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<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0019991/ 五嶋良郎]</font><br>
<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0019991/ 五嶋良郎]</font><br>
''横浜市立大学大学院医学研究科分子薬理神経生物学''<br>
''横浜市立大学大学院医学研究科分子薬理神経生物学''<br>
DOI [[XXXX]]/XXXX 原稿受付日:2013年11月6日 原稿完成日:2013年12月26日<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2013年11月6日 原稿完成日:2013年12月26日 一部改訂:2021年6月14日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/2rikenbsi 林 康紀](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/2rikenbsi 林 康紀](京都大学大学院医学研究科 システム神経薬理学分野)<br>
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英語名:semaphorin
英語名:semaphorin
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==セマフォリンとは==
==セマフォリンとは==
 セマフォリン分子群の先駆けは、特定の神経束を染め分ける[[wj:モノクローナル抗体|モノクローナル抗体]]により同定されたファシクリンIVと、[[wj:ニワトリ|ニワトリ]][[後根神経節]]細胞の[[成長円錐]]退縮応答を指標に同定されたコラプシン(後の[[セマフォリン3A]], Sema3A)である。セマフォリン3Aは、当初、退縮活性を有することからコラプシンと命名されたが<ref name=ref1><pubmed>10679438</pubmed></ref>、セマドメインを共有するセマフォリン3A以外のセマフォリンファミリー分子群が、必ずしも退縮活性を示さないことから、これらを総称して、セマフォリン(ギリシア語の手旗信号)ファミリー分子群と命名されるに至った<ref name=ref2><pubmed>10367884</pubmed></ref>。セマフォリンのプロトタイプであるセマフォリン3Aはその後、[[ニューロピリン1]]を受容体とすること、この受容体が、[[血管内皮細胞増殖因子]] ([[vascular endothelial growth factor]], [[VEGF]])の受容体でもあることが発見されるに及び<ref name=ref3><pubmed>10688880</pubmed></ref>、セマフォリンが血管系、免疫系等の神経系以外の様々な組織で重要な役割をすることが広く認識されるようになった。加えて[[wj:アトピー性皮膚炎|アトピー性皮膚炎]]、[[wj:がん|がん]]、[[多発性硬化症]]、[[wj:骨粗鬆症|骨粗鬆症]]など<ref name=ref4><pubmed>24171101</pubmed></ref>、セマフォリン分子が密接に関係する病態が発見されるようになり、現在ではセマフォリンは重要な創薬ターゲットとしても多くの研究者の注目を集めている。
 セマフォリン分子群の先駆けは、特定の神経束を染め分ける[[wj:モノクローナル抗体|モノクローナル抗体]]により同定されたファシクリンIVと、[[wj:ニワトリ|ニワトリ]][[後根神経節]]細胞の[[成長円錐]]退縮応答を指標に同定されたコラプシン(後の[[セマフォリン3A]], Sema3A)である。セマフォリン3Aは、当初、退縮活性を有することからコラプシンと命名されたが<ref name=ref1><pubmed>10679438</pubmed></ref>、セマドメインを共有するセマフォリン3A以外のセマフォリンファミリー分子群が、必ずしも退縮活性を示さないことから、これらを総称して、セマフォリン(ギリシア語の手旗信号)ファミリー分子群と命名されるに至った<ref name=ref2><pubmed>10367884</pubmed></ref>
 
 セマフォリンのプロトタイプであるセマフォリン3Aはその後、[[ニューロピリン1]]を受容体とすること、この受容体が、[[血管内皮細胞増殖因子]] ([[vascular endothelial growth factor]], [[VEGF]])の受容体でもあることが発見されるに及び<ref name=ref3><pubmed>10688880</pubmed></ref>、セマフォリンが血管系、免疫系等の神経系以外の様々な組織で重要な役割をすることが広く認識されるようになった。また[[wj:アトピー性皮膚炎|アトピー性皮膚炎]]、[[wj:がん|がん]]、[[多発性硬化症]]、[[wj:骨粗鬆症|骨粗鬆症]]など<ref name=ref4><pubmed>24171101</pubmed></ref>、セマフォリン分子が密接に関係する病態が発見されるようになった。
 
 最近では、COVID-19の病原ウイルスであるSARS-CoV2表面のスパイクタンパク質Sが、フリンプロテアーゼによって限定分解され、そのうちのS1と呼ばれる部位が、宿主細胞に発現するニューロピリン1に相互作用することが、SAR-CoV2の細胞内への取り込みを促進して感染効率を上昇させることを示す知見が報告された<ref><pubmed>33082294</pubmed></ref><ref><pubmed>33082293 </pubmed></ref>。
 
 このように、現在ではセマフォリンおよびその受容体分子群は重要な創薬ターゲットとしても多くの研究者の注目を集めている<ref><pubmed>25082288</pubmed></ref>。
 
[[image:semaphorin 1.jpg|thumb|300px|'''図1.セマフォリンファミリータンパク質と受容体の関係'''<br>[[TIM-2]]:[[T cell immunoglobulin and mucin-domain-containing 2]], [[CSPG]]: [[コンドロイチン硫酸プロテオグリカン]], [[HSPG]]: ヘパラン硫酸プロテオグリカン]]
[[image:semaphorin 1.jpg|thumb|300px|'''図1.セマフォリンファミリータンパク質と受容体の関係'''<br>[[TIM-2]]:[[T cell immunoglobulin and mucin-domain-containing 2]], [[CSPG]]: [[コンドロイチン硫酸プロテオグリカン]], [[HSPG]]: ヘパラン硫酸プロテオグリカン]]
==ファミリー分子==
==ファミリー分子==
 セマフォリンは構造の違いにより、8つのサブファミリー (セマフォリン1-7とV [ウイルス])に分類される(図1)<ref name=ref1 />。全てのセマフォリンの N末端側はセマドメインとなっており、C末端側の構造によって、[[分泌]]型、膜貫通型、 [[GPIアンカー]]型等の性質が付与される。この内、セマフォリン1aは[[線虫]]や[[ショウジョウバエ]]、セマフォリン2aはショウジョウバエ、[[wj:ハチ|ハチ]]等の[[wj:昆虫|昆虫]]に存在するセマフォリンである。
 セマフォリンは構造の違いにより、8つのサブファミリー (セマフォリン1-7とV [ウイルス])に分類される('''図1''')<ref name=ref1 />。全てのセマフォリンの N末端側はセマドメインとなっており、C末端側の構造によって、[[分泌]]型、膜貫通型、 [[GPIアンカー]]型等の性質が付与される。この内、セマフォリン1aは[[線虫]]や[[ショウジョウバエ]]、セマフォリン2aはショウジョウバエ、[[wj:ハチ|ハチ]]等の[[wj:昆虫|昆虫]]に存在するセマフォリンである。


== 発現パターンと細胞内分布 ==
== 発現パターンと細胞内分布 ==
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[[image:semaphorin 3.jpg|thumb|300px|'''図3.プレキシンの活性化メカニズム'''<br>プレキシンは、細胞の上で二量体を作って不活性な状態になっている。プレキシンは、同じく二量体を形成するセマフォリンが結合すると分離して別々にセマフォリンに結合する。これにともなう位置関係・構造の変化がシグナルを発生する<ref name=ref11 />。]]
[[image:semaphorin 3.jpg|thumb|300px|'''図3.プレキシンの活性化メカニズム'''<br>プレキシンは、細胞の上で二量体を作って不活性な状態になっている。プレキシンは、同じく二量体を形成するセマフォリンが結合すると分離して別々にセマフォリンに結合する。これにともなう位置関係・構造の変化がシグナルを発生する<ref name=ref11 />。]]
===ニューロピリン===
===ニューロピリン===
 クラス3セマフォリンは分泌型であり、セマフォリン3A~3Gの7つが同定されている(表1)。このうちセマフォリン3EはプレキシンDを受容体とするが、それ以外はニューロピリン1、あるいはニューロピリン2を直接の受容体とする。ニューロピリン1、[[ニューロピリン2]]はプレキシンAと複合体を改正し、クラス3セマフォリンの機能的な受容体を形成する。またニューロピリン1およびニューロピリン2は 血管内皮増殖因子 (vascular endothelial growth factor, VEGF)165の受容体としても作動する<ref name=ref8 />。
 藤澤らは、[[アフリカツメガエル]]の幼生[[視蓋]]組織から標品を調整し、これを抗原として、2つの[[モノクローナル抗体]]、MAb5A MAbB2を単離した。この二つの抗体は、それぞれ視蓋の特定の網状層を染め分けた。これがのちにニューロピリンと後述するプレキシンが同定される契機となった<ref><pubmed>3297854</pubmed></ref><ref><pubmed>9078440</pubmed></ref>。後に、これらがセマフォリンの受容体分子であることが明らかにされた<ref><pubmed>9875845</pubmed></ref><ref><pubmed> 10520994</pubmed></ref>。
 
 クラス3セマフォリンは分泌型であり、セマフォリン3A~3Gの7つが同定されている('''表1''')。このうちセマフォリン3EはプレキシンDを受容体とするが、それ以外は[[ニューロピリン1]]、あるいは[[ニューロピリン2]]を直接の受容体とする。ニューロピリン1、ニューロピリン2はプレキシンAと複合体を改正し、クラス3セマフォリンの機能的な受容体を形成する。またニューロピリン1およびニューロピリン2は[[血管内皮増殖因子]] ([[vascular endothelial growth factor]], [[VEGF]])165の受容体としても作動する<ref name=ref8 />。


=== プレキシン ===
=== プレキシン ===
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====低分子量Gタンパク質====
====低分子量Gタンパク質====
 プレキシンは、現在まで知られている膜貫通型受容体のうち、[[低分子量Gタンパク質]]と直接結合できる唯一の受容体ファミリーである(図2)<ref name=ref8><pubmed>22325954</pubmed></ref> <ref name=ref9><pubmed>15297673</pubmed></ref>。結合できる低分子量Gタンパク質は主に[[R-Ras]]と[[Rnd1]]である。プレキシンの細胞内領域は[[R-Ras]]を不活化する[[GTPase activating protein]] ([[GAP]]) ドメインがRnd1に対する結合領域である[[Ras-binding domain]] ([[RBD]]) で二つに分割されたような一次構造を持つ。しかし、立体構造の解析から、通常は細胞の上で二量体を作って不活性な状態になっているプレキシン(センサー)は、同じく二量体を形成するセマフォリン(信号)がやってくると分離して別々にセマフォリンに結合する。こうして、プレキシンからセマフォリンへとパートナーが替わることにより細胞内に信号が伝わると推定されている(図3)<ref name=ref10><pubmed>20881961</pubmed></ref>。この際、タンパク質構造変化により、おそらくプレキシンの細胞内ドメイン同士の相互作用の変化をともなうと考えられるが、詳細はなお不明である。一方、細胞内領域の主要な機能は、GAPドメインとRBD領域がそれぞれひとかたまりとなった構造を持つため、リガンド依存的なRnd1の結合と、それに伴うGAP活性亢進によるR-Rasの不活化と考えられる(図2)。R-Rasの不活化により、[[ホスファチジルイノシトール3キナーゼ]] ([[PI3K]]) 活性が低下し、結果として[[Akt]]-[[GSK3β]]系の活性化をもたらし、インテグリンを介した[[細胞接着]]が低下すると考えられている。
: プレキシンは、現在まで知られている膜貫通型受容体のうち、[[低分子量Gタンパク質]]と直接結合できる唯一の受容体ファミリーである('''図2''')<ref name=ref8><pubmed>22325954</pubmed></ref> <ref name=ref9><pubmed>15297673</pubmed></ref>。結合できる低分子量Gタンパク質は主に[[R-Ras]]と[[Rnd1]]である。プレキシンの細胞内領域は[[R-Ras]]を不活化する[[GTPase activating protein]] ([[GAP]]) ドメインがRnd1に対する結合領域である[[Ras-binding domain]] ([[RBD]]) で二つに分割されたような一次構造を持つ。しかし、立体構造の解析から、通常は細胞の上で二量体を作って不活性な状態になっているプレキシン(センサー)は、同じく二量体を形成するセマフォリン(信号)がやってくると分離して別々にセマフォリンに結合する。こうして、プレキシンからセマフォリンへとパートナーが替わることにより細胞内に信号が伝わると推定されている('''図3''')<ref name=ref10><pubmed>20881961</pubmed></ref>。この際、タンパク質構造変化により、おそらくプレキシンの細胞内ドメイン同士の相互作用の変化をともなうと考えられるが、詳細はなお不明である。一方、細胞内領域の主要な機能は、GAPドメインとRBD領域がそれぞれひとかたまりとなった構造を持つため、リガンド依存的なRnd1の結合と、それに伴うGAP活性亢進によるR-Rasの不活化と考えられる('''図2''')。
 
: R-Rasの不活化により、[[ホスファチジルイノシトール3キナーゼ]] ([[PI3K]]) 活性が低下し、結果として[[Akt]]-[[GSK3β]]系の活性化をもたらし、インテグリンを介した[[細胞接着]]が低下すると考えられている。


====グアニンヌクレオチド交換因子====
====グアニンヌクレオチド交換因子====
 プレキシンは[[グアニンヌクレオチド交換因子]] ([[guanine nucleotide exchange factor]]: [[GEF]]) との結合を介して他の低分子量Gタンパク質の活性も制御できる。
: プレキシンは[[グアニンヌクレオチド交換因子]] ([[guanine nucleotide exchange factor]]: [[GEF]]) との結合を介して他の低分子量Gタンパク質の活性も制御できる。


 プレキシンAの場合は、膜直下にRacGEFの一種である[[FARP2]]が結合する。受容体が刺激されると、FARP2がプレキシンAから解離し、結果として低分子量Gタンパク質Rac1及び下流の[[p21活性化キナーゼ]] ([[PAK]]) を活性化する<ref name=ref9 />。
: プレキシンAの場合は、膜直下にRacGEFの一種である[[FARP2]]が結合する。受容体が刺激されると、FARP2がプレキシンAから解離し、結果として低分子量Gタンパク質Rac1及び下流の[[p21活性化キナーゼ]] ([[PAK]]) を活性化する<ref name=ref9 />。


 一方、プレキシンBの場合は、C末端に[[PDZドメイン]]結合配列があり、これを介して[[PDZ-RhoGEF]]や[[LARG]]等のRhoGEFが結合する。受容体が刺激されるとRhoGEFが活性化され、低分子量Gタンパク質[[Rho]]と下流のRhoキナーゼ活性が亢進する。また、プレキシンBは[[Rac]]とも相互作用することが知られている。
: 一方、プレキシンBの場合は、C末端に[[PDZドメイン]]結合配列があり、これを介して[[PDZ-RhoGEF]]や[[LARG]]等のRhoGEFが結合する。受容体が刺激されるとRhoGEFが活性化され、低分子量Gタンパク質[[Rho]]と下流のRhoキナーゼ活性が亢進する。また、プレキシンBは[[Rac]]とも相互作用することが知られている。


 これらをまとめると、プレキシンの基本的な機能は、Rnd1、R-Ras、Rac、Rhoの活性調節であり、これらの低分子量Gタンパク質を介して[[細胞骨格]]の再構成と細胞接着の制御を行っていると考えられる(図2)。
: これらをまとめると、プレキシンの基本的な機能は、Rnd1、R-Ras、Rac、Rhoの活性調節であり、これらの低分子量Gタンパク質を介して[[細胞骨格]]の再構成と細胞接着の制御を行っていると考えられる('''図2''')。


====リン酸化酵素====
====リン酸化酵素====
 プレキシンAは低分子量Gタンパク質を介した情報伝達以外に、リン酸化酵素を介した情報伝達も行う。
: プレキシンAは低分子量Gタンパク質を介した情報伝達以外に、リン酸化酵素を介した情報伝達も行う。


 プレキシンAは[[Src]]ファミリーチロシンキナーゼの一種である[[Fyn]]と相互作用する。セマフォリン3Aが結合するとFynによる[[チロシンリン酸化]]を介して[[Cdk5]]が活性化する。Cdk5は[[コラプシン反応媒介タンパク質]]([[collapsin response mediator protein]], [[CRMP]]) をリン酸化する(図2)。一旦Cdk5によりリン酸化されると([[プライミング]])、GSK3βによりCRMPが認識されるようになり、追加的なリン酸化が行われる。これらのリン酸化を受けたCRMPと細胞内の他の様々なタンパク質との相互作用が変化し、[[微小管]]を含む[[細胞骨格]]の再構成に関与する<ref name=ref11><pubmed>22351471</pubmed></ref>。また興味深いことに、[[アルツハイマー型認知症]]患者脳組織における[[神経原線維]]には、高度にリン酸化修飾を受けた[[CRMP2]]の集積が認められ、病態との関連が注目されている。
: プレキシンAは[[Src]]ファミリーチロシンキナーゼの一種である[[Fyn]]と相互作用する。セマフォリン3Aが結合するとFynによる[[チロシンリン酸化]]を介して[[Cdk5]]が活性化する。Cdk5は[[コラプシン反応媒介タンパク質]]([[collapsin response mediator protein]], [[CRMP]]) をリン酸化する('''図2''')。一旦Cdk5によりリン酸化されると([[プライミング]])、GSK3βによりCRMPが認識されるようになり、追加的なリン酸化が行われる。これらのリン酸化を受けたCRMPと細胞内の他の様々なタンパク質との相互作用が変化し、[[微小管]]を含む[[細胞骨格]]の再構成に関与する<ref name=ref11><pubmed>22351471</pubmed></ref>。また興味深いことに、[[アルツハイマー型認知症]]患者脳組織における[[神経原線維]]には、高度にリン酸化修飾を受けた[[CRMP2]]の集積が認められ、病態との関連が注目されている。


 GSK3βの基質には、CRMPのようなprimed substrateと 予めのリン酸化修飾を必要としないunprimed substrateが存在する。セマフォリン3Aシグナルの下流にはunprimed substrateである[[Axin-1]]が関与し、GSK3β/Axin-1/[[β-カテニン]]複合体形成を経て[[エンドサイトーシス]]を誘起する<ref name=ref11 />。また、プレキシンAは[[wj:酸化還元酵素|酸化還元酵素]]である[[Molecules Interacting with CasL]] ([[MICAL]]) とも相互作用し、[[アクチン]]の重合を調節する。
: GSK3βの基質には、CRMPのようなprimed substrateと 予めのリン酸化修飾を必要としないunprimed substrateが存在する。セマフォリン3Aシグナルの下流にはunprimed substrateである[[Axin-1]]が関与し、GSK3β/Axin-1/[[β-カテニン]]複合体形成を経て[[エンドサイトーシス]]を誘起する<ref name=ref11 />。また、プレキシンAは[[wj:酸化還元酵素|酸化還元酵素]]である[[Molecules Interacting with CasL]] ([[MICAL]]) とも相互作用し、[[アクチン]]の重合を調節する。


 [[wj:レーザー|レーザー]]照射による局所分子不活化技術を用いて、成長円錐片側の[[CRMP1]]と[[CRMP2]]の活性を消失させると、照射部位とは逆側と同側の方向への、各々全く逆の軸索回旋が起こる。この事からCRMPサブファミリー分子の役割には相違があると考えられるが、詳細な機構は明らかではない<ref name=ref12><pubmed>22378692</pubmed></ref>。
: [[wj:レーザー|レーザー]]照射による局所分子不活化技術を用いて、成長円錐片側の[[CRMP1]]と[[CRMP2]]の活性を消失させると、照射部位とは逆側と同側の方向への、各々全く逆の軸索回旋が起こる。この事からCRMPサブファミリー分子の役割には相違があると考えられるが、詳細な機構は明らかではない<ref name=ref12><pubmed>22378692</pubmed></ref>。


===非プレキシン型受容体===
===非プレキシン型受容体===
 いくつかのセマフォリンはプレキシン以外の受容体と結合することが知られている。[[CD72]]、[[Tim-2]]、[[インテグリン]]等が該当するが、それらはセマドメインを持たず、共通性が見られない。今後、これらの非プレキシン型受容体に関しても解明が進むものと思われる。
 いくつかのセマフォリンはプレキシン以外の受容体と結合することが知られている。[[CD72]]、[[Tim-2]]、[[インテグリン]]等が該当するが、それらはセマドメインを持たず、共通性が見られない。今後、これらの非プレキシン型受容体に関しても解明が進むものと思われる。
=== イオンチャネル ===
 セマフォリンファミリー分子の細胞内情報伝達には、様々な[[カルシウムチャネル|カルシウム]]<ref><pubmed>10514436</pubmed></ref><ref><pubmed>10557350</pubmed></ref><ref><pubmed>21602796</pubmed></ref>、[[カリウムチャネル|カリウム]]、[[ナトリウムチャネル]]<ref><pubmed>24599038</pubmed></ref>が関わる。神経系では、セマフォリン3Aがイオンチャネルの活性化を介してその受容体複合体とTrkAなどの[[ニューロトロフィン受容体]]との相互作用や、順向性・逆行性の[[軸索内輸送]]を促す<ref><pubmed>27392015</pubmed></ref>。このセマフォリン3Aによる細胞内応答は、[[樹状突起]]上の[[グルタミン酸受容体]]の輸送と樹状突起形成にもたらすことが示されている。しかしセマフォリンによって惹起される、様々な分子を含む細胞内膜の輸送と融合がどのように制御され、セマフォリン作用の発現に関わるかについては未解明である。


===修飾因子===
===修飾因子===
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 この発見を経緯に、セマフォリンのシナプスや樹状突起パターン形成における作用が解析された。Kolodkinらのグループは同じクラス3セマフォリンに属するセマフォリン3Fの作用を追究する過程で、セマフォリン3Fが樹状突起スパインの数や興奮性シナプス電流の減少を引き起こすことを報告した。一方、同グループは、セマフォリン3Aとの結合を欠失したニューロピリン1をノックインしたマウスの解析から、セマフォリン3Aは樹状突起パターンには作用するが、スパインの数や形態には影響を与えないと報告しており、研究グループ間にセマフォリン3A作用の解釈をめぐって相違がある<ref name=ref13 /> <ref name=ref14><pubmed>20010807</pubmed></ref>。
 この発見を経緯に、セマフォリンのシナプスや樹状突起パターン形成における作用が解析された。Kolodkinらのグループは同じクラス3セマフォリンに属するセマフォリン3Fの作用を追究する過程で、セマフォリン3Fが樹状突起スパインの数や興奮性シナプス電流の減少を引き起こすことを報告した。一方、同グループは、セマフォリン3Aとの結合を欠失したニューロピリン1をノックインしたマウスの解析から、セマフォリン3Aは樹状突起パターンには作用するが、スパインの数や形態には影響を与えないと報告しており、研究グループ間にセマフォリン3A作用の解釈をめぐって相違がある<ref name=ref13 /> <ref name=ref14><pubmed>20010807</pubmed></ref>。


 セマフォリンが学習・記憶等の生理学的過程にどのような役割を果たしているかは今後の重要課題の一つである。
 セマフォリンが学習・記憶等の生理学的過程にどのような役割を果たしているかは今後の重要課題の一つである。最近になり、海馬において神経活動依存性にセマフォリン3Aが分泌され、AMPA受容体のトラフィッキングを促進することが記憶学習の成立に必要であることが示された<ref><pubmed> 33772906</pubmed></ref>。


==関連項目==
==関連項目==