「サブスタンスP」の版間の差分

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== サブスタンスPとは ==
== サブスタンスPとは ==
 11個のアミノ酸からなる[[神経ペプチド]]である。SPは一次求心性ニューロンの一部に含まれ、脊髄後角で刺激に応じて[[神経終末]]の[[シナプス小胞]]から放出され、脊髄ニューロンで時間経過の遅い脱分極をひきおこし、[[neprilysin]] (EC 3.4.24.11: enkephalinase)、aminopeptidase N (EC 3.4.11.2)やpeptidyl dipeptidase A (EC 3.4.15.1: angiotensin converting enzyme)など複数の酵素で分解されて不活性化される<ref name=ref1 /> <ref name=ref2><pubmed></pubmed></ref>。
 11個のアミノ酸からなる[[神経ペプチド]]である。SPは一次求心性ニューロンの一部に含まれ、脊髄後角で刺激に応じて[[神経終末]]の[[シナプス小胞]]から放出され、脊髄ニューロンで時間経過の遅い脱分極をひきおこし、[[neprilysin]] (EC 3.4.24.11: enkephalinase)、aminopeptidase N (EC 3.4.11.2)やpeptidyl dipeptidase A (EC 3.4.15.1: angiotensin converting enzyme)など複数の酵素で分解されて不活性化される<ref name=ref1><pubmed>    7682720</pubmed></ref> <ref name=ref2><pubmed>7529113</pubmed></ref>。


 SPはタキキニンファミリーに属している。同じファミリーには、ニューロキニンA neurokinin A (NKA)、ニューロキニンB neurokinin B (NKB)、ヘモキニン-1 hemokinin-1 (HK-1)が含まれ、そのC末端に共通のアミノ酸配列、-Phe-X-Gly-Leu-Met-NH2を持っている。SP、NKA、NKBは[[哺乳類]]でアミノ酸全配列が共通であるが、HK-1は[[ヒト]]と[[マウス]]/ラット間で配列に違いがある。(表1)。ヒトでは、Tac 1遺伝子から選択的スプライシングによって、α, β, γ, δ Tac1 [[mRNA]][[スプライスバリアント]]が生成され、それぞれのmRNAからSPが[[翻訳]]される。NKAもTac 1遺伝子に由来するが、β, γ Tac1 mRNAから翻訳される。NKBはTac3遺伝子、HK-1、endokinin AおよびBは Tac4遺伝子にコードされている<ref name=ref3><pubmed></pubmed></ref>。(表1)
 SPはタキキニンファミリーに属している。同じファミリーには、ニューロキニンA neurokinin A (NKA)、ニューロキニンB neurokinin B (NKB)、ヘモキニン-1 hemokinin-1 (HK-1)が含まれ、そのC末端に共通のアミノ酸配列、-Phe-X-Gly-Leu-Met-NH2を持っている。SP、NKA、NKBは[[哺乳類]]でアミノ酸全配列が共通であるが、HK-1は[[ヒト]]と[[マウス]]/ラット間で配列に違いがある。(表1)。ヒトでは、Tac 1遺伝子から選択的スプライシングによって、α, β, γ, δ Tac1 [[mRNA]][[スプライスバリアント]]が生成され、それぞれのmRNAからSPが[[翻訳]]される。NKAもTac 1遺伝子に由来するが、β, γ Tac1 mRNAから翻訳される。NKBはTac3遺伝子、HK-1、endokinin AおよびBは Tac4遺伝子にコードされている<ref name=ref3><pubmed>24382888</pubmed></ref>。(表1)


 SP、NKA、NKBのC末端のそれぞれ6、7、8個以上のアミノ酸を含むペプチドは、受容体に対し、原ペプチドとほぼ同等の活性を示すが、N末端フラグメントやC末端のアミド基を除いたSP free acidは活性がない<ref name=ref1><pubmed></pubmed></ref>。
 SP、NKA、NKBのC末端のそれぞれ6、7、8個以上のアミノ酸を含むペプチドは、受容体に対し、原ペプチドとほぼ同等の活性を示すが、N末端フラグメントやC末端のアミド基を除いたSP free acidは活性がない<ref name=ref1 />。


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== 受容体 ==
== 受容体 ==
 哺乳類のタキキニン受容体はGタンパク質共役型受容体で、NK1, NK2, NK3の3種類があり、それぞれSP、NKA、NKBが高い親和性を持っている<ref name=ref4><pubmed></pubmed></ref>。NK1受容体の細胞内情報伝達経路は当初考えられていた以上に多岐に亘っている<ref name=ref3 />。Protein kinase C、protein kinase A、phospholipase A2の活性化だけでなく、[[Rho]]-ROCK経路を介したmyosin light chain kinaseのリン酸化や[[epidermal growth factor]] receptor (EGFR)のトランス活性化を介した[[mitogen-activated protein kinase]]の活性化も報告されている<ref name=ref5><pubmed></pubmed></ref>。HK-1はSPと同様にNK1受容体に対して親和性が高く、SPとほぼ同等のKiを示している<ref name=ref6><pubmed></pubmed></ref>。HK-1に固有の高親和性受容体は見いだされていない。
 哺乳類のタキキニン受容体はGタンパク質共役型受容体で、NK1, NK2, NK3の3種類があり、それぞれSP、NKA、NKBが高い親和性を持っている<ref name=ref4><pubmed>1851606</pubmed></ref>。NK1受容体の細胞内情報伝達経路は当初考えられていた以上に多岐に亘っている<ref name=ref3 />。Protein kinase C、protein kinase A、phospholipase A2の活性化だけでなく、[[Rho]]-ROCK経路を介したmyosin light chain kinaseのリン酸化や[[epidermal growth factor]] receptor (EGFR)のトランス活性化を介した[[mitogen-activated protein kinase]]の活性化も報告されている<ref name=ref5><pubmed>10846186</pubmed></ref>。HK-1はSPと同様にNK1受容体に対して親和性が高く、SPとほぼ同等のKiを示している<ref name=ref6><pubmed>12383518</pubmed></ref>。HK-1に固有の高親和性受容体は見いだされていない。


== 発現 ==
== 発現 ==
 タキキニンの神経系における発現分布に関しては、SPとNKAは中枢神経系および末梢神経系の神経細胞に、NKBは脊髄および大脳を含む中枢神経系細胞に発現している。タキキニンは従来神経細胞由来と考えられてきたが、現在は神経細胞だけでなく、末梢の非神経細胞にも発現していることが分かっている。例えば、SPは血管内皮細胞や種々の[[免疫]]細胞、線維芽細胞、NKBは胎盤組織3)、HK-1は心、肺、[[骨格筋]]、[[皮膚]]などの末梢組織に主に分布している<ref name=ref6 /> <ref name=ref7><pubmed></pubmed></ref>。HK-1はマウスpre-B細胞の成熟に対し自己[[分泌]]分子として働く他、T細胞の成熟や女性生殖器機能にも関与している<ref name=ref8><pubmed></pubmed></ref>。
 タキキニンの神経系における発現分布に関しては、SPとNKAは中枢神経系および末梢神経系の神経細胞に、NKBは脊髄および大脳を含む中枢神経系細胞に発現している。タキキニンは従来神経細胞由来と考えられてきたが、現在は神経細胞だけでなく、末梢の非神経細胞にも発現していることが分かっている。例えば、SPは血管内皮細胞や種々の[[免疫]]細胞、線維芽細胞、NKBは胎盤組織3)、HK-1は心、肺、[[骨格筋]]、[[皮膚]]などの末梢組織に主に分布している<ref name=ref6 /> <ref name=ref7><pubmed>12716968</pubmed></ref>。HK-1はマウスpre-B細胞の成熟に対し自己[[分泌]]分子として働く他、T細胞の成熟や女性生殖器機能にも関与している<ref name=ref8><pubmed>14723970</pubmed></ref>。


 タキキニン受容体の組織分布に関しては、NK1受容体は中枢神経系([[視床下部]]、[[嗅球]]、線条体、脊髄など)と末梢組織(膀胱、唾液腺、腸管など)、NK2受容体は末梢組織(膀胱、輸精管、腸管など)、NK3受容体は中枢神経系(視床下部、[[大脳皮質]]、脊髄など)に分布している<ref name=ref9><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref10><pubmed></pubmed></ref>。
 タキキニン受容体の組織分布に関しては、NK1受容体は中枢神経系([[視床下部]]、[[嗅球]]、線条体、脊髄など)と末梢組織(膀胱、唾液腺、腸管など)、NK2受容体は末梢組織(膀胱、輸精管、腸管など)、NK3受容体は中枢神経系(視床下部、[[大脳皮質]]、脊髄など)に分布している<ref name=ref9><pubmed>7814667</pubmed></ref> <ref name=ref10><pubmed>8788251</pubmed></ref>。


== 機能 ==
== 機能 ==