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{{box|text= グルタミン酸は脊椎動物では中枢神経系の主要な神経伝達物質であり、その受容体をグルタミン酸受容体と呼ぶ。大きく分けてイオンチャネル型グルタミン酸受容体と代謝活性型グルタミン酸受容体に大別される。それぞれ、分子構造、薬理学特性、機能によって細分される。生理条件下では、主に興奮性伝達を担う。イオンチャネル型受容体は、主にシナプス後膜に存在し、シナプス前部から放出されたグルタミン酸が結合するとカチオンチャネルが開き細胞を興奮性シナプス電位を発生させ、細胞を脱分極させる。脱分極が十分だと活動電位が発生する。代謝活性型はシナプス前部、後部いずれにも存在し、Gタンパク質を活性化される事で、シナプス伝達に対して調節的な機能を持つ。一方、虚血などの際にグルタミン酸が過剰に放出されると細胞を過剰に興奮させ毒性を発揮する、興奮毒性と呼ばれる状態となる。また、グルタミン酸受容体の変異が統合失調症などに関与していることも知られている。}}
==グルタミン酸受容体とは==
==グルタミン酸受容体とは==
 グルタミン酸は脊椎動物では中枢神経系の主要な神経伝達物質であり、その受容体をグルタミン酸受容体と呼ぶ。大きく分けてイオンチャネル型グルタミン酸受容体と代謝活性型グルタミン酸受容体に大別される<ref name=ref1><pubmed> 20716669 </pubmed></ref>。それぞれ、分子構造、薬理学特性、機能によって細分される。
 グルタミン酸は脊椎動物中枢神経系の主要な伝達物質であり、それを受容して細胞機能を発揮させるタンパク質をグルタミン酸受容体と呼ぶ。
 
 グルタミン酸の神経組織への影響に初めて気づいたのは[[wikipedia:ja:林髞|林髞]]であった。彼は、[[wikipedia:ja:ネコ|ネコ]]の[[大脳皮質]]にグルタミン酸を投与するとネコが興奮する事に気づいた<ref><pubmed> 13034377 </pubmed>[https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjphysiol1950/3/0/3_0_46/_pdf PDF]</ref>。一方、LucusとNewhouseらはグルタミン酸塩の皮下注射が[[網膜]]に損傷を起こす事に気づいた<ref><pubmed> 13443577 </pubmed></ref>。当初はグルタミン酸になぜこのような作用があるのかは明らかでなかったが、1970年代からグルタミン酸自体が神経終末から神経活動により放出され、そして再取り込みされること、そして神経組織の膜画分に[<sup>3</sup>H]-グルタミン酸の結合部位があることが見出され、なんらかの形でグルタミン酸が作用する部位、すなわち受容体があることが示唆された。その後、拮抗剤の利用により、グルタミン酸そのものが神経伝達物質であることが確認され、その受容体の実体はカチオンチャネルであることが、また受容体は複数の種類からなることが見出された<ref name=ref6112965 ><pubmed> 6112965 </pubmed></ref>
 
 また、その受容体の中にはイノシトール3リン酸代謝回転を引き起こすものもあることが気が付かれ、それまで知られていたものをイオンチャネル型、細胞内セカンドメッセンジャー系を調節するものを代謝活性型という分類が確立した。
 
 1980年代後半、様々な神経伝達物質受容体がクローニングされだすと、当然、グルタミン酸受容体もその標的となった。しかしながら、アフィニティー精製に使えるような結合親和性が高いリガンドが存在せず、精製タンパク質からううアプローチは成功しなかった。それを発現クローニングというアプローチで解決したのが、Steve Heinemannらであった。彼らはAMPA型グルタミン酸受容体を同定した。中西重忠らも同様なアプローチを用い、NMDA型グルタミン酸受容体、代謝活性型グルタミン酸受容体をクローニングした。そこからさらにホモロジークローニングにより、イオンチャネル型で18個、代謝活性型で8個のサブユニット遺伝子が同定されている。


 生理条件下では、主に興奮性伝達を担う。イオンチャネル型受容体は、主にシナプス後膜に存在し、シナプス前部から放出されたグルタミン酸が結合するとカチオンチャネルが開き細胞を興奮性シナプス電位を発生させ、細胞を脱分極させる。脱分極が十分だと活動電位が発生する。代謝活性型はシナプス前部、後部いずれにも存在し、Gタンパク質を活性化される事で、シナプス伝達に対して調節的な機能を持つ。
 さらにイオンチャネル型では2000年以降、補助サブユニットが多数同定されており、


 一方、虚血などの際にグルタミン酸が過剰に放出されると細胞を過剰に興奮させ毒性を発揮する、興奮毒性と呼ばれる状態となる。また、グルタミン酸受容体の変異が
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==イオンチャネル型グルタミン酸受容体==
==イオンチャネル型グルタミン酸受容体==

2015年5月5日 (火) 12:46時点における版

 グルタミン酸は脊椎動物では中枢神経系の主要な神経伝達物質であり、その受容体をグルタミン酸受容体と呼ぶ。大きく分けてイオンチャネル型グルタミン酸受容体と代謝活性型グルタミン酸受容体に大別される。それぞれ、分子構造、薬理学特性、機能によって細分される。生理条件下では、主に興奮性伝達を担う。イオンチャネル型受容体は、主にシナプス後膜に存在し、シナプス前部から放出されたグルタミン酸が結合するとカチオンチャネルが開き細胞を興奮性シナプス電位を発生させ、細胞を脱分極させる。脱分極が十分だと活動電位が発生する。代謝活性型はシナプス前部、後部いずれにも存在し、Gタンパク質を活性化される事で、シナプス伝達に対して調節的な機能を持つ。一方、虚血などの際にグルタミン酸が過剰に放出されると細胞を過剰に興奮させ毒性を発揮する、興奮毒性と呼ばれる状態となる。また、グルタミン酸受容体の変異が統合失調症などに関与していることも知られている。

グルタミン酸受容体とは

 グルタミン酸は脊椎動物中枢神経系の主要な伝達物質であり、それを受容して細胞機能を発揮させるタンパク質をグルタミン酸受容体と呼ぶ。

 グルタミン酸の神経組織への影響に初めて気づいたのは林髞であった。彼は、ネコ大脳皮質にグルタミン酸を投与するとネコが興奮する事に気づいた[1]。一方、LucusとNewhouseらはグルタミン酸塩の皮下注射が網膜に損傷を起こす事に気づいた[2]。当初はグルタミン酸になぜこのような作用があるのかは明らかでなかったが、1970年代からグルタミン酸自体が神経終末から神経活動により放出され、そして再取り込みされること、そして神経組織の膜画分に[3H]-グルタミン酸の結合部位があることが見出され、なんらかの形でグルタミン酸が作用する部位、すなわち受容体があることが示唆された。その後、拮抗剤の利用により、グルタミン酸そのものが神経伝達物質であることが確認され、その受容体の実体はカチオンチャネルであることが、また受容体は複数の種類からなることが見出された[3]

 また、その受容体の中にはイノシトール3リン酸代謝回転を引き起こすものもあることが気が付かれ、それまで知られていたものをイオンチャネル型、細胞内セカンドメッセンジャー系を調節するものを代謝活性型という分類が確立した。

 1980年代後半、様々な神経伝達物質受容体がクローニングされだすと、当然、グルタミン酸受容体もその標的となった。しかしながら、アフィニティー精製に使えるような結合親和性が高いリガンドが存在せず、精製タンパク質からううアプローチは成功しなかった。それを発現クローニングというアプローチで解決したのが、Steve Heinemannらであった。彼らはAMPA型グルタミン酸受容体を同定した。中西重忠らも同様なアプローチを用い、NMDA型グルタミン酸受容体、代謝活性型グルタミン酸受容体をクローニングした。そこからさらにホモロジークローニングにより、イオンチャネル型で18個、代謝活性型で8個のサブユニット遺伝子が同定されている。

 さらにイオンチャネル型では2000年以降、補助サブユニットが多数同定されており、

[4]

イオンチャネル型グルタミン酸受容体

 グルタミン酸神経伝達のうち、早い成分を担っているのがイオンチャネル型グルタミン酸受容体である。脊椎動物ではカチオンチャネルである興奮性のグルタミン酸受容体のみであるが、無脊椎動物では、塩素チャネルである抑制型のグルタミン酸受容体も知られている[4]

 興奮性グルタミン酸受容体は次の3種に大きく分けられる。いずれも、大きな細胞外ドメインに3つの膜貫通領域(M1、M3、M4)とそれに挟まれた膜にループ状に埋め込まれるM2領域、細胞内ドメインからなる。テトラマーを形成される。

表 グルタミン酸受容体の分類
タイプ 名称 作動薬 阻害薬
イオンチャネル NMDA型 NMDA D-AP5, CPP, MK801
カイニン酸型 カイニン酸 CNQN, DNQX, GYKI 53655
AMPA型 AMPA CNQN, DNQX, NBQX
代謝活性型 サブグループI trans-ACPD, キスカル酸, DHPG MCPG, CPCCOEt, MPEP
サブグループII L-CCG-I LY 341495, EGLU
サブグループIII L-AP4 MAP4, MSOP

AMPA型グルタミン酸受容体

古くはキスカル酸型グルタミン酸受容体といわれたが、キスカル酸は代謝活性型グルタミン酸受容体も刺激する事が判ったため、より特異的なアゴニストである2-amino-3-(3-hydroxy-5-methyl-isoxazol-4-yl)propanoic acid (AMPA)からAMPA型グルタミン酸受容体といわれるようになった。拮抗阻害薬にはCNQX、NBQXがよく用いられる。
AMPA型グルタミン酸受容体は、通常の場合、膜電位によらず機能する。そのため、静止膜電位付近のシナプス伝達を担っている。チャネルはNa+、K+に対して透過性が高い。
GluA1-4(以前はGluR1-4と呼ばれていた)の4つのサブタイプがあり、リガンド結合領域がFLIP型、FLOP型の選択的スプラインシング、またサブタイプによっては細胞内ドメインも選択的スプラインシングを受ける。
GluA2サブユニットではチャネル壁を構成する一つのアミノ酸がmRNAの編集によりグルタミンからアルギニンに変化する。その他のサブユニットではグルタミンのままである。このため、GluA2を含む受容体と含まない受容体では整流特性、イオン透過性がかわっている。

詳細はAMPA型グルタミン酸受容体の項目参照。

カイニン酸型グルタミン酸受容体

カイニン酸受容体はGluK1-3 (GluR5-7)、GluK4,5 (KA1-2)からなる。AMPA型受容体、NMDA型受容体と比較して中枢神経系での伝達の寄与は小さい。シナプス後部に存在する他、前部に存在し、神経伝達物質の放出の制御にも関わる。

詳細はカイニン酸型グルタミン酸受容体の項目参照

NMDA型グルタミン酸受容体

NMDAにより特異的に活性化される。拮抗的阻害剤としては、D-AP5、D-CPP(D-AP7を環状化したもの)、非拮抗的阻害剤としてはMK801フェンサイクリジンケタミンなどが知られている。また、コアゴニストとしてグリシンまたはD-セリンを必要とする。
通常静止膜電位付近では、Mg2+によりチャネルが塞がれており、活性化にはある程度の脱分極が必要である。そのため、ある程度の神経活動がある時にのみ活動する。AMPA型受容体とは異なり、Ca2+透過性が高く、活性化により細胞内Ca2+濃度が上昇する。シナプス可塑性にはこのCa2+が必須である。
通常GluN1(NR1)、GluN2A-D(NR2A-D)から構成される。すべての受容体にGluN1は含まれる一方、GluN2は組織により特定のサブユニットが含まれており、電気生理学的特性を規定していると考えられる。また一部はGluN3A,B(NR3A,B)サブユニットも含むと考えられる。GluN3がGluN1、GluN2と複合体に共存すると、ドミナントネガティブ体として働く[5]。また、GluN1とGluN3だけ複合体を作ると、グリシン単独で開くチャネルが形成されるが[6]、実際に神経組織で、グリシン受容体として機能しているかは不明である。

詳細はNMDA型グルタミン酸受容体の項目参照

代謝活性型グルタミン酸受容体

 リガンド結合領域を含む細胞外N末端、7回膜貫通領域、細胞内C末端からなる。Gタンパク質共役受容体の一つであるが、ロドプシンとの相同性はほとんどない。

詳細は代謝活性型グルタミン酸受容体の項目参照。

サブグループI

 ホスホリパーゼCを活性化する事によりイノシトール3リン酸代謝回転/Ca2+/リン脂質依存性タンパク質リン酸化酵素 (Cキナーゼ)経路につながる。mGluR1mGluR5により構成される。TRPチャネルを介し、遅いシナプス伝達に関与する。

サブグループII

 trans-ACPDDCG-IVにより活性化され、cAMP産生を抑制する。また、Gタンパク質活性化カリウムチャネルGIRK)を活性化する事により、シナプス前部にて自己受容体として機能する。mGluR2mGluR3が属する。

サブグループIII

 L−AP4により活性化され、cAMP産生を抑制する。また、サブグループIIと同様にGIRKを活性化する。mGluR4mGluR6mGluR7mGluR8が属する。

関連項目

参考文献

  1. HAYASHI, T. (1952).
    A physiological study of epileptic seizures following cortical stimulation in animals and its application to human clinics. The Japanese journal of physiology, 3(1), 46-64. [PubMed:13034377] [WorldCat] [DOI]
    PDF
  2. LUCAS, D.R., & NEWHOUSE, J.P. (1957).
    The toxic effect of sodium L-glutamate on the inner layers of the retina. A.M.A. archives of ophthalmology, 58(2), 193-201. [PubMed:13443577] [WorldCat] [DOI]
  3. Watkins, J.C., & Evans, R.H. (1981).
    Excitatory amino acid transmitters. Annual review of pharmacology and toxicology, 21, 165-204. [PubMed:6112965] [WorldCat] [DOI]
  4. 4.0 4.1 Traynelis, S.F., Wollmuth, L.P., McBain, C.J., Menniti, F.S., Vance, K.M., Ogden, K.K., ..., & Dingledine, R. (2010).
    Glutamate receptor ion channels: structure, regulation, and function. Pharmacological reviews, 62(3), 405-96. [PubMed:20716669] [PMC] [WorldCat] [DOI]
  5. Nishi, M., Hinds, H., Lu, H.P., Kawata, M., & Hayashi, Y. (2001).
    Motoneuron-specific expression of NR3B, a novel NMDA-type glutamate receptor subunit that works in a dominant-negative manner. The Journal of neuroscience : the official journal of the Society for Neuroscience, 21(23), RC185. [PubMed:11717388] [PMC] [WorldCat]
  6. Chatterton, J.E., Awobuluyi, M., Premkumar, L.S., Takahashi, H., Talantova, M., Shin, Y., ..., & Zhang, D. (2002).
    Excitatory glycine receptors containing the NR3 family of NMDA receptor subunits. Nature, 415(6873), 793-8. [PubMed:11823786] [WorldCat] [DOI]