「サイクリックAMP」の版間の差分

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=== プロテインキナーゼA  ===
=== プロテインキナーゼA  ===


 プロテインキナーゼA(cAMP-dependent protein kinase A; PKA)<ref><pubmed> 11749379 </pubmed></ref>は、サイクリックAMP依存的に活性化されるセリン/スレオニンリン酸化酵素で、最も重要かつ広範に働くサイクリックAMP効果器である。プロテインキナーゼAは、サイクリックAMP 結合部位を持つ調節サブユニット二つと、リン酸化触媒部位を持つ触媒サブユニット二つにより構成される四量体ホロ酵素であり、サイクリックAMPが調節サブユニットに結合すると、調節サブユニットと触媒サブユニットの結合が解離し、これにより触媒サブユニットのリン酸化活性が出現する。調節サブユニットはRIa、RI、RII、RIIの4種、触媒サブユニットはC、C、Cの3種があり、ホロ酵素としては調節サブユニットの種類によってタイプIとタイプIIの二種のアイソフォームに分類される。サイクリックAMP親和性はタイプIの方がより高い。プロテインキナーゼAによりリン酸化を受ける基質タンパク質は、電位依存性Ca2+チャネル、電位依存性Na+チャネル、AMPA型グルタミン酸受容体、IP3受容体等のイオンチャネル、Ena/VASP、SCG10等の細胞骨格制御因子、単量体Gタンパク質RhoA、接着分子4インテグリン、ミオシン軽鎖キナーゼ等、非常に多くの種類が同定されている。また、CREB(cAMP response element binding protein)<ref><pubmed> 20223527 </pubmed></ref>、NF-B、NFAT等の転写因子をリン酸化することで遺伝子発現をも制御する。  
 プロテインキナーゼA(cAMP-dependent protein kinase A; PKA)<ref><pubmed> 11749379 </pubmed></ref>は、サイクリックAMP依存的に活性化されるセリン/スレオニンリン酸化酵素で、最も重要かつ広範に働くサイクリックAMP効果器である。プロテインキナーゼAは、サイクリックAMP 結合部位を持つ調節サブユニット二つと、リン酸化触媒部位を持つ触媒サブユニット二つにより構成される四量体ホロ酵素であり、サイクリックAMPが調節サブユニットに結合すると、調節サブユニットと触媒サブユニットの結合が解離し、これにより触媒サブユニットのリン酸化活性が出現する。調節サブユニットはRIa、RI、RII、RIIの4種、触媒サブユニットはC、C、Cの3種があり、ホロ酵素としては調節サブユニットの種類によってタイプIとタイプIIの二種のアイソフォームに分類される。サイクリックAMP親和性はタイプIの方がより高い。プロテインキナーゼAによりリン酸化を受ける基質タンパク質は、電位依存性Ca2+チャネル、電位依存性Na+チャネル、AMPA型グルタミン酸受容体、IP3受容体等のイオンチャネル、Ena/VASP、SCG10等の細胞骨格制御因子、単量体Gタンパク質RhoA、接着分子4インテグリン、ミオシン軽鎖キナーゼ等、非常に多くの種類が同定されている。また、CREB(cAMP response element binding protein)<ref name=ref2><pubmed> 20223527 </pubmed></ref>、NF-B、NFAT等の転写因子をリン酸化することで遺伝子発現をも制御する。  


=== Epac  ===
=== Epac  ===
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== 神経系におけるサイクリックAMPの作用  ==
== 神経系におけるサイクリックAMPの作用  ==


 サイクリックAMPは、発生期から成熟期に至るまでの神経細胞の多種多彩な機能の調節に関与する。以下に一部の代表例を列挙する。発生期において神経細胞の分化、生存、突起伸長を促進する神経栄養因子は、サイクリックAMP濃度上昇を促す<ref><pubmed> 10027292 </pubmed></ref>。神経極性形成過程において、サイクリックAMPが上昇した一本の神経突起は軸索に分化し、それ以外の神経突起は樹状突起に分化する<ref><pubmed> 21416623 </pubmed></ref>。ネトリン1や神経成長因子等の誘引性軸索ガイダンス因子は、成長円錐内のサイクリックAMP濃度を上昇させる<ref><pubmed> 21386859 </pubmed></ref>。成長円錐内のサイクリックAMP濃度は軸索ガイダンス因子に対する成長円錐の応答性決定に重要で、高サイクリックAMP濃度状態では成長円錐は誘引され、低サイクリックAMP濃度状態では同じガイダンス因子に対して反発を呈する。損傷を受けた成体中枢神経軸索の再生は困難であるが、サイクリックAMP濃度を薬剤により高めることで軸索再生促進および運動機能回復が見られる<ref><pubmed> 17720160 </pubmed></ref>。シナプス前終末におけるサイクリックAMP濃度上昇は神経伝達物質の放出を促進する<ref><pubmed> 16183914 </pubmed></ref>。シナプス後部において、シナプス伝達効率の長期増強に関わるAMPA型グルタミン酸受容体のシナプス後膜への挿入は、プロテインキナーゼA依存的リン酸化によって誘発される<ref><pubmed> 15013227 </pubmed></ref>。シナプス伝達効率の後期長期増強は遺伝子の転写とタンパク質合成に依存する過程であるが、この転写はプロテインキナーゼA依存的な転写因子CREBのリン酸化によって誘発される<ref><pubmed> 20223527 </pubmed></ref><ref><pubmed> 15803158 </pubmed></ref>。  
 サイクリックAMPは、発生期から成熟期に至るまでの神経細胞の多種多彩な機能の調節に関与する。以下に一部の代表例を列挙する。発生期において神経細胞の分化、生存、突起伸長を促進する神経栄養因子は、サイクリックAMP濃度上昇を促す<ref><pubmed> 10027292 </pubmed></ref>。神経極性形成過程において、サイクリックAMPが上昇した一本の神経突起は軸索に分化し、それ以外の神経突起は樹状突起に分化する<ref><pubmed> 21416623 </pubmed></ref>。ネトリン1や神経成長因子等の誘引性軸索ガイダンス因子は、成長円錐内のサイクリックAMP濃度を上昇させる<ref><pubmed> 21386859 </pubmed></ref>。成長円錐内のサイクリックAMP濃度は軸索ガイダンス因子に対する成長円錐の応答性決定に重要で、高サイクリックAMP濃度状態では成長円錐は誘引され、低サイクリックAMP濃度状態では同じガイダンス因子に対して反発を呈する。損傷を受けた成体中枢神経軸索の再生は困難であるが、サイクリックAMP濃度を薬剤により高めることで軸索再生促進および運動機能回復が見られる<ref><pubmed> 17720160 </pubmed></ref>。シナプス前終末におけるサイクリックAMP濃度上昇は神経伝達物質の放出を促進する<ref><pubmed> 16183914 </pubmed></ref>。シナプス後部において、シナプス伝達効率の長期増強に関わるAMPA型グルタミン酸受容体のシナプス後膜への挿入は、プロテインキナーゼA依存的リン酸化によって誘発される<ref><pubmed> 15013227 </pubmed></ref>。シナプス伝達効率の後期長期増強は遺伝子の転写とタンパク質合成に依存する過程であるが、この転写はプロテインキナーゼA依存的な転写因子CREBのリン酸化によって誘発される<ref name=ref2 /><ref><pubmed> 15803158 </pubmed></ref>。  


== 関連項目  ==
== 関連項目  ==
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14. Z. Xia, D. R. Storm, The role of calmodulin as a signal integrator for synaptic plasticity. Nat Rev Neurosci. 2005, 6; 267-76  
14. Z. Xia, D. R. Storm, The role of calmodulin as a signal integrator for synaptic plasticity. Nat Rev Neurosci. 2005, 6; 267-76  


 
<br> <references />  
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執筆者:戸島 拓郎、上口 裕之 担当編集委員:尾藤 晴彦)
執筆者:戸島 拓郎、上口 裕之 担当編集委員:尾藤 晴彦)
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