「シグナル伝達兼転写活性化因子3」の版間の差分

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<div align="right"> 
<font size="+1">赤土 正一、[http://researchmap.jp/kinichinakashima 中島 欽一]</font><br>
''奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス研究科''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年11月26日 原稿完成日:2013年3月20日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/noriko1128 大隅 典子](東北大学 大学院医学系研究科 附属創生応用医学研究センター 脳神経科学コアセンター 発生発達神経科学分野)<br>
</div>
{{PBB|geneid=6774}} 英:Signal Transducers and Activator of Transcription 3、英略語:STAT3  
{{PBB|geneid=6774}} 英:Signal Transducers and Activator of Transcription 3、英略語:STAT3  


 [[シグナル伝達]]と[[wikipedia:ja:転写|転写]]活性化を行うことで、[[分化]]や生存、[[増殖]]などを調節するタンパク質の一群、Signal Transducers and Activator of Transcription(STAT)ファミリー分子の一つ。STAT3は非活性化状態時では[[細胞質]]に局在するが、活性化した[[Janus kinase]]([[JAK]])によって[[チロシンリン酸化]]を受け、核内移行し標的遺伝子を活性化する[[転写因子]]として働く。この活性化経路は[[JAK/STAT経路]]と呼ばれている<ref><pubmed> 15225360 </pubmed></ref>。  
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 [[シグナル伝達]]と[[wikipedia:ja:転写|転写]]活性化を行うことで、[[分化]]や生存、[[増殖]]などを調節するタンパク質の一群、Signal Transducers and Activator of Transcription(STAT)ファミリー分子の一つ。STAT3は非活性化状態時では[[細胞質]]に局在するが、活性化した[[Janusキナーゼ]]([[JAK]])によって[[チロシンリン酸化]]を受け、核内移行し標的遺伝子を活性化する[[転写因子]]として働く。この活性化経路は[[JAK/STAT経路]]と呼ばれている<ref><pubmed> 15225360 </pubmed></ref>。  
}}


== ファミリー  ==
== ファミリー  ==
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== 発現  ==
== 発現  ==


 マウスの[http://mouse.brain-map.org/experiment/show/2637 STAT3]は脳、心臓、肝臓、腎臓、脾臓、胸腺など身体組織全体で広範囲に発現が確認される<ref><pubmed> 7545930 </pubmed></ref>。また、胚性幹細胞でSTAT3の発現が確認されており、STAT3の発現は発生のごく初期から観察されている<ref><pubmed> 23143138 </pubmed></ref>。
 [http://mouse.brain-map.org/experiment/show/2638 STAT3]は脳、[[wikipedia:ja:心臓|心臓]]、[[wikipedia:ja:肝臓|肝臓]]、[[wikipedia:ja:腎臓|腎臓]]、[[wikipedia:ja:脾臓|脾臓]]、[[wikipedia:ja:胸腺|胸腺]]など身体組織全体で広範囲に発現していることが、マウスを用いた研究により確認されている<ref><pubmed> 7545930 </pubmed></ref>
 JAK/STAT経路が活性化することで、標的遺伝子の転写が誘導されると先述したが、JAK/STATシグナルはJAK/STAT経路を構成物する因子であるSTAT3やgp130のプロモーター中、STAT認識配列に直接、転写因子となったSTAT二量体が結合し、転写を誘導することが明らかになり、JAK/STAT経路が活性化すると、自らの構成物の発現も誘導、増加させることが示唆された<ref><pubmed> 15852015 </pubmed></ref>。
 
 STAT3はJAKチロシンキナーゼによりリン酸化されることで活性化し、標的遺伝子の転写を誘導する(後述)。しかし実はSTAT3遺伝子自身もその標的であり、活性化したSTAT3がSTAT3の遺伝子を誘導するというポジティブフィードバックループの存在も知られている<ref><pubmed> 15852015
</pubmed></ref><ref><pubmed> 9497331 </pubmed></ref>。
 
 神経系細胞においては、STAT3は[[アストロサイト]]内で最も強く発現しており、[[神経幹細胞]] (neural stem cell, NSC) の発現量の二倍近い。また、ニューロンとNSCにおける発現量はほぼ同じで大きな差はないことが報告されている<ref><pubmed> 22736940 </pubmed></ref>。
   
   
[[Image:STAT3-2.jpg|thumb|350px|'''図2.IL-6ファミリーサイトカイン群と受容体'''<br>IL-6ファミリーサイトカインはそれぞれに特異的な受容体に結合し、共通信号伝達鎖gp130を含んだ受容体複合体を形成する。IL-6受容体(IL-6R)、IL-11R、CNTFRは可溶性の形態(sIL-6R、sIL-11R、sCNTFR)でも受容体複合体形成を可能とする。IL-6、IL-11はgp130同士のホモ二量体、LIF、CNTF、CT-1はgp130/LIFRとのヘテロ二量体形成を誘導する。CT-1受容体(CT-1R)はCT-1の結合によりgp130/LIFRとのヘテロ二量体を形成する。OSMはOSMRまたはLIFRとgp130とのヘテロ二量体化を誘導する。]]  
[[Image:STAT3-2.jpg|thumb|350px|'''図2.IL-6ファミリーサイトカイン群と受容体'''<br>IL-6ファミリーサイトカインはそれぞれに特異的な受容体に結合し、共通信号伝達鎖gp130を含んだ受容体複合体を形成する。IL-6受容体(IL-6R)、IL-11R、CNTFRは可溶性の形態(sIL-6R、sIL-11R、sCNTFR)でも受容体複合体形成を可能とする。IL-6、IL-11はgp130同士のホモ二量体、LIF、CNTF、CT-1はgp130/LIFRとのヘテロ二量体形成を誘導する。CT-1受容体(CT-1R)はCT-1の結合によりgp130/LIFRとのヘテロ二量体を形成する。OSMはOSMRまたはLIFRとgp130とのヘテロ二量体化を誘導する。]]  
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== 活性化機構  ==
== 活性化機構  ==
 
===リン酸化による制御===
 [[wikipedia:ja:免疫|免疫]]系に作用する[[wikipedia:ja:サイトカイン|サイトカイン]]として同定された[[インターロイキン-6]]([[Interleukin-6]], [[IL-6]])は、信号伝達に必須な[[受容体]]コンポーネントとして[[wikipedia:ja:膜タンパク質|膜タンパク質glycoprotein]] 130([[Gp130]])を共通に利用するIL-6ファミリーサイトカインの一つである。IL-6ファミリーサイトカインには他にも、[[インターロイキン-11]](IL-11)、[[オンコスタチンM]] ([[Oncostatin M]], [[OSM]])、[[白血病抑制因子]]([[Leukemia Inhibitory Factor]], [[LIF]])、[[カルジオトロピン-1]]([[Cardiotrophin-1]], [[CT-1]])、[[毛様体神経栄養因子]]([[Ciliary Neurotrophic Factor]], [[CNTF]])などが含まれる<ref name="ref4"><pubmed> 11820727 </pubmed></ref>。IL-6ファミリーサイトカインは、[[細胞膜]]上のサイトカイン特異的受容体と結合することで、IL-6ファミリーサイトカインに共通かつ必須の信号伝達因子であるgp130を含む信号伝達鎖の二量体化を引き起こす(図2)。  
 [[wikipedia:ja:免疫|免疫]]系に作用する[[wikipedia:ja:サイトカイン|サイトカイン]]として同定された[[インターロイキン-6]]([[Interleukin-6]], [[IL-6]])は、信号伝達に必須な[[受容体]]コンポーネントとして[[wikipedia:ja:膜タンパク質|膜タンパク質glycoprotein]] 130([[Gp130]])を共通に利用するIL-6ファミリーサイトカインの一つである。IL-6ファミリーサイトカインには他にも、[[インターロイキン-11]](IL-11)、[[オンコスタチンM]] ([[Oncostatin M]], [[OSM]])、[[白血病抑制因子]]([[Leukemia Inhibitory Factor]], [[LIF]])、[[カルジオトロピン-1]]([[Cardiotrophin-1]], [[CT-1]])、[[毛様体神経栄養因子]]([[Ciliary Neurotrophic Factor]], [[CNTF]])などが含まれる<ref name="ref4"><pubmed> 11820727 </pubmed></ref>。IL-6ファミリーサイトカインは、[[細胞膜]]上のサイトカイン特異的受容体と結合することで、IL-6ファミリーサイトカインに共通かつ必須の信号伝達因子であるgp130を含む信号伝達鎖の二量体化を引き起こす(図2)。  


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 チロシンリン酸化されたSTAT3分子はホモ二量体あるいは異なるSTATファミリー分子間でヘテロ二量体を形成し核へ移行した後、標的遺伝子の転写を誘導する。JAK/STAT3経路はIL-6ファミリーや[[インスリン様成長因子-1]]([[Insulin-like growth factor-1]], [[IGF-1]])など複数のサイトカインや増殖因子の刺激により活性化することが知られている<ref name="ref1"><pubmed> 10486560 </pubmed></ref><ref name="ref2"><pubmed> 22772901 </pubmed></ref><ref name="ref3"><pubmed> 15998644 </pubmed></ref>。
 チロシンリン酸化されたSTAT3分子はホモ二量体あるいは異なるSTATファミリー分子間でヘテロ二量体を形成し核へ移行した後、標的遺伝子の転写を誘導する。JAK/STAT3経路はIL-6ファミリーや[[インスリン様成長因子-1]]([[Insulin-like growth factor-1]], [[IGF-1]])など複数のサイトカインや増殖因子の刺激により活性化することが知られている<ref name="ref1"><pubmed> 10486560 </pubmed></ref><ref name="ref2"><pubmed> 22772901 </pubmed></ref><ref name="ref3"><pubmed> 15998644 </pubmed></ref>。
===転写による制御===
 JAK/STAT経路が活性化することで、STAT3は標的遺伝子の転写を誘導する。しかし実はSTAT3遺伝子自身もその標的であり、活性化したSTAT3はSTAT3遺伝子プロモーター中のSTAT認識配列に直接結合し、転写が誘導されるというポジティブフィードバックループの存在が報告されている<ref><pubmed> 15852015 </pubmed></ref>。


== 神経系での機能  ==
== 神経系での機能  ==
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*[[チロシンリン酸化]]  
*[[チロシンリン酸化]]  
*[[転写因子]]<br>
*[[転写因子]]<br>
(編集コメント:他にございましたらご指摘ください)


== 参考文献  ==
== 参考文献  ==


<references />  
<references />
 
 
(執筆者:赤土正一、中島欽一 担当編集委員:大隅典子)

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