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<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0210534 福田 光則]</font><br> | <font size="+1">[http://researchmap.jp/read0210534 福田 光則]</font><br> | ||
''東北大学 大学院生命科学研究科 生命機能科学専攻''<br> | ''東北大学 大学院生命科学研究科 生命機能科学専攻''<br> | ||
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年5月9日 原稿完成日:2013年8月21日<br> | |||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/2rikenbsi 林 康紀](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br> | 担当編集委員:[http://researchmap.jp/2rikenbsi 林 康紀](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br> | ||
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| Symbol = C2 | | Symbol = C2 | ||
| Name = Human Synaptotagmin 1 C2 domains. | | Name = Human Synaptotagmin 1 C2 domains. | ||
| image = | | image = 2R83.pdb | ||
| width = 200 | | width = 200 | ||
| caption = | | caption = ヒトシナプトタグミン1のC2A、C2Bドメイン。2R83による<ref><pubmed>17956130</pubmed></ref>。 | ||
| Pfam = PF00168 | | Pfam = PF00168 | ||
| InterPro = IPR000008 | | InterPro = IPR000008 | ||
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| PDB = {{PDB3|1a25}}B:173-260 {{PDB3|1bci}}A:20-106 {{PDB3|1byn}}A:158-244 {{PDB3|1cjy}}A:20-106 {{PDB3|1djg}}B:631-720 {{PDB3|1djh}}B:631-720 {{PDB3|1dji}}B:631-720 {{PDB3|1djw}}B:631-720 {{PDB3|1djx}}A:631-720 {{PDB3|1djy}}A:631-720 {{PDB3|1djz}}B:631-720 {{PDB3|1dqv}}A:314-400 {{PDB3|1dsy}}A:173-260 {{PDB3|1gmi}}A:8-99 {{PDB3|1k5w}}A:289-377 {{PDB3|1qas}}B:631-720 {{PDB3|1qat}}B:631-720 {{PDB3|1rh8}}A:4654-4752 {{PDB3|1rlw}}A:20-106 {{PDB3|1tjm}}A:289-377 {{PDB3|1tjx}}A:289-377 {{PDB3|1ugk}}A:170-258 {{PDB3|1uov}}A:289-377 {{PDB3|1uow}}A:289-377 {{PDB3|1v27}}A:822-913 {{PDB3|1w15}}A:304-392 {{PDB3|1w16}}A:304-392 {{PDB3|1wfj}}A:6-87 {{PDB3|1wfm}}A:189-259 {{PDB3|2b3r}}A:1574-1662 {{PDB3|2bwq}}A:760-851 {{PDB3|2isd}}B:631-720 {{PDB3|3rpb}}A:557-645 | | PDB = {{PDB3|1a25}}B:173-260 {{PDB3|1bci}}A:20-106 {{PDB3|1byn}}A:158-244 {{PDB3|1cjy}}A:20-106 {{PDB3|1djg}}B:631-720 {{PDB3|1djh}}B:631-720 {{PDB3|1dji}}B:631-720 {{PDB3|1djw}}B:631-720 {{PDB3|1djx}}A:631-720 {{PDB3|1djy}}A:631-720 {{PDB3|1djz}}B:631-720 {{PDB3|1dqv}}A:314-400 {{PDB3|1dsy}}A:173-260 {{PDB3|1gmi}}A:8-99 {{PDB3|1k5w}}A:289-377 {{PDB3|1qas}}B:631-720 {{PDB3|1qat}}B:631-720 {{PDB3|1rh8}}A:4654-4752 {{PDB3|1rlw}}A:20-106 {{PDB3|1tjm}}A:289-377 {{PDB3|1tjx}}A:289-377 {{PDB3|1ugk}}A:170-258 {{PDB3|1uov}}A:289-377 {{PDB3|1uow}}A:289-377 {{PDB3|1v27}}A:822-913 {{PDB3|1w15}}A:304-392 {{PDB3|1w16}}A:304-392 {{PDB3|1wfj}}A:6-87 {{PDB3|1wfm}}A:189-259 {{PDB3|2b3r}}A:1574-1662 {{PDB3|2bwq}}A:760-851 {{PDB3|2isd}}B:631-720 {{PDB3|3rpb}}A:557-645 | ||
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英語名:synaptotagmin 独:Synaptotagmine 仏:synaptotagmin | |||
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これらの過程の中で、特にシナプス小胞と細胞膜の融合は細胞外からの[[カルシウム]]イオン流入によって厳密に制御されていることから、シナプス小胞上にはカルシウムイオン上昇を感知するカルシウムセンサー(カルシウムイオンを結合し膜融合を促進する分子で、膜融合の装置そのものではない)の存在が提唱されてきた<ref name=ref8><pubmed>11399430</pubmed></ref>。 | これらの過程の中で、特にシナプス小胞と細胞膜の融合は細胞外からの[[カルシウム]]イオン流入によって厳密に制御されていることから、シナプス小胞上にはカルシウムイオン上昇を感知するカルシウムセンサー(カルシウムイオンを結合し膜融合を促進する分子で、膜融合の装置そのものではない)の存在が提唱されてきた<ref name=ref8><pubmed>11399430</pubmed></ref>。 | ||
シナプトタグミン1は1981年にシナプス小胞や内[[分泌]]細胞の[[有芯小胞]]上に豊富に存在する分子量65,000のシナプス小胞抗原タンパク質(p65)として報告され<ref name=ref9><pubmed>7298720</pubmed></ref>、1990年にその構造が明らかにされた<ref name=ref1><pubmed>2333096</pubmed></ref>。遺伝学、生化学などを駆使した近年の目覚ましい研究成果により、現在ではシナプス小胞上に存在するシナプトタグミン1分子が主要なカルシウムセンサー(唯一ではなく、主に低親和性カルシウムセンサーとして機能)であると考えられている<ref name=ref4><pubmed>15217342</pubmed></ref><ref name=ref5> | シナプトタグミン1は1981年にシナプス小胞や内[[分泌]]細胞の[[有芯小胞]]上に豊富に存在する分子量65,000のシナプス小胞抗原タンパク質(p65)として報告され<ref name=ref9><pubmed>7298720</pubmed></ref>、1990年にその構造が明らかにされた<ref name=ref1><pubmed>2333096</pubmed></ref>。遺伝学、生化学などを駆使した近年の目覚ましい研究成果により、現在ではシナプス小胞上に存在するシナプトタグミン1分子が主要なカルシウムセンサー(唯一ではなく、主に低親和性カルシウムセンサーとして機能)であると考えられている<ref name=ref4><pubmed>15217342</pubmed></ref><ref name=ref5></ref><ref name=ref6></ref><ref name=ref7><pubmed>18275379</pubmed></ref>。 | ||
また、シナプス小胞以外のカルシウム依存的な小胞輸送過程に他のシナプトタグミンアイソフォームの関与も相次いで報告され、シナプトタグミンファミリーがかなり普遍的なカルシウムセンサーではないかという概念が定着しつつある。 | また、シナプス小胞以外のカルシウム依存的な小胞輸送過程に他のシナプトタグミンアイソフォームの関与も相次いで報告され、シナプトタグミンファミリーがかなり普遍的なカルシウムセンサーではないかという概念が定着しつつある。 | ||
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|シナプス小胞、有芯小胞 | |シナプス小胞、有芯小胞 | ||
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|[http://mouse.brain-map.org/ | |[http://mouse.brain-map.org/experiment/show/79394156 シナプトタグミン 10] | ||
|嗅球の神経細胞 | |嗅球の神経細胞 | ||
|有芯小胞 | |有芯小胞 | ||
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これに対して、C2B領域はシナプス小胞の融合促進だけではなく<ref name=ref26><pubmed>12110842</pubmed></ref><ref name=ref27><pubmed>15456828</pubmed></ref>、シナプス小胞の[[エンドサイトーシス]]やドッキングなどの過程<ref name=ref28><pubmed>11114192</pubmed></ref><ref name=ref29><pubmed>19716167</pubmed></ref>にも関与するものと考えられている。例えば、[[wikipedia:ja:ヤリイカ|ヤリイカ]]巨大[[軸索]]ではC2B領域に対する機能阻害抗体の導入により、シナプス小胞の融合過程には全く影響がなく、シナプス小胞のリサイクリングの過程が特異的に阻害される(恐らくはAP-2との結合を阻害)<ref name=ref30><pubmed>15591349</pubmed></ref>。一方、C2Bドメインに特異的に結合するイノシトールポリリン酸([[イノシトール1,3,4,5-四リン酸]](IP<SUB>4</SUB>)など)をシナプス前部に導入すると、C2B領域に結合することによりシナプス小胞の融合過程が顕著に阻害される<ref name=ref31><pubmed>7809161</pubmed></ref>。 | これに対して、C2B領域はシナプス小胞の融合促進だけではなく<ref name=ref26><pubmed>12110842</pubmed></ref><ref name=ref27><pubmed>15456828</pubmed></ref>、シナプス小胞の[[エンドサイトーシス]]やドッキングなどの過程<ref name=ref28><pubmed>11114192</pubmed></ref><ref name=ref29><pubmed>19716167</pubmed></ref>にも関与するものと考えられている。例えば、[[wikipedia:ja:ヤリイカ|ヤリイカ]]巨大[[軸索]]ではC2B領域に対する機能阻害抗体の導入により、シナプス小胞の融合過程には全く影響がなく、シナプス小胞のリサイクリングの過程が特異的に阻害される(恐らくはAP-2との結合を阻害)<ref name=ref30><pubmed>15591349</pubmed></ref>。一方、C2Bドメインに特異的に結合するイノシトールポリリン酸([[イノシトール1,3,4,5-四リン酸]](IP<SUB>4</SUB>)など)をシナプス前部に導入すると、C2B領域に結合することによりシナプス小胞の融合過程が顕著に阻害される<ref name=ref31><pubmed>7809161</pubmed></ref>。 | ||
さらに、C2B領域(特にC2Bエフェクタードメインと呼ばれるβ4ストランド上の塩基性クラスター<ref name=ref14><pubmed>7961887</pubmed></ref><ref name=ref15><pubmed>9830048</pubmed></ref>)はカルシウム刺激がないときには融合を抑制するようなクランプ的な機能を併せ持つと想定されており<ref name=ref32><pubmed>8990201</pubmed></ref><ref name=ref33><pubmed>21338883</pubmed></ref>、ショウジョウバエなどのシナプトタグミン1変異体では自発的な神経伝達物質放出が増大することが知られている<ref name=ref34><pubmed>12467593</pubmed></ref>。このようなC2B領域の機能の多様性は、C2B領域に複数のエフェクター結合領域が存在することに起因するものと考えられている<ref name=ref5> | さらに、C2B領域(特にC2Bエフェクタードメインと呼ばれるβ4ストランド上の塩基性クラスター<ref name=ref14><pubmed>7961887</pubmed></ref><ref name=ref15><pubmed>9830048</pubmed></ref>)はカルシウム刺激がないときには融合を抑制するようなクランプ的な機能を併せ持つと想定されており<ref name=ref32><pubmed>8990201</pubmed></ref><ref name=ref33><pubmed>21338883</pubmed></ref>、ショウジョウバエなどのシナプトタグミン1変異体では自発的な神経伝達物質放出が増大することが知られている<ref name=ref34><pubmed>12467593</pubmed></ref>。このようなC2B領域の機能の多様性は、C2B領域に複数のエフェクター結合領域が存在することに起因するものと考えられている<ref name=ref5></ref>。また、C2B領域は必ずしも単独で機能するのではなく、一部C2A領域と協調して小胞の融合を促進するモデルも提唱されている<ref name=ref35><pubmed>10811903</pubmed></ref><ref name=ref36><pubmed>15046725</pubmed></ref>。 | ||
シナプトタグミンによるカルシウム依存的な小胞融合の促進メカニズムとして現在最も有力な仮説は、膜の融合装置と考えられる[[SNAREタンパク質]]とシナプトタグミンとのカルシウム依存的な相互作用により小胞膜と細胞膜の融合が促進されるというモデルである。実際、精製したSNAREタンパク質を組み込んだ2種類のリポソーム([[v-SNARE]][[シナプトブレビン]]を組み込んだリポソームおよび[[t-SNARE]][[シンタキシン]]と[[SNAP-25]]を組み込んだリポソーム)にカルシウムイオンとシナプトタグミン1の細胞質領域を加えることにより2種類のリポソームの膜融合が顕著に促進される<ref name=ref37><pubmed>15044754</pubmed></ref>。一方、シナプトタグミンのC2領域のカルシウム依存的なリン脂質の結合が小胞の融合を促進するという仮説や、C2B領域同士のカルシウム依存的なオリゴマー化がシナプス小胞と細胞膜の融合により生じた孔を拡大させるという仮説も提唱されている<ref name=ref38><pubmed>12931189</pubmed></ref>。 | シナプトタグミンによるカルシウム依存的な小胞融合の促進メカニズムとして現在最も有力な仮説は、膜の融合装置と考えられる[[SNAREタンパク質]]とシナプトタグミンとのカルシウム依存的な相互作用により小胞膜と細胞膜の融合が促進されるというモデルである。実際、精製したSNAREタンパク質を組み込んだ2種類のリポソーム([[v-SNARE]][[シナプトブレビン]]を組み込んだリポソームおよび[[t-SNARE]][[シンタキシン]]と[[SNAP-25]]を組み込んだリポソーム)にカルシウムイオンとシナプトタグミン1の細胞質領域を加えることにより2種類のリポソームの膜融合が顕著に促進される<ref name=ref37><pubmed>15044754</pubmed></ref>。一方、シナプトタグミンのC2領域のカルシウム依存的なリン脂質の結合が小胞の融合を促進するという仮説や、C2B領域同士のカルシウム依存的なオリゴマー化がシナプス小胞と細胞膜の融合により生じた孔を拡大させるという仮説も提唱されている<ref name=ref38><pubmed>12931189</pubmed></ref>。 |