「カルシウムキレート剤」の版間の差分

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===エチレンジアミン四酢酸===
===エチレンジアミン四酢酸===
 ethylenediaminetetraacetic acid:EDTA
 アミノポリカルボン酸の一種。1935年オーストリアの化学者[[wikipedia:Ferdinand Münz|Ferdinand Münz]](1888-1969)によって初めて合成され<ref>'''Matteo Paolieri'''<br>Ferdinand Münz: EDTA and 40 years of inventions.<br>Bull. Hist. Chem. ACS.: 2017, 42(2);133–140</ref>、ドイツの染料会社イーゲーファルベン(I.G. Farben)よりTrilon Bという商品名で硬水軟化剤として発売された<ref>'''柴田村治, 永田恭一<br>'''対話でつづる錯塩化学 : その4 錯体化学の周辺<br> [https://doi.org/10.20665/kagakukyouiku.21.6_446 化学教育: 1973, 21(6);446-450]</ref>。
 アミノポリカルボン酸の一種。1935年オーストリアの化学者[[wikipedia:Ferdinand Münz|Ferdinand Münz]](1888-1969)によって初めて合成され<ref>'''Matteo Paolieri'''<br>Ferdinand Münz: EDTA and 40 years of inventions.<br>Bull. Hist. Chem. ACS.: 2017, 42(2);133–140</ref>、ドイツの染料会社イーゲーファルベン(I.G. Farben)よりTrilon Bという商品名で硬水軟化剤として発売された<ref>'''柴田村治, 永田恭一<br>'''対話でつづる錯塩化学 : その4 錯体化学の周辺<br> [https://doi.org/10.20665/kagakukyouiku.21.6_446 化学教育: 1973, 21(6);446-450]</ref>。


 エチレンジアミン四酢酸(ethylenediaminetetraacetic acid:EDTA)はCa<sup>2+</sup>とMg<sup>2+</sup>をはじめとする二価の金属イオンと特によくキレート結合するが、それ以外にAg<sup>+</sup>、Fe<sup>3+</sup>、Zr<sup>4+</sup>などの1~4価の金属イオンとも結合する広範なキレート剤である<ref name = dojin>'''同仁化学研究所<br>'''Dojindo技術情報 >プロトコル集 >[http://www.dojindo.co.jp/technical/protocol/log.pdf カタログ付録Iキレート安定度定数一覧表]</ref>。その強力なキレート能と安定性のため、現在では工業目的から食品添加物まで日常生活の多岐にわたって使用されている。
 エチレンジアミン四酢酸はCa<sup>2+</sup>とMg<sup>2+</sup>をはじめとする二価の金属イオンと特によくキレート結合するが、それ以外にAg<sup>+</sup>、Fe<sup>3+</sup>、Zr<sup>4+</sup>などの1~4価の金属イオンとも結合する広範なキレート剤である<ref name = dojin>'''同仁化学研究所<br>'''Dojindo技術情報 >プロトコル集 >[http://www.dojindo.co.jp/technical/protocol/log.pdf カタログ付録Iキレート安定度定数一覧表]</ref>。その強力なキレート能と安定性のため、現在では工業目的から食品添加物まで日常生活の多岐にわたって使用されている。


 生物学実験では、しばしば酵素の不活性化剤として用いられる。例えば、[[DNA]]を溶解・保存するTE(Tris-EDTA)溶液中のEDTAは、DNA分解酵素DNAaseの補因子であるMg<sup>2+</sup>をキレートしてDNAaseの活性を抑制する。また、タンパク質分解酵素の一種金属プロテアーゼの多くはZn<sup>2+</sup>依存的であり、タンパク質精製に際してはプロテアーゼ活性抑制のためにEDTAが添加される。さらに、接着性細胞の接着はMg<sup>2+</sup>、Ca<sup>2+</sup>依存的な[[細胞接着因子]]のはたらきによるため、細胞を単離したり培養ディッシュから剥がしたりする際にもEDTAがキレート剤として使用される。<br>
 生物学実験では、しばしば酵素の不活性化剤として用いられる。例えば、[[DNA]]を溶解・保存するTE(Tris-EDTA)溶液中のEDTAは、DNA分解酵素DNAaseの補因子であるMg<sup>2+</sup>をキレートしてDNAaseの活性を抑制する。また、タンパク質分解酵素の一種金属プロテアーゼの多くはZn<sup>2+</sup>依存的であり、タンパク質精製に際してはプロテアーゼ活性抑制のためにEDTAが添加される。さらに、接着性細胞の接着はMg<sup>2+</sup>、Ca<sup>2+</sup>依存的な[[細胞接着因子]]のはたらきによるため、細胞を単離したり培養ディッシュから剥がしたりする際にもEDTAがキレート剤として使用される。<br>