「ダウン症」の版間の差分

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=== 染色体上の責任領域 ===
=== 染色体上の責任領域 ===
 
====症例からの研究====
 実際にどの遺伝子がどの症状の発症にどのように関わるのかを調べることが重要な課題である。ダウン症はそのほとんどが第21染色体がトリソミー(3コピー)になることにより引き起こされるが、ごくわずかの症例で第21染色体の一部のみがトリソミーになっているものが見られる。これらの症例の症状とトリソミーになっている領域を比較することにより、それぞれの症状に責任のある遺伝子の場所をある程度推定することが出来るとして複数の研究が報告されている。Niebuhrら<ref><pubmed> 4276065</pubmed></ref>は[[APP]]から[[テロメア]]を部分トリソミーでもつ患者がダウン症の主な症状を有することから、この領域が重要であるとした。更に、[[セントロメア]]から[[SOD]]までをトリソミーで有する患者では精神遅滞の程度が軽いとする報告がある<ref><pubmed> 2149936</pubmed></ref>。Delabarら<ref><pubmed> 8055322</pubmed></ref>は複数の部分トリソミー患者を検討することによりD21S55を含む4Mbの領域が重要とし[[ダウン症責任領域]](DSCR)と名付けた。一方、Korenbergら<ref><pubmed> 8197171</pubmed></ref>は複数の領域が発症に関わるとし、DSCRのような単一の領域が主な症状すべてに責任を持つとする説を否定している。又、精神遅滞については軽重の差こそあれ重複のない異なる領域を部分トリソミーで有する複数の患者で見られることから、その発症にかかわる遺伝子が第21染色体上に複数あることは間違いない。
 実際にどの遺伝子がどの症状の発症にどのように関わるのかを調べることが重要な課題である。ダウン症はそのほとんどが第21染色体がトリソミー(3コピー)になることにより引き起こされるが、ごくわずかの症例で第21染色体の一部のみがトリソミーになっているものが見られる。これらの症例の症状とトリソミーになっている領域を比較することにより、それぞれの症状に責任のある遺伝子の場所をある程度推定することが出来るとして複数の研究が報告されている。Niebuhrら<ref><pubmed> 4276065</pubmed></ref>は[[APP]]から[[テロメア]]を部分トリソミーでもつ患者がダウン症の主な症状を有することから、この領域が重要であるとした。更に、[[セントロメア]]から[[SOD]]までをトリソミーで有する患者では精神遅滞の程度が軽いとする報告がある<ref><pubmed> 2149936</pubmed></ref>。Delabarら<ref><pubmed> 8055322</pubmed></ref>は複数の部分トリソミー患者を検討することによりD21S55を含む4Mbの領域が重要とし[[ダウン症責任領域]](DSCR)と名付けた。一方、Korenbergら<ref><pubmed> 8197171</pubmed></ref>は複数の領域が発症に関わるとし、DSCRのような単一の領域が主な症状すべてに責任を持つとする説を否定している。又、精神遅滞については軽重の差こそあれ重複のない異なる領域を部分トリソミーで有する複数の患者で見られることから、その発症にかかわる遺伝子が第21染色体上に複数あることは間違いない。
 
====動物モデル====
 [[ヒト]]でのダウン症研究の一方で、[[マウス]]を使った研究も進められている。ヒト第21染色体に対応するのがマウス第16染色体の一部であり、現在までに、この第16染色体の部分トリソミーを持ついくつかのマウスがダウン症のモデルとして報告されている。Ts65Dn <ref><pubmed> 2147289</pubmed></ref>およびTs2Cje<ref name=villar2005><pubmed> 15859352</pubmed></ref>はAPPから[[wikipedia:Mx1|Mx1]]までの15.6Mbの部分をトリソミーで持ち、Ts1Cje <ref name=sago1998><pubmed> 9600952</pubmed></ref>はSOD1からMX1までの9.8Mbの大きさをトリソミーで持つ。これらのマウスでは[[モリス水迷路テスト]]などの行動学的試験が行われ精神遅滞様の行動異常が確認されているが、Ts1CjeはTs65Dn,Ts2Cjeに比べて学習障害の程度が軽く、ダウン症患者でみられる[[コリン]]作動性ニューロンの変性はTs65Dnのみで見られるなどの違いが確認されている<ref><pubmed>7550346</pubmed></ref><ref name=sago1998><pubmed> 9600952</pubmed></ref><ref name=villar2005><pubmed> 15859352</pubmed></ref>。ダウン症の患者では小脳が小さいことは先にも述べたが、これらのマウスモデルでも小脳が小さいことが確認されており、更にその程度はTs1CjeとTs65Dnでほぼ同じであることから、少なくとも小脳のサイズを小さくしている遺伝子はTs1Cjeがトリソミーで持つ領域に存在する遺伝子である可能性が高い。Ms1Ts65はTs65Dnがトリソミーで持つ部分のうち、Ts1Cjeに対応する部分をのぞいたAPPからSOD1までの領域をトリソミーで持つマウスであり、精神遅滞様行動の程度はTs1Cjeのそれよりも、更に軽いと報告されている<ref><pubmed>11044479</pubmed></ref>。最近では更に領域を絞り込んだトリソミーモデルマウス、Ts1Rhrも報告されている<ref><pubmed> 15499018</pubmed></ref> <ref><pubmed> 19420260</pubmed></ref>。
 [[ヒト]]でのダウン症研究の一方で、[[マウス]]を使った研究も進められている。ヒト第21染色体に対応するのがマウス第16染色体の一部であり、現在までに、この第16染色体の部分トリソミーを持ついくつかのマウスがダウン症のモデルとして報告されている。Ts65Dn <ref><pubmed> 2147289</pubmed></ref>およびTs2Cje<ref name=villar2005><pubmed> 15859352</pubmed></ref>はAPPから[[wikipedia:Mx1|Mx1]]までの15.6Mbの部分をトリソミーで持ち、Ts1Cje <ref name=sago1998><pubmed> 9600952</pubmed></ref>はSOD1からMX1までの9.8Mbの大きさをトリソミーで持つ。これらのマウスでは[[モリス水迷路テスト]]などの行動学的試験が行われ精神遅滞様の行動異常が確認されているが、Ts1CjeはTs65Dn,Ts2Cjeに比べて学習障害の程度が軽く、ダウン症患者でみられる[[コリン]]作動性ニューロンの変性はTs65Dnのみで見られるなどの違いが確認されている<ref><pubmed>7550346</pubmed></ref><ref name=sago1998><pubmed> 9600952</pubmed></ref><ref name=villar2005><pubmed> 15859352</pubmed></ref>。ダウン症の患者では小脳が小さいことは先にも述べたが、これらのマウスモデルでも小脳が小さいことが確認されており、更にその程度はTs1CjeとTs65Dnでほぼ同じであることから、少なくとも小脳のサイズを小さくしている遺伝子はTs1Cjeがトリソミーで持つ領域に存在する遺伝子である可能性が高い。Ms1Ts65はTs65Dnがトリソミーで持つ部分のうち、Ts1Cjeに対応する部分をのぞいたAPPからSOD1までの領域をトリソミーで持つマウスであり、精神遅滞様行動の程度はTs1Cjeのそれよりも、更に軽いと報告されている<ref><pubmed>11044479</pubmed></ref>。最近では更に領域を絞り込んだトリソミーモデルマウス、Ts1Rhrも報告されている<ref><pubmed> 15499018</pubmed></ref> <ref><pubmed> 19420260</pubmed></ref>。