「コピー数変化」の版間の差分

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== CNVの形成メカニズム  ==
== CNVの形成メカニズム  ==


[[Image:1NAHR.png|thumb|300px|<b>図1.NAHR</b><br />太青矢印はLCR/SDの位置と方向を、橙四角は遺伝子を示す。2本鎖DNA上に存在するLCR等の相同性の高い配列(青)間で異常な組み換え(赤点線)が起こり、相同配列間のゲノムが重複あるいは欠失する。<br />Wenli Gu et al 2008 より改変引用<span class=]]&lt;pubmed&gt;19014668&lt;/pubmed&gt;" class="fck_mw_frame fck_mw_right" /&gt;  
[[Image:1NAHR.png|thumb|300px|<b>図1.NAHR</b><br />太青矢印はLCR/SDの位置と方向を、橙四角は遺伝子を示す。2本鎖DNA上に存在するLCR等の相同性の高い配列(青)間で異常な組み換え(赤点線)が起こり、相同配列間のゲノムが重複あるいは欠失する。<br />Wenli Gu et al 2008 より改変引用&lt;span class=]]&lt;pubmed&gt;19014668&lt;/pubmed&gt;" class="fck_mw_frame fck_mw_right" /&gt;  


[[Image:2NHEJ.png|thumb|300px|<b>図2.NAHR</b>]]  
[[Image:2NHEJ.png|thumb|300px|<b>図2.NAHR</b>]]  


[[Image:3FoSTeS.png|thumb|300px|<b>図3.FoSTeS</b><br />Wenli Gu et al 2008 より改変引用<span class=]]&lt;pubmed&gt;19014668&lt;/pubmed&gt;" class="fck_mw_frame fck_mw_right" /&gt;  
[[Image:3FoSTeS.png|thumb|300px|<b>図3.FoSTeS</b><br />Wenli Gu et al 2008 より改変引用&lt;span class=]]&lt;pubmed&gt;19014668&lt;/pubmed&gt;" class="fck_mw_frame fck_mw_right" /&gt;  


 通常1Kb以上の長さで、90%以上の相同性を持つ配列はlow copy repeats (LCRs) またはsegmental duplications (SDs)と定義される<ref name="ref9"><pubmed>20059347</pubmed></ref>。このような配列はヒトハプロイドゲノムに3.6&nbsp;%存在するとされる<ref name="ref10"><pubmed>11381028</pubmed></ref>。特に10 kb以上の長さで97%以上の相同性を持つ場合LCRs領域では、ゲノム不安定性が高まり、組み換えが起こりやすくなるため欠失、重複、挿入、転座、逆位によるゲノム再構成 (genomic rearrangement) が生じやすい。これらのゲノム再編成を生じるメカニズムとして、生体内では主に以下の3つが考えられている<ref name="ref11"><pubmed>19014668</pubmed></ref>。    
 通常1Kb以上の長さで、90%以上の相同性を持つ配列はlow copy repeats (LCRs) またはsegmental duplications (SDs)と定義される<ref name="ref9"><pubmed>20059347</pubmed></ref>。このような配列はヒトハプロイドゲノムに3.6&nbsp;%存在するとされる<ref name="ref10"><pubmed>11381028</pubmed></ref>。特に10 kb以上の長さで97%以上の相同性を持つ場合LCRs領域では、ゲノム不安定性が高まり、組み換えが起こりやすくなるため欠失、重複、挿入、転座、逆位によるゲノム再構成 (genomic rearrangement) が生じやすい。これらのゲノム再編成を生じるメカニズムとして、生体内では主に以下の3つが考えられている<ref name="ref11"><pubmed>19014668</pubmed></ref>。    
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 Array CGHとは、オリゴヌクレオチドあるいはプラズミドDNAにクローン化したヒトゲノムの一部(プローブ)をチップ上に配置したアレイを基盤とする。コピー数変化を調べたい検体DNAと対照とするDNAをそれぞれ異なる波長の蛍光色素で標識をする。標識した2つのDNAを同量混合させ、アレイ上のプローブと競合的にハイブリダイズさせる。プローブに結合した検体DNAと対照DNAの蛍光シグナルの強度の比から検体DNAと対照DNAコピー数の比を算出することができる。具体的には、両試料でコピー数が等しい場合は同等のシグナル強度を示し、片方の試料に染色体の欠失あるいは重複があれば異なったシグナル強度を示す。(図4)  
 Array CGHとは、オリゴヌクレオチドあるいはプラズミドDNAにクローン化したヒトゲノムの一部(プローブ)をチップ上に配置したアレイを基盤とする。コピー数変化を調べたい検体DNAと対照とするDNAをそれぞれ異なる波長の蛍光色素で標識をする。標識した2つのDNAを同量混合させ、アレイ上のプローブと競合的にハイブリダイズさせる。プローブに結合した検体DNAと対照DNAの蛍光シグナルの強度の比から検体DNAと対照DNAコピー数の比を算出することができる。具体的には、両試料でコピー数が等しい場合は同等のシグナル強度を示し、片方の試料に染色体の欠失あるいは重複があれば異なったシグナル強度を示す。(図4)  


=== SNP array ===
=== SNP array ===


[[Image:5SNParray.png|thumb|300px|<b>図5.SNP array</b><br />検体DNAを断片化した後に蛍光色素で標識し、熱変性条件下でチップと反応させる]]  
[[Image:5SNParray.png|thumb|300px|<b>図5.SNP array</b><br />検体DNAを断片化した後に蛍光色素で標識し、熱変性条件下でチップと反応させる]]  
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 2004年頃Affymetrix社の一塩基多型(SNP)解析用arrayでコピー数解析ができるようになった。このアレイはreference genomeを必要とせず、疾患のゲノムだけで解析が可能である。アレイ上には対立遺伝子の25-merのプローブがあり、既知のSNPサイトに対して異なる塩基(例えばCもしくはT)を搭載している。相補的な配列を持つラベル化された検体DNAがプローブに結合する際、SNPサイトにミスマッチが存在すると結合しにくくなり、シグナルは弱くなる。最近のSNPアレイを用いるとgenotypeも同時に検出が可能で、更にアリルピーク(Genotype: 2 copyの場合 AA/AB/BB, 3 copyの場合 AAA/AAB/ABB/BBB, 1 copyの場合A/B) を見ることで情報性が付加されたコピー数変化としてとらえることが可能となり信頼性が増した。(図5)  
 2004年頃Affymetrix社の一塩基多型(SNP)解析用arrayでコピー数解析ができるようになった。このアレイはreference genomeを必要とせず、疾患のゲノムだけで解析が可能である。アレイ上には対立遺伝子の25-merのプローブがあり、既知のSNPサイトに対して異なる塩基(例えばCもしくはT)を搭載している。相補的な配列を持つラベル化された検体DNAがプローブに結合する際、SNPサイトにミスマッチが存在すると結合しにくくなり、シグナルは弱くなる。最近のSNPアレイを用いるとgenotypeも同時に検出が可能で、更にアリルピーク(Genotype: 2 copyの場合 AA/AB/BB, 3 copyの場合 AAA/AAB/ABB/BBB, 1 copyの場合A/B) を見ることで情報性が付加されたコピー数変化としてとらえることが可能となり信頼性が増した。(図5)  


=== 定量PCR法(quantitative real time polymerace chain reaction: qPCR) ===
=== 定量PCR法(quantitative real time polymerace chain reaction: qPCR) ===


 これは標的とするゲノム領域のCNVをスクリーニングするのに最も一般的に使用される方法の一つである。標的とする遺伝子(領域)に対してプライマーを設計し、蛍光色素をとりこませながらPCRで増幅させ、PCR産物の増幅効率を測定する。 テンプレートの量に応じて増幅効率が異なるのを利用して、DNAの定量(コピー数解析)が可能である。  
 これは標的とするゲノム領域のCNVをスクリーニングするのに最も一般的に使用される方法の一つである。標的とする遺伝子(領域)に対してプライマーを設計し、蛍光色素をとりこませながらPCRで増幅させ、PCR産物の増幅効率を測定する。 テンプレートの量に応じて増幅効率が異なるのを利用して、DNAの定量(コピー数解析)が可能である。  


=== MLPA法(multiplex ligation-dependent probe amplification 法) ===
=== MLPA法(multiplex ligation-dependent probe amplification 法) ===


 この方法は標的とする遺伝子(領域)に対して特異的に結合するプローブを用い、標的ゲノムDNA上でligationを行いligationされたDNAを鋳型とし蛍光標識プライマーでPCR増幅させ、異なる長さの増幅断片を電気泳動解析により検出する。ピーク面積は標的遺伝子領域のコピー数を反映し重複や欠失を定量的に捉えることができる。  
 この方法は標的とする遺伝子(領域)に対して特異的に結合するプローブを用い、標的ゲノムDNA上でligationを行いligationされたDNAを鋳型とし蛍光標識プライマーでPCR増幅させ、異なる長さの増幅断片を電気泳動解析により検出する。ピーク面積は標的遺伝子領域のコピー数を反映し重複や欠失を定量的に捉えることができる。  
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表1. CNVと疾患関連性の代表例と分子学的メカニズム<ref name="ref15"><pubmed>18160035</pubmed></ref> <ref name="ref16"><pubmed>16444292</pubmed></ref>  
表1. CNVと疾患関連性の代表例と分子学的メカニズム<ref name="ref15"><pubmed>18160035</pubmed></ref> <ref name="ref16"><pubmed>16444292</pubmed></ref>  


{| width="200" cellspacing="1" cellpadding="1" border="1"
{| cellspacing="1" cellpadding="1" border="1" style="width: 742px; height: 760px;"
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| Examples [15]
| Examples [15]  
| Examples of Disease[15], [16]
| colspan="2" | BExamples of Disease[15], [16]
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| rowspan="2" | ①遺伝子効果(dose-sensitive gene)
| rowspan="2" | [[Image:コピー数変化表1.png|thumb|重複や欠失CNVにより遺伝子数が変化する。<br />遺伝子発現量に応じた表現型を示す。]]
| CMT病1A型(Charcot-Marie-Tooth病)
| Chr 17 p11上のPMP22を含む約1.4 Kbの領域の重複
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| ①遺伝子効果(dose-sensitive gene)
| NHPP (遺伝性圧脆弱性ニューロパチー)
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| Chr 17 p11上のPMP22を含む約1.4 Kbの領域の欠失
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| ②position effect
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| [[Image:コピー数変化表2.png|thumb]]
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| Blepharophimosis syndrome
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| 責任遺伝子FOXL2の230kb 上流にある転写因子の結合部位がCNVにより欠失すると発症する。
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| ③ unmasking of recessive allele
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| 片方のアレルに劣性変異が存在する個体で、野生型アレルが欠失した場合、劣性変異が顕在化する。
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| ④Gene interruption Gene fusion
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| 融合遺伝子:AMLやMDS
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| CNV配列上に遺伝子が存在した場合遺伝子の破壊や融合遺伝子形成が起こる。
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|}
|}


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== 参考文献  ==


== 参考文献 ==
<references />  
<references />  


<br> (執筆者:深井綾子、松本直通 担当編集委員:加藤忠史)
<br> (執筆者:深井綾子、松本直通 担当編集委員:加藤忠史)