「テタヌス毒素」の版間の差分

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英:tetanus toxin、英語略:TeNT、独:Wundstarrkrampf 仏:toxine tétanique
同義語:破傷風毒素、テタノスパスミン (tetanospasmin)
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<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0122221 相川 義勝]、[http://researchmap.jp/shigeotakamori 高森 茂雄]</font><br>
<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0122221 相川 義勝]、[http://researchmap.jp/shigeotakamori 高森 茂雄]</font><br>
''同志社大学 高等研究教育機構''<br>
''同志社大学 高等研究教育機構''<br>
DOI [[XXXX]]/XXXX 原稿受付日:2012年5月21日 原稿完成日:2014年4月20日<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年5月21日 原稿完成日:2014年4月20日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/2rikenbsi 林 康紀](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/2rikenbsi 林 康紀](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br>
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英:tetanus toxin、英語略:TeNT、独:Tetanustoxin 仏:toxine tétanique
同義語:破傷風毒素、テタノスパスミン (tetanospasmin)
{{box|text= テタヌス毒素とは、土壌中に棲息する[[wj:グラム陽性型|グラム陽性型]][[嫌気性細菌]]である[[wj:クロストリジウム属|クロストリジウム属]]の([[wj:破傷風菌|破傷風菌]])''Clostridium tetani''によって産出される世界最強のタンパク質毒素の1つである。 同属には([[wj:ボツリヌス菌|ボツリヌス菌]])''Clostridium botulinum''が産出する[[ボツリヌス毒素]]があり、これらは共に分子量約50 kDaの軽鎖と100 kDaの重鎖の2本のポリペプチド鎖から構成される。テタヌス毒素の生体への毒素の作用機序としては、まず重鎖が神経細胞の膜にある[[ガングリオシド]]に結合し、続いてテタヌス毒素分子の細胞内への侵入を起こす。侵入後、[[wj:亜鉛|亜鉛]]依存的なタンパク質分解活性をもつ軽鎖が、[[神経伝達物質]]の[[エキソサイトーシス]]を担う[[SNARE]]タンパク質の1つである[[VAMP]]を分解することで神経伝達物質の放出が抑制される。その結果、[[テタヌス]]([[tetanus]])と呼ばれる[[痙攣]]性[[麻痺]]が引き起こされる。 }}
{{box|text= テタヌス毒素とは、土壌中に棲息する[[wj:グラム陽性型|グラム陽性型]][[嫌気性細菌]]である[[wj:クロストリジウム属|クロストリジウム属]]の([[wj:破傷風菌|破傷風菌]])''Clostridium tetani''によって産出される世界最強のタンパク質毒素の1つである。 同属には([[wj:ボツリヌス菌|ボツリヌス菌]])''Clostridium botulinum''が産出する[[ボツリヌス毒素]]があり、これらは共に分子量約50 kDaの軽鎖と100 kDaの重鎖の2本のポリペプチド鎖から構成される。テタヌス毒素の生体への毒素の作用機序としては、まず重鎖が神経細胞の膜にある[[ガングリオシド]]に結合し、続いてテタヌス毒素分子の細胞内への侵入を起こす。侵入後、[[wj:亜鉛|亜鉛]]依存的なタンパク質分解活性をもつ軽鎖が、[[神経伝達物質]]の[[エキソサイトーシス]]を担う[[SNARE]]タンパク質の1つである[[VAMP]]を分解することで神経伝達物質の放出が抑制される。その結果、[[テタヌス]]([[tetanus]])と呼ばれる[[痙攣]]性[[麻痺]]が引き起こされる。 }}
{{Infobox protein family
{{Infobox protein family
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 テタヌス(Tetanus)という用語は、それによって起きる強直(麻痺)を”tetanus”として定義した[[wj:ヒポクラテス|ヒポクラテス]]により、最初に医学用語に記された<ref>'''Ornella Rossetto and Cesare Montecucco'''<br>Handbook of Experimental Pharmacology 184,129-170<br>''Springer'':2008</ref>。そのテタヌス([[wj:破傷風|破傷風]])の原因であるテタヌス毒素 は、嫌気性細菌である(破傷風菌)(''Clostridium tetani '')により分子量150 kDaの不活性型の単純タンパク質として産出される。
 テタヌス(Tetanus)という用語は、それによって起きる強直(麻痺)を”tetanus”として定義した[[wj:ヒポクラテス|ヒポクラテス]]により、最初に医学用語に記された<ref>'''Ornella Rossetto and Cesare Montecucco'''<br>Handbook of Experimental Pharmacology 184,129-170<br>''Springer'':2008</ref>。そのテタヌス([[wj:破傷風|破傷風]])の原因であるテタヌス毒素 は、嫌気性細菌である(破傷風菌)(''Clostridium tetani '')により分子量150 kDaの不活性型の単純タンパク質として産出される。


 テタヌス毒素の[[半数致死量]](LD<sub>50</sub>)は、[[マウス]]の[[末梢神経]]へ投与した場合、1 kgあたり0.4 ngから1 ngの間である<ref><pubmed>6806598</pubmed></ref>。テタヌス(破傷風)の発症は、破傷風菌]の[[wj:胞子|胞子]]が、傷口から体内に侵入することにより感染が起こる。最初の感染から発症まで数日から4週間かかるがこれは、
 テタヌス毒素の[[半数致死量]](LD<sub>50</sub>)は、[[マウス]]の[[末梢神経]]へ投与した場合、1 kgあたり0.4 ngから1 ngの間である<ref><pubmed>6806598</pubmed></ref>。テタヌス(破傷風)の発症は、破傷風菌の[[wj:胞子|胞子]]が、傷口から体内に侵入することにより感染が起こる。最初の感染から発症まで数日から4週間かかるがこれは、
#[[wj:胞子|胞子]]の出芽
#[[wj:胞子|胞子]]の出芽
#毒素の産出と放出
#毒素の産出と放出
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==症状==
==症状==
 通常、開口障害、[[嚥下障害]]そして項部硬直などの症状により始まる。麻痺は時間経過に伴い、胴体、腹部そして脚の筋肉へと下部へと広がっていく(図1)。しばしば致命的となり、全身倦怠、呼吸器系や[[wj:心不全|心不全]]の後、死に到る。致死率は近年の医学の進歩により減少しているが、高齢者の患者の場合では依然として高い。([[wj:ホルムアルデヒド|ホルムアルデヒド]]で処理する事で[[wj:ワクチン|ワクチン]]化した毒素により、先進国からはほとんど消失したが、[[wj:ワクチン|ワクチン]]接種が進んでいない国々では依然として年間数十万人もの人々が亡くなっている。  
 通常、開口障害、[[嚥下障害]]そして項部硬直などの症状により始まる。麻痺は時間経過に伴い、胴体、腹部そして脚の筋肉へと下部へと広がっていく(図1)。しばしば致命的となり、全身倦怠、呼吸器系や[[wj:心不全|心不全]]の後、死に到る。致死率は近年の医学の進歩により減少しているが、高齢者の患者の場合では依然として高い。[[wj:ホルムアルデヒド|ホルムアルデヒド]]で処理する事で[[wj:ワクチン|ワクチン]]化した毒素により、先進国からはほとんど消失したが、[[wj:ワクチン|ワクチン]]接種が進んでいない国々では依然として年間数十万人もの人々が亡くなっている。


==構造==
==構造==

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