「グルタミン酸トランスポーター」の版間の差分

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<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0191613 田中 光一]</font><br>
<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0191613 田中 光一]</font><br>
''東京医科歯科大学''<br>
''東京医科歯科大学''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2016年1月26日 原稿完成日:2016年月日<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2016年1月26日 原稿完成日:2016年2月12日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/wadancnp 和田 圭司](国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター)<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/wadancnp 和田 圭司](国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター)<br>
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{{box|text=
{{box|text= グルタミン酸は哺乳類の中枢神経系において記憶・学習などの高次機能を調節する主要な興奮性神経伝達物質として知られている。一方、過剰なグルタミン酸は、グルタミン酸受容体の過剰な活性化によりグルタミン酸興奮毒性と呼ばれる神経細胞障害作用を持つことが知られている。このため細胞外グルタミン酸濃度は厳密に制御される必要があり、グルタミン酸トランスポーターがその役割を担う。これまで哺乳類の中枢神経系において、5種類のグルタミン酸トランスポーターサブファミリー、slc1a1、slc1a2、slc1a3、slc1a6、slc1a7が単離されている。slc1a2、slc1a3は主にアストロサイトに、slc1a1とslc1a6は神経細胞に、slc1a7は網膜に発現している。シナプス間隙におけるグルタミン酸の除去は、主にアストロサイトに存在する2種類のグルタミン酸輸送体slc1a2、slc1a3により担われている。近年、これらのグルタミン酸トランスポーターの機能障害が様々な精神神経疾患の発症に関与することが明らかになりつつある。}}
 グルタミン酸は哺乳類の中枢神経系において記憶・学習などの高次機能を調節する主要な興奮性神経伝達物質として知られている。一方、過剰なグルタミン酸は、グルタミン酸受容体の過剰な活性化によりグルタミン酸興奮毒性と呼ばれる神経細胞障害作用を持つことが知られている。このため細胞外グルタミン酸濃度は厳密に制御される必要があり、グルタミン酸トランスポーターがその役割を担う。これまで哺乳類の中枢神経系において、5種類のグルタミン酸トランスポーターサブファミリー、slc1a1、slc1a2、slc1a3、slc1a6、slc1a7が単離されている。Slc1a2、slc1a3は主にアストロサイトに、slc1a1とslc1a6は神経細胞に、slc1a7は網膜に発現している。シナプス間隙におけるグルタミン酸の除去は、主にアストロサイトに存在する2種類のグルタミン酸輸送体slc1a2、slc1a3により担われている。近年、これらのグルタミン酸トランスポーターの機能障害が様々な精神神経疾患の発症に関与することが明らかになりつつある。
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{{Infobox protein family
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| caption = グルタミン酸トランスポーターホモログ(''Pyrococcus horikoshii'')
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PDB番号:1XFH


==グルタミン酸トランスポーターとは==
==グルタミン酸トランスポーターとは==
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 [[グルタミン酸]]は、哺乳類中枢神経系において約70%の神経細胞が用いる主要な興奮性神経伝達物質であり、[[記憶]]・[[学習]]などの脳高次機能に重要な役割を果たしている<ref name=ref1><pubmed>9651535</pubmed></ref>。しかし、その機能的な重要性の反面、[[興奮毒性]]という概念で表されるように<ref name=ref2><pubmed>2908446</pubmed></ref>、過剰なグルタミン酸は神経細胞障害作用を持ち、様々な[[精神神経疾患]]の発症に関与することが明らかになりつつある<ref name=ref3><pubmed>26569330</pubmed></ref> <ref name=ref4><pubmed>25482181</pubmed></ref>。従って、[[シナプス間隙]]におけるグルタミン酸濃度は厳密に制御されなければならない。
 [[グルタミン酸]]は、哺乳類中枢神経系において約70%の神経細胞が用いる主要な興奮性神経伝達物質であり、[[記憶]]・[[学習]]などの脳高次機能に重要な役割を果たしている<ref name=ref1><pubmed>9651535</pubmed></ref>。しかし、その機能的な重要性の反面、[[興奮毒性]]という概念で表されるように<ref name=ref2><pubmed>2908446</pubmed></ref>、過剰なグルタミン酸は神経細胞障害作用を持ち、様々な[[精神神経疾患]]の発症に関与することが明らかになりつつある<ref name=ref3><pubmed>26569330</pubmed></ref> <ref name=ref4><pubmed>25482181</pubmed></ref>。従って、[[シナプス間隙]]におけるグルタミン酸濃度は厳密に制御されなければならない。


 シナプスにおけるグルタミン酸の動態は図1のように考えられている。シナプス前終末から放出されたグルタミン酸は、シナプス後細胞のグルタミン酸受容体に結合しその効果を発揮するが、伝達終了後シナプス間隙のグルタミン酸は[[アストロサイト]]およびシナプス後神経細胞膜に存在するグルタミン酸トランスポーターにより細胞内に取り込まれる。アストロサイトに取り込まれたグルタミン酸は、[[グルタミン合成酵素]]によりグルタミンに変換され、グリア細胞外に放出され、[[グルタミンーグルタミン酸サイクル]]を経て、再びシナプス小胞に蓄えられる。
 シナプスにおけるグルタミン酸の動態は図1のように考えられている。シナプス前終末から放出されたグルタミン酸は、シナプス後細胞のグルタミン酸受容体に結合しその効果を発揮するが、伝達終了後シナプス間隙のグルタミン酸は[[アストロサイト]]およびシナプス後神経細胞膜に存在するグルタミン酸トランスポーターにより細胞内に取り込まれる。アストロサイトに取り込まれたグルタミン酸は、[[グルタミン合成酵素]]によりグルタミンに変換され、グリア細胞外に放出され、[[グルタミン-グルタミン酸サイクル]]を経て、再びシナプス小胞に蓄えられる。


 中枢神経系には5種類のグルタミン酸トランスポーターサブファミリーが存在することが知られおり<ref name=ref5><pubmed>11369436</pubmed></ref>、グルタミン酸トランスポーター欠損マウスの解析を通じ、グルタミン酸トランスポーターの各サブファミリーの機能的役割が明らかになりつつある。
 中枢神経系には5種類のグルタミン酸トランスポーターサブファミリーが存在することが知られおり<ref name=ref5><pubmed>11369436</pubmed></ref>、グルタミン酸トランスポーター欠損マウスの解析を通じ、グルタミン酸トランスポーターの各サブファミリーの機能的役割が明らかになりつつある。
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|style="background-color:#f0fff0"|遺伝子座(ヒト)
|style="background-color:#f0fff0"|遺伝子座(ヒト)
|-
|-
|style="background-color:#f0fff0"|Scl1a1
|style="background-color:#f0fff0"|slc1a1
|EAAT3<br>EAAC1
|EAAT3<br>EAAC1
|524
|524
64行目: 59行目:
|9p24
|9p24
|-|
|-|
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|EAAT2<br>GLT-1
|EAAT2<br>GLT-1
|574
|574
71行目: 66行目:
|11p13-p12
|11p13-p12
|-|
|-|
|style="background-color:#f0fff0"|Scl1a3
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|EAAT1<br>GLAST
|EAAT1<br>GLAST
|542
|542
78行目: 73行目:
|5p13
|5p13
|-
|-
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|style="background-color:#f0fff0"|slc1a6
|EAAT4
|EAAT4
|564
|564
85行目: 80行目:
|19p13.12
|19p13.12
|-
|-
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|EAAT5
|EAAT5
|560
|560
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 5種類のグルタミン酸トランスポーターサブファミリーは、中枢神経系だけでなく末梢組織にも発現していることが知られているが、本稿では中枢神経系における発現に関して記述する(表1)。
 5種類のグルタミン酸トランスポーターサブファミリーは、中枢神経系だけでなく末梢組織にも発現していることが知られているが、本稿では中枢神経系における発現に関して記述する(表1)。


 [[Slc1a2]]([[GLT-1]]/[[EAAT2]])は[[大脳皮質]]・[[海馬]]の[[アストロサイト]]に、[[slc1a3]]([[GLAST]]/[[EAAT1]])は[[小脳]]のアストロサイトに優位に発現している<ref name=ref7><pubmed>8733726</pubmed></ref>。[[Slc1a1]]([[EAAC1]]/[[EAAT3]])は神経細胞に存在し、中枢神経系に広く分布している<ref name=ref7 />。[[Slc1a6]]([[EAAT4]])は小脳の[[プルキンエ細胞]]に<ref name=ref8><pubmed>8905715</pubmed></ref>、また[[slc1a7]]([[EAAT]])は[[網膜]]の[[視細胞]]・[[双極細胞]]に特異的に発現している<ref name=ref9><pubmed>10696802</pubmed></ref>(図3)。神経細胞に発現しているslc1a1とscl1a4は、神経細胞の終末ではなく[[細胞体]]・[[樹状突起]]に主に局在している<ref name=ref10><pubmed>7917301</pubmed></ref> <ref name=ref11><pubmed>9261809</pubmed></ref>。アストロサイトに発現しているslc1a2とscl1a3は、シナプス周囲を覆っている突起に密度高く局在している<ref name=ref12><pubmed>7546749</pubmed></ref>。
 [[slc1a2]]([[GLT-1]]/[[EAAT2]])は[[大脳皮質]]・[[海馬]]の[[アストロサイト]]に、[[slc1a3]]([[GLAST]]/[[EAAT1]])は[[小脳]]のアストロサイトに優位に発現している<ref name=ref7><pubmed>8733726</pubmed></ref>。[[slc1a1]]([[EAAC1]]/[[EAAT3]])は神経細胞に存在し、中枢神経系に広く分布している<ref name=ref7 />。[[slc1a6]]([[EAAT4]])は小脳の[[プルキンエ細胞]]に<ref name=ref8><pubmed>8905715</pubmed></ref>、また[[slc1a7]]([[EAAT5]])は[[網膜]]の[[視細胞]]・[[双極細胞]]に特異的に発現している<ref name=ref9><pubmed>10696802</pubmed></ref>(図3)。神経細胞に発現しているslc1a1とslc1a4は、神経細胞の終末ではなく[[細胞体]]・[[樹状突起]]に主に局在している<ref name=ref10><pubmed>7917301</pubmed></ref> <ref name=ref11><pubmed>9261809</pubmed></ref>。アストロサイトに発現しているslc1a2とslc1a3は、シナプス周囲を覆っている突起に密度高く局在している<ref name=ref12><pubmed>7546749</pubmed></ref>。


 最近、[[CDC42EP4]]/[[septin]]がslc1a3をシナプス周囲を覆う[[バーグマングリア]]の突起に局在させることが明らかになった<ref name=ref13><pubmed>26657011</pubmed></ref>。成人脳ではアストロサイトに局在するscl1a2は、胎児期から生後3日の発生初期には、一過性に神経細胞に発現する<ref name=ref14><pubmed>9671661</pubmed></ref>。
 最近、[[CDC42EP4]]/[[septin]]がslc1a3をシナプス周囲を覆う[[バーグマングリア]]の突起に局在させることが明らかになった<ref name=ref13><pubmed>26657011</pubmed></ref>。成人脳ではアストロサイトに局在するslc1a2は、胎児期から生後3日の発生初期には、一過性に神経細胞に発現する<ref name=ref14><pubmed>9671661</pubmed></ref>。


 また、成人脳ではアストロサイトに局在するslc1a3は、発生初期には[[神経幹細胞]]に発現しており、神経幹細胞のマーカーとして用いられている<ref name=ref15><pubmed>9364068</pubmed></ref> <ref name=ref16><pubmed>26586824</pubmed></ref>。
 また、成人脳ではアストロサイトに局在するslc1a3は、発生初期には[[神経幹細胞]]に発現しており、神経幹細胞のマーカーとして用いられている<ref name=ref15><pubmed>9364068</pubmed></ref> <ref name=ref16><pubmed>26586824</pubmed></ref>。
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===分子機能===
===分子機能===
 グルタミン酸トランスポーターは、細胞膜を介したNa<sup>+</sup>の[[電気化学ポテンシャル]]を利用して、グルタミン酸を輸送する。1分子のグルタミン酸の取り込みは、3個のNa<sup>+</sup>および1個のH<sup>+</sup>の共輸送、1個のK<sup>+</sup>の対向輸送と共役する(図2)。従って、グルタミン酸トランスポーターは[[起電性]]であり、グルタミン酸の細胞内への取り込みにより[[内向き電流]]が生じる。また、これとは別に、熱力学的にグルタミン酸取り込みと連動していないCl-の流入があることが知られているが、Cl-の透過性の順番はScl1a6/7 > slc1a3 > slc1a1 > slc1a2である<ref name=ref17><pubmed>26303507</pubmed></ref>。
 グルタミン酸トランスポーターは、細胞膜を介したNa<sup>+</sup>の[[電気化学ポテンシャル]]を利用して、グルタミン酸を輸送する。1分子のグルタミン酸の取り込みは、3個のNa<sup>+</sup>および1個のH<sup>+</sup>の共輸送、1個のK<sup>+</sup>の対向輸送と共役する(図2)。従って、グルタミン酸トランスポーターは[[起電性]]であり、グルタミン酸の細胞内への取り込みにより[[内向き電流]]が生じる。また、これとは別に、熱力学的にグルタミン酸取り込みと連動していないCl<sup>-</sup>の流入があることが知られているが、Cl<sup>-</sup>の透過性の順番はslc1a6/7 > slc1a3 > slc1a1 > slc1a2である<ref name=ref17><pubmed>26303507</pubmed></ref>。


 Slc1a1は、グルタミン酸の他に電荷をもたない[[L-システイン]]を取り込み、[[グルタチオン]]合成に利用している<ref name=ref18><pubmed>25275463</pubmed></ref>。
 slc1a1は、グルタミン酸の他に電荷をもたない[[L-システイン]]を取り込み、[[グルタチオン]]合成に利用している<ref name=ref18><pubmed>25275463</pubmed></ref>。


===生理機能===
===生理機能===
====海馬のシナプス伝達における役割====
====海馬のシナプス伝達における役割====
 海馬において主要なグルタミン酸トランスポーターはslc1a2である。Slc1a2欠損マウスの海馬の[[シェーファー側枝]]・[[CA1]][[錐体細胞]]間シナプスを電気生理学的に調べたところ、海馬のCA1錐体細胞で記録されるシェーファー側枝による[[興奮性シナプス後電流]]([[Excitatory Postsynaptic Current]]:[[EPSC]])のAMPA(α-amino-3-hydroxy-5-methylisoxazole-4- propionic acid)型グルタミン酸受容体成分・NMDA型グルタミン酸受容体成分とも、その振幅・時間経過は野生型と違いはなかった<ref name=ref19><pubmed>9180080</pubmed></ref>。このことは、GLT1は海馬において、EPSCの振幅・時間経過の重要な決定因子ではないことを示している。海馬におけるEPSCの振幅・時間経過は、[[グルタミン酸受容体]]自体のキネテクスにより規定されていると考えられる。海馬のシナプスは、[[グリア]]細胞の突起によるシナプス部位の被覆が不完全で、主に拡散がシナプス間隙におけるグルタミン酸のクリアランスを規定していると考えられる。
 海馬において主要なグルタミン酸トランスポーターはslc1a2である。slc1a2欠損マウスの海馬の[[シェーファー側枝]]・[[CA1]][[錐体細胞]]間シナプスを電気生理学的に調べたところ、海馬のCA1錐体細胞で記録されるシェーファー側枝による[[興奮性シナプス後電流]]([[Excitatory Postsynaptic Current]]:[[EPSC]])の[[AMPA型グルタミン酸受容体|AMPA(α-amino-3-hydroxy-5-methylisoxazole-4- propionic acid)型グルタミン酸受容体]]成分・[[NMDA型グルタミン酸受容体]]成分とも、その振幅・時間経過は野生型と違いはなかった<ref name=ref19><pubmed>9180080</pubmed></ref>。このことは、GLT1は海馬において、EPSCの振幅・時間経過の重要な決定因子ではないことを示している。海馬におけるEPSCの振幅・時間経過は、[[グルタミン酸受容体]]自体のキネテクスにより規定されていると考えられる。海馬のシナプスは、[[グリア]]細胞の突起によるシナプス部位の被覆が不完全で、主に拡散がシナプス間隙におけるグルタミン酸のクリアランスを規定していると考えられる。


 海馬CA1[[網状分子層]]の[[oriens-lacunosum moleculare]](O-LM)[[介在神経]]に多く存在する[[代謝型グルタミン酸受容体]][[mGluR1]]は、グリア型グルタミン酸トランスポーターslc1a2およびslc1a3により、活性が制御されている。Slc1a2とslc1a3を抑制すると、mGluR1依存性EPSCの振幅が増加し、介在神経の発火が増強され、結果としてCA1錐体細胞の抑制が増強されたる<ref name=ref20><pubmed>15140926</pubmed></ref>。
 海馬CA1[[網状分子層]]の[[oriens-lacunosum moleculare]](O-LM)[[介在神経]]に多く存在する[[代謝型グルタミン酸受容体]][[mGluR1]]は、グリア型グルタミン酸トランスポーターslc1a2およびslc1a3により、活性が制御されている。slc1a2とslc1a3を抑制すると、mGluR1依存性EPSCの振幅が増加し、介在神経の発火が増強され、結果としてCA1錐体細胞の抑制が増強されたる<ref name=ref20><pubmed>15140926</pubmed></ref>。


 また、slc1a2欠損マウスでは、海馬CA1領域のNMDA型グルタミン酸受容体成分が増強され、[[長期増強]]の発現が障害されている<ref name=ref21><pubmed>11553304</pubmed></ref>。逆に、slc1a2の発現を増加すると、[[苔状線維]]—[[CA3]]錐体細胞間シナプスの[[長期抑圧]]の発現が障害される<ref name=ref22><pubmed>19651762</pubmed></ref>。
 また、slc1a2欠損マウスでは、海馬CA1領域のNMDA型グルタミン酸受容体成分が増強され、[[長期増強]]の発現が障害されている<ref name=ref21><pubmed>11553304</pubmed></ref>。逆に、slc1a2の発現を増加すると、[[苔状線維]]—[[CA3]]錐体細胞間シナプスの[[長期抑圧]]の発現が障害される<ref name=ref22><pubmed>19651762</pubmed></ref>。


====小脳のシナプス伝達における役割====
====小脳のシナプス伝達における役割====
 小脳ではプルキンエ細胞にグルタミン酸トランスポーターslc1a1、slc1a6が、プルキンエ細胞を取り囲むバーグマングリア細胞にはslc1a2, slc1a3が発現している。欠損マウスの解析から、[[平行線維]]・プルキンエ細胞間シナプス、[[登上線維]]・プルキンエ細胞間シナプスにおいて、グルタミン酸が放出された直後の高濃度のグルタミン酸の除去はslc1a3により、放出されてしばらく時間が経過した後の低濃度のグルタミン酸の除去はslc1a6により行われていることがわかった<ref name=ref23><pubmed>16177048</pubmed></ref> <ref name=ref24><pubmed>16377014</pubmed></ref>。さらにslc1a1とslc1a6の選択的機能阻害により隣接するシナプスへのグルタミン酸[[spillover]]が起こり、mGluR1依存性EPSCが増強、長期[[抑圧]]が促進される<ref name=ref25><pubmed>17727989</pubmed></ref> <ref name=ref26><pubmed>19583702</pubmed></ref>。また、slc1a6は、平行線維・バーグマングリア間のグルタミン酸伝達を制御している<ref name=ref27><pubmed>22302796</pubmed></ref>。
 小脳ではプルキンエ細胞にグルタミン酸トランスポーターslc1a1、slc1a6が、プルキンエ細胞を取り囲むバーグマングリア細胞にはslc1a2, slc1a3が発現している。欠損マウスの解析から、[[平行線維]]・プルキンエ細胞間シナプス、[[登上線維]]・プルキンエ細胞間シナプスにおいて、グルタミン酸が放出された直後の高濃度のグルタミン酸の除去はslc1a3により、放出されてしばらく時間が経過した後の低濃度のグルタミン酸の除去はslc1a6により行われていることがわかった<ref name=ref23><pubmed>16177048</pubmed></ref> <ref name=ref24><pubmed>16377014</pubmed></ref>。さらにslc1a1とslc1a6の選択的機能阻害により隣接するシナプスへのグルタミン酸[[spillover]]が起こり、mGluR1依存性EPSCが増強、長期抑圧が促進される<ref name=ref25><pubmed>17727989</pubmed></ref> <ref name=ref26><pubmed>19583702</pubmed></ref>。また、slc1a6は、平行線維・バーグマングリア間のグルタミン酸伝達を制御している<ref name=ref27><pubmed>22302796</pubmed></ref>。


====大脳皮質のシナプス伝達の維持における役割====
====大脳皮質のシナプス伝達の維持における役割====
 神経系は他の臓器に比べエネルギー要求性が高く、そのほとんどはシナプス伝達に使われる。従って、シナプス伝達を維持するためには、活動の亢進した部位に選択的にエネルギーを補充する必要がある。グリア型グルタミン酸トランスポーターscl1a2・slc1a3は、シナプス伝達のセンサーとして働き、神経活動の亢進→シナプス間隙のグルタミン酸濃度上昇→グリア型グルタミン酸トランスポーターによるグルタミン酸の再吸収(同時にNa<sup>+</sup>がグリア内へ流入)→グリアの[[Na+-K+ ATPase|Na<sup>+</sup>-K<sup>+</sup> ATPase]]の活性化(グリア内でのエネルギー消費増大)→グリアによる毛細血管からの[[ブドウ糖]]の取り込み増加→グリアの解糖系によるブドウ糖から乳酸の生成(グリア内の消費したエネルギーの補充)→生成した乳酸を神経細胞が取り込みエネルギーを補充、という一連のエネルギー補給反応をトリガーする(図4)<ref name=ref28><pubmed>12546822</pubmed></ref> <ref name=ref29><pubmed>16197522</pubmed></ref>。
 神経系は他の臓器に比べエネルギー要求性が高く、そのほとんどはシナプス伝達に使われる。従って、シナプス伝達を維持するためには、活動の亢進した部位に選択的にエネルギーを補充する必要がある。グリア型グルタミン酸トランスポーターslc1a2・slc1a3は、シナプス伝達のセンサーとして働き、神経活動の亢進→シナプス間隙のグルタミン酸濃度上昇→グリア型グルタミン酸トランスポーターによるグルタミン酸の再吸収(同時にNa<sup>+</sup>がグリア内へ流入)→グリアの[[Na+-K+ ATPase|Na<sup>+</sup>-K<sup>+</sup> ATPase]]の活性化(グリア内でのエネルギー消費増大)→グリアによる毛細血管からの[[ブドウ糖]]の取り込み増加→グリアの解糖系によるブドウ糖から乳酸の生成(グリア内の消費したエネルギーの補充)→生成した乳酸を神経細胞が取り込みエネルギーを補充、という一連のエネルギー補給反応をトリガーする(図4)<ref name=ref28><pubmed>12546822</pubmed></ref> <ref name=ref29><pubmed>16197522</pubmed></ref>。


====リボンシナプスにおける役割====
====リボンシナプスにおける役割====
 [[リボンシナプス]]では、[[シナプス前細胞]]は[[活動電位]]を出さず、代わりに[[膜電位]]を連続的に変化させることで[[伝達物質]]の放出量を変化させ、情報を伝達する。リボンシナプスは網膜や[[内耳]]などの一次[[知覚]]のシナプスに存在する。
 [[リボンシナプス]]では、[[シナプス前細胞]]は[[活動電位]]を出さず、代わりに[[膜電位]]を連続的に変化させることで[[伝達物質]]の放出量を変化させ、情報を伝達する。リボンシナプスは網膜や[[内耳]]などの一次[[知覚]]のシナプスに存在する。


 聴覚の一次知覚シナプスである[[内有毛細胞]]—[[蝸牛神経]]間シナプスは典型的なリボンシナプスであり、グルタミン酸が神経伝達物質である。内有毛細胞周囲の[[支持細胞]](inner phalanxgeal cell, IPC)にはslc1a3が、 [[蝸牛神経節]]細胞にはslc1a1とslc1a2が存在する。欠損マウスや薬理学的解析の結果から、内有毛細胞—蝸牛神経間シナプスのグルタミン酸の除去はIPCに存在するslc1a3により行われていることが明らかになった<ref name=ref30><pubmed>11102482</pubmed></ref> <ref name=ref31><pubmed>16855093</pubmed></ref>
 聴覚の一次知覚シナプスである[[内有毛細胞]]—[[蝸牛神経]]間シナプスは典型的なリボンシナプスであり、グルタミン酸が神経伝達物質である。内有毛細胞周囲の[[支持細胞]](inner phalangeal cell, IPC)にはslc1a3が、 [[蝸牛神経節]]細胞にはslc1a1とslc1a2が存在する。欠損マウスや薬理学的解析の結果から、内有毛細胞—蝸牛神経間シナプスのグルタミン酸の除去はIPCに存在するslc1a3により行われていることが明らかになった<ref name=ref30><pubmed>11102482</pubmed></ref> <ref name=ref31><pubmed>16855093</pubmed></ref>


 また、典型的なリボンシナプスの一つである網膜の[[視細胞]]—[[双極細胞]]間シナプスでは、視細胞に存在するグルタミン酸トランスポーターslc1a7がシナプス間隙からのグルタミン酸除去に主要な役割を果たす<ref name=ref32><pubmed>16600856</pubmed></ref>。
 また、典型的なリボンシナプスの一つである網膜の[[視細胞]]—[[双極細胞]]間シナプスでは、視細胞に存在するグルタミン酸トランスポーターslc1a7がシナプス間隙からのグルタミン酸除去に主要な役割を果たす<ref name=ref32><pubmed>16600856</pubmed></ref>。
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===統合失調症===
===統合失調症===
 [[統合失調症]]は、[[幻聴]]・[[妄想]]などの[[陽性症状]]と、[[感情鈍麻]]、[[意欲]]の減退などの[[陰性症状]]、[[作業記憶]]などの[[認知障害]]を示し、有病率約1%の[[精神疾患]]である。統合失調症患者の遺伝子解析から、slc1a3遺伝子座の欠失やslc1a2の機能障害を伴うミスセンス変異を持つ症例が報告された<ref name=ref35><pubmed>18369103</pubmed></ref> <ref name=ref36><pubmed>22863191</pubmed></ref>。また、死後脳の解析からも、slc1a2およびslc1a3の発現が減少することが報告されている<ref name=ref37><pubmed>23356950</pubmed></ref>。Slc1a3欠損マウスは、統合失調症の陽性症状・陰性症状・認知障害に相当する行動異常を示し、slc1a3の異常による脳の興奮性亢進が統合失調症の発症に重要な役割を果たすと考えられる<ref name=ref38><pubmed>18550032</pubmed></ref> <ref name=ref39><pubmed>19078949</pubmed></ref>。さらに、統合失調症の前駆期から初発期への移行に細胞外グルタミン酸濃度の上昇が関与することが報告されている<ref name=ref40><pubmed>24108440</pubmed></ref> <ref name=ref41><pubmed>23583108</pubmed></ref>。
 [[統合失調症]]は、[[幻聴]]・[[妄想]]などの[[陽性症状]]と、[[感情鈍麻]]、[[意欲]]の減退などの[[陰性症状]]、[[作業記憶]]などの[[認知障害]]を示し、有病率約1%の[[精神疾患]]である。統合失調症患者の遺伝子解析から、slc1a3遺伝子座の欠失やslc1a2の機能障害を伴うミスセンス変異を持つ症例が報告された<ref name=ref35><pubmed>18369103</pubmed></ref> <ref name=ref36><pubmed>22863191</pubmed></ref>。また、死後脳の解析からも、slc1a2およびslc1a3の発現が減少することが報告されている<ref name=ref37><pubmed>23356950</pubmed></ref>。slc1a3欠損マウスは、統合失調症の陽性症状・陰性症状・認知障害に相当する行動異常を示し、slc1a3の異常による脳の興奮性亢進が統合失調症の発症に重要な役割を果たすと考えられる<ref name=ref38><pubmed>18550032</pubmed></ref> <ref name=ref39><pubmed>19078949</pubmed></ref>。さらに、統合失調症の前駆期から初発期への移行に細胞外グルタミン酸濃度の上昇が関与することが報告されている<ref name=ref40><pubmed>24108440</pubmed></ref> <ref name=ref41><pubmed>23583108</pubmed></ref>。


===うつ病===
===うつ病===
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#NMDA型グルタミン酸受容体阻害剤である[[ケタミン]]が、うつ病患者に即効性の抗うつ作用を示す<ref name=ref42 />。
#NMDA型グルタミン酸受容体阻害剤である[[ケタミン]]が、うつ病患者に即効性の抗うつ作用を示す<ref name=ref42 />。
#うつ病患者の血中・[[脳脊髄液]]中・脳内のグルタミン酸濃度は上昇している<ref name=ref44><pubmed>17574216</pubmed></ref> <ref name=ref45><pubmed>16707201</pubmed></ref>。
#うつ病患者の血中・[[脳脊髄液]]中・脳内のグルタミン酸濃度は上昇している<ref name=ref44><pubmed>17574216</pubmed></ref> <ref name=ref45><pubmed>16707201</pubmed></ref>。
#うつ病患者の死後脳ではslc1a2とscl1a3の発現が減少している<ref name=ref46><pubmed>16230605</pubmed></ref>。  
#うつ病患者の死後脳ではslc1a2とslc1a3の発現が減少している<ref name=ref46><pubmed>16230605</pubmed></ref>。  
#slc1a2の発現を増加させる[[wikipedia:ja:|β-ラクタム系]][[wikipedia:ja:|抗生物質]]が、[[マウス]]のうつ様行動を改善する<ref name=ref47><pubmed>16860779</pubmed></ref>。
#slc1a2の発現を増加させる[[wikipedia:ja:|β-ラクタム系]][[wikipedia:ja:|抗生物質]]が、[[マウス]]のうつ様行動を改善する<ref name=ref47><pubmed>16860779</pubmed></ref>。
#slc1a2とscl1a3を活性化するリルゾールは、うつ病に効果がある<ref name=ref48><pubmed>17141740</pubmed></ref>。
#slc1a2とslc1a3を活性化する[[リルゾール]]は、うつ病に効果がある<ref name=ref48><pubmed>17141740</pubmed></ref>。


  手綱核特異的slc1a2欠損マウスは、うつ病の症状に似た行動異常や[[睡眠障害]]を起こす<ref name=ref49><pubmed>25471567</pubmed></ref>。これらの知見は、グルタミン酸トランスポーターの機能不全によるグルタミン酸神経伝達の過剰な活性化が、うつ病の発症に重要な役割を果たしていることを示唆している。
  手綱核特異的slc1a2欠損マウスは、うつ病の症状に似た行動異常や[[睡眠障害]]を起こす<ref name=ref49><pubmed>25471567</pubmed></ref>。これらの知見は、グルタミン酸トランスポーターの機能不全によるグルタミン酸神経伝達の過剰な活性化が、うつ病の発症に重要な役割を果たしていることを示唆している。
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===てんかん===
===てんかん===
 [[てんかん]]は、ニューロンの過剰な活動に伴い痙攣や意識障害などが発作的に反復して起こる慢性的な脳疾患である。てんかん発作の発現機序として、脳内の[[抑制性]]と興奮性神経伝達の不均衡状態が重要だと考えられている。[[内側側頭葉てんかん]]患者の海馬において、細胞外グルタミン酸濃度が上昇することが報告されている。しかし、[[側頭葉てんかん]]患者の外科切除海馬標本を用いた解析では、グルタミン酸トランスポーターslc1a2とslc1a3の発現減少に関して統一した結果が得られていない。グルタミン酸トランスポーターの遺伝子解析では、てんかん発作を伴うエピソード性運動失調6型(Episodic ataxia with hemiplegic migraine and seizures)の患者にslc1a3の機能を障害するミスセンス変異(C186S とP290R)が見つかっている<ref name=ref57><pubmed>16116111</pubmed></ref> <ref name=ref58><pubmed>19139306</pubmed></ref>。
 [[てんかん]]は、ニューロンの過剰な活動に伴い痙攣や意識障害などが発作的に反復して起こる慢性的な脳疾患である。てんかん発作の発現機序として、脳内の[[抑制性]]と興奮性神経伝達の不均衡状態が重要だと考えられている。[[内側側頭葉てんかん]]患者の海馬において、細胞外グルタミン酸濃度が上昇することが報告されている。しかし、[[側頭葉てんかん]]患者の外科切除海馬標本を用いた解析では、グルタミン酸トランスポーターslc1a2とslc1a3の発現減少に関して統一した結果が得られていない。グルタミン酸トランスポーターの遺伝子解析では、[[てんかん発作を伴うエピソード性運動失調6型]](Episodic ataxia with hemiplegic migraine and seizures)の患者にslc1a3の機能を障害するミスセンス変異(C186S とP290R)が見つかっている<ref name=ref57><pubmed>16116111</pubmed></ref> <ref name=ref58><pubmed>19139306</pubmed></ref>。


 また、slc1a2欠損マウスは、致死性の自発てんかん発作により、生後3週齢から突然死を起こす。てんかん発作パターンは、[[NMDA]]を皮下注した時に見られる発作と類似しており、突然ケージの中を走り回り反弓緊張様姿勢をとり死亡する<ref name=ref19 />。さらに、slc1a3欠損マウスは、自発性てんかん発作は観察されないが、pentylentetorazole(PTZ)誘発性てんかんに対する感受性が亢進している<ref name=ref59><pubmed>10529447</pubmed></ref>。また、slic1a2の発現を増加させる薬物は、様々なてんかんモデルにおいて、抗てんかん作用を示すことが報告されている<ref name=ref60><pubmed>22513140</pubmed></ref> <ref name=ref61><pubmed>24569372</pubmed></ref>。
 また、slc1a2欠損マウスは、致死性の自発てんかん発作により、生後3週齢から突然死を起こす。てんかん発作パターンは、[[NMDA]]を皮下注した時に見られる発作と類似しており、突然ケージの中を走り回り反弓緊張様姿勢をとり死亡する<ref name=ref19 />。さらに、slc1a3欠損マウスは、自発性てんかん発作は観察されないが、pentylentetorazole(PTZ)誘発性てんかんに対する感受性が亢進している<ref name=ref59><pubmed>10529447</pubmed></ref>。また、slic1a2の発現を増加させる薬物は、様々なてんかんモデルにおいて、抗てんかん作用を示すことが報告されている<ref name=ref60><pubmed>22513140</pubmed></ref> <ref name=ref61><pubmed>24569372</pubmed></ref>。
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#アルツハイマー病患者の脳ではslc1a1、slc12、slc1a3の発現量が減少している<ref name=ref65><pubmed>21743130</pubmed></ref>。
#アルツハイマー病患者の脳ではslc1a1、slc12、slc1a3の発現量が減少している<ref name=ref65><pubmed>21743130</pubmed></ref>。
#アルツハイマー病モデルのslc1a2発現量を低下させると空間学習の障害が促進される<ref name=ref66><pubmed>21677376</pubmed></ref>
#アルツハイマー病モデルのslc1a2発現量を低下させると空間学習の障害が促進される<ref name=ref66><pubmed>21677376</pubmed></ref>
#アルツハイマー病における神経変性の原因物質と考えられている[[βアミロイドタンパク質]]によりGLT1の機能が障害される<ref name=ref67><pubmed>23516295</pubmed></ref>。
#アルツハイマー病における神経変性の原因物質と考えられている[[βアミロイド]]タンパク質によりslc1a2の機能が障害される<ref name=ref67><pubmed>23516295</pubmed></ref>。
#GLT1の発現量を増加させる[[ceftriaxone]]はアルツハイマー病モデルの異常を回復させる<ref name=ref68><pubmed>25964214</pubmed></ref> <ref name=ref69><pubmed>25711212</pubmed></ref>。
#slc1a2の発現量を増加させる[[セフトリアキソン]]はアルツハイマー病モデルの異常を回復させる<ref name=ref68><pubmed>25964214</pubmed></ref> <ref name=ref69><pubmed>25711212</pubmed></ref>。


===筋萎縮性側索硬化症===
===筋萎縮性側索硬化症===
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 [[多発性硬化症]]は、中枢神経系の脱髄疾患の一つである。グルタミン酸トランスポーターの障害が多発性硬化症の発症に関与することを示す証拠として以下のものがある。
 [[多発性硬化症]]は、中枢神経系の脱髄疾患の一つである。グルタミン酸トランスポーターの障害が多発性硬化症の発症に関与することを示す証拠として以下のものがある。
#多発性硬化症患者の脳内および脳脊髄液中のグルタミン酸濃度が増加している<ref name=ref84><pubmed>15758036</pubmed></ref> <ref name=ref85><pubmed>23613944</pubmed></ref> <ref name=ref86><pubmed>9466133</pubmed></ref>。
#多発性硬化症患者の脳内および脳脊髄液中のグルタミン酸濃度が増加している<ref name=ref84><pubmed>15758036</pubmed></ref> <ref name=ref85><pubmed>23613944</pubmed></ref> <ref name=ref86><pubmed>9466133</pubmed></ref>。
#多発性硬化症患者の大脳皮質の障害部位ではscl1a2とscl1a3の発現が減少している<ref name=ref87><pubmed>17882017</pubmed></ref>。
#多発性硬化症患者の大脳皮質の障害部位ではslc1a2とslc1a3の発現が減少している<ref name=ref87><pubmed>17882017</pubmed></ref>。
#グルタミン酸受容体の阻害剤が多発性硬化症モデルの症状を改善する<ref name=ref88><pubmed>10613825</pubmed></ref> <ref name=ref89><pubmed>10613826</pubmed></ref>。
#グルタミン酸受容体の阻害剤が多発性硬化症モデルの症状を改善する<ref name=ref88><pubmed>10613825</pubmed></ref> <ref name=ref89><pubmed>10613826</pubmed></ref>。


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===緑内障===
===緑内障===
 [[緑内障]]は、40歳以上では約5%が潜在的に罹患していると考えられており、日本人の中途失明原因の第1位である。さらに、高齢化により患者数は増加し、その治療は活力ある高齢化社会を作るためには必要不可欠である。我が国の緑内障の約70%は[[正常眼圧緑内障]]であり、その病態は不明である。グルタミン酸トランスポーター slc1a3欠損マウスは、眼圧が正常であるにも関わらず、[[網膜神経節細胞]]が加齢に伴い選択的に変性し、視神経乳頭陥凹が拡大するなど正常眼圧緑内障に似た症状を示す<ref name=ref99><pubmed>17607354</pubmed></ref>。また、slc1a3の発現を増加させる[[arundic acid]]はslic1a3欠損マウスの緑内障様症状を改善する<ref name=ref100><pubmed>25789968</pubmed></ref>。しかし、slc1a3の遺伝子変異が正常眼圧緑内障の直接的な原因になるかは不明である。
 [[緑内障]]は、40歳以上では約5%が潜在的に罹患していると考えられており、日本人の中途失明原因の第1位である。さらに、高齢化により患者数は増加し、その治療は活力ある高齢化社会を作るためには必要不可欠である。我が国の緑内障の約70%は[[正常眼圧緑内障]]であり、その病態は不明である。グルタミン酸トランスポーター slc1a3欠損マウスは、眼圧が正常であるにも関わらず、[[網膜神経節細胞]]が加齢に伴い選択的に変性し、視神経乳頭陥凹が拡大するなど正常眼圧緑内障に似た症状を示す<ref name=ref99><pubmed>17607354</pubmed></ref>。また、slc1a3の発現を増加させる[[アルンジン酸]]はslic1a3欠損マウスの緑内障様症状を改善する<ref name=ref100><pubmed>25789968</pubmed></ref>。しかし、slc1a3の遺伝子変異が正常眼圧緑内障の直接的な原因になるかは不明である。


==参考文献==
==参考文献==
<references />
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