「セルアセンブリ」の版間の差分

編集の要約なし
編集の要約なし
編集の要約なし
 
(同じ利用者による、間の6版が非表示)
2行目: 2行目:
<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0175238/?lang=japanese 伊藤浩之]</font><br>
<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0175238/?lang=japanese 伊藤浩之]</font><br>
''京都産業大学コンピュータ理工学部インテリジェントシステム学科''<br>
''京都産業大学コンピュータ理工学部インテリジェントシステム学科''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2013年5月17日 原稿完成日:2015年月日<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2013年5月17日 原稿完成日:2015年9月28日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/ichirofujita 藤田 一郎](大阪大学 大学院生命機能研究科)<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/ichirofujita 藤田 一郎](大阪大学 大学院生命機能研究科)<br>
</div>
</div>
15行目: 15行目:
== 歴史的経緯およびその概念 ==
== 歴史的経緯およびその概念 ==


 脳で行われる情報処理の機能を単一細胞のレベルで検討するか、複数の細胞の集団(セルアセンブリ)のレベルで検討するかは、20世紀初頭の神経細胞の発見以来継続する議論である。歴史的には、脳科学の黎明期における脳の全体論と局在論の議論と共通する論理構造を持っていると思われる。記述レベルの変遷はあるが、全体論と局在論は常に交互に時代のパラダイムとして登場している。脳の構成要素([[領野]]、[[ニューロン]]、[[イオンチャンネル]]、[[伝達物質]]、[[wikipedia:ja:遺伝子|遺伝子]]など)の詳細が不明な状態では、想像力が必要となるため全体論的な枠組みが必然となる。一方、脳の構成要素の詳細が実験的に明らかとなると、その物理的実体を中心として機能を議論するために局在論が主流となる。そして、この構成要素のレベルだけでは解明できない新たな現象が明らかとなり、新たな記述レベルでの全体論が再登場する。50年代後半から60年代の[[wikipedia:Vernon Benjamin Mountcastle|Mountcastle]]や[[wikipedia:David H. Hubel|Hubel]] & [[wikipedia:Torsten Wiesel|Wiesel]]の機能的に特殊化した単一細胞の発見により局在論が主流となり、Hebbのセルアセンブリの概念は忘れられていたが、近年の神経ネットワークを対象とする研究への移行に伴って再登場している。
 脳で行われる情報処理の機能を単一細胞のレベルで検討するか、複数の細胞の集団(セルアセンブリ)のレベルで検討するかは、20世紀初頭の神経細胞の発見以来継続する議論である。歴史的には、脳科学の黎明期における脳の全体論と局在論の議論と共通する論理構造を持っていると思われる。記述レベルの変遷はあるが、全体論と局在論は常に交互に時代のパラダイムとして登場している。脳の構成要素([[領野]]、[[ニューロン]]、[[イオンチャンネル]]、[[伝達物質]]、[[wikipedia:ja:遺伝子|遺伝子]]など)の詳細が不明な状態では、想像力が必要となるため全体論的な枠組みが必然となる。一方、脳の構成要素の詳細が実験的に明らかとなると、その物理的実体を中心として機能を議論するために局在論が主流となる。そして、この構成要素のレベルだけでは解明できない新たな現象が明らかとなり、新たな記述レベルでの全体論が再登場する。50年代後半から60年代の[[wikipedia:Vernon Benjamin Mountcastle|Mountcastle]]<ref name=ref1>'''Mountcastle V.B., Berman A.L., Davies P.W.'''<br>Topographic Organization and Modality Representation in First Somatic Area of Cat’s Cerebral Cortex by Methods of Single Unit Analysis.<br>''Am. J. Physiol''., 183, 646, (1955).</ref>や[[wikipedia:David H. Hubel|Hubel]] & [[wikipedia:Torsten Wiesel|Wiesel]]<ref name=ref2><pubmed>14403679</pubmed></ref>の機能的に特殊化した単一細胞の発見により局在論が主流となり、Hebbのセルアセンブリの概念は忘れられていたが、近年の神経ネットワークを対象とする研究への移行に伴って再登場している。


 複数の神経細胞が何らかの特性に関して共通性を持つ場合には、これらの細胞集団をセルアセンブリと定義することが可能である。共通性を定義する特性は、解剖学的な結合様式(例えば、特定の領野からの投射を受けている細胞全体など)である場合も考えられる。解剖学的な特性から定義されたセルアセンブリに関しては、シナプス結合の[[可塑性]]の時間スケールは心理学的な時間スケール(数百ミリ秒)より十分に長いという前提の下では、集団を構成する細胞メンバーは固定化された静的なものであると考える。しかし、現在の神経科学において、セルアセンブリは単に解剖学的な結合特性からではなく、機能的な特性に共通性を持つ細胞集団の概念として使用されることが一般的である。この意味でのセルアセンブリの概念を最初に提案したのはD.O.Hebb <ref name=ref1>'''Donald O. Hebb'''<br>The organization of behavior – a neuropsychological theory.<br>John Wiley & Sons Inc. 1949. </ref>であると考えられる。
 複数の神経細胞が何らかの特性に関して共通性を持つ場合には、これらの細胞集団をセルアセンブリと定義することが可能である<ref name=ref3>'''Braitenberg V.'''<br>Cell Assemblies in the Cerebral Cortex: in Theoretical Approaches to Complex Systems<br>Lecture notes in Biomathematics, Vol. 21, Heim R. and Palm G., Eds.<br>New York, ''Springer'' 1978, pp.171-188. </ref>。共通性を定義する特性は、解剖学的な結合様式(例えば、特定の領野からの投射を受けている細胞全体など)である場合も考えられる。解剖学的な特性から定義されたセルアセンブリに関しては、シナプス結合の[[可塑性]]の時間スケールは心理学的な時間スケール(数百ミリ秒)より十分に長いという前提の下では、集団を構成する細胞メンバーは固定化された静的なものであると考える。しかし、現在の神経科学において、セルアセンブリは単に解剖学的な結合特性からではなく、機能的な特性に共通性を持つ細胞集団の概念として使用されることが一般的である。この意味でのセルアセンブリの概念を最初に提案したのはD.O.Hebb <ref name=ref4>'''Donald O. Hebb'''<br>The organization of behavior – a neuropsychological theory.<br>John Wiley & Sons Inc. 1949. </ref>であると考えられる。


== Hebbのセルアセンブリ ==
== Hebbのセルアセンブリ ==


 Hebbが1949年に発表した著作”Organization of Behavior”<ref name=ref1 />は「引用されはするが読まれることのない幻の名著」(行動の機構、鹿取他訳、下巻 p.265)<ref name=ref2>'''D.O.ヘッブ'''<br>行動の機構 脳メカニズムから心理学へ<br>鹿取廣人、金城辰夫、鈴木光太郎、鳥居修晃、渡邊正孝共訳<br>''岩波文庫'' 2011<br>(有名なヘッブシナプス、ヘッブのセルアセンブリの概念は4章と5章に展開されている。)</ref>として知られる。サイバネティクスが黎明し、機械・コンピュータと生物をシステムとして統一的に研究対象とする機運の高まり、McCulloch & Pittsによる神経細胞ネットワークによる論理回路実現の理論的可能性の提唱などの時代背景において書かれたこの著作には、[[wikipedia:ja:神秘主義|神秘主義]]に陥りがちであった心理学的議論をいかに論理的・合理的に構成するかに対して熟考された内容が展開されている。現在の脳科学の知識を持った我々が読み返すと、「ヘッブシナプス」や「ヘッブのセルアセンブリ」といったHebbの名を冠して引用されることのある、古典として知られる概念だけではなく、活動が時間的相関で関係付けられる細胞集団の動的振る舞いを基本として情報表現、情報処理を議論する最近の研究概念がすでに記述されているように読み取れる。これは、決して読者の欲目だけではないように思われる。Hebbの著作からキー概念と思われる文章を抜き出して、再検討を試みることは、セルアセンブリの基本概念の理解に役立つと考えるため、少々長くなるがここにまとめる。尚、以下の文中で[ ]で囲まれた部分は本概説の執筆者の補足である。
 Hebbが1949年に発表した著作”Organization of Behavior”<ref name=ref4 />は「引用されはするが読まれることのない幻の名著」(行動の機構、鹿取他訳、下巻 p.265)<ref name=ref5>'''D.O.ヘッブ'''<br>行動の機構 脳メカニズムから心理学へ<br>鹿取廣人、金城辰夫、鈴木光太郎、鳥居修晃、渡邊正孝共訳<br>''岩波文庫'' 2011<br>(有名なヘッブシナプス、ヘッブのセルアセンブリの概念は4章と5章に展開されている。)</ref>として知られる。サイバネティクス<ref name=ref6>'''ウイナー N.'''<br>サイバネティクス 第2版:動物と機械における制御と通信<br>池原止戈夫、彌永昌吉、室賀三郎、戸田巌 共訳<br>''岩波書店'' 1962</ref>が黎明し、機械・コンピュータと生物をシステムとして統一的に研究対象とする機運の高まり、McCulloch & Pitts<ref name=ref7>'''McCulloch W., Pitts W.'''<br>Logical Calculus of the Ideas Immanent in Nervous Activity.<br>''Bulletin of Mathematical Biophysics'', 5, 115-133, (1943).</ref>による神経細胞ネットワークによる論理回路実現の理論的可能性の提唱などの時代背景において書かれたこの著作には、[[wikipedia:ja:神秘主義|神秘主義]]に陥りがちであった心理学的議論をいかに論理的・合理的に構成するかに対して熟考された内容が展開されている。現在の脳科学の知識を持った我々が読み返すと、「ヘッブシナプス」や「ヘッブのセルアセンブリ」といったHebbの名を冠して引用されることのある、古典として知られる概念だけではなく、活動が時間的相関で関係付けられる細胞集団の動的振る舞いを基本として情報表現、情報処理を議論する最近の研究概念がすでに記述されているように読み取れる。これは、決して読者の欲目だけではないように思われる。Hebbの著作からキー概念と思われる文章を抜き出して、再検討を試みることは、セルアセンブリの基本概念の理解に役立つと考えるため、少々長くなるがここにまとめる。尚、以下の文中で[ ]で囲まれた部分は本概説の執筆者の補足である。




78行目: 78行目:
== Hebbのセルアセンブリによる心的過程の説明 ==
== Hebbのセルアセンブリによる心的過程の説明 ==


 Hebbは著作"Textbook of Psychology"<ref name=ref3>'''D.O.ヘッブ'''<br>行動学入門 第三版<br>白井常、鹿取廣人、平野俊二、金城辰夫、今村護郎共訳<br>''紀伊國屋書店'' 1975<br>(「媒介過程」に関しては、第5章で説明されている。)</ref>においてセルアセンブリの概念の発展として、様々な心理過程の説明を試みている。この議論からは、Hebbが[[媒介過程]](mediating process)という心理過程の説明としてセルアセンブリを着想したことが推察される。
 Hebbは著作"Textbook of Psychology"<ref name=ref8>'''D.O.ヘッブ'''<br>行動学入門 第三版<br>白井常、鹿取廣人、平野俊二、金城辰夫、今村護郎共訳<br>''紀伊國屋書店'' 1975<br>(「媒介過程」に関しては、第5章で説明されている。)</ref>においてセルアセンブリの概念の発展として、様々な心理過程の説明を試みている。この議論からは、Hebbが[[媒介過程]](mediating process)という心理過程の説明としてセルアセンブリを着想したことが推察される。




:''媒介過程とは、感覚事象によって送られた興奮を、その事象が終わったのちにも保持することができ、それで、刺激がしばらくのちにまで効果をもつことを可能とする脳の活動である、と定義することができよう''(<ref name=ref3 />、p.111)。
:''媒介過程とは、感覚事象によって送られた興奮を、その事象が終わったのちにも保持することができ、それで、刺激がしばらくのちにまで効果をもつことを可能とする脳の活動である、と定義することができよう''(<ref name=ref8 />、p.111)。




 下等な生物における刺激―反応とは異なり、高等生物においては刺激が与えられる前の情況(文脈性)により、同じ刺激に対しても異なる反応が生じる。Hebbはこの媒介過程により、行動の選択性(構えと注意)という心理過程が説明されると主張する。脳内における異なる文脈性の保持のために異なるセルアセンブリの存在を仮定し、刺激により誘発される神経活動とセルアセンブリとの相互作用により、異なる反応が生じると考察している。感覚事象が終了しているにも関わらず脳内において文脈性が保持される神経メカニズムとしては、セルアセンブリの形成する閉回路での神経活動の持続を仮定している。Hebbは[[wikipedia:Rafael Lorente de No|Lorente de Nó]]により提唱された[[反響回路]]([[reverbration]])を想定していると思われるが、「閉回路」にあたる神経活動ダイナミクスの実体は現在の神経科学において解明される必要がある。
 下等な生物における刺激―反応とは異なり、高等生物においては刺激が与えられる前の情況(文脈性)により、同じ刺激に対しても異なる反応が生じる。Hebbはこの媒介過程により、行動の選択性(構えと注意)という心理過程が説明されると主張する。脳内における異なる文脈性の保持のために異なるセルアセンブリの存在を仮定し、刺激により誘発される神経活動とセルアセンブリとの相互作用により、異なる反応が生じると考察している。感覚事象が終了しているにも関わらず脳内において文脈性が保持される神経メカニズムとしては、セルアセンブリの形成する閉回路での神経活動の持続を仮定している。Hebbは[[wikipedia:Rafael Lorente de No|Lorente de Nó]]<ref name=ref9>'''Lorente de Nó R.'''<br>
Cerebral Cortex: Architecture, Intracortical Connections, Motor Projections.<br>
In Fulton J.F., Physiology of the Nervous System, 2nd Ed.<br>New York: ''Oxford Univ. Press'', pp.274-301, (1943).</ref>
により提唱された[[反響回路]]([[reverbration]])を想定していると思われるが、「閉回路」にあたる神経活動ダイナミクスの実体は現在の神経科学において解明される必要がある。


== 機能的セルアセンブリの定義 ==
== 機能的セルアセンブリの定義 ==
90行目: 93行目:
 Hebbのセルアセンブリが解剖学的な共通特性から定義される細胞集団と決定的に異なるのは、細胞の活動状態という動的な特性の共通性により定義される点である。細胞の活動間に相関が存在するためには、解剖学的な結合構造の土台は必要条件である。しかし、特に皮質内ネットワークにおいては、細胞がスパイク発火するためには複数の細胞からの興奮性入力が短時間に集中する必要がある(Hebbの著書ではbombardmentと表現されている)。このため、スパイク活動間の相関関係は必ずしも細胞間の1対1の解剖学的結合とは一致せず、共通入力を送っている複数細胞の活動状態という脳内の文脈性に依存する。これらの概念は、すでに上記のHebbの著作からの抜粋において説明を行った。
 Hebbのセルアセンブリが解剖学的な共通特性から定義される細胞集団と決定的に異なるのは、細胞の活動状態という動的な特性の共通性により定義される点である。細胞の活動間に相関が存在するためには、解剖学的な結合構造の土台は必要条件である。しかし、特に皮質内ネットワークにおいては、細胞がスパイク発火するためには複数の細胞からの興奮性入力が短時間に集中する必要がある(Hebbの著書ではbombardmentと表現されている)。このため、スパイク活動間の相関関係は必ずしも細胞間の1対1の解剖学的結合とは一致せず、共通入力を送っている複数細胞の活動状態という脳内の文脈性に依存する。これらの概念は、すでに上記のHebbの著作からの抜粋において説明を行った。


 発火するかしないかの2状態のみを取る細胞において、細胞活動状態の共通性でセルアセンブリを定義する場合には、ある時間スケールで平均した活動度の相関関係(主として統計的に有意な正の相関を持つ場合)から定義される。しかし、セルアセンブリの定義は平均活動度を計算する時間スケールにより大きく異なる。例えば、心理学的な時間スケール(数百ミリ秒)を適用すれば、通常の意味の平均発火率となり、心理学的時間スケールで発火率が上昇しているという共通性(相関性)がセルアセンブリの定義となる。入力層―隠れ層(中間層)―出力層の3層からなる人工ニューラルネットワークモデルにおいて入力層の発火状態の特定の空間特徴(パターン)に特異的に反応する複数の隠れ層細胞の集団や[[wikipedia:John Hopfield|Hopfield]]の[[連想記憶モデル]]において初期状態からのダイナミクスで収束した[[アトラクター]]で同時に発火状態を取る細胞ユニットの集団などが平均発火率の関係に基づくセルアセンブリに対応する。
 発火するかしないかの2状態のみを取る細胞において、細胞活動状態の共通性でセルアセンブリを定義する場合には、ある時間スケールで平均した活動度の相関関係(主として統計的に有意な正の相関を持つ場合)から定義される。しかし、セルアセンブリの定義は平均活動度を計算する時間スケールにより大きく異なる。例えば、心理学的な時間スケール(数百ミリ秒)を適用すれば、通常の意味の平均発火率となり、心理学的時間スケールで発火率が上昇しているという共通性(相関性)がセルアセンブリの定義となる。入力層―隠れ層(中間層)―出力層の3層からなる人工ニューラルネットワークモデル<ref name=ref10>'''ラメルハート D.E., マクレランド J.L., PDPリサーチグループ'''<br>PDPモデル:認知科学とニューロン回路網の探索<br>甘利俊一監訳 ''産業図書'' 1989</ref>において入力層の発火状態の特定の空間特徴(パターン)に特異的に反応する複数の隠れ層細胞の集団や[[wikipedia:John Hopfield|Hopfield]]の[[連想記憶モデル]]<ref name=ref11><pubmed>6953413</pubmed></ref>において初期状態からのダイナミクスで収束した[[アトラクター]]で同時に発火状態を取る細胞ユニットの集団などが平均発火率の関係に基づくセルアセンブリに対応する。


 一方、活動度の関係性を定義する時間スケールを数ミリ秒とすると、同期発火(シンクロニー)し、細胞間のスパイク時系列の[[相互相関ヒストグラム]](cross-correlogram)に統計的に有意なピークが存在するという特性がセルアセンブリの定義となる。
 一方、活動度の関係性を定義する時間スケールを数ミリ秒とすると、同期発火(シンクロニー)し、細胞間のスパイク時系列の[[相互相関ヒストグラム]](cross-correlogram)に統計的に有意なピークが存在するという特性がセルアセンブリの定義となる<ref name=ref12><pubmed>2646211</pubmed></ref> <ref name=ref13>'''Abeles M.'''<br>Corticonics –neural circuits of the cerebral cortex.<br>Cambridge U.P., Cambridge, 1991. </ref>。


==セルアセンブリによる情報符号化と分散表現 ==
==セルアセンブリによる情報符号化と分散表現 ==
103行目: 106行目:
==  セルアセンブリの実験的検証 ==
==  セルアセンブリの実験的検証 ==


 Hebbがセルアセンブリの概念を提唱した当時は、皮質内の単一細胞の[[細胞外記録]]が技術的限界であったため、セルアセンブリの存在の実験的検証は不可能であった。単一細胞の活動記録技術が確立し、脳の異なる領野において個々の細胞が外界刺激変数に対して高度に特殊化した反応特性を示すことが発見されると、情報処理の機能を単一細胞レベルで議論する研究が中心となった。例えば、[[Lettvin]]らの著名な論文 "What the frog's eye tells the frog's brain”やMountcastleやHubel & Wieselらの機能的に特化した細胞の構成による[[コラム構造]]などの発見である。
 Hebbがセルアセンブリの概念を提唱した当時は、皮質内の単一細胞の[[細胞外記録]]が技術的限界であったため、セルアセンブリの存在の実験的検証は不可能であった。単一細胞の活動記録技術が確立し、脳の異なる領野において個々の細胞が外界刺激変数に対して高度に特殊化した反応特性を示すことが発見されると、情報処理の機能を単一細胞レベルで議論する研究が中心となった。例えば、[[Lettvin]]らの著名な論文 "What the frog's eye tells the frog's brain"<ref name=ref14> '''Lettvin J.Y., Maturana H.R., McCulloch W.S., Pitts W.H.'''<br>What the Frog's Eye Tells the Frog's Brain.<br>''Proceedings of the IRE'', 47, 1940-1959, (1959).
</ref>やMountcastle<ref name=ref15><pubmed>14434571</pubmed></ref>やHubel & Wiesel<ref name=ref16><pubmed>14449617</pubmed></ref>らの機能的に特化した細胞の構成による[[コラム構造]]などの発見である。


 しかし、単一細胞の発火率という一変数だけでは表現の自由度が足りず(例えば、[[視覚皮質]]の[[方位選択性]]細胞の発火率の変化だけから刺激方位の変化とコントラストの変化の両方を復号化することは不可能である)、異なる反応特性を示す細胞集団によるポピュレーション平均または活動プロファイルという情報表現形式(集団符号化)が検討される必要が生じた。また、刺激に対する単一試行の細胞活動には大きな確率的変動性 (variability) が存在することから、同一または類似した反応特性を示す細胞集団に渡るアンサンブル平均による神経反応の信頼性の向上の必要性が議論されている。
 しかし、単一細胞の発火率という一変数だけでは表現の自由度が足りず(例えば、[[視覚皮質]]の[[方位選択性]]細胞の発火率の変化だけから刺激方位の変化とコントラストの変化の両方を復号化することは不可能である)、異なる反応特性を示す細胞集団によるポピュレーション平均または活動プロファイルという情報表現形式(集団符号化)が検討される必要が生じた。また、刺激に対する単一試行の細胞活動には大きな確率的変動性 (variability) が存在することから、同一または類似した反応特性を示す細胞集団に渡るアンサンブル平均による神経反応の信頼性の向上の必要性が議論されている。
114行目: 118行目:
== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
<references />
<references />
  4. '''Gerstein G.L., Bedenbaugh P., Aertsen AD M.H.J.'''<br>    Neuronal Assembiles<br>    ''IEEE Trans. Biomed.'' Eng. 36, 4-14, (1989).
  5. '''Abeles M.'''<br>    Corticonics –neural circuits of the cerebral cortex.<br>    ''Cambridge U.P.'', Cambridge, 1991.
  6. '''Braitenberg V.'''<br>    Cell Assemblies in the Cerebral Cortex: in Theoretical Approaches to Complex Systems<br>    ''Lecture notes in Biomathematics'', Vol. 21, Heim R. and Palm G., Eds. <br>    New York, Springer 1978, pp.171-188.