「シナプス小胞」の版間の差分

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== 有芯顆粒 ==
== 有芯顆粒 ==
[[image:シナプス小胞5.jpg|thumb|350px|'''図5.海馬シナプス電子顕微鏡像'''<br>透明な顆粒がシナプス小胞、黒い顆粒が有芯小胞(矢頭)。<br>文献[50]より許可を得て転載 (Elsevier License ; 2903510133723)。]]
[[image:シナプス小胞5.jpg|thumb|350px|'''図5.海馬シナプス電子顕微鏡像'''<br>透明な顆粒がシナプス小胞、黒い顆粒が有芯小胞(矢頭)。<br>文献<ref name=ref50><pubmed></pubmed></ref>より許可を得て転載 (Elsevier License ; 2903510133723)。]]


 中枢神経系シナプスの一部にはシナプス小胞よりも大きく(直径100~300ナノメートル)、電子顕微鏡で内腔が黒く見える大型有芯顆粒(Large Dense Core Vesicle: LDCV)が含まれるものがある(図5)。シナプス小胞はプレシナプスの形質膜形質膜近傍からクラスター状に多数存在するのに対して、LDCVはシナプス部位から離れた部位に散在している。シナプス小胞には速い神経伝達を担うグルタミン酸、GABA、グリシン、アセチルコリンが含まれているのに対して、LDCVにはドーパミンなどのモノアミン類や神経ペプチド、多種多様な神経栄養因子を神経伝達物質として含まれている。また、交感神経のシナプスにおいては、ノルエピネフリンやセロトニンを含む60〜80 nmの有芯小胞が見られ、これをLDCVと区別してSDCV (small dense core vesicle) と呼ぶ場合もある。シナプス小胞とLDCVは中に含まれる神経伝達物質の違いに加え、様々な性質が異なる。シナプス小胞から放出される神経伝達物質神経伝達物質は、主にポストシナプス側のイオンチャネル型受容体に作用するため、ポストシナプス側に電気的なシナプス応答を引き起こす。一方、LDCVに含まれる伝達物質はポストシナプス側のGタンパク共役型受容体や神経栄養因子受容体に作用し、セカンドメッセンジャーを介したシナプス伝達の修飾を行う。  
 中枢神経系シナプスの一部にはシナプス小胞よりも大きく(直径100~300ナノメートル)、電子顕微鏡で内腔が黒く見える大型有芯顆粒(Large Dense Core Vesicle: LDCV)が含まれるものがある(図5)。シナプス小胞はプレシナプスの形質膜形質膜近傍からクラスター状に多数存在するのに対して、LDCVはシナプス部位から離れた部位に散在している。シナプス小胞には速い神経伝達を担うグルタミン酸、GABA、グリシン、アセチルコリンが含まれているのに対して、LDCVにはドーパミンなどのモノアミン類や神経ペプチド、多種多様な神経栄養因子を神経伝達物質として含まれている。また、交感神経のシナプスにおいては、ノルエピネフリンやセロトニンを含む60〜80 nmの有芯小胞が見られ、これをLDCVと区別してSDCV (small dense core vesicle) と呼ぶ場合もある。シナプス小胞とLDCVは中に含まれる神経伝達物質の違いに加え、様々な性質が異なる。シナプス小胞から放出される神経伝達物質神経伝達物質は、主にポストシナプス側のイオンチャネル型受容体に作用するため、ポストシナプス側に電気的なシナプス応答を引き起こす。一方、LDCVに含まれる伝達物質はポストシナプス側のGタンパク共役型受容体や神経栄養因子受容体に作用し、セカンドメッセンジャーを介したシナプス伝達の修飾を行う。  


 中枢神経系でのLDCVからの伝達物質放出機構は明らかではないが、クロム親和性細胞を用いた研究から、シナプス小胞同様、SNARE複合体による膜融合で伝達物質放出を行っていると考えられている。しかし、シナプス小胞とLDCVではカルシウムに対する応答性に違いがあることが知られている。伝達物質放出のためにシナプス小胞がプレシナプス局所での高濃度のCa2+濃度上昇を必要とするのに対し、LDCVは持続的な低濃度のCa2+濃度上昇を必要とする<ref name=ref48><pubmed></pubmed></ref>。SNARE複合体に含まれるSynaptobrevinやCa2+センサーであるSynaptotagminなどにはアイソフォームがあり、シナプス小胞とLDCVに存在するこれらのアイソフォームが異なる可能性が示唆されている<ref name=ref49><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref50><pubmed></pubmed></ref>。またCa2+感受性タンパク質であるCAPSはLDCVにのみ存在する。シナプス小胞とLDCVはこれらのタンパク質の違いによってCa2+イオンの感受性やエキソサイトーシス・エンドサイトーシスの速度に相違が生まれるのかもしれないが、今後の研究による更なる解明が期待される。
 中枢神経系でのLDCVからの伝達物質放出機構は明らかではないが、クロム親和性細胞を用いた研究から、シナプス小胞同様、SNARE複合体による膜融合で伝達物質放出を行っていると考えられている。しかし、シナプス小胞とLDCVではカルシウムに対する応答性に違いがあることが知られている。伝達物質放出のためにシナプス小胞がプレシナプス局所での高濃度のCa2+濃度上昇を必要とするのに対し、LDCVは持続的な低濃度のCa2+濃度上昇を必要とする<ref name=ref48><pubmed></pubmed></ref>。SNARE複合体に含まれるSynaptobrevinやCa2+センサーであるSynaptotagminなどにはアイソフォームがあり、シナプス小胞とLDCVに存在するこれらのアイソフォームが異なる可能性が示唆されている<ref name=ref49><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref50 />。またCa2+感受性タンパク質であるCAPSはLDCVにのみ存在する。シナプス小胞とLDCVはこれらのタンパク質の違いによってCa2+イオンの感受性やエキソサイトーシス・エンドサイトーシスの速度に相違が生まれるのかもしれないが、今後の研究による更なる解明が期待される。
   
   
 このようなシナプス活性帯からの距離的な差異や、活性化させる受容体の違い、またシナプス前膜と膜融合を起こすのに必要なカルシウムの応答性の相違などによって、LDCV内の伝達物質はシナプス小胞内の神経伝達物質よりも遅い速度でポストシナプス側に作用する。更に、シナプス小胞は伝達物質の放出後、エンドサイトーシスによって再合成され、プレシナプス局所で伝達物質の再充填が行われるのに対し、LDCVは一度きりの放出で、新たなLDCVはトランスゴルジネットワークから生成される、というように生成過程においても違いがある。プレシナプスにシナプス小胞とLDCVの両方が存在するシナプスが脳の各部位で見つかっている。そのようなシナプスではひとつのシナプス前終末に神経伝達物質を2種類以上有することになるが、この伝達物質の組み合わせは脳の部位によって異なり、 これがそれぞれのシナプスにおけるシナプス伝達の多様性に寄与していると考えられる<ref name=ref51><pubmed></pubmed></ref>。
 このようなシナプス活性帯からの距離的な差異や、活性化させる受容体の違い、またシナプス前膜と膜融合を起こすのに必要なカルシウムの応答性の相違などによって、LDCV内の伝達物質はシナプス小胞内の神経伝達物質よりも遅い速度でポストシナプス側に作用する。更に、シナプス小胞は伝達物質の放出後、エンドサイトーシスによって再合成され、プレシナプス局所で伝達物質の再充填が行われるのに対し、LDCVは一度きりの放出で、新たなLDCVはトランスゴルジネットワークから生成される、というように生成過程においても違いがある。プレシナプスにシナプス小胞とLDCVの両方が存在するシナプスが脳の各部位で見つかっている。そのようなシナプスではひとつのシナプス前終末に神経伝達物質を2種類以上有することになるが、この伝達物質の組み合わせは脳の部位によって異なり、 これがそれぞれのシナプスにおけるシナプス伝達の多様性に寄与していると考えられる<ref name=ref51><pubmed></pubmed></ref>。