「コフィリン」の版間の差分

 
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<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0191579 大橋 一正]</font><br>
''東北大学 大学院生命科学研究科 生命機能科学専攻''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2013年1月8日 原稿完成日:2013年8月12日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/2rikenbsi 林 康紀](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br>
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{{Infobox protein family
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| Symbol = Cofilin_ADF
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英語名:cofilin  
英語名:cofilin  


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 コフィリンは、1980年代に[[wikipedia:ja:ニワトリ|ニワトリ]]や[[wikipedia:ja:ブタ|ブタ]]の脳の抽出液から[[アクチン]]線維の脱重合を促進するタンパク質として同定、精製された<ref><pubmed>6893966</pubmed></ref><ref><pubmed>6894753</pubmed></ref><ref name="ref1"><pubmed>6509022</pubmed></ref>。コフィリンは、単量体アクチン(G-アクチン)、アクチン線維(F-アクチン)に結合し、F-アクチンを切断・脱重合する活性をもつ20 kDaのアクチン結合タンパク質である。生存に必須であり、[[wikipedia:ja:酵母|酵母]]から[[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]まで高度に保存されている。コフィリンは、F-アクチンのターンオーバーを促進することで細胞のアクチン骨格のダイナミクスを生み出す働きを持ち、細胞内の基本的なアクチン骨格の制御因子の一つである<ref name="ref2"><pubmed>17338919</pubmed></ref><ref name="ref3"><pubmed>20133134</pubmed></ref><ref name="ref4"><pubmed>21850706</pubmed></ref>。また、様々な[[細胞内シグナル分子]]によって活性が制御されアクチン骨格の時空間的な再構築に寄与する<ref name="ref3" /><ref name="ref5"><pubmed>23153585 </pubmed></ref>。  
 コフィリンは、1980年代に[[wikipedia:ja:ニワトリ|ニワトリ]]や[[wikipedia:ja:ブタ|ブタ]]の脳の抽出液から[[アクチン]]線維の脱重合を促進するタンパク質として同定、精製された<ref><pubmed>6893966</pubmed></ref><ref><pubmed>6894753</pubmed></ref><ref name="ref1"><pubmed>6509022</pubmed></ref>。コフィリンは、単量体アクチン(G-アクチン)、アクチン線維(F-アクチン)に結合し、F-アクチンを切断・脱重合する活性をもつ20 kDaのアクチン結合タンパク質である。生存に必須であり、[[wikipedia:ja:酵母|酵母]]から[[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]まで高度に保存されている。コフィリンは、F-アクチンのターンオーバーを促進することで細胞のアクチン骨格のダイナミクスを生み出す働きを持ち、細胞内の基本的なアクチン骨格の制御因子の一つである<ref name="ref2"><pubmed>17338919</pubmed></ref><ref name="ref3"><pubmed>20133134</pubmed></ref><ref name="ref4"><pubmed>21850706</pubmed></ref>。また、様々な[[細胞内シグナル分子]]によって活性が制御されアクチン骨格の時空間的な再構築に寄与する<ref name="ref3" /><ref name="ref5"><pubmed>23153585 </pubmed></ref>。  
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== 構造  ==
== 構造  ==
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 LIMキナーゼは、[[Rhoファミリー低分子量Gタンパク質]]、[[Ca2+|Ca<sup>2+</sup>]]シグナル、p38[[MAPキナーゼ]]など様々な上流シグナルによって活性が制御されている。SlingshotもCa<sup>2+</sup>シグナル、Rhoファミリー低分子量Gタンパク質、[[PI3キナーゼ]]、F-アクチンとの結合によって活性化される(図3)<ref name="ref5" />。また、[[Phospholipase D1]]([[PLD1]])に対してリン酸化コフィリンが結合しPLD1を活性化することで[[Rac]]の活性化を促進することも報告されている<ref><pubmed>17853892</pubmed></ref>。
 LIMキナーゼは、[[Rhoファミリー低分子量Gタンパク質]]、[[Ca2+|Ca<sup>2+</sup>]]シグナル、p38[[MAPキナーゼ]]など様々な上流シグナルによって活性が制御されている。SlingshotもCa<sup>2+</sup>シグナル、Rhoファミリー低分子量Gタンパク質、[[PI3キナーゼ]]、F-アクチンとの結合によって活性化される(図3)<ref name="ref5" />。また、[[Phospholipase D1]]([[PLD1]])に対してリン酸化コフィリンが結合しPLD1を活性化することで[[Rac]]の活性化を促進することも報告されている<ref><pubmed>17853892</pubmed></ref>。


 コフィリンのリン酸化制御は、進化的に[[wikipedia:ja:ショウジョウバエ|ショウジョウバエ]]以降で保存されており、[[wikipedia:ja:線虫|線虫]]、酵母にはLIMキナーゼ、Slingshotに相同な遺伝子は存在しない。
 コフィリンのリン酸化制御は、進化的に[[wikipedia:ja:ショウジョウバエ|ショウジョウバエ]]以降で保存されており、[[線虫]]、酵母にはLIMキナーゼ、Slingshotに相同な遺伝子は存在しない。


====脱リン酸化====
====脱リン酸化====
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===シナプス機能の制御===
===シナプス機能の制御===
 海馬スライスを用いた研究によって[[長期増強]] ([[long-term potentiation]], [[LTP]])誘導時に海馬分子層の[[樹状突起スパイン]]においてコフィリンのリン酸化が誘導されアクチン重合が促進することが報告された<ref><pubmed>12741991</pubmed></ref>。その後、コフィリンのリン酸化を阻害するペプチドを用いた実験などから LTD誘導時において刺激依存的な樹状突起スパインにおけるコフィリンのリン酸化によるアクチン重合が必要であることが報告されている<ref><pubmed>15572107</pubmed></ref><ref><pubmed>17989307</pubmed></ref>。(編集部コメント:これらの文献はいずれも長期抑圧とコフィリンを調べたもので、LTPのデーターはなかったのではないかと思います。ご確認ください。)
 海馬スライスを用いた研究によって[[長期増強]] ([[long-term potentiation]], [[LTP]])誘導時に海馬分子層の[[樹状突起スパイン]]においてコフィリンのリン酸化が誘導されアクチン重合が促進することが報告された<ref><pubmed>12741991</pubmed></ref>。その後、コフィリンのリン酸化を阻害するペプチドを用いた実験などから LTD誘導時において刺激依存的な樹状突起スパインにおけるコフィリンのリン酸化によるアクチン重合が必要であることが報告されている<ref><pubmed>15572107</pubmed></ref><ref><pubmed>17989307</pubmed></ref>


===ノックアウトマウス===
===ノックアウトマウス===
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== 参考文献  ==
== 参考文献  ==


<references />  
<references />
 
 
(執筆者:大橋一正 担当編集委員:尾藤晴彦)