオン電流成分の分離や分子種の推定に薬理学的解析が行われている。阻害の機序としては、TEA、4-AP、dendrotoxin、agitoxinなどは小孔、もしくは小孔の近傍に結合し、イオン透過機能を阻害する。一方、hanatoxinなどは電位センサー部位に結合し、電位依存性を変える。
amiodaroneやnifekalantは心筋細胞のIKr電流を阻害し活動電位持続時間を延長し、相対的不応期を延長することから抗不整脈薬(第三群)として臨床使用されている。
近年、Kvチャネル電流を増加させる薬物も報告されており、それらは不活性化機構や脱感作機構に影響を及ぼしていると報告されている。
KCaチャネルのBKチャネルはサソリ毒のcharybdotoxin、iberiotoxin、そして比較的低濃度のTEA(<1 mM)によって阻害される。またSKチャネルはハチ毒apaminによって強力に阻害される。この薬物感受性の違いはCa活性化Kチャネルの分子種の特定に利用される。また、1-EBIOなどKCaチャネル(IK, SKチャネル)の開口薬が存在し、これらはCa2+感受性を高めることが報告されているが詳細なメカニズムは不明である。
KATPチャネルの阻害薬と活性化薬が薬物治療に用いられている。スルホニルウレア剤(tolbutamide、glibenclamideなど)は膵臓β細胞のKATPチャネルを阻害し細胞を脱分極させ、インスリン分泌を促す作用があり糖尿病の治療に用いられる。スルホニルウレア(sulfonylurea, SU)剤の受容サイトがあることから、KATP チャネルのβサブユニットはスルホニルウレア受容体(sulfonylurea receptor, SUR)と呼ばれる。また、diazoxideやpinacidilなどカリウムチャネル開口薬(K channel opener, KCO)とはKATPチャネルの開口薬である。これらは血管の緊張を緩和し、血管拡張剤として用いられている。KCOもKATPチャネルのβサブユニットSURに作用する。
吸引性麻酔薬であるhalothaneがK2Pチャネルを活性化することが知られており、この作用は局所麻酔薬の分子作用機序として考えられている[28]
臨床で用いられているものを含む多くの化合物の作用を詳細に調べると、主作用とは別にカリウムチャネルに対する作用を併せ持つ薬物が非常に多くあることが分かってきた。例えば抗ヒスタミン薬のterfenadineはカリウムチャネルを阻害する副作用を持ち、その為に致死的な不整脈を誘発する危険性が有り、臨床で使われなくなった。他には中枢神経系作動薬(haloperidolなどの抗精神病薬やfluoxetineなどの抗うつ薬など)にも副作用としてカリウムチャネルに対する作用が認められる。例えばIK電流の阻害が知られており、hERGチャネルの阻害が報告されている。またKirチャネルに対する作用なども報告されているが、治療効果への関与は未解明である。


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(執筆者:古谷和春、倉智嘉久 担当編集委員:尾藤晴彦)