「テスト」の版間の差分

サイズ変更なし 、 2013年5月18日 (土)
編集の要約なし
編集の要約なし
編集の要約なし
1行目: 1行目:
{{chembox
<font size="+1">楢橋敏夫†<br></font>
''Department of Molecular Pharmacology and Biological Chemistry, Northwestern University Feinberg School of Medicine, 303 E. Chicago Avenue, Chicago, IL 60611, USA''
 
DOI XXXXXX/XXX 原稿受取日:2011年11月30日 原稿受理日:2012年12月1日
 
英:tetrodotoxin、英略語:TTX、独:Tetrodotoxin、仏:tétrodotoxine
 
同義語:テトロドトキシン<br>
 
 フグ毒テトロドトキシンは1960年の初めに、[[wikipedia:jp:神経|神経]]、[[wikipedia:jp:筋肉|筋肉]]の興奮をつかさどる[[電位依存性ナトリウムチャネル]](Na<sup>+</sup>チャネル)を低濃度でしかも選択的に阻害することが証明されて以来、[[チャネル]]の実験に欠かせないchemical toolとして世界中で広く使われてきている。テトロドトキシンがきっかけとなって他の毒物や治療薬のチャネルに対する作用機構の研究が重要視され、channelopathyは医学生物学のホットなトピックになった。現在ではテトロドトキシン抵抗性Na<sup>+</sup>チャネルの存在も知られている。テトロドトキシンは[[wikipedia:jp:フグ|フグ]]が作るのではなく、海産の[[wikipedia:jp:細菌|細菌]]によって作られ、[[wikipedia:jp:食物連鎖|食物連鎖]]を経てフグの主に[[wikipedia:jp:卵巣|卵巣]]や[[wikipedia:jp:肝臓|肝臓]]に蓄えられる。フグの種類によってはほとんどテトロドトキシンを持たないものもある。この様な機構を反映して、テトロドトキシンはフグ以外の[[wikipedia:jp:海産動物|海産動物]]、例外的には[[wikipedia:jp:陸生動物|陸生動物]]にも見出されている。テトロドトキシンをもった動物はテトロドトキシン に対する[[wikipedia:jp:LD50|LD50]]が非常に高い。フグ中毒は主に神経、筋肉系の麻痺によるものであるが、[[wikipedia:jp:解毒剤|解毒剤]]は見つかっておらず、[[wikipedia:jp:人工呼吸|人工呼吸]]が対症療法的に有効である。臨床へのテトロドトキシンの利用もいろいろ試みられているが、まだ試験段階である。
 
== 歴史的背景  =={{chembox
| 化合物名 = (−)-テトロドトキシン
| 化合物名 = (−)-テトロドトキシン
|画像ファイル=Tetrodotoxin.svg
|画像ファイル=Tetrodotoxin.svg
34行目: 45行目:
| LD50 = 334 μg/kg([[マウス]]、経口)}}
| LD50 = 334 μg/kg([[マウス]]、経口)}}
}}  
}}  
<font size="+1">楢橋敏夫†<br></font>
Department of Molecular Pharmacology and Biological Chemistry, Northwestern University Feinberg School of Medicine, 303 E. Chicago Avenue, Chicago, IL 60611, USA
DOI XXXXXX/XXX 原稿受取日:2011年11月30日 原稿受理日:2012年12月1日
英:tetrodotoxin、英略語:TTX、独:Tetrodotoxin、仏:tétrodotoxine
同義語:テトロドトキシン<br>
 フグ毒テトロドトキシンは1960年の初めに、[[wikipedia:jp:神経|神経]]、[[wikipedia:jp:筋肉|筋肉]]の興奮をつかさどる[[電位依存性ナトリウムチャネル]](Na<sup>+</sup>チャネル)を低濃度でしかも選択的に阻害することが証明されて以来、[[チャネル]]の実験に欠かせないchemical toolとして世界中で広く使われてきている。テトロドトキシンがきっかけとなって他の毒物や治療薬のチャネルに対する作用機構の研究が重要視され、channelopathyは医学生物学のホットなトピックになった。現在ではテトロドトキシン抵抗性Na<sup>+</sup>チャネルの存在も知られている。テトロドトキシンは[[wikipedia:jp:フグ|フグ]]が作るのではなく、海産の[[wikipedia:jp:細菌|細菌]]によって作られ、[[wikipedia:jp:食物連鎖|食物連鎖]]を経てフグの主に[[wikipedia:jp:卵巣|卵巣]]や[[wikipedia:jp:肝臓|肝臓]]に蓄えられる。フグの種類によってはほとんどテトロドトキシンを持たないものもある。この様な機構を反映して、テトロドトキシンはフグ以外の[[wikipedia:jp:海産動物|海産動物]]、例外的には[[wikipedia:jp:陸生動物|陸生動物]]にも見出されている。テトロドトキシンをもった動物はテトロドトキシン に対する[[wikipedia:jp:LD50|LD50]]が非常に高い。フグ中毒は主に神経、筋肉系の麻痺によるものであるが、[[wikipedia:jp:解毒剤|解毒剤]]は見つかっておらず、[[wikipedia:jp:人工呼吸|人工呼吸]]が対症療法的に有効である。臨床へのテトロドトキシンの利用もいろいろ試みられているが、まだ試験段階である。
== 歴史的背景  ==
 フグには強力な毒があるということは5000年も前から[[wikipedia:jp:エジプト|エジプト]]その他で知られていた。特に日本ではフグは最もおいしい[[wikipedia:jp:魚|魚]]として長い間賞玩されてきた。しかしその毒のために中毒死が絶えず、薬理学的な対象として広く研究されてきたとはいえ、以前は[[wikipedia:Kymograph|キモグラフ]]を使うような非常に古典的な手法によっていたので、[[wikipedia:jp:神経毒|神経毒]]であるこことは知られていても詳しい作用機構はわからなかった。1960年の初めにテトロドトキシンの[[wikipedia:jp:化学構造|化学構造]]が決定され、また神経、筋肉などで興奮をつかさどるNa<sup>+</sup>チャネルを低濃度でしかも選択的に阻害することが証明されて以来、実験室でのchemical tool として世界中で広く使われ、一躍神経生理、薬理のチャンピオンとしてデビューするようになった。これをきっかけにして、いろいろな化合物がchemical tool として使われる様になり、またさまざまな治療薬のチャネルに対する影響の研究が盛んになった。その結果、チャネルの分子的同定が進み、channelopathy が重要な医学生物学の分野として発展するようになった。  
 フグには強力な毒があるということは5000年も前から[[wikipedia:jp:エジプト|エジプト]]その他で知られていた。特に日本ではフグは最もおいしい[[wikipedia:jp:魚|魚]]として長い間賞玩されてきた。しかしその毒のために中毒死が絶えず、薬理学的な対象として広く研究されてきたとはいえ、以前は[[wikipedia:Kymograph|キモグラフ]]を使うような非常に古典的な手法によっていたので、[[wikipedia:jp:神経毒|神経毒]]であるこことは知られていても詳しい作用機構はわからなかった。1960年の初めにテトロドトキシンの[[wikipedia:jp:化学構造|化学構造]]が決定され、また神経、筋肉などで興奮をつかさどるNa<sup>+</sup>チャネルを低濃度でしかも選択的に阻害することが証明されて以来、実験室でのchemical tool として世界中で広く使われ、一躍神経生理、薬理のチャンピオンとしてデビューするようになった。これをきっかけにして、いろいろな化合物がchemical tool として使われる様になり、またさまざまな治療薬のチャネルに対する影響の研究が盛んになった。その結果、チャネルの分子的同定が進み、channelopathy が重要な医学生物学の分野として発展するようになった。  


== 化学構造  ==
== 化学構造  ==
 1964年に京都で開かれたFourth International Conference on the Natural Productsで3つのグループ(日本「2」、アメリカ「1」)によって発表された(C11H17N3O8, 分子量319 )。テトロドトキシン分子は[[wikipedia:jp:グアニジン|グアニジウム基]]を含み、またhemilactal結合を持っていることが特徴である。テトロドトキシンは[[wikipedia:jp:双性イオン|双性イオン]](zwitterion)の形をとり2種類のカチオンにイオン化される。水には直接溶けず、[[細胞膜]]は通れない。しかし酸性の溶液には溶解し、比較的安定である。pH 4.8、4 の条件下での分解時定数は14ヶ月と測定されている。アルカリ性の溶液中では不安定である。  
 1964年に京都で開かれたFourth International Conference on the Natural Productsで3つのグループ(日本「2」、アメリカ「1」)によって発表された(C11H17N3O8, 分子量319 )。テトロドトキシン分子は[[wikipedia:jp:グアニジン|グアニジウム基]]を含み、またhemilactal結合を持っていることが特徴である。テトロドトキシンは[[wikipedia:jp:双性イオン|双性イオン]](zwitterion)の形をとり2種類のカチオンにイオン化される。水には直接溶けず、[[細胞膜]]は通れない。しかし酸性の溶液には溶解し、比較的安定である。pH 4.8、4 の条件下での分解時定数は14ヶ月と測定されている。アルカリ性の溶液中では不安定である。