「グルタミン酸トランスポーター」の版間の差分

編集の要約なし
編集の要約なし
編集の要約なし
117行目: 117行目:


===うつ病===
===うつ病===
 うつ病は、抑うつ気分と興味・喜びの喪失などを特徴とする精神疾患である。近年、うつ病においても、以下のようなグルタミン酸神経伝達の亢進を示唆する知見が報告され、一つの仮説を形成しつつある<ref name=ref42><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref43><pubmed></pubmed></ref>。
 うつ病は、抑うつ気分と興味・喜びの喪失などを特徴とする精神疾患である。近年、うつ病においても、以下のようなグルタミン酸神経伝達の亢進を示唆する知見が報告され、一つの仮説を形成しつつある<ref name=ref42><pubmed>18425072</pubmed></ref> <ref name=ref43><pubmed>21827775</pubmed></ref>。
#NMDA受容体阻害剤であるケタミンが、うつ病患者に即効性の抗うつ作用を示す<ref name=ref42 />。
#NMDA受容体阻害剤であるケタミンが、うつ病患者に即効性の抗うつ作用を示す<ref name=ref42 />。
#うつ病患者の血中・[[脳脊髄液]]中・脳内のグルタミン酸濃度は上昇している<ref name=ref44><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref45><pubmed></pubmed></ref>。
#うつ病患者の血中・[[脳脊髄液]]中・脳内のグルタミン酸濃度は上昇している<ref name=ref44><pubmed>17574216</pubmed></ref> <ref name=ref45><pubmed>16707201</pubmed></ref>。
#うつ病患者の死後脳ではslc1a2とscl1a3の発現が減少している<ref name=ref46><pubmed></pubmed></ref>。  
#うつ病患者の死後脳ではslc1a2とscl1a3の発現が減少している<ref name=ref46><pubmed>16230605</pubmed></ref>。  
#slc1a2の発現を増加させるβ-lactam系抗生物質が、マウスのうつ様行動を改善する<ref name=ref47><pubmed></pubmed></ref>。
#slc1a2の発現を増加させるβ-lactam系抗生物質が、マウスのうつ様行動を改善する<ref name=ref47><pubmed>16860779</pubmed></ref>。
#slc1a2とscl1a3を活性化するriluzoleは、うつ病に効果がある<ref name=ref48><pubmed></pubmed></ref>。
#slc1a2とscl1a3を活性化するriluzoleは、うつ病に効果がある<ref name=ref48><pubmed>17141740</pubmed></ref>。


  手綱核特異的slc1a2欠損マウスは、うつ病の症状に似た行動異常や[[睡眠障害]]を起こす<ref name=ref49><pubmed></pubmed></ref>。これらの知見は、グルタミン酸トランスポーターの機能不全によるグルタミン酸神経伝達の過剰な活性化が、うつ病の発症に重要な役割を果たしていることを示唆している。
  手綱核特異的slc1a2欠損マウスは、うつ病の症状に似た行動異常や[[睡眠障害]]を起こす<ref name=ref49><pubmed>25471567</pubmed></ref>。これらの知見は、グルタミン酸トランスポーターの機能不全によるグルタミン酸神経伝達の過剰な活性化が、うつ病の発症に重要な役割を果たしていることを示唆している。


===双極性障害===
===双極性障害===
 [[双極性障害]]は、うつ状態と躁状態を繰り返す慢性の疾患である。1H-MRS(magnetic resonance spectroscopy)によるグルタミン酸濃度測定のメタ解析で、双極性障害の患者において脳のグルタミン酸濃度が増加していることが報告されている<ref name=ref50><pubmed></pubmed></ref>。また、患者死後脳におけるslc1a2の発現減少や、双極性障害患者にのみ見られるslc1a2の稀なミスセンス変異(G6S, A20S, R31Q)が報告されている<ref name=ref51><pubmed></pubmed></ref>。さらに、NMDA受容体の阻害剤であるメマンチンが躁病エピソードの治療に効果があるという報告もなされている<ref name=ref52><pubmed></pubmed></ref>。
 [[双極性障害]]は、うつ状態と躁状態を繰り返す慢性の疾患である。1H-MRS(magnetic resonance spectroscopy)によるグルタミン酸濃度測定のメタ解析で、双極性障害の患者において脳のグルタミン酸濃度が増加していることが報告されている<ref name=ref50><pubmed>22834460</pubmed></ref>。また、患者死後脳におけるslc1a2の発現減少や、双極性障害患者にのみ見られるslc1a2の稀なミスセンス変異(G6S, A20S, R31Q)が報告されている<ref name=ref51><pubmed>25406999</pubmed></ref>。さらに、NMDA受容体の阻害剤であるメマンチンが躁病エピソードの治療に効果があるという報告もなされている<ref name=ref52><pubmed>25540723</pubmed></ref>。


===強迫性障害===
===強迫性障害===
 [[強迫性障害]]は、強迫観念・強迫行為を特徴とする疾患である。多くは思春期過ぎから発症し、人口の2~3%が罹患歴を持つ。近年、強迫性障害においても、以下のようなグルタミン酸神経伝達の亢進を示唆する知見が報告されている。
 [[強迫性障害]]は、強迫観念・強迫行為を特徴とする疾患である。多くは思春期過ぎから発症し、人口の2~3%が罹患歴を持つ。近年、強迫性障害においても、以下のようなグルタミン酸神経伝達の亢進を示唆する知見が報告されている。
#強迫性障害患者の脳内ではグルタミン酸濃度が増加し、神経伝達が亢進している<ref name=ref53><pubmed></pubmed></ref>。
#強迫性障害患者の脳内ではグルタミン酸濃度が増加し、神経伝達が亢進している<ref name=ref53><pubmed>19768139</pubmed></ref>。
#slc1a3の一塩基多型と強迫性障害の関連が報告されている<ref name=ref54><pubmed></pubmed></ref>。
#slc1a3の一塩基多型と強迫性障害の関連が報告されている<ref name=ref54><pubmed>24821223</pubmed></ref>。
#グルタミン酸神経伝達を抑制する薬剤に強迫性障害の治療効果がある<ref name=ref53 />。
#グルタミン酸神経伝達を抑制する薬剤に強迫性障害の治療効果がある<ref name=ref53 />。


===自閉スペクトラム症===
===自閉スペクトラム症===
 [[自閉スペクトラム症]]は、社会性行動の喪失・[[言語]]発達の遅延・限局した興味や繰り返し行動を特徴とする脳高次機能の[[発達障害]]である。[[自閉症]]様の行動を示す脆弱X症候群や結節性硬化症の患者ではグルタミン酸神経伝達の亢進が報告されている。自閉症のゲノムワイドな連鎖解析により、11番[[染色体]]の11p12-13が自閉症に関連があることが明らかになった<ref name=ref55><pubmed></pubmed></ref>。この領域はslc1a2の遺伝子座の近傍である。また、slc1a2を性成熟期以降に欠損させたマウスでは、大脳皮質—線条体間のグルタミン酸伝達が過剰に活性化され、過度な毛繕い行動と突発的に全身を激しく震わせるwet-dog shakeと呼ばれる繰り返し行動の回数が大幅に増加することが報告されている<ref name=ref56><pubmed></pubmed></ref>。
 [[自閉スペクトラム症]]は、社会性行動の喪失・[[言語]]発達の遅延・限局した興味や繰り返し行動を特徴とする脳高次機能の[[発達障害]]である。[[自閉症]]様の行動を示す脆弱X症候群や結節性硬化症の患者ではグルタミン酸神経伝達の亢進が報告されている。自閉症のゲノムワイドな連鎖解析により、11番[[染色体]]の11p12-13が自閉症に関連があることが明らかになった<ref name=ref55><pubmed>17322880</pubmed></ref>。この領域はslc1a2の遺伝子座の近傍である。また、slc1a2を性成熟期以降に欠損させたマウスでは、大脳皮質—線条体間のグルタミン酸伝達が過剰に活性化され、過度な毛繕い行動と突発的に全身を激しく震わせるwet-dog shakeと呼ばれる繰り返し行動の回数が大幅に増加することが報告されている<ref name=ref56><pubmed>25662838</pubmed></ref>。


===てんかん===
===てんかん===
 てんかんは、ニューロンの過剰な活動に伴い痙攣や[[意識障害]]などが発作的に反復して起こる慢性的な脳疾患である。てんかん発作の発現機序として、脳内の[[抑制性]]と興奮性神経伝達の不均衡状態が重要だと考えられている。内側側頭葉てんかん患者の海馬において、細胞外グルタミン酸濃度が上昇することが報告されている。しかし、側頭葉てんかん患者の外科切除海馬標本を用いた解析では、グルタミン酸トランスポーターslc1a2とslc1a3の発現減少に関して統一した結果が得られていない。グルタミン酸トランスポーターの遺伝子解析では、てんかん発作を伴うエピソード性運動失調6型(Episodic ataxia with hemiplegic migraine and seizures)の患者さんにslc1a3の機能を障害するミスセンス変異(C186S とP290R)が見つかっている<ref name=ref57><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref58><pubmed></pubmed></ref>。また、slc1a2欠損マウスは、致死性の自発てんかん発作により、生後3週齢から[[突然死]]を起こす。てんかん発作パターンは、NMDAを皮下注した時に見られる発作と類似しており、突然ケージの中を走り回り反弓緊張様姿勢をとり死亡する<ref name=ref19 />。さらに、slc1a3欠損マウスは、自発性てんかん発作は観察されないが、PTZ(pentylentetorazole)誘発性てんかんに対する感受性が亢進している<ref name=ref59><pubmed></pubmed></ref>。また、slic1a2の発現を増加させる薬物は、様々なてんかんモデルにおいて、抗てんかん作用を示すことが報告されている<ref name=ref60><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref61><pubmed></pubmed></ref>。
 てんかんは、ニューロンの過剰な活動に伴い痙攣や[[意識障害]]などが発作的に反復して起こる慢性的な脳疾患である。てんかん発作の発現機序として、脳内の[[抑制性]]と興奮性神経伝達の不均衡状態が重要だと考えられている。内側側頭葉てんかん患者の海馬において、細胞外グルタミン酸濃度が上昇することが報告されている。しかし、側頭葉てんかん患者の外科切除海馬標本を用いた解析では、グルタミン酸トランスポーターslc1a2とslc1a3の発現減少に関して統一した結果が得られていない。グルタミン酸トランスポーターの遺伝子解析では、てんかん発作を伴うエピソード性運動失調6型(Episodic ataxia with hemiplegic migraine and seizures)の患者さんにslc1a3の機能を障害するミスセンス変異(C186S とP290R)が見つかっている<ref name=ref57><pubmed>16116111</pubmed></ref> <ref name=ref58><pubmed>19139306</pubmed></ref>。また、slc1a2欠損マウスは、致死性の自発てんかん発作により、生後3週齢から[[突然死]]を起こす。てんかん発作パターンは、NMDAを皮下注した時に見られる発作と類似しており、突然ケージの中を走り回り反弓緊張様姿勢をとり死亡する<ref name=ref19 />。さらに、slc1a3欠損マウスは、自発性てんかん発作は観察されないが、PTZ(pentylentetorazole)誘発性てんかんに対する感受性が亢進している<ref name=ref59><pubmed>10529447</pubmed></ref>。また、slic1a2の発現を増加させる薬物は、様々なてんかんモデルにおいて、抗てんかん作用を示すことが報告されている<ref name=ref60><pubmed>22513140</pubmed></ref> <ref name=ref61><pubmed>24569372</pubmed></ref>。


===薬物依存===
===薬物依存===
 [[モルヒネ]]、[[コカイン]]、[[覚せい剤]]、アルコールなどの依存性薬物は、その反復摂取により依存性が形成される。近年の薬物乱用の低年齢化や一般市民への拡大は、社会的にも大きな問題となっている。薬物依存の形成・維持・再燃過程に、グルタミン酸神経伝達の亢進が重要な役割を果たすことは、以下の知見から示唆されている<ref name=ref62><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref63><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref64><pubmed></pubmed></ref>。
 [[モルヒネ]]、[[コカイン]]、[[覚せい剤]]、アルコールなどの依存性薬物は、その反復摂取により依存性が形成される。近年の薬物乱用の低年齢化や一般市民への拡大は、社会的にも大きな問題となっている。薬物依存の形成・維持・再燃過程に、グルタミン酸神経伝達の亢進が重要な役割を果たすことは、以下の知見から示唆されている<ref name=ref62><pubmed>23876150</pubmed></ref> <ref name=ref63><pubmed>26033496</pubmed></ref> <ref name=ref64><pubmed>24741055</pubmed></ref>。
#薬物依存モデルの脳において細胞外グルタミン酸濃度が増加する。
#薬物依存モデルの脳において細胞外グルタミン酸濃度が増加する。
#薬物依存モデルの脳においてslc1a2の発現量が減少する。
#薬物依存モデルの脳においてslc1a2の発現量が減少する。
150行目: 150行目:
===アルツハイマー病===
===アルツハイマー病===
 [[アルツハイマー病]]は、神経変性による起こる認知症で、高齢化により患者数は増加している。アルツハイマー病の病態に過剰なグルタミン酸受容体の活性化が関与することは、グルタミン酸受容体阻害剤であるメマンチンが治療薬として用いられていることからも明らかである。グルタミン酸トランスポーターの障害がアルツハイマー病の発症に関与することを示す証拠として以下のものがある。
 [[アルツハイマー病]]は、神経変性による起こる認知症で、高齢化により患者数は増加している。アルツハイマー病の病態に過剰なグルタミン酸受容体の活性化が関与することは、グルタミン酸受容体阻害剤であるメマンチンが治療薬として用いられていることからも明らかである。グルタミン酸トランスポーターの障害がアルツハイマー病の発症に関与することを示す証拠として以下のものがある。
#アルツハイマー病患者の脳ではslc1a1, slc12, slc1a3の発現量が減少している<ref name=ref65><pubmed></pubmed></ref>。
#アルツハイマー病患者の脳ではslc1a1, slc12, slc1a3の発現量が減少している<ref name=ref65><pubmed>21743130</pubmed></ref>。
#アルツハイマー病モデルのslc1a2発現量を低下させると[[空間学習]]の障害が促進される<ref name=ref66><pubmed></pubmed></ref>
#アルツハイマー病モデルのslc1a2発現量を低下させると[[空間学習]]の障害が促進される<ref name=ref66><pubmed>21677376</pubmed></ref>
#アルツハイマー病における神経変性の原因物質と考えられているβ[[アミロイドタンパク質]]によりGLT1の機能が障害される<ref name=ref67><pubmed></pubmed></ref>。
#アルツハイマー病における神経変性の原因物質と考えられているβ[[アミロイドタンパク質]]によりGLT1の機能が障害される<ref name=ref67><pubmed>23516295</pubmed></ref>。
#GLT1の発現量を増加させるceftriaxoneはアルツハイマー病モデルの異常を回復させる<ref name=ref68><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref69><pubmed></pubmed></ref>。
#GLT1の発現量を増加させるceftriaxoneはアルツハイマー病モデルの異常を回復させる<ref name=ref68><pubmed>25964214</pubmed></ref> <ref name=ref69><pubmed>25711212</pubmed></ref>。


===筋萎縮性側索硬化症===
===筋萎縮性側索硬化症===
 [[筋萎縮性側索硬化症]]は、[[筋肉]]の動きを制御する運動神経が選択的に変性する疾患である。筋萎縮性側索硬化症の病態に過剰なグルタミン酸受容体の活性化が関与することは、グルタミン酸シナプス伝達の阻害作用を持つリルゾールが治療薬として用いられていることからも明らかである。グルタミン酸トランスポーターの障害が筋萎縮性側索硬化症の発症に関与することを示す証拠として以下のものがある。
 [[筋萎縮性側索硬化症]]は、[[筋肉]]の動きを制御する運動神経が選択的に変性する疾患である。筋萎縮性側索硬化症の病態に過剰なグルタミン酸受容体の活性化が関与することは、グルタミン酸シナプス伝達の阻害作用を持つリルゾールが治療薬として用いられていることからも明らかである。グルタミン酸トランスポーターの障害が筋萎縮性側索硬化症の発症に関与することを示す証拠として以下のものがある。
#筋萎縮性側索硬化症患者の脳脊[[髄液]]中のグルタミン酸濃度が増加している<ref name=ref70><pubmed></pubmed></ref>。
#筋萎縮性側索硬化症患者の脳脊[[髄液]]中のグルタミン酸濃度が増加している<ref name=ref70><pubmed>11790386</pubmed></ref>。
#筋萎縮性側索硬化症患者の脊髄においてグルタミン酸取り込み能とslc1a2の発現量が減少している<ref name=ref71><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref72><pubmed></pubmed></ref>。
#筋萎縮性側索硬化症患者の脊髄においてグルタミン酸取り込み能とslc1a2の発現量が減少している<ref name=ref71><pubmed>1349424</pubmed></ref> <ref name=ref72><pubmed>7611729</pubmed></ref>。
#筋萎縮性側索硬化症[[モデル動物]]においてslc1a2とslc1a3の発編量が減少している<ref name=ref73><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref74><pubmed></pubmed></ref>。
#筋萎縮性側索硬化症[[モデル動物]]においてslc1a2とslc1a3の発編量が減少している<ref name=ref73><pubmed>11818550</pubmed></ref> <ref name=ref74><pubmed>23714777</pubmed></ref>。
#slc1a2を活性化する化合物は筋萎縮性側索硬化症モデルの症状を改善する<ref name=ref61 /> <ref name=ref75><pubmed></pubmed></ref>。
#slc1a2を活性化する化合物は筋萎縮性側索硬化症モデルの症状を改善する<ref name=ref61 /> <ref name=ref75><pubmed>15635412</pubmed></ref>。


===ハンチントン病===
===ハンチントン病===
 [[ハンチントン病]]は、線条体の神経細胞が変性し、不随意運動・認知障害などの症状を示す[[常染色体優性遺伝]]疾患である。グルタミン酸トランスポーターの障害がハンチントン病の発症に関与することを示す証拠として以下のものがある。
 [[ハンチントン病]]は、線条体の神経細胞が変性し、不随意運動・認知障害などの症状を示す[[常染色体優性遺伝]]疾患である。グルタミン酸トランスポーターの障害がハンチントン病の発症に関与することを示す証拠として以下のものがある。
#ハンチントン病患者の線条体においてslc1a2の発現が減少している<ref name=ref76><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref77><pubmed></pubmed></ref>。
#ハンチントン病患者の線条体においてslc1a2の発現が減少している<ref name=ref76><pubmed>9100675</pubmed></ref> <ref name=ref77><pubmed>20494921</pubmed></ref>。
#ハンチントン病モデル[[動物]]においてslc1a2とslc1a3の発現量が減少している<ref name=ref77 /> <ref name=ref78><pubmed></pubmed></ref>。
#ハンチントン病モデル[[動物]]においてslc1a2とslc1a3の発現量が減少している<ref name=ref77 /> <ref name=ref78><pubmed>19168136</pubmed></ref>。
#slc1a2を活性化する化合物はハンチントン病モデルの症状を改善する<ref name=ref79><pubmed></pubmed></ref>。
#slc1a2を活性化する化合物はハンチントン病モデルの症状を改善する<ref name=ref79><pubmed>18353560</pubmed></ref>。


===片頭痛===
===片頭痛===
 片[[頭痛]]を伴うエピソード性運動失調6型(Episodic ataxia with hemiplegic migraine and seizures)の患者さん及び弧発性片麻痺性片頭痛の患者さんに、slc1a3の機能を障害するミスセンス変異(C186S とP290R、T387P)が見つかっている<ref name=ref57 /> <ref name=ref58 /> <ref name=ref80><pubmed></pubmed></ref>。純粋な片頭痛のみを示す患者さんにslc1a2の変異は見つかっていないが、slc1a2の機能・発現に関与するATP1A2, slc4a4, MTDHの変異が報告されている<ref name=ref81><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref82><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref83><pubmed></pubmed></ref>。
 片[[頭痛]]を伴うエピソード性運動失調6型(Episodic ataxia with hemiplegic migraine and seizures)の患者さん及び弧発性片麻痺性片頭痛の患者さんに、slc1a3の機能を障害するミスセンス変異(C186S とP290R、T387P)が見つかっている<ref name=ref57 /> <ref name=ref58 /> <ref name=ref80>'''Freilinger T, Koch J, Dichgans M, Mamsa H, Jen JC.'''<br>A novel mutation in slc1a3 associated with pure hemiplegic migraine. <br>''J Headache Pain 11'' (Suppl 1): S90, 2010.</ref>。純粋な片頭痛のみを示す患者さんにslc1a2の変異は見つかっていないが、slc1a2の機能・発現に関与するATP1A2, slc4a4, MTDHの変異が報告されている<ref name=ref81><pubmed>12539047</pubmed></ref> <ref name=ref82><pubmed>20798035</pubmed></ref> <ref name=ref83><pubmed>20802479</pubmed></ref>。


===多発性硬化症===
===多発性硬化症===
 [[多発性硬化症]]は、中枢神経系の脱髄疾患の一つである。グルタミン酸トランスポーターの障害が多発性硬化症の発症に関与することを示す証拠として以下のものがある。
 [[多発性硬化症]]は、中枢神経系の脱髄疾患の一つである。グルタミン酸トランスポーターの障害が多発性硬化症の発症に関与することを示す証拠として以下のものがある。
#多発性硬化症患者の脳内および脳脊髄液中のグルタミン酸濃度が増加している<ref name=ref84><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref85><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref86><pubmed></pubmed></ref>。
#多発性硬化症患者の脳内および脳脊髄液中のグルタミン酸濃度が増加している<ref name=ref84><pubmed>15758036</pubmed></ref> <ref name=ref85><pubmed>23613944</pubmed></ref> <ref name=ref86><pubmed>9466133</pubmed></ref>。
#多発性硬化症患者の大脳皮質の障害部位ではscl1a2とscl1a3の発現が減少している<ref name=ref87><pubmed></pubmed></ref>。
#多発性硬化症患者の大脳皮質の障害部位ではscl1a2とscl1a3の発現が減少している<ref name=ref87><pubmed>17882017</pubmed></ref>。
#グルタミン酸受容体の阻害剤が多発性硬化症モデルの症状を改善する<ref name=ref88><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref89><pubmed></pubmed></ref>。
#グルタミン酸受容体の阻害剤が多発性硬化症モデルの症状を改善する<ref name=ref88><pubmed>10613825</pubmed></ref> <ref name=ref89><pubmed>10613826</pubmed></ref>。


===本態性振戦===
===本態性振戦===
 本態性振戦患者において、slc1a2の1塩基多型との関連や小脳でのslc1a2の発現減少が報告されている<ref name=ref90><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref91><pubmed></pubmed></ref>。
 本態性振戦患者において、slc1a2の1塩基多型との関連や小脳でのslc1a2の発現減少が報告されている<ref name=ref90><pubmed>22764253</pubmed></ref> <ref name=ref91><pubmed>25391854</pubmed></ref>。


===脳梗塞===
===脳梗塞===
 脳梗塞の障害程度は、slc1a2の発現量を規定する1塩基多型と相関することが報告されている<ref name=ref92><pubmed></pubmed></ref>。また、slc1a2欠損マウスでは虚血による障害が悪化し<ref name=ref93><pubmed></pubmed></ref>、slc1a2の活性化化合物の投与により虚血障害が軽度になる<ref name=ref94><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref95><pubmed></pubmed></ref>。
 脳梗塞の障害程度は、slc1a2の発現量を規定する1塩基多型と相関することが報告されている<ref name=ref92><pubmed>16520390</pubmed></ref>。また、slc1a2欠損マウスでは虚血による障害が悪化し<ref name=ref93><pubmed>12904478</pubmed></ref>、slc1a2の活性化化合物の投与により虚血障害が軽度になる<ref name=ref94><pubmed>23523747</pubmed></ref> <ref name=ref95><pubmed>25270764</pubmed></ref>。


===慢性疼痛===
===慢性疼痛===
 慢性[[疼痛]]モデルでのslc1a2の発現減少<ref name=ref96><pubmed></pubmed></ref>やslc1a2の活性化化合物が慢性疼痛モデルの疼痛を緩和する<ref name=ref97><pubmed></pubmed></ref>という報告があり、slc1a2が慢性疼痛の創薬の一つの標的になっている<ref name=ref98><pubmed></pubmed></ref>。
 慢性[[疼痛]]モデルでのslc1a2の発現減少<ref name=ref96><pubmed>16242033</pubmed></ref>やslc1a2の活性化化合物が慢性疼痛モデルの疼痛を緩和する<ref name=ref97><pubmed>20022427</pubmed></ref>という報告があり、slc1a2が慢性疼痛の創薬の一つの標的になっている<ref name=ref98><pubmed>25270665</pubmed></ref>。


===緑内障===
===緑内障===
 緑内障は、40歳以上では約5%が潜在的に罹患していると考えられており、日本人の中途失明原因の第1位である。さらに、高齢化により患者数は増加し、その治療は活力ある高齢化社会を作るためには必要不可欠である。我が国の緑内障の約70%は正常眼圧緑内障であり、その病態は不明である。グルタミン酸トランスポーター slc1a3欠損マウスは、眼圧が正常であるにも関わらず、網膜神経節細胞が加齢に伴い選択的に変性し、[[視神経]]乳頭陥凹が拡大するなど正常眼圧緑内障に似た症状を示す<ref name=ref99><pubmed></pubmed></ref>。また、slc1a3の発現を増加させるarundic acidはslic1a3欠損マウスの緑内障様症状を改善する<ref name=ref100><pubmed></pubmed></ref>。しかし、slc1a3の遺伝子変異が正常眼圧緑内障の直接的な原因になるかは不明である。
 緑内障は、40歳以上では約5%が潜在的に罹患していると考えられており、日本人の中途失明原因の第1位である。さらに、高齢化により患者数は増加し、その治療は活力ある高齢化社会を作るためには必要不可欠である。我が国の緑内障の約70%は正常眼圧緑内障であり、その病態は不明である。グルタミン酸トランスポーター slc1a3欠損マウスは、眼圧が正常であるにも関わらず、網膜神経節細胞が加齢に伴い選択的に変性し、[[視神経]]乳頭陥凹が拡大するなど正常眼圧緑内障に似た症状を示す<ref name=ref99><pubmed>17607354</pubmed></ref>。また、slc1a3の発現を増加させるarundic acidはslic1a3欠損マウスの緑内障様症状を改善する<ref name=ref100><pubmed>25789968</pubmed></ref>。しかし、slc1a3の遺伝子変異が正常眼圧緑内障の直接的な原因になるかは不明である。


==参考文献==
==参考文献==
<references />
<references />