「グリア細胞株由来神経栄養因子」の版間の差分

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<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0191450 若松 義雄]</font><br>
''東北大学 大学院医学系研究科 附属創生応用医学研究センター 脳神経科学コアセンター 発生発達神経科学分野''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年5月1日 原稿完成日:2012年7月5日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/noriko1128 大隅 典子](東北大学 大学院医学系研究科 附属創生応用医学研究センター 脳神経科学コアセンター 発生発達神経科学分野)<br>
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{{PBB|geneid=2668}}
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英語名:glial cell line derived neurotrophic factor 英語略称名:GDNF 仏:facteur neurotrophe dérivé de la glie
英語名:glial cell line derived neurotrophic factor 英語略称名:GDNF 仏:facteur neurotrophe dérivé de la glie


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 [[wikipedia:glial_cell_line_derived_neurotrophic_factor|GDNF]]は[[パーキンソン病]]患者における[[ドーパミン]]産生[[ニューロン]]の細胞死を防ぐ因子を探索する過程で、[[wikipediaLja:ラット|ラット]]の[[グリア]]系細胞株B49から分泌される、ドーパミン産生ニューロンの生存や形態的分化、ドーパミン取り込みを促進するタンパク質として同定された<ref name=ref1><pubmed> 8493557 </pubmed></ref>。構造的には[[TGF-β]]スーパーファミリーに属する。その後、様々なニューロンに対して[[栄養因子]]として働くことや、[[wikipedia:ja:ヒルシュスプルング病|ヒルシュスプルング病]]の原因遺伝子の一つであることなど、多様な機能とそれに対応した様々な病態との関連が指摘されている。
 [[wikipedia:glial_cell_line_derived_neurotrophic_factor|GDNF]]は[[パーキンソン病]]患者における[[ドーパミン]]産生[[ニューロン]]の細胞死を防ぐ因子を探索する過程で、[[wikipediaLja:ラット|ラット]]の[[グリア]]系細胞株B49から分泌される、ドーパミン産生ニューロンの生存や形態的分化、ドーパミン取り込みを促進するタンパク質として同定された<ref name=ref1><pubmed> 8493557 </pubmed></ref>。構造的には[[TGF-β]]スーパーファミリーに属する。その後、様々なニューロンに対して[[栄養因子]]として働くことや、[[wikipedia:ja:ヒルシュスプルング病|ヒルシュスプルング病]]の原因遺伝子の一つであることなど、多様な機能とそれに対応した様々な病態との関連が指摘されている。
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== シグナル伝達 ==
== シグナル伝達 ==


 細胞膜に[[GPIアンカー]]で結合している受容体[[GDNF family receptor α-1]] (GFRα-1)が、主なGDNF受容体である。GFRαには4種類が知られており、GDNFは GFRα-2にも結合活性があるようで、基本的には[[wikipedia:neurturin|neurturin]]等のリガンドと各受容体が1対1で対応しているが、ある程度の交差性がある。GDNFのホモ2量体が結合したGFRα-1はさらに膜貫通型[[受容体チロシンキナーゼ]]の[[wikipedia:RET_proto-oncogene|RET]]タンパク質と相互作用して、これを活性化する(GFRα-1とRETが先にヘテロ4量体を形成しており、そこにGDNFが結合するという説もある)。活性化されたRETは、受容体チロシンキナーゼに一般的に見られるように、自己[[リン酸化]]とそれに続く様々なタンパク質の結合を経て[[ホスファチジルイノシトール#ホスファチジルイノシトール3キナーゼとPI3キナーゼシグナル伝達経路|ホスファチジルイノシトール3キナーゼ]] (PI3K)-[[Akt]]経路や[[分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ]] (MAPK)経路など複数のシグナル伝達経路を活性化する。RET単独では[[細胞死]]誘導活性があることから、これらのシグナル伝達経路の活性化がGDNFによるニューロンの生存活性をになっているものと考えられる。一方、RETを介さないGDNF-GFRαシグナルの存在も示唆されている。この場合、[[チロシンリン酸化#.E9.9D.9E.E5.8F.97.E5.AE.B9.E4.BD.93.E5.9E.8B.E3.83.81.E3.83.AD.E3.82.B7.E3.83.B3.E3.82.AD.E3.83.8A.E3.83.BC.E3.82.BC|Srcファミリーキナーゼ]] や[[ホスホリパーゼC]]γ の活性化を経て、[[c-fos]]遺伝子の転写の活性化やRETを発現していないニューロンの生存を促進するという。
 [[細胞膜]]に[[GPIアンカー]]で結合している受容体[[GDNF family receptor α-1]] (GFRα-1)が、主なGDNF受容体である。GFRαには4種類が知られており、GDNFは GFRα-2にも結合活性があるようで、基本的には[[wikipedia:neurturin|neurturin]]等のリガンドと各受容体が1対1で対応しているが、ある程度の交差性がある。GDNFのホモ2量体が結合したGFRα-1はさらに膜貫通型[[受容体チロシンキナーゼ]]の[[wikipedia:RET_proto-oncogene|RET]]タンパク質と相互作用して、これを活性化する(GFRα-1とRETが先にヘテロ4量体を形成しており、そこにGDNFが結合するという説もある)。活性化されたRETは、受容体チロシンキナーゼに一般的に見られるように、自己[[リン酸化]]とそれに続く様々なタンパク質の結合を経て[[ホスファチジルイノシトール#ホスファチジルイノシトール3キナーゼとPI3キナーゼシグナル伝達経路|ホスファチジルイノシトール3キナーゼ]] (PI3K)-[[Akt]]経路や[[分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ]] (MAPK)経路など複数のシグナル伝達経路を活性化する。RET単独では[[細胞死]]誘導活性があることから、これらのシグナル伝達経路の活性化がGDNFによるニューロンの生存活性をになっているものと考えられる。一方、RETを介さないGDNF-GFRαシグナルの存在も示唆されている。この場合、[[チロシンリン酸化#.E9.9D.9E.E5.8F.97.E5.AE.B9.E4.BD.93.E5.9E.8B.E3.83.81.E3.83.AD.E3.82.B7.E3.83.B3.E3.82.AD.E3.83.8A.E3.83.BC.E3.82.BC|Srcファミリーキナーゼ]] や[[ホスホリパーゼC]]γ の活性化を経て、[[c-fos]]遺伝子の転写の活性化やRETを発現していないニューロンの生存を促進するという。


== 神経発生における機能と活性 ==
== 神経発生における機能と活性 ==
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(執筆者:若松義雄 担当編集委員:大隅典子)

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