「シナプス接着因子」の版間の差分

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英語名:synaptic adhesion molecules 英略語:SAMs
英語名:synaptic adhesion molecules 英略語:SAMs


同義語:シナプス細胞接着因子、シナプス局在性細胞接着因子、シナプス接着分子
同義語:[[シナプス細胞接着因子]]、[[シナプス局在性細胞接着因子]]、[[シナプス接着分子]]




 シナプス接着因子とは、[[細胞接着因子]]のうち[[シナプス]]に局在し、シナプスの形成ないしは機能面での修飾を担うものである。
 シナプス接着因子とは、[[細胞接着因子]]のうち[[シナプス]]に局在し、シナプスの形成ないしは機能面での修飾を担うものである。(500字程度の要約を御願い致します。)


==概要==
==概要==
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 シナプス形成能のスクリーニングとして、これらの遺伝子を導入した[[wikipedia:JA:線維芽細胞|線維芽細胞]]を[[ニューロン]]と共培養し、遺伝子導入線維芽細胞表面でのシナプス形成の有無を調べる手法(artificial synapse formation assay)が用いられている。ただし、この実験でシナプス形成能が確認されたものでも、遺伝子欠損動物でシナプスの形成不全が見られるものはごく一部である。これは、シナプス形成には、複数のシナプス接着因子が機能的にオーバーラップしながら働いているからだと考えられる。
 シナプス形成能のスクリーニングとして、これらの遺伝子を導入した[[wikipedia:JA:線維芽細胞|線維芽細胞]]を[[ニューロン]]と共培養し、遺伝子導入線維芽細胞表面でのシナプス形成の有無を調べる手法(artificial synapse formation assay)が用いられている。ただし、この実験でシナプス形成能が確認されたものでも、遺伝子欠損動物でシナプスの形成不全が見られるものはごく一部である。これは、シナプス形成には、複数のシナプス接着因子が機能的にオーバーラップしながら働いているからだと考えられる。


 シナプス接着因子の中には、[[シナプス前終末]]と[[シナプス後部]]の両方に存在してホモ結合により機能するもの、シナプス前終末と後部の両方に存在するが、別の種類の接着因子とヘテロ結合するもの、シナプス前終末ないしは後部のどちらかのみに局在し、それぞれの間でヘテロ結合するものなどがある。また、これらの結合に[[カルシウム]]が必要なものと、そうでないものがあり、この性質によって分類されることもある。
 シナプス接着因子の中には、[[シナプス前終末]]と[[シナプス後部]]の両方に存在してホモ結合により機能するもの、[[シナプス前]]終末と後部の両方に存在するが、別の種類の接着因子とヘテロ結合するもの、シナプス前終末ないしは後部のどちらかのみに局在し、それぞれの間でヘテロ結合するものなどがある。また、これらの結合に[[カルシウム]]が必要なものと、そうでないものがあり、この性質によって分類されることもある。


 シナプス接着因子の中で、[[自閉症]]や[[統合失調症]]などとの関連が示唆されるものが多い。
 シナプス接着因子の中で、[[自閉症]]や[[統合失調症]]などとの関連が示唆されるものが多い。


 接着に関わる細胞外ドメインには、[[LNS]] ([[ラミニン|laminin]] A, [[ニューレキシン]], and sex hormone-binding protein)ドメイン、[[カドヘリン]] (cadherin)ドメイン、[[免疫グロブリン]] (immunoglobuline)ドメイン、[[LRR]] (leucine-rich repeats)などがあり、これらはしばしばリピート構造を呈している。
 接着に関わる細胞外ドメインには、[[LNS]] ([[ラミニン|laminin]] A, [[ニューレキシン]], and sex hormone-binding protein)ドメイン、[[カドヘリン]] (cadherin)ドメイン、[[免疫グロブリンスーパーファミリー|免疫グロブリン]] (immunoglobuline)ドメイン、[[LRR]] (leucine-rich repeats)などがあり、これらはしばしばリピート構造を呈している。


== ニューレキシン/ニューロリギン ==
== ニューレキシン/ニューロリギン ==
 ''詳細は[[ニューレキシン]]、[[ニューロリギン]]の項目参照。''
===ニューレキシン===
===ニューレキシン===
 ニューレキシンは、シナプス前終末に局在する1回膜貫通型タンパク質で、[[wikipedia:JA:哺乳類|哺乳類]]では3種類の遺伝子が存在する([[NRXN1]], [[NRXN2]], [[NRXN3]])。それぞれの遺伝子は、上流にある[[プロモーター]]によって転写されるα-ニューレキシンと、遺伝子の中ほどにあるプロモーターによって転写されるβ-ニューレキシンの二つのアイソフォームを産生する。α-ニューレキシンは、細胞外領域に6個のLNS ドメインと、3個の[[EGF]]様リピートを持ち、細胞内領域は短く、C末にPDZ結合配列を有し、これを介して[[CASK]]と結合する。β-ニューレキシンは、α-ニューレキシンのうち、1-5番目のLNSドメインと3個のEGF様リピートを欠く構造になっており、N末に短いβ-ニューレキシン特有の配列を持つ以外は、α-ニューレキシンの6番目のLNSドメインからC末にかけて共通の配列を有している。ニューレキシンタンパク質はシナプス後終末にも局在するという報告もあるが、議論が分かれている<ref><pubmed>    17360903</pubmed></ref>。
 [[ニューレキシン]]は、シナプス前終末に局在する1回膜貫通型タンパク質で、[[wikipedia:JA:哺乳類|哺乳類]]では3種類の遺伝子が存在する([[NRXN1]], [[NRXN2]], [[NRXN3]])。それぞれの遺伝子は、上流にある[[プロモーター]]によって転写されるα-ニューレキシンと、遺伝子の中ほどにあるプロモーターによって転写されるβ-ニューレキシンの二つのアイソフォームを産生する。α-ニューレキシンは、細胞外領域に6個のLNS ドメインと、3個の[[EGF]]様リピートを持ち、細胞内領域は短く、C末にPDZ結合配列を有し、これを介して[[CASK]]と結合する。β-ニューレキシンは、α-ニューレキシンのうち、1-5番目のLNSドメインと3個のEGF様リピートを欠く構造になっており、N末に短いβ-ニューレキシン特有の配列を持つ以外は、α-ニューレキシンの6番目のLNSドメインからC末にかけて共通の配列を有している。ニューレキシンタンパク質はシナプス後終末にも局在するという報告もあるが、議論が分かれている<ref><pubmed>    17360903</pubmed></ref>。


===ニューロリギン===
===ニューロリギン===
 ニューロリギンは、β-ニューレキシンとカルシウム依存的に結合する分子として単離された1回膜貫通型タンパク質で、シナプス後部特異的に局在する。ヒトでは5種類の遺伝子が存在する([[NLGN1]], [[NLGN2]], [[NLGN3]], [[NLGN4X]], [[NLGN4Y]])が、げっ歯類ではNLGN4Yに相当するものは確認されていない。ニューロリギンは、細胞外領域に[[アセチルコリンエステラーゼ]]様ドメインと、細胞内領域にニューレキシンとは異なるクラスのPDZ結合配列を有し、これを介して[[PSD-95]]と結合する。
 [[ニューロリギン]]は、β-ニューレキシンとカルシウム依存的に結合する分子として単離された1回膜貫通型タンパク質で、シナプス後部特異的に局在する。ヒトでは5種類の遺伝子が存在する([[NLGN1]], [[NLGN2]], [[NLGN3]], [[NLGN4X]], [[NLGN4Y]])が、げっ歯類ではNLGN4Yに相当するものは確認されていない。ニューロリギンは、細胞外領域に[[アセチルコリンエステラーゼ]]様ドメインと、細胞内領域にニューレキシンとは異なるクラスのPDZ結合配列を有し、これを介して[[PSD-95]]と結合する。


 ニューロリギンのシナプスにおける機能は、各アイソフォームで異なる。NLGN1は、[[興奮性シナプス]]後部に局在し、欠損マウスで[[NMDA型グルタミン酸受容体]]を介したシナプス伝達の異常をきたす。一方、NLGN2は、[[抑制性シナプス]]後部に局在し、欠損マウスで[[GABA受容体]]を介したシナプス伝達の異常をきたす。NLGN3は興奮性・抑制性両方のシナプス後部に局在するが、欠損マウスで明確なシナプス異常は見られない。NLGN4* (げっ歯類のNLGN4は本当にヒトのNLGN4Xの相同分子か議論の余地が残る)は、[[グリシン]]作動性抑制性シナプスとの関連が示唆されている。
 ニューロリギンのシナプスにおける機能は、各アイソフォームで異なる。NLGN1は、[[興奮性シナプス]]後部に局在し、欠損マウスで[[NMDA型グルタミン酸受容体]]を介したシナプス伝達の異常をきたす。一方、NLGN2は、[[抑制性シナプス]]後部に局在し、欠損マウスで[[GABA受容体]]を介したシナプス伝達の異常をきたす。NLGN3は[[興奮性]]・[[抑制性]]両方のシナプス後部に局在するが、欠損マウスで明確なシナプス異常は見られない。NLGN4* (げっ歯類のNLGN4は本当にヒトのNLGN4Xの相同分子か議論の余地が残る)は、[[グリシン]]作動性抑制性シナプスとの関連が示唆されている。


===ニューロリギンとニューレキシンの結合===
===ニューロリギンとニューレキシンの結合===
 ニューレキシンとニューロリギンは、[[シナプス間隙]]において、互いの細胞外ドメインを介して結合する。結合様式としては、ニューロリギンがシナプス後終末にシス2量体として存在し、それぞれのアセリルコリンエステラーゼ様ドメインに、シナプス前終末側から伸びてきたニューレキシンのLNSドメインが、カルシウムイオンを介して1つずつ結合し、ヘテロ4量複合体を形成する。ニューレキシンの第4選択的スプライス部位がこの結合の特異性を制御している。ニューレキシンとニューロリギンの結合は、シナプスの形成よりも、成熟により関与していると考えられている。ニューレキシン、Neurolignが細胞内でどのようなシグナル伝達に関与しているかは今のところ殆どわかっていない。
 ニューレキシンとニューロリギンは、[[シナプス間隙]]において、互いの細胞外ドメインを介して結合する。結合様式としては、ニューロリギンがシナプス後終末にシス2量体として存在し、それぞれのアセリル[[コリンエステラーゼ]]様ドメインに、シナプス前終末側から伸びてきたニューレキシンのLNSドメインが、[[カルシウムイオン]]を介して1つずつ結合し、ヘテロ4量複合体を形成する。ニューレキシンの第4選択的スプライス部位がこの結合の特異性を制御している。ニューレキシンとニューロリギンの結合は、シナプスの形成よりも、成熟により関与していると考えられている。ニューレキシン、Neurolignが細胞内でどのようなシグナル伝達に関与しているかは今のところ殆どわかっていない。


 近年、ニューレキシンのリガンドとして、ニューロリギン以外に、[[LRRTM]]や[[Cbln1]]が同定されている。また、Neruexinおよびニューロリギンは[[自閉症]]との関連が示唆されており、自閉症患者から見つかったNeurolign-3の変異を導入したマウスで、社会行動の異常が起こることが確認されている<ref><pubmed>     17823315</pubmed></ref>。
 近年、ニューレキシンのリガンドとして、ニューロリギン以外に、[[LRRTM]]や[[Cbln1]]が同定されている。また、ニューレキシンおよびニューロリギンは[[自閉症]]との関連が示唆されており、自閉症患者から見つかったニューレキシン-3の変異を導入したマウスで、社会行動の異常が起こることが確認されている<ref><pubmed>17823315</pubmed></ref>。


==カドヘリン==
==カドヘリン==
 ''詳細は[[カドヘリン]]の項目参照。''


=== 古典的カドヘリン ===
=== 古典的カドヘリン ===
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===その他のカドヘリン分子===
===その他のカドヘリン分子===


 その他に、Drosophilaではカドヘリンリピートを有するGタンパク質共役型受容体である[[Flamingo]]が、シナプスの特異性の獲得に関与していることが知られている。
 その他に、[[ショウジョウバエ]]ではカドヘリンリピートを有するGタンパク質共役型受容体である[[Flamingo]]が、シナプスの特異性の獲得に関与していることが知られている。


 Calsynteninもカドヘリン関連タンパク質で、[[シナプス後膜肥厚]]に局在しているが、機能は今のところ不明である。
 Calsynteninもカドヘリン関連タンパク質で、[[シナプス後膜肥厚]]に局在しているが、機能は今のところ不明である。
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===NCAM/L1===
===NCAM/L1===
 [[NCAM]]/[[L1]]ファミリーもシナプス形成や機能獲得に関与していることが知られる免疫グロブリンドメインタンパク質である。NCAMはシナプス前終末で神経筋接合部の形成、特にリリースサイトの分布を制御したり、シナプス小胞のリサイクルの機能の成熟に重要な役割を果たしていることが知られている。シナプス後終末では、NCAMがクラスタリングすることにより細胞骨格の足場タンパク質が集積し、LTPの形成に寄与していると考えられている <ref><pubmed> 8816705</pubmed></ref> 。
 [[NCAM]]/[[L1]]ファミリーもシナプス形成や機能獲得に関与していることが知られる免疫グロブリンドメインタンパク質である。NCAMはシナプス前終末で[[神経筋接合部]]の形成、特にリリースサイトの分布を制御したり、シナプス小胞のリサイクルの機能の成熟に重要な役割を果たしていることが知られている。シナプス後終末では、NCAMがクラスタリングすることにより細胞骨格の足場タンパク質が集積し、LTPの形成に寄与していると考えられている <ref><pubmed> 8816705</pubmed></ref> 。


===その他の免疫グロブリンドメインタンパク質===
===その他の免疫グロブリンドメインタンパク質===
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==LRR (leucine-rich repeat)タンパク質==
==LRR (leucine-rich repeat)タンパク質==
===Leucine-rich repeat transmembrane neuronal proteins===
===Leucine-rich repeat transmembrane neuronal proteins===
 [[LRRTMs]] (leucine-rich repeat transmembrane neuronal proteins)は、細胞外領域に10個のLRRを持つ1回膜貫通型タンパク質で、細胞内領域にclass I PDZ結合配列を有する。哺乳類では4つの遺伝子が知られている(LRRTM1-4)。ニューレキシンと第4選択的スプライスサイト 依存的に結合し、ニューロリギンとともに、ニューレキシンを介したシナプス成熟因子として注目されている。ニューロリギンがシナプス成熟の比較的後期に働くのに対してLRRTMは、シナプス形成期から成熟初期に働いていると考えられているが、LRRTM1の単独ノックアウトマウス、LRRTMの複数のアイソフォームの同時ノックダウンで、明確なシナプスの数の減少は見られない(ただしLRRTM2単独の[[shRNA]]のノックダウンでシナプスの数が減少する報告もある<ref><pubmed>     20064388</pubmed></ref> )。LRRTMsは興奮性シナプス特異的に機能していると考えられており、ノックアウトマウスやノックダウンニューロンで[[AMPA型グルタミン酸受容体]]を介したシナプス伝達の異常が認められる。もともとLRRTMsのシナプス形成能は、artificial synapse formation assay のスクリーニングで見出された<ref><pubmed>    19285470</pubmed></ref>。
 もともとLRRTMsのシナプス形成能は、artificial synapse formation assay のスクリーニングで見出された<ref><pubmed>19285470</pubmed></ref>。[[LRRTM]]s (leucine-rich repeat transmembrane neuronal proteins)は、細胞外領域に10個のLRRを持つ1回膜貫通型タンパク質で、細胞内領域にclass I PDZ結合配列を有する。哺乳類では4つの遺伝子が知られている(LRRTM1-4)。
 
 ニューレキシンと第4選択的スプライスサイト 依存的に結合し、ニューロリギンとともに、ニューレキシンを介したシナプス成熟因子として注目されている。ニューロリギンがシナプス成熟の比較的後期に働くのに対してLRRTMは、シナプス形成期から成熟初期に働いていると考えられているが、[[LRRTM1]]の単独ノックアウトマウス、LRRTMの複数のアイソフォームの同時[[ノックダウン]]で、明確なシナプスの数の減少は見られない(ただし[[LRRTM2]]単独の[[shRNA]]のノックダウンでシナプスの数が減少する報告もある<ref><pubmed>20064388</pubmed></ref> )。LRRTMsは興奮性シナプス特異的に機能していると考えられており、ノックアウトマウスやノックダウンニューロンで[[AMPA型グルタミン酸受容体]]を介したシナプス伝達の異常が認められる。


===Synaptic adhesion like molecules===
===Synaptic adhesion like molecules===
 [[SALMs]] (synaptic adhesion like molecules)は、細胞外領域に、N末から順に6個のLRR、単一免疫グロブリンドメイン、fibronectin IIIドメインを含む1回膜貫通型タンパク質で、脊椎動物では5つのSALMsタンパク質が存在する。SALM1-3は細胞内領域のC末にPDZ結合配列を有し、これを介してPSD-95と結合するが、SALM4-5は、PDZ結合配列を持たない。SALMsは、PSD-95との結合を介して興奮性シナプスの形成を促進したり、AMPAやNMDAタイプのグルタミン酸受容体と相互作用することが知られているが、接着因子としての機能はまだよくわかっていない。
 [[SALM]]s (synaptic adhesion like molecules)は、細胞外領域に、N末から順に6個のLRR、単一免疫グロブリンドメイン、fibronectin IIIドメインを含む1回膜貫通型タンパク質で、脊椎動物では5つのSALMsタンパク質が存在する。SALM1-3は細胞内領域のC末に[[PDZ結合配列]]を有し、これを介して[[PSD]]-95と結合するが、SALM4-5は、PDZ結合配列を持たない。SALMsは、[[PSD-95]]との結合を介して興奮性シナプスの形成を促進したり、AMPAや[[NMDA型グルタミン酸受容体]]と相互作用することが知られているが、接着因子としての機能はまだよくわかっていない。


===Netrin-G ligands===
===Netrin-G ligands===
 [[Netrin-G ligands]](NGLs)は[[netrin-G1]]に結合するものとして同定された1回膜貫通型タンパク質で、LRRC4 (leucine-rich repeat/LRR-containing glycoprotein 4)とも呼ばれる。細胞外領域にLRR、単一免疫グロブリンドメイン、短い細胞内領域にPDZ結合配列を有し、これを介して[[PSD-95]]と結合する。脊椎動物で3種類のNGLs (NGL1-3)が存在する。NGLsはシナプス後終末に局在し、[[NGL1]]と[[NGL2]]はシナプス前終末のnetrin-G1と-G2と相互作用し、[[NGL3]]はLAR-type RPTPsと相互作用する。NGL2の過剰発現で[[NMDA型グルタミン酸受容体]]がシナプス後部にリクルートされるが、[[AMPA型グルタミン酸受容体]]はリクルートされないことが示されている <ref><pubmed>     16980967</pubmed></ref>。
 [[Netrin-G ligand]]s (NGLs)は[[netrin-G1]]に結合するものとして同定された1回膜貫通型タンパク質で、LRRC4 (leucine-rich repeat/LRR-containing glycoprotein 4)とも呼ばれる。
 
 細胞外領域にLRR、単一免疫グロブリンドメイン、短い細胞内領域にPDZ結合配列を有し、これを介して[[PSD-95]]と結合する。脊椎動物で3種類のNGLs (NGL1-3)が存在する。NGLsはシナプス後終末に局在し、[[NGL1]]と[[NGL2]]はシナプス前終末のnetrin-G1と-G2と相互作用し、[[NGL3]]はLAR-type RPTPsと相互作用する。NGL2の過剰発現でNMDA型[[グルタミン酸]]受容体がシナプス後部にリクルートされるが、AMPA型グルタミン酸受容体はリクルートされないことが示されている <ref><pubmed>16980967</pubmed></ref>。


==エフリン-Eph受容体型チロシンキナーゼ==
==エフリン-Eph受容体型チロシンキナーゼ==
 ''詳細は[[エフリン]]、[[Eph受容体]]の項目参照。''


 [[エフリン]]-[[Eph受容体]]型[[チロシンキナーゼ]]は、リガンドと受容体の関係にあるシグナル誘導タンパク質であるが、シナプスにおける機能も示されている。
 [[エフリン]]-[[Eph受容体]]型[[チロシンキナーゼ]]は、リガンドと受容体の関係にあるシグナル誘導タンパク質であるが、シナプスにおける機能も示されている。
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===Eph受容体型チロシンキナーゼ===
===Eph受容体型チロシンキナーゼ===
Eph 受容体型チロシンキナーゼは16個のメンバー(哺乳類では14個)から成る1回膜貫通型タンパク質で、これらのうち、エフリンAと相互作用するものを[[EphA]] (EphA1-8, EphA10), エフリンBと相互作用するものを[[EphB]] (EphB1-4, EphB6)として分けられている。EエフリンAはGPIアンカーで細胞膜に付着しているため細胞内ドメインが無いが、エフリンB, EphAおよびEphBは細胞内領域を介してシグナル伝達に関わる。特にエフリンBとEphBは、双方向性にシグナル伝達をするため、どちらも受容体とリガンドの両方の側面を有していることになる。またこれらのC末にPDZ結合配列があり、これを介して[[PICK1]], [[syntenin]], [[GRIP]], [[PDZ-RGS]]などと結合する。
 [[Eph]] 受容体型チロシンキナーゼは16個のメンバー(哺乳類では14個)から成る1回膜貫通型タンパク質で、これらのうち、エフリンAと相互作用するものを[[EphA]] ([[EPHA1|EphA1]]-8, EphA10), エフリンBと相互作用するものを[[EphB]] ([[EPHB1|EphB1]]-4, [[EPHB6|EphB6]])として分けられている。EエフリンAはGPIアンカーで細胞膜に付着しているため細胞内ドメインが無いが、エフリンB, EphAおよびEphBは細胞内領域を介してシグナル伝達に関わる。特にエフリンBとEphBは、双方向性にシグナル伝達をするため、どちらも受容体とリガンドの両方の側面を有していることになる。またこれらのC末にPDZ結合配列があり、これを介して[[PICK1]], [[syntenin]], [[GRIP]], [[PDZ-RGS]]などと結合する。
 
 EphBは、シナプス後部に局在し、シナプス前終末のエフリンBと結合することによりシナプス後終末で、[[RhoA]]や[[Rac1]]を含むいくつかの[[Rhoファミリー小分子GTP結合タンパク質]]と連動し、[[スパイン]]の[[アクチン]][[細胞骨格]]を再構築することが知られている。EphB1-3の複合欠損マウスでは、シナプス密度の減少と、[[樹状突起]]のスパインの形態異常がみられる <ref><pubmed>14691139</pubmed></ref>。[[海馬]]ニューロンの[[初代培養|培養]]系において、EphB2はエフリンとの結合を介してシナプス前終末の分化を誘導することが示されている<ref><pubmed>  17122040</pubmed></ref>。更にシナプス後終末の[[EPHB2|EphB2]]はNMDA型グルタミン酸受容体とシスに相互作用することも示唆されている <ref><pubmed>11136979</pubmed></ref>。


 EphBは、シナプス後部に局在し、シナプス前終末のエフリンBと結合することによりシナプス後終末で、[[RhoA]]や[[Rac1]]を含むいくつかの[[Rhoファミリー小分子GTP結合タンパク質]]と連動し、[[スパイン]]の[[アクチン]][[細胞骨格]]を再構築することが知られている。EphB1-3の複合欠損マウスでは、シナプス密度の減少と、[[樹状突起]]のスパインの形態異常がみられる <ref><pubmed>14691139</pubmed></ref>。[[海馬]]ニューロンの[[初代培養|培養]]系において、EphB2はエフリンとの結合を介してシナプス前終末の分化を誘導することが示されている<ref><pubmed>  17122040</pubmed></ref>。更にシナプス後終末のEphB2はNMDA型グルタミン酸受容体とシスに相互作用することも示唆されている <ref><pubmed>11136979</pubmed></ref>。一方、リガンドであるエフリンBはシナプス前終末だけでなく興奮性のシナプス後終末にも存在することが示されており、スパインの密度と成熟やAMPA型グルタミン酸受容体の輸送を促進していると思われる <ref><pubmed>17310244</pubmed></ref>。
 一方、リガンドであるエフリンBはシナプス前終末だけでなく興奮性のシナプス後終末にも存在することが示されており、スパインの密度と成熟やAMPA型グルタミン酸受容体の輸送を促進していると思われる <ref><pubmed>17310244</pubmed></ref>。


==インテグリン (integrin)==
==インテグリン (integrin)==
 ''詳細は[[インテグリン]]の項目参照。''


 [[インテグリン]]は、その他の重要な接着因子で、シナプスの成熟を促進する。インテグリンはβ1サブユニットの欠損でLTPに障害が出ることなど、シナプスの生理的機能にも関与している。
 [[インテグリン]]は、その他の重要な接着因子で、シナプスの成熟を促進する。インテグリンはβ1サブユニットの欠損でLTPに障害が出ることなど、シナプスの生理的機能にも関与している。