「ダウン症」の版間の差分

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<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0208963 山川 和弘]</font><br>
<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0208963 山川 和弘]</font><br>
''独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター''<br>
''独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター''<br>
DOI [[XXXX]]/XXXX 原稿受付日:2012年5月11日 原稿完成日:2013年XX月XX日<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年5月11日 原稿完成日:2013年11月18日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/ryosuketakahashi 高橋 良輔](京都大学 大学院医学研究科)<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0141446 漆谷 真](滋賀医科大学 医学部 脳神経内科)<br>
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===病理所見===
===病理所見===


 [[大脳]][[小脳半球]]、腹側脳橋'''(この解剖名称は耳慣れないものですが、脳梁でしょうか?橋でしょうか?腹側がつくかもご確認下さい)'''、[[乳頭体]]、[[海馬体]]の低形成、および[[海馬傍回]]の膨大などが、又、組織学的所見として神経細胞([[顆粒細胞]])'''(嗅球?小脳?海馬でしょうか?)'''密度の低下、神経[[細胞分化]]、[[軸索]]有髄化、[[樹状突起]]形成などの異常などが報告され、これらの異常が精神遅滞の基礎をなしていると予想されている。
 脳重は1000g程度のものが多く、上側頭回の低形成が特徴的で剖検例の約半数に認められる。また[[大脳]]に比し[[小脳]]と脳幹部が顕著に小さいこ とも特徴であり、[[乳頭体]]、[[海馬体]]の低形成、および[[海馬傍回]]の膨大所見が報告されている。組織学的所見として[[無棘星状細胞]]の縮小、[[ブロードマン3、1、2野|ブロードマン3]], [[ブロードマン17野|17]], [[ブロードマン41野|41野]]における[[大脳皮質]]の[[顆粒細胞]]の密度低下、神経[[細胞分化]]、[[軸索]]有髄化や[[樹状突起]]形成などの異常などが報告され、これらの異常が精神遅滞の基礎をなしていると予想されて いる。


==病態==
==病態==
=== 染色体異常 ===
=== 染色体異常 ===
[[image:ダウン症1.png|thumb|300px|'''図1.部分トリソミーを持つダウン症モデルマウス'''<br>Ts65Dn, Ts2Cje, Ts1Cje, Ts1Rhr'''(図の説明を御願い致します)''']]
 21番染色体が1本余分で計3本(トリソミー)になっており、このことが発症の原因とされる。染色体の不分離や転座によっておこる。染色体の不分離によって起こるケースは全体の95%を占める。2011年の[http://www.gencodegenes.org/ GENCODEプロジェクト]の報告によると、21番染色体上には696個の遺伝子(タンパク質をコードするものは235個)が存在するとされるが、これらの遺伝子の発現量の過剰がダウン症の発症に関わると考えられるが、実際にどの遺伝子がどの症状の発症にどのように関わるのかは明らかでない。
 21番染色体が1本余分で計3本(トリソミー)になっており、このことが発症の原因とされる。染色体の不分離や転座によっておこる。染色体の不分離によって起こるケースは全体の95%を占める。2011年の[http://www.gencodegenes.org/ GENCODEプロジェクト]の報告によると、21番染色体上には696個の遺伝子(タンパク質をコードするものは235個)が存在するとされるが、これらの遺伝子の発現量の過剰がダウン症の発症に関わると考えられるが、実際にどの遺伝子がどの症状の発症にどのように関わるのかは明らかでない。


 ごくわずかの症例で第21染色体の一部のみがトリソミーになっているものが見られる。これらの症例の症状とトリソミーになっている領域を比較することにより、それぞれの症状に責任のある遺伝子の場所をある程度推定することが出来るとして複数の研究が報告されている。
 ごくわずかの症例で第21染色体の一部のみがトリソミーになっているものが見られる。これらの症例の症状とトリソミーになっている領域を比較することにより、それぞれの症状に責任のある遺伝子の場所をある程度推定することが出来るとして複数の研究が報告されている。


 Niebuhrらはアミロイド前駆体タンパク質(APP)から[[wikipedia:ja:テロメア|テロメア]]を部分トリソミーでもつ患者がダウン症の主な症状を有することから、この領域が重要であるとした<ref name=ref2><pubmed>4276065</pubmed></ref>。更に、[[セントロメア]]から[[スーパーオキシドディスムターゼ]]([[SOD]])までをトリソミーで有する患者では精神遅滞の程度が軽いとする報告がある<ref name=ref3><pubmed>2149936</pubmed></ref>。Delabarらは複数の部分トリソミー患者を検討することによりD21S55を含む4Mbの領域が重要としダウン症責任領域(DSCR)と名付けた<ref name=ref4><pubmed>8055322</pubmed></ref>。
 Niebuhrらは[[アミロイド前駆体タンパク質]]([[APP]])から[[wikipedia:ja:テロメア|テロメア]]を部分トリソミーでもつ患者がダウン症の主な症状を有することから、この領域が重要であるとした<ref name=ref2><pubmed>4276065</pubmed></ref>。更に、[[セントロメア]]から[[スーパーオキシドディスムターゼ]]([[SOD]])までをトリソミーで有する患者では精神遅滞の程度が軽いとする報告がある<ref name=ref3><pubmed>2149936</pubmed></ref>。Delabarらは複数の部分トリソミー患者を検討することによりD21S55を含む4Mbの領域が重要としダウン症責任領域(DSCR)と名付けた<ref name=ref4><pubmed>8055322</pubmed></ref>。


 一方、Korenbergらは複数の領域が発症に関わるとし、DSCRのような単一の領域が主な症状すべてに責任を持つとする説を否定している<ref name=ref5><pubmed>8197171</pubmed></ref>。又、精神遅滞については軽重の差こそあれ重複のない異なる領域を部分トリソミーで有する複数の患者で見られることから、その発症にかかわる遺伝子が第21染色体上に複数あることは間違いない。
 一方、Korenbergらは複数の領域が発症に関わるとし、DSCRのような単一の領域が主な症状すべてに責任を持つとする説を否定している<ref name=ref5><pubmed>8197171</pubmed></ref>。又、精神遅滞については軽重の差こそあれ重複のない異なる領域を部分トリソミーで有する複数の患者で見られることから、その発症にかかわる遺伝子が第21染色体上に複数あることは間違いない。


===動物モデル===
===動物モデル===
[[image:ダウン症1.png|thumb|300px|'''図1.部分トリソミーを持つダウン症モデルマウス'''<br>[[ダウン症#動物モデル]]を参照。]]
 ヒト第21染色体に対応するのがマウス第16染色体の一部であり、現在までに、この第16染色体の部分トリソミーを持ついくつかのマウスがダウン症のモデルとして報告されている。Ts65Dn<ref name=ref6><pubmed>2147289</pubmed></ref>およびTs2Cje<ref name=ref7><pubmed>15859352</pubmed></ref>はAPPから[[Mx1]]までの15.6Mbの部分をトリソミーで持ち、Ts1Cje<ref name=ref8><pubmed>9600952</pubmed></ref>は[[SOD1]]からMX1までの9.8Mbの大きさをトリソミーで持つ。これらのマウスでは[[モリス水迷路テスト]]などの行動学的試験が行われ精神遅滞様の行動異常が確認されているが、Ts1CjeはTs65Dn,Ts2Cjeに比べて[[学習障害]]の程度が軽く、ダウン症患者でみられる[[コリン作動性ニューロン]]の変性はTs65Dnのみで見られるなどの違いが確認されている<ref name=ref9><pubmed>7550346</pubmed></ref> <ref name=ref8 /> <ref name=ref7 />。
 ヒト第21染色体に対応するのがマウス第16染色体の一部であり、現在までに、この第16染色体の部分トリソミーを持ついくつかのマウスがダウン症のモデルとして報告されている。Ts65Dn<ref name=ref6><pubmed>2147289</pubmed></ref>およびTs2Cje<ref name=ref7><pubmed>15859352</pubmed></ref>はAPPから[[Mx1]]までの15.6Mbの部分をトリソミーで持ち、Ts1Cje<ref name=ref8><pubmed>9600952</pubmed></ref>は[[SOD1]]からMX1までの9.8Mbの大きさをトリソミーで持つ。これらのマウスでは[[モリス水迷路テスト]]などの行動学的試験が行われ精神遅滞様の行動異常が確認されているが、Ts1CjeはTs65Dn,Ts2Cjeに比べて[[学習障害]]の程度が軽く、ダウン症患者でみられる[[コリン作動性ニューロン]]の変性はTs65Dnのみで見られるなどの違いが確認されている<ref name=ref9><pubmed>7550346</pubmed></ref> <ref name=ref8 /> <ref name=ref7 />。


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 第21染色体上に存在する複数の遺伝子が精神遅滞の発症に関わる遺伝子の候補として報告されている。しかしながらこれらの遺伝子のダウン症発症に於ける実際の意義については確定的な事が言える状況では到底無く、それらを明らかにし、更には実際の治療に結びつけて行く為には今後更なる検証、研究が必要である。
 第21染色体上に存在する複数の遺伝子が精神遅滞の発症に関わる遺伝子の候補として報告されている。しかしながらこれらの遺伝子のダウン症発症に於ける実際の意義については確定的な事が言える状況では到底無く、それらを明らかにし、更には実際の治療に結びつけて行く為には今後更なる検証、研究が必要である。
;[[Sim2]]
;[[Sim2]]
:helix-loop-helix構造を持ち、中枢神経系の初期発生に関わる[[転写制御因子]]であり、&[[beta;アクチン]][[プロモーター]]下で発現制御されたSIM2を持つ[[トランスジェニックマウス]]での[[記憶]][[学習]]能力の異常<ref name=ref19><pubmed>10400987</pubmed></ref>、Sim2を有する[[wikipedia:BAC|BAC]]クローンのトランスジェニックマウスでの[[不安]]行動、[[痛覚鈍麻]]、[[社会性行動]]減少<ref name=ref20><pubmed>10915774</pubmed></ref>などが報告されている。
:helix-loop-helix構造を持ち、中枢神経系の初期発生に関わる[[転写制御因子]]であり、[[βアクチン]][[プロモーター]]下で発現制御されたSIM2を持つ[[トランスジェニックマウス]]での[[記憶]][[学習]]能力の異常<ref name=ref19><pubmed>10400987</pubmed></ref>、Sim2を有する[[wikipedia:BAC|BAC]]クローンのトランスジェニックマウスでの[[不安]]行動、[[痛覚鈍麻]]、[[社会性行動]]減少<ref name=ref20><pubmed>10915774</pubmed></ref>などが報告されている。


;[[DYRK1A]]
;[[DYRK1A]]

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