「シュワン細胞」の版間の差分

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 一部のシュワン細胞は、ミエリンを形成する。ミエリンには切れ目があり、発見者 (フランスの病理学者Louis-Antoine Ranvier) の名前から、ランヴィエ絞輪と呼ばれている。末梢の有髄神経のランヴィエ絞輪の間隔は200-1500 µm程度ある (無髄神経で隣接するシュワン細胞の核の間隔は90 µm以下)。ランヴィエ絞輪部分は細胞外液にさらされており、また、高い密度でイオンチャネルが分布している (Na+チャネルは1000 µm<sup>-2</sup>) 。そのため、髄鞘に覆われている部分と比較し活動電位が発生しやすい状態であり、跳躍伝導が生じる場となっている<ref><pubmed>7679565</pubmed></ref>。これらの構造のため、有髄神経は同じ直径の無髄神経と比較し、活動電位の伝導がおよそ10倍早まる。ランヴィエ絞輪部分へのNa+チャネルの集積には、ミエリン化したシュワン細胞が発現するGliomedinの関与が示唆されている<ref><pubmed>16039564</pubmed></ref> <ref><pubmed>20188654</pubmed></ref>。
 一部のシュワン細胞は、ミエリンを形成する。ミエリンには切れ目があり、発見者 (フランスの病理学者Louis-Antoine Ranvier) の名前から、ランヴィエ絞輪と呼ばれている。末梢の有髄神経のランヴィエ絞輪の間隔は200-1500 µm程度ある (無髄神経で隣接するシュワン細胞の核の間隔は90 µm以下)。ランヴィエ絞輪部分は細胞外液にさらされており、また、高い密度でイオンチャネルが分布している (Na+チャネルは1000 µm<sup>-2</sup>) 。そのため、髄鞘に覆われている部分と比較し活動電位が発生しやすい状態であり、跳躍伝導が生じる場となっている<ref><pubmed>7679565</pubmed></ref>。これらの構造のため、有髄神経は同じ直径の無髄神経と比較し、活動電位の伝導がおよそ10倍早まる。ランヴィエ絞輪部分へのNa+チャネルの集積には、ミエリン化したシュワン細胞が発現するGliomedinの関与が示唆されている<ref><pubmed>16039564</pubmed></ref> <ref><pubmed>20188654</pubmed></ref>。


== '''Neuregulin-Erbシグナル'''  ==


 NRG はEGFと相同性が高い分子で、チロシンキナーゼ受容体のErbを介してシグナル伝達を行う。NRG-1ならびにErb2/3を欠損させたマウスでは、末梢神経でシュワン前駆細胞およびシュワン細胞の欠損が観察される。このことから、NRGシグナルはシュワン細胞の発達に主要な役割を果たすと考えられており、二次的に神経細胞の発生にも影響を与える。<br> シュワン細胞は軸索と接することによりDNA合成が促され、細胞増殖が活発になるが、そのメカニズムには軸索由来のNRGの関与が示唆されている。発生途中に軸索を除去するとシュワン細胞は脱落するが、NRG-1処置により生存が維持される。NRGあるいはその受容体のErb3のシグナルを中和すると、軸索シュワン細胞の増殖は低下する。このことから、軸索由来のNRGがシュワン細胞の増殖・生存の維持に寄与していると考えられている。<br> NGR-1、Erb2,3、ならびにSox10欠損マウスではシュワン細胞の欠損が生じるが、さらに投射途中の後根神経節の神経細胞や運動神経細胞で神経細胞死も観察される。これは、シュワン細胞による神経細胞への栄養因子供給が欠如するためと示唆されている。<br> ラット胎生14日ごろの末梢神経では、シュワン前駆細胞が神経の外縁部や内部に分布し、多くの軸索を包み込もうとしている。それらは互いにシート状の突起で連絡しはじめ、胎生18日に組織間隙との交通がないコンパクトな状態となり、軸索を束状化させる。NGRシグナル欠損マウスでは、異所性に併走する軸索がしばしば観察され、これはミエリンによる囲い込みが不完全な結果と示唆されている。すなわちNRGは間接的に軸索の束状化にも寄与する<ref><pubmed>18803318</pubmed></ref>。<br>
== Neuregulin-Erbシグナル ==


== '''病態との関連'''  ==
 NRG はEGFと相同性が高い分子で、チロシンキナーゼ受容体のErbを介してシグナル伝達を行う。NRG-1ならびにErb2/3を欠損させたマウスでは、末梢神経でシュワン前駆細胞およびシュワン細胞の欠損が観察される。このことから、NRGシグナルはシュワン細胞の発達に主要な役割を果たすと考えられており、二次的に神経細胞の発生にも影響を与える。
 シュワン細胞は軸索と接することによりDNA合成が促され、細胞増殖が活発になるが、そのメカニズムには軸索由来のNRGの関与が示唆されている。発生途中に軸索を除去するとシュワン細胞は脱落するが、NRG-1処置により生存が維持される。NRGあるいはその受容体のErb3のシグナルを中和すると、軸索シュワン細胞の増殖は低下する。このことから、軸索由来のNRGがシュワン細胞の増殖・生存の維持に寄与していると考えられている。 
 NGR-1、Erb2,3、ならびにSox10欠損マウスではシュワン細胞の欠損が生じるが、さらに投射途中の後根神経節の神経細胞や運動神経細胞で神経細胞死も観察される。これは、シュワン細胞による神経細胞への栄養因子供給が欠如するためと示唆されている。
 ラット胎生14日ごろの末梢神経では、シュワン前駆細胞が神経の外縁部や内部に分布し、多くの軸索を包み込もうとしている。それらは互いにシート状の突起で連絡しはじめ、胎生18日に組織間隙との交通がないコンパクトな状態となり、軸索を束状化させる。NGRシグナル欠損マウスでは、異所性に併走する軸索がしばしば観察され、これはミエリンによる囲い込みが不完全な結果と示唆されている。すなわちNRGは間接的に軸索の束状化にも寄与する<ref><pubmed>18803318</pubmed></ref>。
 
 
== 病態との関連 ==


'''<big>腫瘍</big>'''  
'''<big>腫瘍</big>'''